月に1度くる生理に対し、女性アスリートは生理痛、生理不順、出血、気持ちの浮き沈みなど、さまざまな健康課題を抱えています。
生理に関する悩みは、デリケートな話題であり、なかなか人に共有できるものではないのも事実です。チームとして正しい知識を共有し、サポートすることで、よりスマートに安心してスポーツに打ち込める女性が増えるきっかけになるかもしれません。
オンラインピル診療サービスを展開するmederi株式会社は、2023年1月より女子スポーツチームを対象とした「mederiスポーツアンバサダー」をスタートしました。6チームが認定を受け、オンラインピル処方や健康相談サポート、定期的なセミナーでの勉強機会など、さまざまな活動を提供していきます。
今回はその記者会見のトークセッションの様子をお届けします。
アンバサダー認定チーム
- 東京ヴェルディ女子ホッケーチーム
- FCふじざくら山梨
- 法政大学体育会水泳部
- 中京大学体育会水泳部
- KYOTO TANGO QUEENS
- 至学館大学水泳部
トークセッション参加者
- mederi株式会社 代表取締役 坂梨亜里咲 氏
- 産婦人科医 郡詩織 氏
- 東京ヴェルディ女子ホッケーチーム 瀬川真帆 選手
- FCふじざくら山梨 GM 五十嵐雅彦 氏
「お腹が痛くてうずくまる」のは日常茶飯事
ーー生理/PMSにおけるスポーツ現場での悩みには、どのようなことがありますか?
女子ホッケー 瀬川)私は高校卒業後すぐに実業団チームに入りました。高校生までは生理痛に悩むことも少なかったのですが、18歳を過ぎた頃から身体の変化に気づき始めて、練習中にお腹が痛くなって、立てなくなったこともありました。
実業団で運動量が上がったり、トレーニング負荷が上がったときに、周期も不順になってきました。当時私はチーム最年少で、先輩たちに相談したところピルを飲んでいた方が多く、身近に感じられて私も服用を始めました。
ーーFCふじざくら山梨のGMである五十嵐さんは、クラブ経営・指導者目線でなにか悩みはありますか?
FCふじざくら山梨 五十嵐)私自身、こうした情報へのリテラシーの低さを感じています。監督・コーチは男性で、走りのトレーニングなどでは練習中にうずくまってしまう選手もいます。実はこうしたとき、「トレーニングについていけていない」わけではなく、よくよくヒアリングすると生理が関わっていたりします。
女性の選手にとっても、指導者に「弱音を吐く選手」ととられたくなくて、言えないこともあるのが現状ですね。
少しずつコミュニケーションの幅は広がってきていますが、いままで言える環境ではなかったこともあり、言える選手は多くないです。チームのトレーナーは女性ですが、それでも深く聞いていかないと話してくれない選手が多いのが現状です。
ーーふじざくらの選手がおっしゃっていることはありますか?
五十嵐)生理の話を自分からするのが恥ずかしいと思っている選手がいます。自分が正しい生理周期なのか、という点も、なかなかこちらからキャッチアップできない事も多くあります。
瀬川)男性の指導者に対しては言いづらいところもありますし、スポーツにおいて“根性”が大事にされていることも影響があります。市販の痛み止めを飲んで、「治ってくれ」と念じて練習に取り組むこともありました。
先程のお話でもあった、走りのトレーニングでお腹が痛くてうずくまる選手がいるのは私たちにとっては普通の光景だったりもします。
生理不順には『疲労骨折』のリスクも!?
ーーアスリートの中には、「生理が止まってラッキー」という誤った認識を持っている方もいらっしゃいます。
産婦人科医 郡)生理が3ヶ月止まったら、病院を受診してほしいですね。エストロゲンというホルモンが不足している状態なので、将来的には『骨粗しょう症』、すぐに起こることとしては『疲労骨折』のリスクが高まっている状態です。そういった、自分のパフォーマンスにとってリスクがあるということを知らない選手が多いのではないかと思います。
アスリートでは、運動量に対してエネルギー摂取が足りないという原因もあります。
ーー瀬川選手のように、18歳ころから辛くなったというような例はございますか?
郡)昔は大丈夫だったけど、生理痛がひどくなってきたという人もいます。20歳頃から、しっかりとした生理周期、排卵になるので、そうしたきっかけで痛みが変わる方もいらっしゃいます。
mederi 坂梨)PMSの悩みも多いですね。
郡)排卵から生理前に増えるホルモンの影響で、むくみなどに悩む女性も多くいらっしゃいます。昔に比べると、女性の晩婚化、初産の年齢の上昇から、生理の回数も増えてきています。悩む女性が増えていることには、そうした理由もあるのではないかと思います。
ーー一般社会ではどのような悩みが見られますか?
坂梨)PMS、生理中の痛みについて悩まれている方の割合が多い印象です。忙しくて産婦人科に行けない、産婦人科には行きづらいという方も多いです。
郡)若い方はなおさら、産婦人科に行くこと自体がハードル高いです。生理のことについて話すハードルや、まわりからの目を気にしてしまいます。mederiのサービスでオンライン診療を行っていますが、オンラインで話すことで相談のハードルは下がっているように感じています。
合うピル、合わないピルがある
ーー解決のために必要なことは何でしょうか?
瀬川)私は大きく変わったと思うのが、自分に合うピルに出会えたことです。
郡)ピルにも種類があります。生理は1ヶ月に1回しか来ないものなので、大事な試合を見据えて、早めの段階で探していくことが重要です。
瀬川)自分だけだと、合っているものを服用できているかわかりづらいですね。最初に私が服用したピルは、2週間ほどすると副作用のむくみで体重が4kg増えてしまいました。すぐに産婦人科医に相談できたので、そのピルの使用をやめて次に切り替えることができ、とてもラッキーでした。そうした経験も踏まえると、オンラインの診療は忙しい方にとってはとても助かると思います。
五十嵐)現在、FCふじざくら山梨ではデジタル管理ツールをクラブとして導入し、選手・スタッフが体重・生理周期を入力できるようにしています。女性トレーナーが確認し、「生理が原因で体重が増える」ことなど、体調管理における生理との相関関係を現場スタッフが理解できるようになりました。それに応じてコミュニケーションの量も増えましたね。
郡)自分で「今日が生理です」と伝えるのが嫌な方はいらっしゃると思います。そうしたハードルが下がるデジタル管理ツールは素晴らしいですね。
五十嵐)ずぼらな選手もいるのですが(笑)、選手の意識も上がって今ではしっかりと管理することができています。
坂梨)『mederi Pill(メデリピル)』も企業の福利厚生で導入していただくことも増えてきました。男女お互いが理解してあゆみ寄ることが必要です。
チーム全体でメンタル的に良い雰囲気を
ーーメンタル面を安定させるために気を付けていることはありますか?生理によってもメンタルの上下があると思うのですが。
瀬川)ピルを飲む前までは、3日間くらい生理痛がひどくて量も多く、外に出たくないと思うときが多かったです。ピルを服用してきた中で、PMSでイライラしてしまうこともあります。
そうしたときには、生理前でイライラしている人にも、理解した上で「大丈夫だよ」と声をかけてあげられるチーム全体の雰囲気づくりが大事だと思っています。
郡)排卵してから生理までの間のホルモンが影響が大きいと言われています。アスリートの方だとドーピングの問題もありますので、漢方などの選択肢もありますが、ピルの選択が一番良いのではないかと思います。
ーーFCふじざくら山梨では、なにか工夫はされていますか?
五十嵐)選手のロッカールームにトレーナーベッドを置き、リラックスしてトレーナーと話す機会を増やすことで、自分の状態や生理の状況を話しやすくすることに取り組んでいます。ただでさえメンタルが落ち込む走り込みの多い時期に、PMSだとさらに輪をかけてヘコんでしまいます。練習メニューが変わることはないですが、状況をキャッチアップしていることで、選手の状態に対するアプローチ方法を変えることができます。
ーー最後に『mederiスポーツアンバサダー』としての今後への意気込みを!
瀬川)まずはホッケー選手として、競技力向上に取り組んでいきます。生理とどう向き合うかということが競技力向上にも大きく関わっていることを知っている存在として、同じスポーツ選手や女性に対しても伝えていけたら嬉しいです。
五十嵐)私たちのチームでは、今回の『mederiスポーツアンバサダー』制度をきっかけにピルを飲む選手も出てきます。パフォーマンスが向上するかどうかを知るだけでなく、リテラシーを上げていき、選手も発信できるようになることでスポーツ界も変わると思いますし、社会のための発信ができることでスポーツの価値も上がっていくと思います。そうした高い視座を持って取り組んでいきたいです。
坂梨)近年、女性のスポーツ選手による健康課題の発信が増えてきていますが「生理が来なくてよかった」など、偏った知識を持っている方もいました。今回の取り組みが契機となり、『スポーツ×女性』の健康課題だけでなく、その女性アスリートの人生全体を幸せにすることにも関わっていければと思っています。
ーー本日はありがとうございました!