「ラグビーは生涯スポーツでありながら、人生のすべてではない」
NPO法人ワイルドナイツスポーツプロモーション(略称:W.K.S.P)は、群馬県や埼玉県を中心に、ラグビーアカデミーを行うなど、ラグビーの普及活動や『ウェルフェア活動』という多様性を伝える活動を行っています。立ち上げられた三宅敬さん(以下、三宅)は元パナソニック ワイルドナイツの選手であり、引退後に『ワイルドナイツ』の名前をつけて活動を行っています。
三宅さんから聞くラグビーというスポーツの素晴らしさ、考え方には、人生のヒントとなるような深い教えがありました。
ラグビーの楽しさを普及、提供する
ーーワイルドナイツスポーツプロモーションさんの活動について教えてください。
三宅)平日の放課後に開催している『ラグビーアカデミー』が活動の軸です。2015年、2019年のワールドカップでラグビー人気が高まりましたが、認知度が上がっても野球やサッカーなどの競技に比べてラグビー人口はなかなか数字が伸びない状況にありました。
その理由として、「ラグビーってどこでやっているのかわからない」「やってみると痛いし怖い」などがあると思われますが、ワイルドナイツスポーツプロモーションでは『ラグビーはルールに乗っ取って安全に行うスポーツだ』ということを、アカデミーを通して伝えています。
「ラグビーチーム」ではなく、「ラグビー塾」
ーーラグビーアカデミーは、塾のようなものとお伺いしています。なぜ「塾」と表現されるのですか?
三宅)ラグビーをしている子どもたちはそれぞれ、チームに所属し、選手登録をしています。ワイルドナイツスポーツプロモーションのラグビーアカデミーは、そうした別のチームに所属している子たちが集まっている活動です。チームを作って大会に臨むわけではなく、いろいろな学校から集まった子どもたちが自分のレベルに合わせたスキルを習得し、各チームで発揮できるようにします。そうした意味で「塾」という形式に近いですね。
ラグビーではなく、バスケットボール部に所属しながらアカデミーに通っている子もいて、『ラグビーの要素』を学ぶ場になっています。
ーーどんなレベルの子でも、楽しくスキルの向上ができるのですか?
三宅)試合をするわけではないので、パスが上手い、下手ということがあったとしても、気にしません。むしろ、パスが届かなかったときに、「パスの出し手が下手だから届かない」のではなく、「パスの受け手がどのように取ればいいのか」を考えさせるようにしています。出し手から、「自分はここまでしか届かないから、もっと近づいてくれ」と言うことも大切です。コミュニケーション能力を育むという意味では、レベル差がある方が自分を俯瞰して見ることが出来るので、そうした個性があればあるほど、アカデミーが良くなると思っています。
ラグビーの「多様性」とは
ーーワイルドナイツスポーツプロモーションさんは、ラグビーの「多様性」を大事にしていると伺っています。ラグビーにおける多様性とはどういった意味なのでしょうか?
三宅)ラグビーには15通りのポジションがあって、ラグビーそのものが、「多様性のスポーツ」だとよく表現されます。また、ラグビーには、「15人制、 7人制、タグラグビー、女子ラグビー、車いすラグビー、デフラグビー」など、ラグビーボール一つで、前に落としたら反則と言う基本的なルールを軸にいろんなルールに変換することができます。
ーーたしかに、ポジションの役割の違いだけでなく、競技性の違いも多様ですね!
三宅)私自身、ラグビーの多様性については学んでいる途中だと思っています。ワイルドナイツスポーツプロモーションのスタッフである大塚貴之(以下、大塚)がデフラグビー選手であることがきっかけで、初めてデフラグビーを間近で知ることができました。最初はどういったコミュニケーションを取ることが大事なのかがわかりませんでしたが、手を出すジェスチャーで「ボールを欲しい」と伝えたり、工夫することでコミュニケーションの奥深さを学んでいます。
障がいを持っているからこそ、視野が広がったり、目が見えないけど反応が早いという特徴もあります。一般的に、完璧な人間はいませんし、自分が持っている『当たり前』は何なのかを感じることが、多様性という言葉を理解する上ですごく大事なことなのではないかと、いろいろな方の出会いから感じています。
ラグビーの「教え」
ーー『ウェルフェア活動』では、ラグビーを教えるだけでなく、特別支援学校への訪問や小学校での人権講話などの活動を行っていますよね。
三宅)「ラグビーは生涯スポーツでありながら、人生のすべてではない」という考え方が根本にあります。「ラグビーはあなたの人生のすべてではない。人生を豊かにしてくれるものである」と。例えば、ラグビーをできなくなっても、今までラグビーに関わって成長して来たら、あなたの人生が豊かになりますという教えです。
ラグビーをする人は「品位」、「情熱」、「結束」、「規律」、「尊重」という5つのコアバリューがあります。このバリューを大切にすることが、ラグビーによって「人生を豊かにするツール」となり、社会の中で生き抜く力を学ぶことになるのです。
ーーウェルフェア活動では、デフラグビーの体験にも力を入れられていると伺いました。
三宅)デフラグビープレイヤーは聴覚に障がいを持っている人が条件なので、デフラグビー人口はラグビー人口に比べて圧倒的に少ないです。デフラグビープレイヤーであるスタッフの大塚は、これから普及、発展させていきたいという想いを強く持っています。小学校・中学校で行う人権講話の中で、『デフラグビープレイヤーが伝えるコミュニケーションの取り方』の講義をしたりしています。
ーーなかなかデフラグビーという競技に触れる機会は少ないですよね。どんな特徴があるのでしょうか?
三宅)実はデフラグビーの試合は、『お客さん一体型』と言われていて、スタジアムの雰囲気もとてもいいです。デフラグビーの選手は笛が聞こえない選手が多いのですが、代わりに審判が笛を吹くタイミングで観客が黄色のカードを掲げます。デフラグビー選手は動体視力に長けているため、景色が変わると、音が聞こえなくても「笛が鳴った」と認識することができます。
ーーすごいですね!観客と一体になって行うデフラグビー、とてもおもしろそうです。
提供するだけではない「相互関係」
ーー福祉施設の訪問にも積極的に取り組まれていますね。
三宅)選手時代に福祉施設に訪問したつながりから、ワイルドナイツスポーツプロモーションを始めたときに「また来てください」という話をいただきました。今は、月1回の定期訪問をしています。
こうした訪問を続けていくうちに、とある高等特別支援学校さんからのご提案で、「第1部は三宅さんのラグビー教室をやってください、第2部では逆に障がい者スポーツの『ボッチャ』を高校生が紹介します!」という話をいただきました。ただこちらが提供するだけでなく、先方の持つものを紹介してもらえる『相互関係』ができたことは嬉しかったですし、続けてきた成果だなと思います。
ーー学校の生徒さんからも教えてもらう、というのは嬉しいですね!こうした交流の中で、三宅さんはどのような価値を感じていらっしゃいますか?
三宅)子どもたちだけでなく、先生方にもエネルギーを提供できているのではないか、と思っています。皆さん教育現場で研究や研修を重ねて子どもたちに提供されているのですが、学校という枠組みから外れた私たちのような人が行くことで、「こういう方法があるんだ」と思っていただけたり、普段とは違う形で子どもたちの笑顔を引き出せたりします。私たちが一つのきっかけとして、先生たちのエネルギーになるということも嬉しいことです。
ーー今後、ワイルドナイツスポーツプロモーションとして、活動をどのように広げていきたいと考えていますか?
三宅)『ラグビーアカデミー』としては、限定的なチームを作ってみたらどうかと考えています。スキルを伸ばすために、試合をすることで所属チームにさらに還元できることが増えればと思っています。また、地域に関してもより幅広い活動ができればと考えています。
『ラグビーアカデミー』も『ウェルフェア活動』も含め、ワイルドナイツスポーツプロモーションは、子どもたちが次のカテゴリーに行くためのバトンを渡す役割を担っていると思っています。
子どもたちに「ラグビーはこういうものだ」というゴールを示してしまうと、成長していく段階で何も考えなくなってしまうので、「答えはいろいろなものがあるよ、その答えは自分が出したもので、誰からも否定されるものでもない」ということをこれからも伝えていきたいです!
ーーありがとうございました!
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