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秋田の“県民球団”として。秋田ノーザンハピネッツが永続し活力を与えるためにできることとは?

秋田ノーザンハピネッツ

国内男子プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」に所属している秋田ノーザンハピネッツ。“クレイジーピンク”と称される熱狂的なファンを抱え、秋田県民から愛されるクラブに成長しました。

2021年にはプロスポーツチームとして初めてとなる常設のこども食堂を設立するなど、クラブ立ち上げ当初から積極的に地域貢献活動を行っています。

人口減少率1位など課題先進県である秋田県を本拠地に置くクラブが取り組んでいるミッションとはなにか。秋田ノーザンハピネッツ株式会社代表取締役社長・水野勇気氏(以下、水野)にお話を伺いました。

ノーザンハピネッツ
“みんな”で囲む、“みんな”の居場所〜こども食堂「みんなのテーブル」~「みんなが食事のテーブルを囲むことで、子どもたちの笑顔を作りたい」。 プロバスケットボールBリーグ1部に所属する秋田ノーザンハピネッツでは、秋田市にこども食堂「みんなのテーブル」を2021年10月からオープンしました。「みんなで育む食堂」をコンセプトに、プロスポーツチームで初めて常設のこども食堂の運営に取り組んでいます。 地域課題の解決に向け、“みんな”で取り組んでいこうとするチームの姿について、秋田ノーザンハピネッツの小原諒平さん(以下、小原)に話を伺いました。...

秋田県にとってかけがえのない存在になる

ーー秋田ノーザンハピネッツは水野社長から見てどのようなクラブですか?

水野)クラブの大前提として、「秋田県」をベースに、プロバスケットボールクラブを中心とした活動が秋田県の活性化につながる、という想いで立ち上げ当初から活動しています。

ーー”県民球団宣言”など「秋田のため」を全面に押し出しています。そうした大義を掲げているのはなぜですか?

水野)「秋田県に永続すること」が当初からのミッションです。立ち上げ当時の背景もありますが、bjリーグ時はリーグ自体が安定期ではなかったです。実際に経営悪化でリーグを退会するチームもありました。
『地元のプロスポーツクラブ』と考えると、最も悲惨なことは応援しているチームがなくなってしまうことだと思います。こうした背景から秋田ノーザンハピネッツの使命・ミッションは「クラブを永続させる」こと、そのためにどうしなければいけないかというのはとても考えさせられました。

「秋田県に愛される県民球団であれば、いろいろな危機が来たとしても助けてもらえるのではないか」と考え、そうしたクラブになることを大事にしています。
そうしたクラブの考えを現した“県民球団宣言”は、クラブが秋田県で永続するために必要な「3つの理念」とその理念を具現化した「7つのビジョン」でまとめられたものです。これは当時bjリーグ自体が掲げていたもので、それに沿って秋田らしさを加えました。

秋田県にとってかけがえない存在になること、「かけがえない存在=秋田に必要な存在」になること、それがこのクラブのベースにあります。

ハピネッツホームアリーナでの盛り上がり

ーー秋田ノーザンハピネッツが地域のためにできることはどのようなことでしょうか?

水野)地域のイベントだったり、学校訪問だったり、基本声がかかれば行くことを前提にしています。地域貢献活動をすることにより、来場促進につながります。
クラブが目指している姿は「県民球団」なので、バスケットボールに興味がない人にもチームを応援していただきたい。しかし、そもそもバスケットボールに興味ない人は観戦したいと思わないので、地域のイベントや学校訪問、また講演会を通して、接点づくりをしています。
私たちは、「県民球団」を目指しているからこそ“全包囲網”ということが大枠にあります。しかし、逆に“全包囲網”でなければ、首都圏と違うのでファンは増えないという事情もあります。例えば、川崎ブレイブサンダースの本拠地・とどろきアリーナは武蔵小杉に拠点を置いています。武蔵小杉は、ファミリー層や若者が多くいるので、そこをターゲットにするだけで市場性があります。
少子高齢化が進む秋田県では、ファミリー層や若者だけでなく、市場として大きな高齢者にも試合を観戦してもらいたいと考えるため、必然的に“全包囲網”になります。

「県民球団」の理想は、秋田県民誰もが一度はノーザンハピネッツの試合を観戦したことがあるということなので、その中でやれることを考えると地域貢献活動が必要になります。

ーー13年間活動していく中で、県民の方からの声を掛けていただくことは増えましたか?

水野)2021-22シーズンでチャンピオンシップが決まった時に、メディア露出が高まり、街の中で声をかけてもらうことが増えました。社長である私だけではなく、選手やヘッドコーチも声をかけられ、街全体からの期待感を感じましたね。勝ち上がっていくことで期待感が高まり、秋田県民の活力となるのだなと、強いチームになっていくことの意義を感じました。

秋田県は起業家を創らないといけない

ーー水野さんから見た”秋田県における課題”とはなんでしょうか?

水野)最も大きいのは「人口流出」です。コロナ禍の影響で数値的に少し改善された部分もありますが、また人々が動き始めた時に元通りになると思っています。
人口減少の原因は大きく2つあり、”少子高齢化”と”進学や就職による若者の流出”です。

個人的な考えとして、秋田県は起業家を創らないといけないと思います。形にしていくのはこれからの話ですが、そうした仕組みづくりや仕掛けを私たちができたらと考えています。例えば、スタートアップ系の会社を秋田県に巻き込みそこに学生が入ったり、または大企業に参画してもらったり。秋田県は課題先進県ですが、だからこそ新しいトライが結果的に全国、また世界に対して新しい事業モデルを作れると思います。

ーー秋田あくらビールの事業譲受が先日クラブ側からリリースされましたが、こうした取り組みも先ほどの話に通じることでしょうか?

水野)クラブの収益力を高めるという意味も含めた施策ですね。自社でそうした力を身につけ、収益性を上げていく取り組みとしてお話を進めてきました。
私自身が、バスケットボールだけに固執してるわけではないので実現した話だと思います。例えば、こうしたビール産業と秋田県の地元の名産を合わせた商品開発や流通など、そうした食品関連の事業も今後できれば良いですし、いぶりがっこを燻す体験会など、商品だけでない体験も価値として売り出せればと思っています。

こども食堂をやめるつもりはない!

ーー常設のこども食堂『みんなのテーブル』についてお話を聞かせてください。始めたばかりで収益性が見えていない中、「続けます」と言えることは素晴らしいことだと思います。その言葉の裏側にある想いは何でしょうか?

水野)秋田ノーザンハピネッツが永続しないといけないことと同じで、こども食堂を頼ってくれる方々がいるのに、1年程度で「辛いから辞めます」と言えば、頼ってくれる方々の拠り所が失われてしまいます。
私たちにも活動範囲の限界はあります。例えばこども食堂に来ている子どもから「DVを受けている」という相談があった場合には対応が難しいです。そうした場合には連携している県や市やNPO団体に繋ぐなど、私たちのできることをしっかり続けていくことができれば良いと考えています。

秋田ノーザンハピネッツこども食堂『みんなのテーブル』での食事の様子

私は少なくとも、活動をする・続けることで最終的に利益を回収できると思っています。どのように安定化させるかなどの課題もありますが、結局活動をしないとお金は出てきません。
私自身が社長で意思決定者という立場からこども食堂を辞めるつもりがない、続けていくと伝え、フロントスタッフにハッキリさせることも続けられる事業になる1つのポイントだと思ってます。フロントスタッフは大変かもしれませんが…(笑)

フードドライブの取り組みなど、フロントスタッフが声を上げ、実際に活動することで、
モノが集まり既存の団体に回っています。関わるすべての方々がハッピーになるような
こうした取り組みもこども食堂の連携を通して生まれたことなので、活動をしていく中でそうした嬉しさは感じています。

秋田県で面白いことをしたい

ーー今後、クラブとしてやりたいこと、やってみたいことなどを教えていただけますでしょうか?

水野)シンプルに”優勝したい”です。プロスポーツチームとしてファンの皆さんと喜びを分かち合えるのは結局そこが一番です。ただ、私たちのような地方クラブがB1リーグ優勝するには、稼がないとチームに投資ができません。だからこそ、さまざまなチャレンジができればと思います。大前提として、秋田県で面白いことをしたいです。

言葉にするのは非常に難しいですが、事業全体にシナジーを生むことができればと思います。現在、多くのBリーグクラブに親会社が生まれていますが、私たちは親会社なしでも「渡り合える、多くのお客さんが入る、また新しいことをして稼ぐ」とか、そうした点にプライドを持っているので、どこかに依存して頼っているわけではありません。結果的に、そうした取り組みが秋田県の企業文化創出につながると思います。失敗することもありますが、行動しないことよりはマシなので、社員全員がチャレンジできる会社にしたいです。

ーー秋田県民と喜びを分かち合えることに軸を置いていることがよく伝わります。

水野)私自身で言うと、12年間ホームゲームの時は試合終了後お客さんを出入口で見送っています。それは欠かしたことがありません。チーム状況が良い時も悪い時もお客さんの表情を見ています。

フロントスタッフに日頃から伝えているのは、「例え試合に負けてもまた来てもらえる空間を作ること、それが私たちの仕事である。」ということです。チームは勝つために全力を尽くし、私たちフロントスタッフはどんな状況でも楽しんでいただける空間を作るべきだと思っています。

ーーありがとうございました!今後も秋田ノーザンハピネッツさんの活動に注目していきたいと思います!

秋田ノーザンハピネッツ観客をお見送りする水野社長
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