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ここまでやる。川崎ブレイブサンダース『&ONE』プロジェクトのその先へ

&ONE

2020-2021シーズン、Bリーグで最大に露出されたSDGsイベント。それは川崎ブレイブサンダースの『&ONE days』(3/26,27の2日間開催)です。
2020年9月からスタートした『&ONE』プロジェクト。その総括と未来について、自らプロジェクトリーダーを務め、活動を引っ張る元沢伸夫社長(以下、元沢)にお話を伺いました。

強さ、人気、そして「主体的な社会・地域貢献」

ーー2020年9月から『&ONE』プロジェクトを立ち上げました。その立ち上げの理由はなんだったのでしょうか?

元沢)まず、私が考える「地域に愛されるスポーツクラブ」の要素は3つあります。1つは競技レベルで強い。2つ目が人気がある。これはファンが多い、スポンサーさんが多いという意味での人気です。そして3つ目が、“主体的に社会貢献や地域貢献に取り組む”ということです。

ーー主体的とは?

元沢)お声がけいただいたものに出ていくような受け身の社会貢献活動ってよくあるんですよ。「こういうお祭りに出てください」とか「今度一緒にやりましょう」とか。それを主体的にやろうと。強さ、人気、主体的な社会・地域貢献の3つが揃うと地域に愛されるようになるよなぁ。というのは思っていたのですが、特に主体的な社会・地域貢献について、どのように行ったらいいかわからないという、ちょっと悶々とした時期がありました。

そんなときにいろいろな情報を調べていく中でたまたま出会ったのがSDGsです。私が知ったのは2年前くらいの話で、初めてSDGsを知ったとき、それが網羅的に社会の課題に取り組むようになっており、さらに一緒に経済をまわしていく形になっていることに衝撃を受けました。どうしてもCSRやボランティアという発想だと長続きしない、ということは私も前職の横浜DeNAベイスターズで働いていたときに経験もしていたので。こうして、SDGsを本気でやろう、と取り組み始めました。

川崎ブレイブサンダース選手
©KAWASAKI BRAVE THUNDERS

『&ONE』プロジェクト

ーーありがとうございます。&ONEプロジェクトで取り組まれている活動内容を簡単にご紹介いただけますか?

元沢)SDGsは全部で17の目標がある中で、その全てに取り組むことは我々としてもリソースが限られている中で難しかったので、まずは主に2つの目標に絞って取り組むことにしました。具体的には、『3.すべての人に健康と福祉を』と『8.働きがいも経済成長も』の2つです。バスケットボールを通じて人々に健康の機会を提供したり、ホームゲームの試合運営を通じて働きがいとやりがいの機会を提供したりしています。

その中でも働きがいという点でいくと、我々のホームゲームには(コロナ禍での動員制限がなければ)大体5,000人程のお客様が毎試合いらっしゃる空間があります。その場を使って、頑張っている方々に何かアウトプットしてもらうような場を作っています。たとえば、試合会場のグッズショップでは、障がいのある方々に描いていただいたイラストをデザインに取り入れたショッピングバッグを販売することで表現の場としていただいたり、就労体験として会場の設営補助をしていただいたりもしています。また、「KAWASAKI LIGHT UP STAGE」と名づけ、川崎にゆかりのある方で一芸に秀でた方を招いてパフォーマンスしていただいたりしています。そこで「すごいね」や「ありがとう」など声をかけていただいて、拍手を受ける。このことが、人のやりがいと働きがいの一番の源泉だと私自身は思っています。

AWASAKI LIGHT UP STAGE_洗足学園大学

『&ONE days』=アクションの場

ーーまずは自分たちのリソースで、元々あるものを活用した素晴らしい取り組みですね。その中でも特殊な『&ONE days』はいかがでしたか?

元沢)『&ONE days』というホームゲームのイベントとして、『SDGsの17目標、すべてチャレンジしてみる』と宣言し、選手・クラブスタッフが一体になって作り上げました。
イベントとしての評価の軸は多様にあると思いますが、一番良かったのは多くのファンの方が活動に「参加」をしてくれたイベントになったことです。

フードドライブで賞味期限が近いものを提供してもらったり、ご家庭でてんぷらなどを揚げた後に出た使用済みの食用油を持ってきてもらったりとか、武蔵小杉駅からホームゲームを開催する川崎市とどろきアリーナまでを歩くスタンプラリーに参加してもらったりとか。スタンプラリーに関してはご来場者の1割以上の方に参加いただきました。SDGs17目標すべてにチャレンジするというテーマで開催しましたが、実は裏のテーマとして、お客さんになにか1つでもアクションしてもらいたい、という想いがあったので、その点では非常に大きな成果だったと思っています。

ーーなるほど。ただ周知するだけでなく、アクションを実際に体験できる場になっていたということですね。

元沢)純粋にバスケットボールのイベントとして評価しようとすると、集客やスポンサーさんがどれだけついたかという点になってしまうのですが、この『&ONE days』はそれとは別の軸での評価ポイントが高かったと判断しています。私個人としてもこれをきっかけに多くのパートナーさんと関わり、SDGsのアクションにどうつなげるのか、という点でとても勉強になりました。

スタンプラリー©KAWASAKI BRAVE THUNDERS

『オフコートでも価値を出す』選手の関わり

ーー『&ONE days』では、選手が全員それぞれSDGsの項目について調べ、コメントをするような企画もありました。選手たちがこのプロジェクトの取り組みについてどう捉えていらっしゃるか教えていただけますか?

元沢)正直にいうと、すべての選手が心から共感して一緒に動いてるかというと決してそんなことはなかったと思います。ただ選手の中にも、すごく自分事として考えている選手がいるなっていうのも良く分かってきました。例えばキャプテンの篠山竜青選手。&ONEプロジェクトのアンバサダーにもなってもらってるんですけど、こちらから「キャプテンだからやってよ」と強引に社長命令としてやらせているわけではないんです(笑)。

篠山選手自身としても、オンコートではもちろん、オフコートでどれだけプロスポーツ選手としての価値を出せるかということを考えていて、「じゃあ&ONEプロジェクト一緒にやろうよ!」と意気投合して決まりました。そのような、元々「なにか社会貢献に繋がることがしたいな」とちょっとでも思っていた選手のそうした気持ちを呼び起こしたというか、きっかけになる活動になったような気がします。元々社会課題に対して活動していた篠山選手や辻選手以外の選手でも、いい機会になったと思っている選手は多くいると思いますね。

ーー選手自身に考えさせたコメントであるというところが今回の関わり方の特徴だと思うのですが、そうしたのには理由があったりするのでしょうか?

元沢)選手に「この言葉を言ってね」という関わらせ方だと、&ONEプロジェクトの取り組み自体がチープなものに見えてしまうし、言わされた言葉だとファンの方には分かります。ファンの方にもしっかりと伝わるものにするためにはどうしたらいいか、非常に頭を使いましたね。

SDGsについて知っていることや理解度は、来場する多くのお客様も選手も同じくらいだと思ったので、SDGsにまだ詳しくなくとも選手自身が感じたことや考えたことを言葉にしてもらうことが、それを見たファンの方も身近に感じられるというか、伝わるのではないかと思いました。そのために、活動の理念・目的のところは社長である私自身が何回か選手に対して説明をしましたね。全員が全員100%納得して取り組んでいるとは思わないですが、この活動を選手がやること・このクラブが取り組むことにどんな価値があるのか、クラブ・選手にどのような形で還元されるものなのか、というのは本当に丁寧に私自身の言葉で説明しました。

ーー選手からすると、今回の活動は学校の宿題のような感じもありますよね(笑)やらされる形になるとなかなか前向きにはできない。

元沢)それはまさにそうですね。例えばYoutubeに関して言うと、最初は「やだよ」「お前が出ろよ」みたいな状態だったのが、今ではみんな出たいというし、企画まで選手からもってくる状態になりました。
それは彼ら自身がYoutubeをやる意味を理解したのもそうですが、実際にまわりからの反響もよかったことがモチベーションに繋がっていると思います。&ONEプロジェクトもそのような活動に、来シーズンはしていきたいと思いますね。選手自らがより一層「僕やりたいです!!」ってなるような。

『&ONE days』で地産地消の川崎丼を販売する様子
©KAWASAKI BRAVE THUNDERS

『みんなで・一緒に・楽しく』できる

ーー川崎ブレイブサンダースとして、地域や社会に対してどのような関わり方を目指していますか?

元沢)&ONEプロジェクトでやるSDGsもそうですが、理念はわかるけど自分ごとに感じられないこと、でも社会としてはするべきだと思っている事って世の中にたくさんあると思うんです。そのようなものをスポーツを通すと、稚拙な言い方かもしれないですが『みんなで・一緒に・楽しく』できちゃうんです。それがスポーツの持つ大きな力だと思いますし、だからこそこのような社会のための活動はスポーツクラブが率先してやるべきだと思っています。

我々のいる川崎には、企業・団体・行政も含めて素晴らしい方々がいらっしゃるし、皆さんリーダーシップがあります。そういう方々と一緒に、『みんなで・一緒に・楽しく』できるように、そんな場面で私たち川崎ブレイブサンダースが登場するような形で、いろいろなことを積極的にやっていきたいと思います。

ーーほかの方々と協力しながら、その中でスポーツクラブとしての価値を発揮していかれるという点、すごく共感いたします。来期についてはどのような計画なのでしょうか?

元沢)7月以降発表していきますが、いろいろなことを仕込んでいます。まず大きく変わるのが『&ONE days』で2日間でやったような、みなさんがアクションをできるようなSDGsの活動を基本的にはホームゲーム全試合でやっていきたいと思っています。
あとは、試合日以外の場面でも川崎ブレイブサンダースとしての存在感を発揮し、街の中でも『&ONE』を作っていきたいなと思っています。たくさんの新しい取り組みをパートナーさんと一緒に作って、発信していけたらと思っております。

ーー楽しみにしております!

元沢)自分で言うのもなんですけど相当いい取り組みができると思っています。(笑)これ1年間ちゃんとやり切れたらすごくいいものになると思うので、クラブ・地域で一丸となって頑張りたいと思います。

ーーありがとうございました!!

編集より

実際に私も『&ONE days』の会場に伺いました。川崎の地産地消のお弁当を食べ、子どもたちが一生懸命自転車をこいで発電しているのを眺め、選手たちが一人ひとりコメントしているパネルを見て、そして最後に試合を楽しんで帰りました。

参加した皆さんの印象も、「試合が楽しかった」という声が多いことでしょう。選手たちのSDGsのコメントを覚えているわけでも、お弁当になにが使われていたかもハッキリと思いだすことはできないかもしれません。それでも、『自分の好きな〇〇選手はSDGsの○番の項目のことを調べてた』『川崎の野菜もおいしいんだな』など、それぞれが一つでも、試合以外に楽しめたことがあったはずです。

このように、まずは今シーズンはこうした“触れる機会”がもっと増えると元沢社長は自信を持っておっしゃっていました。川崎ブレイブサンダースの『&ONE』から目が離せません!

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