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モンテディオ山形U-23マーケティング部10か月の軌跡〜クラブスタッフが明かす“本音と舞台裏“〜

モンテディオ山形

「『為せば成る』〜どんなことでも強い意志を持ってやれば、必ず結果がでる〜」

これはJリーグクラブ初の試みとなった『モンテディオ山形U-23マーケティング部』のスローガン。23歳以下の学生が山形県内外から40名集まり、「地域社会の課題解決」「新たなファン層の獲得」「人材育成」の3つをテーマに掲げ、40回を超える講義やグループワークに加え、学生が主体的にイベントやブースを企画したホームゲーム運営を行ってきました。

10月8日に行われたホームゲームは『U-23プロデュースデー』として行われ、試合は劇的な勝利。スタジアムの青い空の下で、達成感に溢れ、感情を爆発させる学生たちがそこにはいました。

若者の流出に悩む地方都市が多くある中で、こんなにも学生が熱くなれる場所、プログラムをどうやってモンテディオ山形は作ったのか。その想いや裏側を、学生たちの一番近くで接してきたマーケティング部の原田祥平さん(以下、原田)と、運営部の荒井薫さん(以下、荒井)に伺いました。

モンテディオ山形U23
40人の学生がモンテディオ山形のマーケティングに参画!? Jリーグクラブに突如誕生した「U23マーケティング部」とは「学生の力を活用したい!」と思う企業やスポーツチームは数多く存在し、学生たちも社会につながる経験を求めてインターンなどに積極的に取り組む時代になっています。 そんな中、J2・モンテディオ山形が2023年1月に結成を発表した『U23マーケティング部』が注目を集めています。 県内外から集まった23歳以下の学生約40人が、年間を通して学びと実践を行うこの活動について、株式会社モンテディオ山形代表取締役社長 相田健太郎氏にお話を伺いました。...

シャレン・アウォーズ受賞の活動を継続的なものに

ーー『U-23マーケティング部』はどのようなきっかけで発足したのですか?

原田)2022年の夏に開催した『高校生マーケティング探求』という取り組みがきっかけです。クラブと米沢市・関連する団体と一緒に取り組んだ活動で、有志で集まった40人ほどの高校生たちが、スタジアムに1,000名集客するための企画を考えるものだったのですが、参加者の充実度が非常に高かったんです。この活動の打ち上げ時に「地域を盛り上げることがすごく楽しかった」「この企画って来年は続かないんですか?」という声も上がり、継続的な取組にするためにクラブ内でも話し合い、2023年1月から『U-23マーケティング部』を立ち上げることになりました。

ーー『高校生マーケティング探求』はJリーグ・シャレンアウォーズでも表彰されてましたね!今回のU-23マーケティング部は、どんな目的で改めてスタートされましたか?

原田)山形で「若い人たちが質の高い内容を学べる場所をつくること」「輝ける場を提供すること」の2つを軸に活動しました。

ーーどんな学生が集まったのでしょうか?

荒井)もちろん「モンテディオが好き」というメンバーが多かったのですが、その中にも山形県から志を持って県外に進学している学生も多くいました。また、山形県に縁もゆかりもない高校生や大学生も多く参加してくれました。その理由を聞くと、山形に旅行で訪れて好きになったりとか、私たちが常日頃から行っているSNSのマーケティング運用に興味を持って、深く学んでみたいという目的の学生もいましたね。

こだわりのプログラムと情熱への共感

ーーU-23マーケティング部では、どんな活動をしていたのか教えてください。

原田)具体的な活動としては、毎週木曜日に集まりオンライン・オフライン混合でのグループワークを行いました。インプットの機会も大事にしていて、業界でトップを走っている方々に「マーケティングとは何か?」という話をしてもらう機会を設けるなど、年間40回以上で100時間を超えるプログラムで構成しました。

モンテディオ山形

ーーインプット機会へのこだわりはすごいですね。講師を呼ぶ基準で大事にされていたことはありますか?

原田)「スポーツ業界にこだわらない方に来てもらおう」という点ですね。“モノを売る”ということに関して高い基準に触れてもらえるように、高いレベルで活動されている方に登壇していただきました。

ーーこの活動に対してのスポンサー企業も集まりましたね。

原田)定量的な効果が見えにくい活動に対し、ありがたいことに3社に協賛いただきました。「山形での若者の頑張りを、心の底から応援してほしい」という要素をストーリーにして、クラブの営業の皆さんに情熱的に企業に声掛けしてもらいました。

ーー原田さん荒井さんはじめ、各フロントスタッフは学生メンバーとどういった関わりを持っていたのですか?

荒井)原田は普段は広報、私は運営やホームタウン活動を中心に行っている中、この活動では学生たちの“やりたい”とクラブの“できる”を繋ぐ架け橋の役割ができるように意識して取り組んでいました。
学生が中心となって、ホームゲームの企画を一部行ったり、スタジアム外のイベントも行ったのですが、チケットの販売促進やグッズ企画を実現するには、やはりクラブの人やお金を動かさなければならず、皆の理解を得るのは大変なことです。学生たちのアイデアをクラブのリソースを使って実現するためのもう一押しができるように、私たちも一緒になって取り組んでいました。

関西大学×法政大学
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ハンパない熱量の根源は?

ーー私も実際に『U-23マーケティング部プロデュースデー』を観戦させていただきましたが、一番印象に残ったのは、試合の勝利に対して学生たちが本気で喜ぶ姿でした。遠くのスタンドから見ても伝わるくらい、熱量がすごかったです。ここまで学生が本気で取り組むことができた要因はどこにあると思いますか?

原田)正直、社会人向けのマーケティング関連のプログラムもたくさんあり、お金を払えば多くのことを学ぶことができます。10か月間で40回、100時間以上の学びというのも他のプログラムと比べて極端に多いわけでもありません。
それでも、これだけの熱量が生まれたのは、学生の“特殊な状況”にも一因があるのかなと思います。今の大学3、4年生は新型コロナウイルスに影響された学生生活を送った世代で、学校や普段のコミュニティの外で何かに取り組む、という機会や習慣を作ることが難しかった。山形県という、都市部とは違う地域的な要因もあるかもしれませんが、コロナによって輪をかけて何もできない状況だったと想像できます。

でも、この10ヶ月の取り組みがあったことによって、彼らは「横のつながり」を作ることができましたし、組織に帰属して、チームで一つのことに向き合うことによって、自分の中にあった「何か」がすごく燃えたんじゃないかと個人的には思っています。

荒井)本当にメンバーの熱量は高く、毎週木曜の活動以外でも、自分たちで個別に集まって企画を考えたりしていました。こうしたインターンでは、学生が考えた企画に対してなかなか実行力やお金がついていかない部分も多いのですが、今回のU-23マーケティング部は最後のプロデュースデーのように、自分たちが考えた企画をしっかり形にしていくプロセスがあったのは大きいと思いますね。だからこそ彼らも本気で考えなければならないし、私たちも本気でバックアップしないといけない状況が自然に生まれていました。

ーー学生を一番近くで見ていた2人から見て、学生が成長したと感じるのはどんな場面でしたか?

原田)内面的な成長、特にコミュニケーション面での成長は大きく感じました。みんな最初は「はい」だけ返すような業務連絡ばかりだったのが、だんだんと関係ないことも挟みながら会話が膨らんでいったのが、変化を感じましたね。

荒井)メンバーは学生で、アルバイトや学生生活との両立をしながらこの活動に参加しているので、終盤になってくるとメンタル的にもいっぱいいっぱいになっているのが伝わってきていました。最後のミーティングの方では「もうきつい」と本音を漏らして、涙を流したリーダーもいて。でも、それだけ責任感を持って取り組んでくれているリーダーを見たほかのメンバーに、「最後までやり抜かなければ」という責任感が伝播していったのは成長に繋がったと感じますね。学校生活の中ではなかなか感じられない、同世代の学生たちの熱い気持ちが見れたのは、本当に良かったと思っています。

モンテディオ山形

U-23マーケティング部の未来

ーー今回成長したメンバーの将来にどんな期待をしていますか?

原田)直接的にモンテディオ山形というクラブを盛り上げてくれる人が出てきてくれたら嬉しいですが、それよりも「山形県でもこんなにおもしろいことができるのであれば、やはり地元で頑張りたい」と県外にいる子たちが帰ってきてくれたり、スポーツに限らず違う業界でも山形で活躍してくれる人が出てくれたら嬉しいですね。

荒井)山形で活躍するわけでなくても、これからの人生において進路を決める際に、「このU-23の活動が活きた!」と自信を持って言ってくれれば最高ですね。

ーー今回学生たちが企画した試合までに、さまざまなアイデアが出てきたと思います。クラブとして学生にフィードバックをする際に心がけていたことはありますか?

原田)会社側の人間は何かしら理由をつけて「無理だ」って言いたくなってしまうものです。もちろんダメなものはダメと伝えながらも、彼らの意見を尊重しつつ「どうしたら実現できるのか」という点でフィードバックすることを心がけていました。「それで本当にお客さんを呼べるのか」「果たして利益を出せるのか」というところを突き詰めつつ、彼らが出してきた大事なアイデアを大切にする意識を同時に持っていましたね。

荒井)思いついたアイデアに突っ走ってしまう、ということもあったので、スケジュール感をコントロールすることを意識していました。私は学生に年齢が近いこともあって、彼らにとっても話しやすい存在として本音ベースで会話をすることも心がけていましたね。

原田)40名近い学生1人1人に向き合い、1on1などを通して長期間接してきたことは自分にとっても大きな糧になったと感じています。

荒井)本当にそうですよね。「学生たちが考えたことを形にしていく」ことに対して、最初は全然イメージできなかったんですが、彼らに伴走することで自然とできるようになっていったんですよね。学生のアイデアを実現するための、コミュニケーションの取り方、進め方などで、私自身も含めて若いフロントスタッフが成長する部分が多くあったと思いますね。

ーー今回の活動を通して、クラブとして改めて得たものは何でしょうか?

原田)「U-23マーケティング部プロデュースデーで10,000人の来場者を集める」という学生たちが定めた定量的な目標は残念ながらクリアできませんでしたが、それ以上に得たものは大きいと感じています。メディアの露出も増え、「若者の教育に熱心なモンテディオ山形」という評価は山形県内外でかなり上がったと感じます。クラブのブランディングの意味でも貢献度は高いですし、将来的にはスタッフのリクルーティングにも好影響が出てくるはずです。

ーー最後に、このU-23マーケティング部の今後の方針などを教えてください。

原田)次年度以降も継続していく方向でクラブ内で議論を重ねていきます。短期的なもので成果が得られる取り組みではないとクラブ全体でも思っており、何かを生み出すためには多分続けていくしかないはずです。今回もこの活動に本気で取り組んだことによってさまざまな課題が出てきました。クラブとしてもその課題を改善していき、よりよい形にしていければと思っていますし、この町にプロサッカーチームがある意味をもっと突き詰めていきたいです。

ーー貴重なお話をありがとうございました!今後の活動に期待しています。

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