特集

産学連携でSDGsに取り組む!麻布大学と森のタンブラーによる、SC相模原でのマイタンブラー制導入の背景 vol.3

第1回では森のタンブラーの概要、第2回では開発者であるアサヒビール株式会社の古原さんの想いについて紹介しました。

第3回では森のタンブラーと共に環境への取り組みを行った麻布大学へのインタビューを紹介します。

前回同様、Sports for Socialの石川が、麻布大学 生命・環境科学部 環境科学科の特任助教の坂西梓里先生(以下:坂西)と、同学科に所属する中嶋さん(3年生、以下:中嶋)、平井さん(2年生、以下:平井)、黒澤さん(2年生、以下:黒澤)にお話を伺いました。

過去の記事はこちら
第1回記事:https://sports-for-social.com/?p=791
第2回記事:https://sports-for-social.com/?p=873

麻布大学 生命環境科学部 環境科学科について

――石川)まずはじめに環境科学科について教えてください。

――坂西)私たちが所属している環境科学科は、公害が問題になっていた1965年に設立された公衆衛生短期大学が前身で、人の健康にかかわる環境の諸問題を中心に幅広く学べる学科です。
最近は、学生の興味に対応すべく学びの内容を広げ、生物・植物生態系や気候変動の問題、フィールドワークの強化など新しい教育・研究プログラムも導入しています。その一つがPBL(Project Based Learning)です。PBLは、座学で講義を受けるスタイルとは異なり、正解のない課題に対して学生自身が主体的に考え、仲間と議論しながら課題解決に取り組みます。
本学では特に、実社会のリアルな課題に社会と連携して取り組むスタイルを重視しており、このアクティブラーニングの一環として、古原さん(アサヒビール)との取り組みも行っています。

森のタンブラーとの出会い

――石川)ありがとうございます。続いて、森のタンブラーのプロジェクトと関わることになったきっかけを教えてください。

――坂西)2019年の日本最大級の環境展示会「エコプロ2019」で古原さんと出会ったことがきっかけです。本学科は毎年エコプロに出展しているのですが、イベントに足を運ばれていた古原さんが、たまたま私たちのブースに来て下さいました。その後、「学生達にリアルな課題に取り組ませたい本学」と「産学連携で脱・使い捨てに取り組みたい古原さん(アサヒビール)」との間に学術指導契約を締結し、協働で取り組む「脱・使い捨てプロジェクト」をスタートしました。

――石川)プロジェクトを始めるにあたって、まずどのようなことをしたのでしょうか?

――坂西)まず初めに、古原さんに本学へご来校いただき、学生向けのアルコール教育とともに、森のタンブラーに関する説明をしていただきました。その後、学生達から、産学連携の脱・使い捨てプロジェクトへの参加希望を募りました。

――石川)では続いて、麻布大学における森のタンブラーを活用した「脱・使い捨てプロジェクト」では、どんな活動をしているのかをお伺いしたいと思います。

――平井)まず学科のプロジェクトの狙いとして「大学全体での使い捨てをやめていこう」という事を決めました。

そこで、まずは学生に森のタンブラーの存在をアピールしようと考え、キャンパス内の食堂で森のタンブラーの導入を提案をしました。それは、学内にプロジェクトの開始を伝えても、実際に使ってみなくては、プラスチックゴミ問題への社会の関心の強さやタンブラーの良さは分からないと思ったからです。より多くの学生に使ってもらうために、まずは毎日利用する食堂で、学生に実際に手にとってもらえればと考えました。

そのほかにも幾つかアイデアを出し合いました。例えば「中庭でビアガーデンを開催してこの活動を普及しよう」とか、「大学構内でペットボトルを購入するのではなく、マイタンブラーやマイカップを使ってもらいたい。そのため、森のタンブラーを配布してウォーターサーバーを設置しよう」とか、様々な意見がメンバーから出ました。

ただ、2020年度は、コロナウイルスの影響で大学に来る人が少なく、学内での活動は実施できていないのが現状です。

今年度実際に実施できた活動は、学外のイベントであるSC相模原での活動になりました。

SC相模原との取り組み

――石川)では続いてSC相模原での取り組みについて、どのような活動をしているか、お伺いしたいです。

――黒澤)現在は、SC相模原モデルの森のタンブラーをスタジアムで販売しています。

この取り組みを始めるにあたり、まず販売前に森のタンブラーを知ってもらうことからスタートしました。森のタンブラーが環境に配慮した取り組みだということをサポーターの方に知って頂くためです。

そのために、森のタンブラーの展示ブースを設けて、ポスターなどを使ってプラスチックゴミの問題やプロジェクトの活動を紹介しました。また、SDGsの認知度や森のタンブラーへの関心などのアンケートをとり、回答して頂いた方の中から抽選で、ガミティー(SC相模原のマスコット)や本学とアサヒビールのロゴが入った森のタンブラーをプレゼントしました。さらに、小さい子供も楽しめるような工夫で家族でブースにきていただけるよう、ゲーム企画も行いました。

――石川)ありがとうございます。プロダクトもそうですが、活動の背景についても知っていただくために様々な工夫をしていたのですね。
ちなみに、現在のSC相模原との活動に至る経緯もお伺いしてよろしいでしょうか?

――坂西)もともと本学とSC相模原の取り組みとして、使い捨てカップの削減に取り組んでおりました。Jリーグではスタジアムの中にビン・缶を持ち込めないといったルールがあり、その度に移し替えると使い捨てカップを大量に消費してしまいます。それに対しクリーンパートナーという形で、本学とSC相模原はデポジット制リユースカップを導入し、使い捨てカップを削減していました

しかし、この取り組みもコロナウイルスの影響で、洗浄する方々のリスクが非常に高いために中止となり、使い捨てカップの使用に戻ってしまいました。私たちとしては、使い捨てカップ削減を目指してデポジット制の取り組みを始めたのに、これでいいのかという思いがありました。

そこで、私たちは、サッカー観戦時に自分専用のタンブラーを持ち歩くという新しい観戦スタイルを提案しました。マイタンブラー制であれば自分専用のカップになるので、自宅に持ち帰り自分で洗浄できます。そのため、誰にもリスクを負わせないし、使い捨てカップの削減にもつながるということで、実際にスタジアムで導入していただきました。

――石川)ありがとうございます。コロナウイルスの影響を受けながらも、できることを探す姿勢は素晴らしいですね。
では続いて学生の皆さんにお伺いします。この活動のやりがいであったり、難しさについて教えてください。

――平井)このイベントを行うにあたり難しいと思った事は、森のタンブラーを全く知らない人に紹介することです。
ただ、いざブースを開けてみるとアンケートに答えてくれる方も多く、開始1時間で行列もできました。家族でも参加できるイベントブースを意識し、子供も楽しめるストラックアウトのコーナーとかをつくった結果、実際に来てくれた人の笑顔も見ることができ、とてもやりがいを感じましたね

――黒澤)森のタンブラーを知らない人に、タンブラーはもちろんの事、使い捨ての問題に関心を持ってもらうように伝える、ということにとても苦労しました。
やりがいは、講義ではわからないことが体験できたことです。座学での講義が多い中で、学んでいることと実際の社会とではどんな違いや難しさがあるかということを、身をもって感じ、社会に出たときの為になると思いました。

――中嶋)難しいと感じたことはサポーターの方に興味を持っていただくことです。やはりサポーターの皆さんはサッカーを見に来ているわけですから、すぐスタジアムに入場してしまう人の方が当然多いです。それでも足を止めてもらうためには、見栄えを工夫したり、道行く人に足を止めてもらうといったアクションを起こす必要がありました
その分、実際にサポーターが使っていただいているというのを見聞きしたときは、非常にやりがいを感じました 

――石川)ありがとうございます。
ではまた学生の皆さんにお伺いします。SC相模原との取り組みでサポーターの方に伝えたいことは何でしょうか?。

――平井)「環境にいいことをすることが楽しい」というようなポジティブな印象を伝えたいと思っています。使い捨てのゴミを出すことが悪といったネガティブな方向に考えるのではなくて、環境にいいものを使うことで少しでも自分が社会に貢献しているという前向きな考えを伝えていきたいです。僕自身もこの活動を通して前向きな感情を持ちましたし、それをSC相模原のサポーターをはじめ多くの人に伝えたいと言うのが1番ですね。

――黒澤)森のタンブラーの活動を通して、サポーターの方に、環境にいいことを意識していただくきっかけを作っていきたいと思っています。でも、環境に良いから、エコだから、と義務化するのではなく、我々の活動を理解していただくことで、サポーターの方がこの活動以外でも自主的に環境にいいことをしてもらえるよう、これからも取り組んでいきたいです

――中嶋)僕もこの活動を通して、環境に対して何か取り組もうというきっかけにしてもらいたいと思っています。そのためにも、環境科学科の学生として、今まで講義で学んできたことをサポーターの方にも共有するということにも意識していました。例えばリサイクルやゴミの分別など、生活の一部から環境問題に取り組めることをお伝えできたかと思います。今回はサポーターの方々でしたが、普段から周りの人に伝えていくことができると思います。

企業と産学連携に取り組むメリット

――石川)ありがとうございます。
続いて、産学連携をしてSDGsに取り組むメリットについてお伺いしたいのですが、こちら坂西先生にお伺いできればと思います。

――坂西)SDGsの実現可能性を高めるのには、ゴール17の「パートナーシップで目標を達成しよう」が欠かせないものだと思っています。一人一人が行動を変え、その活動を拡散して、世界が変わることがとても重要です。そういった意味では、大学と企業(アサヒビール)が連携できたことはすごく重要なことだと思っています。

教育面では、企業と学生がやりとりすることで、学生は社会の流れを肌で感じることができるため、大きくメリットを感じています。また、学生にとっては、学外の方々に活動を見ていただき、評価されるということは、自信につながっていくと思うんですよね。学外の活動で自信をつけ、いろんな活動に前向きにチャレンジして欲しいというのは、産学連携の大きな狙いの1つでもあります。

SC相模原との連携に関しても大きなメリットを感じております。スポーツと関わって生まれる感情は、垣根を越えて多くの人に共感していただけます。そういう意味でも、スポーツクラブと一緒にできた事は環境への取り組みを広げていく上ですごく重要だったと思います。特にSC相模原さんはアットホームな雰囲気で、話を受け入れていただきやすかったです。

――石川)ありがとうございます。続いて森のタンブラーとのプロジェクトを通して得た学びや経験と、それを今後どのように活かしていきたいか教えてください。

――平井)このプロジェクトに参加したことで、企業のSDGs活動について知ることがきました。普段、会社がどんな活動をしているかを知る機会はほとんどないので、とても貴重な経験になりました。この経験を活かして、環境問題の背景やそれに対する取り組みについて周りの人に広めるという企画やイベントを作って行けたらと思います。

――黒澤)普通に大学生活を送っているだけでは知ることができないことを聞けました。例えば、森のタンブラーのプロジェクトのキックオフ講演では、ロンドンオリンピックで使用した建造物の持続的な利用に関する話を聞かせて頂きました。世の中の流れを知ることで、学業等にもより意欲的に取り組めるようになってきていると思います。

また、社会での取り組みを実際に体験することで、環境問題にもより意欲的に考えるようになることを身をもって実感しました。今回自分が得た学びや経験を、将来自分が社会に出たときに、周りにも伝えていきたいと思います。

――中嶋)実際に体験することで、講義で教えてもらったことがスッと入ってきました。より学びを深めるという意味でもいい経験になったと思いますし、自分から動くことで印象にも残りました。

この活動を経験してみて、これからはプラスチック問題をより自分事として考えたいと思いました。普段何気なく使うものにプラスチックは多く使われているので、削減できるところは削減し、リサイクルできるものリサイクルし、まだ使えるものは直して使うとなど、今よりももっと意識して取り組みたいと思います。

学部として、学生としてのそれぞれの想い

――石川)ありがとうございます。では最後のテーマにうつさせていただきます。
まず坂西先生にお伺いしたいのですが、今後学部学科としてどういった活動をしていきたと考えていますか?

――坂西)まず第一に、コロナ禍で中断してしまった、学内での使い捨て削減への取り組みを進めたいと思っています。また、SC相模原さんとの活動についても、今後より多くのサポーターの方に、プラスチックゴミ等の問題に一緒に当事者意識を持っていただけるよう、取り組みを続けていきたいと思います。

イベントをやり、実際に販売開始して終了ではなく、やはり継続的にサポーターの方々にアプローチし、活動の認知とその背景を知って頂く機会を作らないと、森のタンブラーはただのグッズの一つになってしまうと思います。そのため、ここで終わりではなく、今スタートを切ったと考えてこれからも続けていきたいです。

さらに、教育機関としては、学生に向けて学外での活動の場を広げていくことが大切だと思いますので、アサヒビールさんはもちろんの事、その他の企業、自治体のご協力も得ながら、本学の産学連携の活動をよりいっそう活性化させていきたいと考えております。

――石川)ありがとうございます。続いて学生の皆さんに、環境科学科の学生として願う社会についてそれぞれお伺いしたいです。

――黒澤)ここ最近は、テレビCMなどでも、SDGsについてだったり環境にやさしいことをしようというのが謳われていて、多くの人がこの問題について認知しているのではと感じています。ただこれからは、行動に移る段階だと思うので、各々が自分のやるべきことを見出し、環境にいいことに取り組むという社会になればいいなと思っています。

――中嶋)私は、環境問題に対して理解のある社会になってほしいなと思います。というのも、脱プラスチックを目指して昨年7月にレジ袋有料化が始まりましたが、スーパーに置いてある無料の薄い袋を大量に持ち帰る方がいたりして、有料化になった意味を理解していない人が結構多いなと感じるんです。これからは、取り組みの背景と目的を考えて、理解を深めることで、より社会全体で環境問題に取り組んでいけると思います。

――平井)環境に良いことをすると街がおしゃれになっていくと思うので、その楽しさを知ってもらいたいです。先ほどレジ袋の話が出ましたが、街中でレジ袋に大量の食材を入れて歩くよりも、自分のマイバックを持って歩いている方が、おしゃれな雰囲気が出るじゃないですか。サッカースタジアムに限っても、使い捨てのプラスチックカップを使うより、みんながこういったタンブラーを使っていた方が、おしゃれだと思うんですよね。このようなことを環境に関心がない人にも知ってほしいです。

――石川)ありがとうございます。では坂西先生の方からもお伺いしていいですか。

――坂西)森のタンブラーをきっかけに、プラスチックのゴミ問題に限らず多くの環境問題に対して興味を持ってくださる人が増えてほしいと思っています。

これからは、環境に対して自分は何ができるのかを一人一人が考える時代になっていかないと、持続可能性は難しいと思います。レジ袋の話もそうですが、問題の背景にあることを理解し、自分の行動の大切さを理解することが、未来に向けて重要だと思います。

もちろん、環境に対して関心を持っていただくきっかけは、例えば単純なタンブラーへの興味でもいいと思うんですよ。そこから、「環境に配慮した行動をしよう」と考える人をいかに増やせるかだと思っています。また、今まで環境意識はあったとしても、なかなか行動に移せなかったという方も多いと思いますので、森のタンブラーの活動が、一人一人が考えるきっかけになっていければと思っています。

編集者より

今回は麻布大学と森のタンブラー(アサヒビール)との産学連携でSDGsに取り組んだ背景をご紹介しました。学生時代に、大企業とこのようなプロジェクトができるというのは、なかなか経験できないことですし、学生がそれぞれ想いをもって取り組んでいる様子も伺えました。

中でも、森のタンブラーを導入し販売するにあたって、タンブラーがどんな背景で作られているのか、なぜマイタンブラー制を導入するのか、ということを学生がサポーターに伝えるということには非常に感銘を受けました。ただのコラボグッズにならないために必要なことですし、Sports for Socialとしても、この部分は広く正確に届けたいと感じました。

次回は、「脱・使い捨て」に向けたこのプロジェクトを、実際にスタジアムで体験したSC相模原のサポーターの方にインタビュした様子を発信します。

 

関西大学1
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