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【対談】ANDROSOPHY×高橋秀人 vol.1~男性育児を当たり前に~

高橋秀人。横浜FC所属。東京学芸大学卒業時には教員免許を取得、Jリーガーとして活躍する傍ら、2015年からは日本プロサッカー選手協会の会長を務めるなどマルチに活躍する彼は、3児の父親という顔も持っています。

そんな彼が対談するのは、「ANDROSOPHY(アンドロソフィー)」というベビーブランドの山田麻木代表。土屋鞄製作所から独立した彼が作るのは、男性でもスタイリッシュに着こなせるベビーキャリア(抱っこ紐)やペアレンツバッグなどの育児用品です。

『男性の育児が本当の意味で当たり前になる社会を目指して』

ANDROSOPHYが掲げるこのテーマに基づいて、お二人にお話を伺いました。

ANDROSOPHY設立の背景

ーーまず最初に、ANDROSOPHY様の設立の背景をお伺いできますか?

山田)背景としまして2つポイントがあります。

1つがビジネスの視点、もう1つが私の育児の経験の視点です。

私は土屋鞄製造所というランドセルメーカーに勤めていました。現在4歳になる娘が生まれたとき、当時、私は香港に駐在しており、娘と顔を合わすのはほとんどスカイプ画面越しで、日本に帰るのも年に2回、多くて3回でした。

娘が1歳のときに一時帰国した際、直接会うのは2回目だったのですが、なかなか笑顔になってくれませんでした。パパを見ているというより、どこか知らないおじさんを見てるような顔をしていました。それがママの顔を見るとすごい笑顔になる、というのがすごく悔しくて。

ーーそれは悔しいですね。

山田)物理的な距離があって育児ができなかった、というのもあるのですが、いま思うと父親という意識がなかったのかなと思っています。ANDROSOPHYという事業を立ち上げる前、土屋鞄製造所の中で1歳から2歳のお子さんを持つお父さんたちと食事をしたとき、その方々も私と同じようなことを言っていました。一緒に住んで子どもと毎日顔を合わせても、お母さんには勝てず、それによって子どもとの距離感がちょっとずつ離れていったり。

お母さんは当たり前のように子どもと会話したり、子どもの笑顔を作ることができるのに、父親はどうしてそういうことが難しいのだろう、と思ったのが最初のきっかけです。

ANDROSOPHY 山田麻木代表
©ANDROSOPHY

ーーなるほど。ビジネス的な側面はいかがですか?

山田)ANDROSOPHYというブランドは、土屋鞄製造所から出資をいただいての独立という形で立ち上げました。土屋鞄として持っている企業資産を活かしたい、という面でも考えていたのですが、彼らが作ってきたのは「ランドセル」という“子どもの大事な勉強道具を運ぶもの”。ランドセルから財布やカバンなどにも派生していますが、それも大人のビジネスにおける大事なものを運ぶ、という認識から来ています。では、人間にとって最も大事な運ぶものってなんだろう、という話になったときに、それは子どもであり赤ちゃんだよね、というところに落ち着きました。かばん屋がつくる大事な赤ちゃんを運ぶもの、ということで結果的にベビーキャリア(抱っこ紐)を最初のブランドの位置づけをする商品として作っていくことになりました。

ーーありがとうございます。高橋選手はいまのお話を聞いていかがですか?

高橋)いま私には、5歳(長男)・4歳(次男)・1歳(長女)の3人の子どもがいます。

先日山田さんから送っていただいた抱っこ紐を早速使わせていただきました!抱っこ紐だと1歳の子どもとの距離も近く、少しは父親らしいことできているのかなぁと感じました。時折ベッドで一緒に昼寝をしたり、私が寝かしつけをできることもあるんですが、やはり母親には勝てないところもあったので、ANDROSOPHYさんの抱っこ紐を使ったときに、私の胸でもスヤスヤと寝てくれたのは嬉しかったですね。

お母さんはお腹を痛めて生んでいることも影響していると思うのですが、一般的に男性は父親になる準備が遅れているのではないかという気がします。1歳の子が自分の胸で寝てくれている光景は、その意識が変化するきっかけになるような体験だなと思いましたし、もっと子どもに対して親らしいことをしていきたいなと素直に思いました。

男性の育児“参加”について

ーーたしかに、お母さんの方が子どもが懐くのが早い、というのはわかる気がします。“男性の育児参加”というワードが話題になることもありますが、その点では現状について山田さんはどうお考えでしょうか?

山田)多分ですね、『育児参加』っていう言葉で捉えると日本の男性みんな『参加している』と言うと思うんです。1回でも子どもを抱っこしたら参加になると思っている方も多くいらっしゃるので、私たちは『参加』という言葉を使わないようにしています。

男性が育児をすることが当たり前になる社会をつくろうとしている我々が、もし『参加』という言葉を使うとママ側からの否定的な意見が非常に多くなると思います。(笑)

例えば、高橋選手が先ほどおっしゃったような、抱っこする・一緒に寝る・お風呂に入るというポイントに男性は気が付くのですが、「予防接種ってどのくらいやらなければいけないの?」だったり、「乳幼児健診や歯科検診にはどのくらいの頻度で行くの?」などの質問に答えられる男性はほとんどいないですよね。そういったことも含め、育児について男性が知っている範囲というのはすごく狭く、その狭い世界の中での『参加』という言葉を捉えているので、日本で語られている『育児参加』という言葉自体が間違っているのかな、と感じています。

高橋)いや、それは非常に耳が痛い話ですね。子どもの注射のことなどはすぐに妻と話さなきゃいけないです。(笑)

1人目、2人目のときは妻がほとんど家事をしてくれていて、手が回らないときに片方お風呂に入れてあげる、というくらいの形での関わり方でした。ですが、やはり3人になるとどうしても無理な部分が出てきてしまっています。

私も含めて世の中の父親は、育児への関わりという意味ではまだまだと感じます。「名もなき家事」と言われること、例えば長女が散らかした服をたたむなど、母親からしたら当たり前で自然な行動と思ってしまうような行動も、生きていくペースの中にそれが反映されていないようなイメージです。

山田)高橋さんは3人お子さんがいらっしゃって、私は1人なんですが、それでも参加さえできていませんでした。私も反省する以外ないです。(笑)

高橋秀人
写真提供:高橋秀人選手

外国人から見る育児

山田)一度ANDROSOPHYの抱っこ紐のデザインができ始めたころ、どちらかが外国人の夫婦4組と日本人同士の夫婦4組、合計8組で話をする機会がありました。本当は商品のことについて話したかったのですが、途中から育児の話になって。そのときある日本人男性が、「育児の参加はね・・・」と話し出すと、「参加ってまず意味が分からないよ!」と外国人の方から言われました。その瞬間から、日本の育児や育児休暇に対する考え方は非常に遅れているんだな、と感じました。

もっともっと男性が育児を率先してやることで、女性の社会進出も一方で増えてくるだろう、となると、社会問題に対してANDROSOPHYが貢献できることも多くあるのだ、ということに気づかされました。

高橋)外国人で言うと、いままで在籍したチームにも外国籍の選手は、練習場やスタジアムにも家族を連れてきて、練習が終わったらすぐ子どもとサッカーをして面倒を見ていることがよくありました。日本人の選手の方が、そういった光景は少ないですね。

ーーそんな違いがあるんですね!

高橋)私たちサッカー選手は、午前中が練習の日で言うと、自分のマッサージや取材が終わると14時くらいには仕事として終わっています。そこからは語学などの勉強をしたり、もちろん自由な時間を過ごす選手もいますが、家族と過ごす時間をつくる、という意味では外国人選手と日本人選手とでは意識が違うのかな、と思います。

海外の国会で女性議員が赤ちゃんを抱っこしながら答弁されている姿などを見ると、まだまだ文化として違うな、とも感じますね。

山田)たしかにそうですね。でも日本はアジアの中では男性の育児という捉え方をするといい方だと思います。私は香港に住んでいましたが、香港の方は夫婦ともに育児をしないんです。不思議で特殊な地域だなと思うんですが、フィリピン人のお手伝いさんがいて、その方が子どもを育てるという意識があるので、子育てという観点では一切しないですね。

そういった意味では文化の違いは大きいですね。

日本の育児の課題

ーー日本の文化において、育児の課題をどのように捉えればいいでしょうか?

山田)そうですね。育児休暇というところでいくと、制度の目的としては給料の補助という面が大きいと思います。土屋鞄製造所でも育児休暇の制度に関していろいろな意見がありましたが、まず私たちモノづくりのメーカー・ブランドの立場からするとそうした制度を変えていくということは社会問題として大きすぎて難しい。男性が率先して育児をしたいと思う、商品でありサービスを通して、意識を変えていくためにどうするかを考えています。

私自身もANDROSOPHYを立ち上げる前は、自分の娘のために某有名ブランドの抱っこ紐を使っていたのですが、それは紫の水玉模様で私としてはつけるのが嫌だった記憶があります。派手なので恥ずかしくて。

男性がつけてもかっこいい、であったり男性が使いたいなと思う育児用品をどうやって作っていくのか、それによって率先して育児をする『環境』をどうやって作っていくかを考えています。

ーー意識の部分を変えていくために、ということですね。

ーーvol.2へつづく

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編集より

『男性の育児参加について』というのが私たちの考えるこの対談の当初のテーマでした。

しかし、対談で伺ったANDROSOPHY山田代表のお話で、そもそも『参加』という意識が、男性が当たり前に育児をする世の中から遠ざけていると気づかされます。今回は外国人との考え方、意識の比較から育児に対する捉え方を見ていきました。

一人ひとり、どの家庭も環境は違う中、アスリートというある意味特殊な環境に身を置く高橋選手の育児について、次回は掘り下げます。