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「新しいユニバーサルスポーツを開発する授業」ラオスでの研修で高校生が学んだこと

学校法人創志学園クラーク記念国際高等学校のグローバルスポーツ専攻の生徒たちは、2023年3月にラオスへと渡航しました。その目的のひとつは、自分たちが開発したユニバーサルスポーツを実際に体験してもらうことでした。

年齢・性別・国籍・障がいの有無に関わらず誰もが楽しめる「新たなユニバーサルスポーツの開発」に取り組むプロジェクト型授業に取り組んだ生徒たちが、授業を通じて、そして現地ラオスの研修を通じて学んだこととは?

クラーク記念国際高等学校の担当教諭青山啓二先生と土橋春斗さん・道脇駿太さん・高遠峻輔さんにお話を伺いました。

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青年海外協力隊時代の先生の原体験から生まれた授業

ーーまずはじめに、今回の授業の概要を教えてください。

青山)ラオスの障がい者が抱える偏見・差別といった課題の緩和を目的とした「新たなユニバーサルスポーツの開発」というプロジェクト型授業です。授業開始直後はユニバーサルスポーツやパラスポーツは、生徒たちにとって馴染みの薄いスポーツだったので、実際に体験をしたり、関係者の方々と交流をしたり、理解を深めることから始まりました。

2022年の秋にはJICA東京で実施したユニバーサルスポーツフェスティバルに参加しました。独立行政法人国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業の取り組みの一環で、特定非営利活動法人アジアの障害者活動を支援する会(ADDP)がラオスで実施してきた「ラオス障害者スポーツ普及促進プロジェクト」で導入した「ユニバーサルスポーツ」です。

実際にユニバーサルスポーツを体験したことで理解が深まりました。生徒からは「年齢、国籍、障がいのあるなしに関わらず、全員で同じ楽しさを感じられるって素晴らしい!」という声も聞くことができました。

プロジェクトは8チームに分かれて、各チームがスポーツを考案し、その中から誰でも楽しめる「ユニバーサルスポーツ」になり得る3つのスポーツを選び、ラオスで実際に体験できるスポーツとしてブラッシュアップしていきました。

「ユニバーサルスポーツ」として、国籍・障がいの有無関わらず誰でも楽しめるよう確認や改善をするために、元ブラインドサッカー選手やパラ陸上選手、ブラインドスキー協会の方々に体験していただき、フィードバックをいただきました。

【3分解説】ユニバーサルスポーツとは?その意味をわかりやすく解説!『ユニバーサルスポーツ』とは年齢や国籍、障がいの有無に関わらず、皆が一緒に楽しむことができるスポーツのことです。誰でも参加でき、楽しめるという点から、共生社会の実現への寄与も期待されています。 今回はそんな「ユニバーサルスポーツ」について、具体的な種目を紹介しながらわかりやすく解説していきます。...

ーーとても個性的な授業ですね!どのようにしてこの授業が行われることになったのですか?

青山)私は以前、青年海外協力隊で活動していました。当時サッカーを辞めた直後で打ち込めることを見つけることができず、「自分の存在意義とはなんだろう」と思い悩んでいたのですが、青年海外協力隊での活動を通じて、ありのままの自分を認められるきっかけをもらい、また社会への興味・関心を高められた経験になりました。

そのような経験を中学生や高校生の段階で体験することができたら、自分のキャリアも変わっていったのかもしれない。その想いから、先生という立場となった2021年に、グローバル教育を国内外で展開しているアイ・シー・ネット株式会社と業務提携をし、年間通した社会課題解決型のプロジェクト学習を進めていきました。

ーー青山先生の原体験から生まれた授業だったのですね!次に生徒さんたちに伺いたいのですが、ラオスに行くまでの国内で行った授業で、印象に残っている取り組みはありますか?

土橋)ブラインドサッカーやパラ陸上関係者の方々との交流が1番印象に残ってますね。

パラスポーツ関係者の方々と初めてお話しすることができ、今まで知らなかったことを学び、今回のプロジェクトに対する考え方などいろいろなことを知ることができました。

ーー実際に現地ラオスではどのような取り組みをされていたのですか?

青山)今回のプロジェクトは、ユニバーサルスポーツの体験を通じて、障がい者にまつわる問題解決のきっかけ作りや緩和を目指していました。現地の障がいを持った人たちにスポーツを体験してもらうことも重要な取り組みでしたが、ラオスにおける障がい者たちが抱える問題や苦労の背景について理解する必要性も感じていたため、現地の小学校や日本語を学ぶ学生、交流を通じて知り合った人々など、さまざまな人々との交流を行い、現地の社会背景や生活水準について学びました。市場や成長しているショッピングモールを見学したり、首都から離れた地域に足を運んで、農村地区の生活などにも触れました。

ーーこの話を聞くだけでも、とても濃密な時間だったと想像できますね、思いますね。現地の視察で印象に残っていることはありますか?

高遠)僕は歴史が好きで、本を読んでいたのですが、不発弾博物館に訪問して、教科書だけでは知ることができなかった当時の戦況やその悲惨さを知った時間が、とても印象に残っています。

土橋 )やはり印象に残っているのは、小学校への訪問です。

例えば、日本の学校に外国人が来たら、廊下や教室から遠くから見てるだけなんだろうというイメージがあったのですが、実際は違って、僕たちが行くとまわりに子どもたちが集まってきて、 「サイン書いて」と名前を書くことをお願いしてきたり、僕たちが写真を撮ろうと言ったら、たくさんの子どもたちが集まってきてくれたりしました。

道脇)本当に毎日が本当に濃過ぎて、写真を見返せばすぐに思い出せます。どれも本当に良い経験でしたが、やっぱりユニバーサルスポーツを実際にやったことが一番印象的でした。

実際に現地で行った3つの新しいユニバーサルスポーツ

ーーそれでは、実際に開発したユニバーサルスポーツを教えてください!

高遠)僕たちチームが作ったスポーツは「サウンドハント」です。アイマスクをつけた人が、外からの指示の声を聞いて、フラフープに入ったりします。中にいるアイマスクをつけた人に向かってボールを転がして当てることで、得点稼ぐスコア型のスポーツです。

土橋)「インビジブルアタック」という2人1組で行う剣道のようなスポーツをつくりました。スポンジの剣と目隠しを使い、補助の人とアタッカー(攻撃)の人とで2人1組になり、補助の人が相手がいる場所を教えて戦います。

道脇)「マルバツフリスビー」という4×4の16マスのフィールドで、様々な条件(目隠し、車椅子を利用など)をつけてフリスビーを投げて、キャッチするといったスポーツで、縦・横・斜めどれかを揃えたチームが勝利というスポーツを開発しました。

ーーありがとうございます。3種類とも手軽にできそうなスポーツで、かつネーミングも工夫されていますね!実際にラオスの人たちに体験してもらって、いかがでしたか?

土橋)「インビジブルアタック」は刀を使うスポーツなのですが、刀を使うスポーツというのが珍しく、お互い斬り合うことが、面白いという感想が多かったです。

高遠)ルールが少し複雑になってしまったので、説明が難しかったです。言葉で伝えることの難しさを感じました。

ーー難しい部分もあったと思いますが、実際にやってみての発見というのは良いですね!

道脇)フライングディスクに普段触れることがなかったこともあり、最初はうまくゲームが進まなかったのですが、時間が経つにつれて慣れてきたのか、最後は大盛り上がりでした。鳥肌がブワーッと立ったくらい、とても楽しかったです。

ーーラオスで現地の人たちと一緒にスポーツを楽しんでいる生徒さんの様子を見て、青山先生はどう思われましたか?

青山)一言で言えば、幸せでした。

新型コロナウイルスの影響もあり、2年間かけて取り組んできたプロジェクトになりました。本当はもっと早いタイミングで子どもたちにも達成感を得られる機会を提供したかったのですが。しかし、今回プロジェクトが実現し、ラオスで現地の人たちと生徒たちが完成したスポーツを楽しんでいる姿を見ることができて本当に良かったと思いました。

振り返りでは「開発中は、どうしても自分が楽しいかの目線になってしまい、当事者目線で考えることの難しさ・重要さを学べた」など、多くのことを生徒たちが学んでくれていたことが何より嬉しかったです。この研修の目的は、課題解決力、異文化理解力、自己肯定感、第二言語習得意欲の向上とキャリア選択の幅を広げることですが、どれも向上と広がりを実感している回答でした。主体的に学べる環境を創ることの重要性を、実感することができました。

学んだ「主体性」をこれからの学校生活に活かす

ーー今回の授業を通じて学んだことや、今後やって行きたいと思ったことを教えてください。

高遠)障がいのある方はそこまで動けないのではないか、うまく動けないのではないか、という先入観があったのですが、ラオスで一緒にスポーツをやってみると、どんどん攻めていくし、積極的に身体を動かしていました。

土橋)僕は柔道整復師になりたくて、グローバルスポーツ専攻に来ました。今までは働く場所は日本国内しか考えていませんでしたが、このラオス研修に来て、発展途上国など海外へ働く場所の視野を広げてもいいかなと思いました。

道脇)取り組んでみて、誰でも楽しめるユニバーサルスポーツを開発する大変さを感じました。視覚障がい者が考慮すると、聴覚障がい者ができなくなるという偏りが生じることもありました。スポーツに関わらず、障がいを持った方が困っている時は自ら進んで動けるようになりたいです。

ーー最後に、青山先生からも今後の展望を聞かせてください。

青山)今回のプロジェクト型授業やラオスでの研修が終わったから、「それで終わり」ということではなく、これからの学校・社会生活にも主体性を持って取り組んで欲しいと思います。周囲や上から言われたことを「はい」「はい」とただこなすのではなく、自分たちの楽しさや使命感を持って社会に参画して欲しいです。

ラオスでの1週間の研修の様子を見て、生徒たちの今後が楽しみでしょうがないです。

また今後は、よりもっと多くの子どもたちが主体的に学び、意欲的に社会参画する仕掛けを創っていきたいです。

ーー今回の授業・研修を通じて、「自分たちが主体となって何かを作り上げていくやりがい」は今後の生徒さんたちのあらゆる取り組みで活きていきそうですね。今後の生徒の皆さんのご活躍も楽しみです。本日はありがとうございました!

大学キャンパスでボッチャ!ユニバーサルスポーツ体験を通してSDGsを考える2022年11月21日から12月3日に開催された「KANDAI×HOSEI SDGs WEEKs 2022~実践知を磨き、考動する2週間~」。SDGs WEEKsの期間中、法政大学でSDGs達成のために様々な活動をする学生組織である「SDGs Action Students of HOSEI(SASH)」は、ユニバーサルスポーツ体験会を開催しました。 「ボッチャ」と「卓球バレー」を法政大学市ヶ谷キャンパスで気軽に体験できる機会を企画したSASH。そのSASHのメンバーである梶原実乃梨さんと宮国菜実さんに、ユニバーサルスポーツ体験会を企画した背景にある想いと企画・運営を通じて学んだことを伺いました。...
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