Jリーグ・ツエーゲン金沢の『Kids Smile Project』では、選手たちが主体となって地域の笑顔のために活動に取り組んでいます。2020年7月に有志の選手7名で始まった活動は、いまでは全選手がその趣旨に賛同し、勉強会などを中心にこのプロジェクトに参加しています。
先日行われた「子どもの貧困」をテーマにした勉強会。「貧困」について学びながら、今回は初めての試みとしてグループディスカッションを行い選手個々の想いについても話し合いました。
こうした活動への想いについて、キャプテンでありプロジェクトの発起人でもある廣井友信選手(以下、廣井)にお話を伺いました。サッカー選手が社会貢献活動に関わる理由や子どもを持つ1人の親として考える、「貧困」についての熱い想いをぜひご覧ください。
「サッカー選手」が持つサッカー以外での可能性
ーー廣井さんが社会貢献活動に興味を持つようになったきっかけについて教えてください。
廣井)私にとっては、ツエーゲン金沢への移籍前に所属していた清水エスパルスとロアッソ熊本での経験が大きなきっかけとなっています。
清水エスパルス所属時には、先輩選手が地域の水族館と連携して、相模湾のサンゴ礁の保全活動に協力する姿を見ていました。「サッカー選手の社会への貢献の仕方としてこのような方法がある」と先輩の背中から知ることができたこの経験は、非常に大きかったです。ロアッソ熊本所属時は、熊本城の復元や維持をするための一口城主という制度を活用し、試合の出場や勝利に絡めて寄贈するという活動を行っていました。
子どもを持つ親として考える子どもの貧困
ーー『Kids Smile Project』は、2020年の廣井さんたち有志の選手7名でのチームのフードバンクへの寄贈への協力が始まりでした。そこに至るにはどのような経緯があったのですか?
廣井)新型コロナウイルス感染拡大の影響でなかなか今までのようにサッカーをプレーできなくなり、1人のサッカー選手として「サッカー以外で自分たちにどのような価値があるのか」と考えるようになりました。
そんなとき、新聞の記事で一人親世帯や生活困窮者への食料支援をしているフードバンクの食料在庫が減っている、そしてそのフードバンクにツエーゲン金沢が支援をしているという記事を見つけました。サッカー選手としてというよりも、私個人として何か出来るのではないかと思い、その想いをクラブに連絡したことがきっかけです。また、私自身も子どもを持つ親として、お腹を空かせる子どもがいるのは悲しいと思ったことも行動に移した大きな理由の1つです。
ーーそこから選手による活動がスタートし、現在の『Kids Smile Project』に繋がっているのですね。今シーズンの活動では、幹部メンバーに若い選手が2人入られていますね。
廣井)今シーズンの幹部メンバーに加わった三浦選手や波本選手は、まだ若いですが、学ぶ意識が高い選手だなと感じています。また、2人とも地元出身の選手であり、社会貢献活動に対して頑張れる要素として「地元に貢献したい」という想いはとても重要です。
このような活動は、既存の幹部メンバーがいなくなったら終わってしまうようでは意味がなく、細く長く続けることが大事です。だからこそ、先を見据えて若い選手が一緒になって活動することには大きな意義があると感じています。
活動を続けていくことで得るもの
ーー選手全員が勉強会に参加するのもツエーゲン金沢さんの特徴です。なかなか関心を持てない選手もいてしまうのではないかな?と思うのですが、その点はいかがでしょうか?
廣井)想いの熱量にはやはり強弱があります。私は「想い」が特に強い方だと思っています。また、活動を続けていくことで、それぞれの中でも「想い」への変化があるとも感じています。チームの皆も少なからず活動をやっていなかったときと比べ、社会への関心が出てきているのではないかと思います。
ーーこの活動に対し、実際に関わっている選手たちはどのように感じているのでしょうか?
廣井)もちろん、やる気のある人とない人の差が出てしまうのは当然なのですが、こうした活動をクラブのフロントの人から誘われる形ではなく、同じチームの選手、キャプテンから「一緒にやろう」と言うことで、参加しやすくなっているのではないかと思います。
また、このような活動に触れていることで、数年後に「自分にはこのような価値があるのだ」と気付き、自分の価値を高めることにもつながると思っています。若いうちから社会とのつながりを感じたり、社会貢献活動をすることは、サッカー選手としての影響力を広げられる1つのよい手段です。いまは昔と比べ、SNSでひとり一人が情報を手軽に発信できるという時代に変わってきています。その中で、社会課題に対して「自分は知らない」と言うことはできないと思っていますし、そうした意味でも多くの選手にこのような活動は続けてほしいなと思います。
ーー第3回の勉強会では、初めてグループディスカッションをされていましたが、グループディスカッションの反響はありましたか?
廣井)まず、グループディスカッションをする目的として、アウトプットをすることで選手自身の考えが深まるのではないかという狙いがありました。そのような目的があった中で、よいアイデアを出してくれた選手もいましたし、実際に選手からの声を聞くことで、私の予想以上にチーム全員がこの活動についてしっかり受け止めてくれているという事に気づくこともできました。
今回の勉強会では、『7人に1人が相対的貧困と言われていて、小学校の35人とか40人クラスの場合、クラスに5人とか6人いたのでは』という衝撃的な数字に驚いている選手が多かったです。
社会とのつながりを新たに生み出した「Kids Smile Project」
ーー最後にサッカー選手が社会貢献活動を行う意義をお聞きしてもいいですか?
廣井)コロナウイルスの影響で、サッカー選手は現場のスタッフと家族以外で接する機会が極端に減りました。しかし、私たちがしている活動に対して実際に「ありがとう」と言っていただけたり、楽しみにしている人がいると実感したりすることで、社会とのつながりや接点を感じることができています。
また、『Kids Smile Project』を通して、「頑張る理由」が増えましたね。今までは、チームメイトや家族のために頑張ることが軸でしたが、今は、「この町のため」「支援を受けている人たちのため」なども考えるようになり、より頑張れているのではないかと思います。
加えて、社会問題に目を向けることで、今まで考えたことのないような問題があり、知れば知るほど難しいと感じます。問題に目を向けることで、自分自身も勉強になったり、新聞を読むにしても、違う角度からものを見られたりと、人としても成長が出来ているのではないかと思います。
ーーこの素晴らしい活動が今後も続き、発展していくことを願っています!ありがとうございました!