本田技研工業株式会社(以下、Honda)では、『Honda Beach Clean with スポGOMI』と題したイベントを、Hondaが持つ各スポーツチームと掛け合わせながらHonda事業所がある全国6ヵ所で行ってきました。
なかでも、大分県大分市の田ノ浦ビーチで行われた活動には、Hondaの特例子会社であるホンダ太陽株式会社に所属する車いす陸上競技選手の佐矢野利明さん(以下、佐矢野)など、ホンダアスリートクラブのメンバーも参加しました。チームに分かれて競う『スポGOMI』だけでなく、腕相撲やラグビー体験などの交流も行った参加者たち。最後には、キッズスポッチャ(障がいのある子ども達のスポーツ活動を支援するNPO法人)の子どもたちから、活動を盛り上げてくれた三重ホンダヒート(Honda公式ラグビー部)へサプライズプレゼントがあるなど、関係者全員が充実した気持ちになる活動でした。
今回は、前述の佐矢野さんと、元ラグビー選手(三重ホンダヒート)で現在は本田技研工業株式会社 社会貢献推進室でHondaビーチクリーン活動を担当する生方信孝さん(以下、生方)とともに、スポーツチーム、選手が社会貢献活動に参加する価値について考えていきます。(全2回のうち#2、#1はこちら)
障がいをこえてみんなが楽しんだ『スポGOMI』
ーー佐矢野さんは、今回のビーチクリーン活動に参加されていかがでしたか?
佐矢野)昨年もHondaが行うビーチクリーン活動には参加させていただき、今回が2回目の参加でした。前回「ビーチがきれいになるって気持ちいいな」と体感したので、そもそも楽しみにしていたイベントだったのですが、今回はさらにスポーツ・遊びの要素もある活動になっていて、また別の楽しみや喜びがあったと感じています。
ゴミを集めるだけとなると飽きてしまう子もいるかもしれませんが、スポGOMIのルールとして得点が絡んでくることで、皆さんが一生懸命に「このゴミがポイント高いよ」などと会話しながらゴミ拾いをしていたのが印象的でした。
ーー車いすで生活されている佐矢野さんですが、ビーチクリーン活動そのもの、またはビーチに行くこと自体の経験はあったのでしょうか?
佐矢野)車いすの中に砂が絡んでしまう恐れがあるので、そのまま砂浜に入るということはこれまでありませんでした。あるとしても、友人におぶってもらって海に入るくらいで、自分から「ビーチに行こう!」と思うことはないですね。ビーチマットを砂浜に敷いていただいて、ビーチで皆さんと一緒に活動できるというのは、なかなかできない良い経験をさせてもらっているなと思います。
車いすの人“も”楽しめるルールに
ーー車いすの方も参加するスポGOMI大会でしたが、なにかルール上で工夫したことはありますか?
生方)大分県の田ノ浦ビーチは、もともときれいでゴミ自体も少ない海岸です。なので、『海洋プラスチック』を集めるとポイントが多くなるルールにし、ふるいなどを使いながら、小さなプラスチック片を積極的に集めてもらえるようにしました。そうしたポイント面の工夫だけで、皆さんが楽しんでくれていましたね。
佐矢野)ビーチマットがあるだけでも本当に動きやすいです。いろいろなところに行ってゴミを拾えていました。僕がコーチとして関わるキッズスポッチャの子どもたちも参加したのですが、とにかく楽しかった、また参加したいと言ってくれていましたね。
ーーゴミ拾いのあとには、ラグビー選手とのボール回しや腕相撲対決などもされたようですね!
生方)腕相撲は最初に佐矢野選手に参加いただいたのですが、現役ラグビー選手側が、佐矢野さんの強さに驚いていました!
佐矢野)ラグビー選手の腕相撲は相当強かったです。(笑)
障がいを持つ子どもたちへの想い
ーー佐矢野さんは、キッズスポッチャの支援をされています。そうした子どもたちへの関わりを強く持っているのはなぜなのでしょうか?
佐矢野)僕自身、生まれつき障がいがあり、車いすスポーツをする機会はなかなかありませんでした。いまの子どもたちにとっても、道具を揃えるのも大変ですし、まず“スポーツをしよう”という気持ちになること自体にハードルがあります。もし普通の学校に行っていたとしても、まわりの生徒と同じようにはできないので、スポーツに苦手意識を持つ人が多いです。
僕は車いす陸上と出会うことができて、同じような障がいのある先輩たちとの輪が広がり、視野も広がったと感謝しているので、いまの子どもたちにもさまざまな人と関わる場を作るお手伝いが少しでもできればいいなと思っています。
ーー今回のビーチクリーンのようなイベントは、車いすの方にとっても貴重な機会だったように思います。
佐矢野)障がいを持っていることで、自分たちだけでなく、保護者の方も外での活動に積極的になれないことがあります。やはり、“さまざまな経験をする”という点で、ほかの子どもたちよりも少ないという現実はあるので、こうしたイベントを通して、アスリートだけでなくさまざまな大人との関わりを持ってほしいですね。
生方)障がいのあるなしに関わらず、いろいろな子どもたちに平等に機会はあるべきだと僕自身は強く思っています。障がいがあるからと区別するのではなく、その方も参加できるように工夫してやらなければならないと改めて思いました。
ーー生方さんも、現役時代は三重ホンダヒートの選手として学校訪問や病院訪問、障がいのある子たちとの触れ合いなども積極的にされていたと思います。
生方)そうですね。なかでも小学校に対してのラグビーの普及活動は長年やってきました。その中で一番印象に残ってるのは、『夢授業』です。僕たちは夢を叶えたアスリートとして、どういう階段を上ってきたのか、小学生のときにどんな想いで過ごしてきたのかを子どもたちに伝えていくのですが、自身の言語化にも繋がっていてとてもよい活動でした。
生方)子どもたちに本気で接し、各選手たちも目一杯楽しむことを意識していることがこの活動の大きな特徴なのですが、最初のうちは“やらされてる感”が選手からも出てしまうこともありました。
ーーなにがきっかけで気持ちが変わっていったのですか?
生方)「試合に勝つだけでは会社は応援してくれない」ということに気づいたことが大きかったです。会社の業績が落ちれば、スポーツ部の活動費は減らされてしまったり、チームがなくなる可能性もあります。そうならないような普遍的な価値を作るために、「地域の方に応援されるための活動として積極的に地域貢献に取り組もう!」とチームで決めたところから選手の意識も変わりましたね。
ーースポーツチームが社会的に必要とされる存在になるための意識が選手全体に浸透していったのは素晴らしいですね。
選手にとっての社会貢献活動とは
ーーアスリートとして、地域の方々など他者のための活動に見えることも多いと思うのですが、こうした活動に参加することで、自分に返ってきてるものはありますか?
生方)“自分”にというより、“チーム”に返ってくるものの大きさは感じていますね。先ほども言ったように、応援されるチームになることが重要ですが、そのために個人が主体的に輝くということは大事なことだとも思います。
佐矢野)僕の場合は、小学校での講演やキッズスポッチャのイベントで子どもたちに関わることが多いのですが、“障がい者スポーツを知ってもらえる”ことが一番大きいなと感じています。東京パラリンピックのおかげで知名度は上がってきていますが、やはりまだ「障がい者スポーツがどのようなものかを知らない」という方もたくさんいらっしゃいます。
自分も1人の選手として、人生を懸けてやっている活動を知っていただけるのはすごくありがたく、励みになりますよね。
また、僕は子どもの頃、ホンダ太陽にいた選手を見て「自分も同じようになりたい」と思って頑張ってきました。同じような背中を子どもたちに見せられていると感じると「自分のなりたい姿に近づいている」と思え、力になります。
ーー素敵ですね。お二人はラグビー、車いす陸上と、お互いに違うスポーツの分野で頑張ってこられた方々です。田ノ浦ビーチでの交流の中で、なにか感じたことはありますか?
佐矢野)生方さんも含めた三重ホンダヒートの方々で印象的だったのが、腕相撲をしてくださってるとき、みなさんがすごく優しい表情だったことです。自分たちも子どもたちと接するときにマネしたいなと思ったのですが、こうしたイベントに慣れていらっしゃるからできることなのですか?
生方)慣れてることも大きいですが、「ただやらされてるだけ」ではなく、「どうしたら来てくれてた子どもたちに楽しんでもらえるのか」ということを考えて動けるように、選手全員が意識を持てているという点が大きいですね。
佐矢野)素晴らしいですね!あと、ラグビーの選手は、体が大きい!強い!というイメージだったのですが、選手の方たちとお話してみると、「自分の得意不得意を生かして、1つのチームを作っていく」とお伺いしました。チームワークを高めるための取り組みなども行っていたりするのですか?
生方)『チームワーク』というのは、ラグビーでは重要なキーワードで、チームビルディングは練習の時だけではなく、ミーティングの中でも積極的に取り入れています。ラグビーは外国人選手も多いスポーツなので、そういった意味でもチームビルディングはすごく大事ですね。
佐矢野)僕たちは個人の競技なので、すごく興味が湧きました!ありがとうございます。
ーー今回のような社会貢献活動で活かせる“スポーツの価値”は、どのようなところにあると感じていますか?
生方)『グループのベクトル合わせ』という点が、スポーツ選手、とくにラグビーなどのチームスポーツの選手は長けているなと思っています。方向性を合わせ、一体感を作ることが得意なんだなと、今回のスポGOMIイベントを見ていても感じました。
今回のイベントでのチーム分けは、参加者をごちゃまぜにしたのでほぼ初対面の人同士のチームでした。そこにスポーツ選手をチームリーダーに置き、ゲーム開始前の作戦タイムでどんな種類のゴミを狙うか、どんなやり方で取り組むかなどを話し合ったところ、彼らがうまくリードして参加者の皆さんが楽しくビーチクリーン活動に取り組むことができました。こうしたスポーツ選手の特性を社会貢献活動にうまく取り入れていきたいですね。
佐矢野)作戦タイムがあったおかげで、初対面の方々とも和気あいあいと話すことができました。『ベクトル合わせ』がすごく効果があったなと感じており、自分たちも参考にしたいです。
また、私にとっては、スポーツを通じていろいろな人と関わる中で「自分にないところを見つけられる」ことも大きな価値だと思います。自分にないところを見つけ、皆で協力し合ったり、こうなりたいと思うようになる。そうした部分でスポーツの価値が社会貢献活動などを通して発揮されるといいなと思います。
ーーありがとうございました!