PFI(Private-Finance-Initiative)事業についてご存じですか?
民間の資金やノウハウを活用し、公共施設等の設計・建設・改修・更新や維持管理・運営を一括で行う公共事業の手法のことで、この手法を全国で初めてスポーツ公園で活用したのが神奈川県茅ケ崎市の柳島スポーツ公園です。
湘南ベルマーレのホームタウンでもあるこの場所が、PFI事業によってどのように地域に寄り添った形になっているのでしょうか?
今回は、この事業を進めたパシフィックコンサルタンツ株式会社の岡野郊子さん(以下、岡野)、清水雄二さん(以下、清水)、そして、湘南造園株式会社代表取締役社長としても事業に関わる湘南ベルマーレ代表取締役会長眞壁潔さん(以下、眞壁)にお話を伺いました。
PFI事業とは?
ーー本日は柳島スポーツ公園でお話を伺います!まず、PFI事業という形でこの公園が作られ、維持管理されていますが、通常の公園に関する公共事業との違いも含めて教えていただけますか?
清水)通常の都市公園のような公共事業では、自治体が中心となって設計・建設・維持管理・運営など、それぞれのフェーズで入札等を行い、各事業者と契約をしていきます。
柳島スポーツ公園で採用されたPFIによる事業方式は、公共施設の整備手法の一つで、設計・建設・維持管理・運営等が一体的な事業として取り扱われ、この事業を実施できるグループを民間企業から募ります。
私たちは、このための事業会社(SPC ※1)を本社が茅ヶ崎市にある亀井工業ホールディングス株式会社さんや湘南造園株式会社さんなど地元の企業と一緒に立ち上げ、設計・建設、さらに完成後20年間の維持管理運営までを含めて請け負っています。
ーーそれぞれの専門分野を持つ皆さんが、一緒になって『公園づくり』というところに取り組んだのですね。これはパシフィックコンサルタンツとしても新しい取り組みだったのでしょうか。
清水)計画が始まった当初、PFIという考え方でスポーツ公園の事業に自治体が取り組むこと自体が全国で初めてでした。私たちも主に公共事業の計画や設計を請け負う企業だったため、PFI事業に事業者として参画することは新たなチャレンジでしたね。
ーーPFI事業のメリットはどのようなところにあるのでしょうか?
清水)設計、建設、管理、運営等の各フェーズにおいて、異なる会社が業務を担当すると、実際に公園を維持管理・運営していく中で「なんでこんなものを作ったの?」と、不自由さや不便さを感じることがあります。もちろん、設計段階では、想いや意図、さらに、さまざまな条件をクリアし建設しているのですが、いざ、運営をしてみると意図通りになっていないこと、意図とは違う運営がなされることもあるのが現状です。
PFI事業の一番のメリットは、維持管理・運営段階を見据えて、民間事業者のノウハウや技術を活用した設計・建設ができるということです。
大事なのは「どう使うか」というところに対して有効にアプローチしていくことです。そこで、地元で既に活動を行っており、地元を熟知している地元に根付いた企業として、湘南ベルマーレさんと一緒に取り組むことにしました。
20年、スムーズに時代に合わせていく公園を
ーー眞壁さんは、この柳島スポーツ公園の事業に参画した当時のこと覚えていらっしゃいますか?
眞壁)以前より、湘南造園や湘南ベルマーレとして、他の公園の指定管理等、運営や維持管理に携わってきました。
指定管理は3~5年で行われることが多く、サッカースクール等のコンテンツを実施する等湘南ベルマーレとの親和性があるのですが、一方、何か新しいことをやって公園全体として発展させたいと思っても、行政側の予算なども含めて難しさを感じることもあります。
今回のPFI事業ですと、公園の運営に20年というスパンで取り組むことができます。時代が大きく変わる中で、長期的なスパンで公園運営に取り組めます。そのため、地元出身であるプロテニスプレーヤーの杉山愛さんやベルマーレを含めて、地域のみんなで一緒に公園をつくっていこうという話になりました。
ーー自治体ではなく、民間が主となって関わることに、どのようなメリットがあるのでしょうか?
眞壁)もちろん茅ヶ崎市から受託している事業ではあるのですが、公園には茅ヶ崎市民以外の方も多くいらっしゃいます。とくに、茅ヶ崎市の端っこにあるこの柳島スポーツ公園においては、自治体などのしがらみなく「この公園に来たい」と思う人を多く集め、賑わいある公園にしていく必要があります。こうした意味で、私たち民間事業者が関わることがメリットになっていると思います。
ーーなるほど。自治体等の枠組みに縛られず、自由度も高く行えるのですね。
眞壁)この公園は私たち民間事業者が維持管理・運営をしています。そうすると、公園に関するクレームは私たちに直接くるようになります。このような場合、地域の企業は直接自分たちの評価につながるので、地域のために責任感を持って運営することができますし、利用者の声を聴きながら着実に運営することができます。
公園ごとの“目的・意図”から地域活性に繋げる
ーー『地域にいい公園がある=地域活性化になる』のでしょうか?
眞壁)公園という言葉自体が曖昧なところもありますよね。人口何人に対していくつ公園がなければならないなど、ルールによって決まっていることもあります。
公園も場所によって目的を持つことが大切です。ここは高齢者が多いから、花であふれる公園にするとか、宅地なので子どもたちが遊べるように平地にするとか、場所によって特徴が出てくれば良いのではないかと思います。
柳島スポーツ公園でいうと、「スポーツでまちを元気に」という当初からのテーマがあるので、常に検証しながら進めていければいいですね。
岡野)PFI事業で20年以上関わることが出来るので、設計段階からの眞壁さんや杉山愛さんの想いが継続できているか、私たちチームのコンセプトがブレてないかを確かめながら、「もっとスポーツでつながりたい!」「元気にスポーツする人を見たい!」等のニーズを受け止め、進化し続けていくことで公園に関わる人が増えていくというのが、この柳島スポーツ公園を起点とした地域活性化だと思います。
ーー柳島スポーツ公園のプランでこだわったところはどこでしょうか?
眞壁)設計の段階で私もアイデアを出させていただいたのは、スタジアムの屋根と座席の色分けの工夫です。
スポーツイベントや大会を開催した実績から、スタンドに屋根がない競技場では雨天時の着替えなどがとても大変なのでスタンド全体を屋根で覆いました。また、座席は縦に3ブロック色分けしました。こうすることで、「緑のブロックに集合」等、利用者がわかりやすくなるんですよ。
こうした意見は、運営に携わる私たちだからこそだと思いますね。
ーー公園でのコンテンツも非常に充実しているように感じます。
眞壁)SPCに集まった人たちで、得意分野をシェアしながらやっています。湘南ベルマーレであればサッカーやランニング教室、別の事業者さんのレストランや接骨院、テニススクール等、幅広く実施されています。これを1社で企画・実施してくれと言われると大変ですが、PFI事業を一緒に作ってきた人たちが、それぞれの想いを持ってコンテンツを提供してくれています。
ーーこうした地域の事業に、パシフィックコンサルタンツさんのような大きな企業が入ることにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
眞壁)このような大きな規模の公園になると、行政とのやり取りや各種法的なやり取り等、それなりのノウハウが必要です。地方の自治体や地域企業にそのノウハウがあるかと言われると難しい状況だと思います。
パシフィックコンサルタンツさんに入っていただいたことによって、そうしたノウハウを地域全体で教えてもらって、吸収することができます。また、重要なのは、行政、地域企業も含めて次の世代に伝えていくことで、地域全体でこのような事業を実施していくことが可能になることです。
ーーありがとうございます!これからのこの公園の発展が楽しみですね!
★各人のプロフィール
眞壁 潔
茅ヶ崎スマートウエルネスパーク株式会社 取締役
湘南造園株式会社代表取締役社長
株式会社湘南ベルマーレ代表取締役会長
1962年2月5日生まれ。神奈川県平塚市出身。
大正12年創業の「眞壁農園」(現・湘南造園株式会社)の三代目として平塚に生まれ、湘南エリアを中心に造園業を営む。
1999年、地元平塚を本拠とするベルマーレ平塚(当時)の存続危機に際し「ベルマーレ存続検討委員会」のメンバーとなりクラブの存続に尽力。
その後、同郷で衆議院議員の河野太郎氏の依頼を受け湘南ベルマーレの取締役に就任。
岡野 郊子
茅ヶ崎スマートウエルネスパーク株式会社 取締役
パシフィックコンサルタンツ株式会社
執行役員 内部監査室 室長(元サービスプロバイダー事業部長)
1991年パシフィックコンサルタンツ株式会社横浜支社に入社。
公園・都市施設の計画・設計等ランドスケープデザインを中心に複合業務に多く従事。
2014年PPP事業者側を担う新事業部に異動し、柳島スポーツ公園PFI事業、むつざわスマ ートウェルネスタウンPFI事業の事業創生から参画、SPC取締役を担当。
2022年10月より現職。
清水 雄二
パシフィックコンサルタンツ株式会社
サービスプロバイダー事業部 地域事業プロデュース室 室長
都市計画に関する業務を担当後、近年では、公園やスポーツ関連施設等の運営管理を含めた業務開発、案件形成、マネジメント活動(市場開発)に従事。柳島スポーツ公園については、事業組成・提案作成段階から参画し、現在は統括管理の担当として、事業マネジメントに携わっている。
※1:SPC
PFI事業を実施するための、特別目的会社。すべてのPFI事業でSPC設立を条件付けているものではありませんが、ほとんどのPFI事業では、当該PFI事業以外の事業の不振が原因で、PFI事業のサービスが低下したり、事業が中断することを避けるためにSPCの設立を義務付けられている。