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「福祉×FOOTBALL」で目指す誰も排除されないインクルーシブな社会〜サッカーは障がいを網羅する〜

フットボールエンターテイメント集団「球舞-CUBE-」メンバーのTo-ruこと浅井徹さん。福祉×FOOTBALLをテーマに掲げさまざまな活動をされています。

どうしてそんなにも福祉にこだわりをもっているのか?何を目指しているのか?を尋ねたところ、「障がい理解」、「理想の社会縮図をコートの上に」、「2050年までに“配慮”をなくしたい」、「障がいのある方のリフティング検定」など、とても興味深いお話を伺うことができました。

自身のさまざまな経験を通じて気がついた、インクルーシブな社会を目指すための手がかりとは。

障がい者サッカーを観て抱いた、ある感情

ーーほかでは耳にしたことがない『福祉×FOOTBALL』というコンセプトに驚きました。どうしてこのようなコンセプトで活動されようと思われたのですか?

浅井)僕はもともとサッカーをしていました。高校サッカー部引退後に「球舞」がリフティングパフォーマンスをする映像を観てフリースタイルフットボールに出会ったんです。練習をして大会でも優勝することができ、ますますフリースタイルフットボールを好きになり、大学生の時に球舞代表のMarco.に声をかけられ「球舞」に入りました。

その後、大学を卒業して就職した職場の先輩に自閉症のお子さんがいらっしゃったんです。そのお子さんが知的障がい者のサッカーチームに入っていて合宿があったんですよね。その時に先輩に、コーチとして合宿に帯同しないかと誘っていただいたのがきっかけで障がい者サッカーと出会ったんですよ。

それからですね、福祉×FOOTBALLというコンセプトを意識し始めたのは。

ーーそれまでは、障がい者サッカーについてどのくらい知っていたのですか?

浅井)ブラインドサッカーがあることは以前から知っていましたが、興味があるだけで何か具体的な行動をするまでは自分の心は動いてませんでした

ーーそうすると、先ほどの障がい者サッカーチームの合宿帯同で、何か心が動くものがあったとか。

浅井)そうなんですよ。その合宿で試合中なのに全然ボールに興味を示さない自閉症の子どもがいて、グラウンドに立っているんですけど1回もボールに触らないんですね。でもある試合でたまたまその子が動いたところにボールが来て、その子がボールを蹴ったんです。そうしたらベンチが大盛り上がりで!

僕はずっと競技志向のサッカーをしてきたので、勝利や得点や良いプレーをすることでベンチや応援してくれる人たちが盛り上がることは何度も経験してきました。でもそれ以外でこんなに人の心を動かす瞬間がサッカーにはあるのかと、カルチャーショックを受けたんです。それから、障がい者サッカーにはほかにどんな競技があるのか、ものすごく興味が湧いてきました。

ーー今回は心が動いたわけですね。

浅井)自分で“障がい者サッカー”を調べ始めたら7競技くらい出てきて、「こんなにあるの!」と。そこから自分で脳性麻痺のサッカーチームで一緒に練習させてもらったり、富山に行ってインクルーシブな大会に参加させてもらったり、デフフットサルの仲間と手話を一緒に勉強させてもらったり。自分で行動し始めると、どんどんピースが集まるように障がい者サッカーの仲間ができてきたんです。

僕はどこかのチームのコーチやスタッフでもなかったので、「球舞の人」のという感じでいろいろな人やチームに繋がることができたんだと思います。その当時はあまり障がい者サッカーの横の繋がりもなかったので、僕がハブになることが存在意義なんじゃないかと思って動いてました。

僕がパフォーマンスを通して伝えたいこと

ーー球舞ではどのようなパフォーマンスをされているのですか?

浅井)球舞のメンバーは椅子に座ってリフティングする人やダンスしながらパフォーマンスする人など1人ひとり強烈な個性があるんですよ。でも僕はめちゃくちゃ地味でそういった飛び道具的なものがなかったので、パフォーマンスに福祉の要素を入れたりしています。

球舞はその場で音楽を演奏してその生音に合わせてパフォーマンスするんですけど、耳の聞こえない友達が見に来てくれることもあったので、無音でも伝わるパフォーマンスを意識し出したんですよ。

たとえば、次はほっぺたに乗せるよというのをジェスチャーで示したり、わかりやすいようにボールを変えたりとか。電動車椅子サッカーのボールは7号球で大きくて重いんですよね。

ーー確かに、これなら耳が聞こえない障がいのある人でもパフォーマンスを楽しめますね。ほかにはどのようなパフォーマンスをされているのですか?

浅井)球舞の15周年ライブを渋谷で開催したんですけど、その時に電動車椅子サッカー日本代表の三上勇輝選手と一緒にステージに立ちましたね。球舞のメンバー全員でするパフォーマンスもあるんですけど、1人で魅せるソロパートもあるんです。

周りのメンバーは魅せるための道具や特徴があるんですけど、「僕の場合は何だろう?」と考えた時に、障がい者サッカーの要素だったり、障がい者サッカーを通じて知り合った仲間も僕を構成する要素だなと。

球舞2電動車椅子サッカー日本代表の三上勇輝選手との共演(大きな7号球でのパフォーマンスを披露)

ーー電動車椅子サッカーの選手との共演、全く想像がつきません。

浅井)僕にとっても電動車椅子サッカーの選手と一緒にパフォーマンスをするのが1番イメージできなかったので、チャレンジだったんですよね。僕がアラウンド・ザ・ワールドというリフティングの技をするタイミングで、電動車椅子をステージ上でぐるぐるとダイナミックに回してもらって。たぶんその電動車椅子のパフォーマンスは僕の技よりも盛り上がっていましたね。

球舞のパフォーマンスを観に来てくれるお客さんは、障がい者サッカーのことを知らない方が大半だと思うんです。だから「こういうサッカーもあるんだよ」とか「電動車椅子サッカーの選手もパフォーマンスができるんだぞ」ということを、どうしても自分のソロパートで伝えたかった。

ーー何がそこまで浅井さんを突き動かしているのですか?

浅井)僕は “障がい理解(障がいや障がい者に対する理解と必要な支援の理解)”というものを特に若い世代に伝えたいという想いがあります。障がい者サッカーを知ってもらうことで障がいや障がい者を身近に感じてもらえると思っていて、結果的に障がい者に対する心の壁がなくなる状態を目指しているんですよ。

ーー“障がい理解”を若い世代に伝えるために、ほかにはどんなことをされているのですか?

浅井)小学校、中学校、大学、そして少年サッカーチームなどで、障がい者サッカーを題材にして「福祉×FOOTBALL」の講演をしています。実は障がい者サッカーには、電動車椅子、知的障がい、脳性麻痺、切断障がい、聴覚障がい、視覚障がい、精神障がいの7競技があって(厳密に言うともっとある)、ほとんどの障がいを網羅しているんですよ。だから、障がい者サッカーを知ることで障がいを横断的に知ることができるんです。そんなツールってサッカー以外にはなかなかないと思うんですよね。

聴覚障がいのデフサッカーでは耳が聞こえないから主審が旗を持っていて視覚的に伝えたり、視覚障がいのブラインドサッカーでは目が見えないからPKの時に相手ゴールの位置を選手に知らせるためにゴール裏にいるコーラーという人がゴールポストを叩いて音でゴールの位置を知らせるんですね。

そういう障がい者サッカーの映像を見てもらうことで、子どもたちも自然に障がいについての理解が深まり、どんな支援が必要なのかを自分たちで考えることができるんです。

福祉1少年サッカーチームへの「福祉×FOOTBALL」授業の様子

ーーいきなり福祉の話をされても小学生の興味は薄いかもしれませんが、サッカーを通じてだと興味を持って聞いてくれそうですね。

浅井)本当にそうだな、と実感しています。ほかにも「誰から話を聞くのかで興味も影響も変わる」と思うんですよね。だから、講演する時に、まず僕自身に興味を持ってもらうのはめちゃくちゃ大事だと思っていて、僕の場合はいきなり講演をするのではなくてリフティングのパフォーマンスから入るんです。そうすると、子どもたちも先生も驚くくらい前のめりで話を聞いてくれるんですよ。

パフォーマンスそのものが社会課題を解決するかというと僕の場合はそうでないのですが、パフォーマンスで興味をもってもらって、それから自分が伝えたいことを伝えていくということを大切にしています。

子どもたちには僕の話を聞いてもらうだけでなく、目隠しをして視覚情報に頼らず触覚と聴覚を頼りに走ってもらう体験など、障がい体験もしながら障がい理解を学んでもらうこともありますね。

人に合わせてルールをつくると、みんなが活躍できて楽しめる

浅井)僕は0から1をつくるのが好きで、障がいの有無関係なく、老若男女関係なく、1つのコートでサッカーしようという想いを込めて「“ミ”んなで“キ”がるに“サ”ッカ“ー”しようぜ」の頭文字を並べて、“ミキサー”というイベントを企画運営しています。混ぜるという多様性の意味も込めているんですけど、様々な障がいをもった方がいたり、フットサル初体験の女性の方もいたり、障がい者サッカーの日本代表の方もいたり子どもがいたりと、いろいろな人が1つのコートでサッカーをしていて、参加者みんなが楽しめるように参加者に合わせてルールを変えているんですよね。

ーー参加者に合わせてルールを変えてしまうんですか?

浅井)例えば電動車椅子サッカーの選手と耳の聞こえないデフサッカーの選手が参加する場合は、電動車椅子のモーター音が聞こえず接触してしまう可能性があるので危険なんですよね。だから、走るのは禁止でウォーキングのみのルールにしたり、味方同士の動きは確認し合って距離をとるので事前に同じチームにしたりするんです。

ほかにも、フットサルボールのような小さなボールだと電動車椅子が乗り上げてしまうリスクがあるので大きい7号球を使用したりしますね。でも目の見えない人も参加している場合には鈴が入って音の出るボールが必要です。しかし鈴入りの7号球のボールが手元にないので、ビニール袋に入れてシャカシャカと音が鳴るようにして電動車椅子の人も目の見えない人も一緒にプレイできるように工夫しました。

福祉2ビニール袋に7号球を入れてシャカシャカと音が鳴るように工夫

ーー確かに少しの工夫と配慮で、障がいの有無や障がいの種類に関係なくみんながプレイできるようになりますね。

浅井)僕は「コート上に理想の社会縮図を」とよく言うんですけど、既にある平等なルールでものごとを進めていくと、楽しめない人が出てきてしまうんです。でも事前に参加する人がわかっていたら、みんなが楽しめるようにルールを変えることもできる。だから、ミキサーでは試合中でも楽しめてない人がいた場合には、その場でルールを変えることもあります。ルールを先に決めてしまうとはみ出てしまう人が出てくる。だから人と状況に合わせてルールをつくる。

みんなに一定の同じ待遇をする“平等”ではなく、1人ひとりが同じスタートラインに立てる“公平”の考え方がこれからの社会では大切になると思っています。

ーー最近だと「インクルーシブが大切」と言われたりしていますが、社会のルールを変えるのは難しいですよね。でも、小さなコミュニティからインクルーシブな社会をつくっていく方法はあるのかもしれない。

浅井)ミキサーを運営していて、社会はこうあるべきというヒントをすごく学ぶんですね。最初は運営側の僕らも緊張して、怪我がないようにとか安心してみんなが参加できるようにとかいろいろと気を遣っていたんですけど、いざ開催してみると参加者同士がお互いに配慮し合ってくれるんです。

コミュニケーションに障がいを持っている人には手話通訳を準備しないとと運営側は考えるんですけど、耳の聞こえない人が指文字を同じチームの人に教えながらコミュニケーションをとっていたりとか。目が見えない人が参加する時にはアテンドをつけないとと思っていたら、参加者が率先してアテンドしてくれていたりとか。ミキサーの想いに共感して参加してくれる人たちが何回もリピートしてくれることで横の繋がりが生まれてきて、初めて参加する人にも気を遣ってくれて配慮が行き渡るんです。

ーー今の社会はもちろん、これからの超少子高齢化社会のヒントも隠されていそうですね。

浅井)不特定多数の“みんな”が楽しんだり生きやすいと感じられる空間をつくるのは正直厳しいと思うんです。だからコミュニティは今後重要になってくると思っていて、一緒のコミュニティの人と楽しもうというマインドが参加者にあるからこそ、お隣さん精神でお互いに気を遣って、そして配慮し合う楽しい空間ができると思うんですね。

そして、矛盾するように聞こえるかもしれないのですが、僕には「2050年までに配慮をなくしたい」という想いもあるんです。2050年は現役世代1人で高齢者世代1人を支えないといけない時代で、この先そういう時代が来ます。その時に困った人を助けたりお隣さんを気遣うことが当たり前ではなくて、わざわざ配慮するという気持ちだと、世の中がギスギスするんじゃないかと思うんですよね。このあたりの想いはこのnoteに書き留めているので、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

ミキサー3障がいの有無に関係なくサッカーを楽しむミキサーの参加者たち

誰もが参画できるインクルーシブな社会に向けてアクションしていきたい

浅井)冒頭で、福祉×FOOTBALLというコンセプトを意識し始めたのは大学卒業後というお話をしたんですけど、大学時代に福祉には興味があったんです。ちょうど球舞に入った後に某テレビ番組が密着取材をしてくれて、その時に掲げていた目標が「パフォーマンスのできる社会福祉士!」でした。今振り返ってみると、その時に宣言した夢が現実になっていて嬉しいですね。

福祉4大学時代に将来の夢を掲げる浅井徹さん

ーーその時の目標、まさに今実現されていますね。これまでも福祉×FOOTBALLを軸にすでにいろいろな活動をされていますが、今後はどのようなことを目指されるのでしょう?

浅井)今僕は知的障がい福祉の仕事をしているのですが、その前は重度身体障がい者の施設で働いていたんですね。先ほど、「サッカーはほとんどの障がいを網羅している」と言ったんですけど、僕が仕事で関わってきた人は世の中の感覚でいう“インクルーシブ”に引っかからない人たちなんです。専門的な言葉になるのですが、強度行動障がいの方や遷延(せんえん)性意識障がいと言われる方です。そういう方々は、今社会で話題になっているインクルーシブやダイバーシティの枠から漏れていて、まだ社会の目が行き届いていないと思っています。

遷延性意識障がいの方に、その方に合った余暇や楽しみを提供することはとても難しいことですし、強度行動障がいの方は自分を傷つけたり、他の人に他害を及ぼすことがあったりで、人と交わる時や多くの人がいる場には特別な配慮が必要になるんです。社会の目がついてきてないので行動も制限されているし、いられる場所も限られている。

僕はそういう方にボールを蹴る喜びとか運動する喜びとかを提供したいと思っています。サッカーをプレイするまでいかなくても、ボールを上に投げてキャッチするとか、相手に向かって投げられるとか、今の世の中のインクルーシブに含まれていない層の方にアクションしていきたいと考えています。

ーーまさに0から1をつくる取り組みですね。

浅井)実はもう1つありまして、障がいのある方のリフティング検定もつくりたいと思っています。準備を進めているんですけど「インクル球舞検定」です。今すでに球舞には小学生を対象にした「球舞検定」というリフティングやドリブルの検定があるんですけど、僕は球舞メンバーとして障がいのある方も楽しんで取り組める検定をつくりたいんです。

電動車椅子の人や杖をついたアンプティの人、また脳性麻痺の人や目の見えない人など、まだスポーツには関わっていない障がいのある子どもでも楽しめる検定ですね。そして障がいない子どもたちも楽しめる検定にしたいと思っています。だから僕は最近、杖をついたリフティングを練習しているんですけど、もうめちゃくちゃ難しいですね!

ーー福祉×FOOTBALLのさまざまなお話をありがとうございました。
浅井さんのこれからのご活躍も心から応援しております!

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