特集

アスリートにも負けない、デフリンピックにかける情熱~筑波技術大学学生によるエンブレム制作~

デフリンピック

2025年に東京開催が決まった聴覚障がい者のスポーツの祭典、デフリンピック。そのエンブレム制作を担当するのは、筑波技術大学に通う学生です。
筑波技術大学は、世界でも珍しい聴覚障がい者、視覚障がい者向けの4年制大学であり、これまでも多くの方が学び、社会で活躍しています。

世界的な大会のエンブレムを制作できる貴重な機会に、デザインを学びながら自らも聴覚障がいの当事者として生活する学生たちはどんなメッセージを込めるのか?
筑波技術大学総合デザイン学科4年 多田伊吹さん(以下、多田)に、これまでの人生やデフスポーツについての話も絡めながら伺いました。

私でも主役になれる!~2025年デフリンピック東京大会は「みんなでつくる大会」に~ろう者(耳のきこえない人)のオリンピックが、2025年に東京で開催されることをご存知ですか? 『デフリンピック』と呼ばれるこの大会は、1924年からの歴史があり、100年経って初めて日本で開催されることとなりました。 Sports for Socialでは、デフリンピック、そしてデフアスリートたちの魅力をお伝えしていきます。 この連載にあたり、最初にお話を伺ったのは、デフリンピック運営委員会事務局長の倉野直紀さん(以下、倉野)。デフリンピックの歴史、東京大会のエンブレム制作の裏側、デフスポーツの魅力まで語っていただきました。...

“アクセシブルデザイン”の魅力

ーー筑波技術大学ではどのようなことを学んでいるのですか?

多田)主にアクセシブルデザインについて学んでいます。具体的には子どもや大人、外国人、高齢者、障がい者といった世の中のすべての人が使いやすいもの、暮らしやすくなる環境のデザインをすることです。そのために工夫する意義を勉強しています。

アクセシブルデザインとは?:不便さを使いやすい製品やサービスに変えていくという考え方。高齢者や障がいのある人に配慮した“やさしい”デザインのこと。

ーーアクセシブルデザインについて学ぶ中で、多田さんが印象に残っていることはありますか?

多田)アクセシブルデザインの領域は広範囲に及ぶのですが、建築に関する授業の中で「孤立している高齢者と保育園との取り組み」を知りました。
この取り組みを通じて、高齢者は子どもとの関わりが楽しみや生きがいとなり、子どもにとっても家族以外の人との貴重な関わりが持て、知り得なかった昔の遊びを知る機会にもなります。高齢者と小さな子どもたち。世代は違うけれど、同じ場所で一緒になって関わることで、また新たな関係が生まれていくということが、とても素敵なことだと印象に残っています。

ーーこの筑波技術大学で「もっと学びたい!」と思うことはありますか?

多田)私が生まれ育った岩手県には、いろいろな障がいのある人が使用する福祉施設があります。どんな障がいを持っている方にも使いやすく、施設のあり方が研究し尽くされており、まさにアクセシブルデザインが体現されている場所です。さまざまな工夫が施設内に散りばめられていて、そんな優しい施設があることに私自身すごく嬉しい気持ちになりました。
そこで過ごす人、使う人への想いがこもったデザインを私も考えてみたいし、誰もが暮らしやすい環境を作れるように、まだまだ学んでいきたいです。

多田伊吹さん多田伊吹さん

選手に負けないくらい熱い気持ちで

ーー自分たちがデフリンピックのエンブレム制作をできる、そう聞いたときどう思いましたか?

多田)もともと、デフリンピックに興味はありましたが、“デフアスリートの方々のイベント”という印象で、スポーツ選手ではない私には少し遠い世界のことのように思えていました。
エンブレム制作を通して、スポーツ選手じゃなくてもデフリンピックに関わることができてとても嬉しく思っています。筑波技術大学で4年間学んできた知識を総動員し、デフリンピックに貢献したいという想いでいっぱいです。

ーーそもそも多田さんはスポーツが好きですか?

多田)本気のスポーツというよりは、友達と一緒になって楽しむスポーツがすごく好きです。
デフアスリートの方と関わる機会で感じたのは、選手の皆さんのやる気や熱意、デフリンピックに懸ける思いがすごく強いということです。
多くのデフアスリートの方が共通して「デフリンピックのおかげで今の自分がある。もっと自分の可能性を広げていきたい。」と語っていました。デフリンピックという舞台が、選手たちとって本当に輝ける舞台なんだと日々痛感しています。

ーーエンブレムに込めたいメッセージはどのようなものですか?

多田)自分たちにできることで、選手たちに負けないくらい熱い気持ちで、デフリンピックに携わっています。選手たちの溢れるパワーを伝えられるようなエンブレムを作りたいです。

ーーありがとうございます!

石井さん、中村さんにもインタビュー!

多田さんと同様にエンブレム制作に取り組む総合デザイン学科3年の石井菜野葉さん、同じく2年の中村宙さんにもお話を伺いました!ユニバーサルデザインに大きな興味を持ち、「聞こえる人だけではなく、障がい者も平等に支援するための製品やポスター、そのデザインを学びたい」という石井さん。『タイポグラフィ』という文字を美しく見せるデザインにも興味があると言う中村さん。それぞれの想いを伺います。

ーーデフアスリートにはどのような印象をお持ちですか?

石井)デフアスリートたちが、自分たちの能力を最大限に生かすために懸命に練習に励んでいたり、工夫してコミュニケーションを図りながら、協力して試合に挑む姿を見てきました。諦めずに自分自身や仲間を信じ、ゴールに向かって突き進む姿は素晴らしく、見ている私たちは勇気をもらっています。

中村)私自身もスポーツが好きで、陸上競技に取り組んでいました。デフアスリートには、自分と同じような障がいを抱えながらもトップアスリートとして活躍する姿に、尊敬の気持ちを抱きます。世界中からトップレベルのデフアスリートたちが集まる本大会を機に、より多くの人にデフリンピックの魅力が伝わってほしいです。

石井菜野葉さん石井菜野葉さん

ーーエンブレム制作に懸ける想いを聞かせてください!

石井)デフリンピックのエンブレムは、健常者にデフリンピックの魅力を理解していただきたいと思っているし、ろう者はデフアスリートの姿を見て、応援したいという気持ちを込めています。デフアスリートが、故郷や今まで指導してくれたコーチなどから応援されている想いを強く込めて、一生懸命頑張っていることが伝わるようなデザインにしたいです。

中村)夢や希望が感じられるようなエンブレムを作りたいですし、心からの応援の気持ちを込めてデザインします!

ーーありがとうございました!

中村宙さん中村宙さん

都内中高生対象!

エンブレム制作グループワーク参加者募集

デフリンピックロゴ制作

2025年デフリンピック東京大会のエンブレムは、夏にかけて筑波技術大学の学生が制作した複数のデザイン案から、9月3日に行う都内中高生によるグループワークでの投票によって決定します。

この投票に参加する中高生は、6月16日 ~7月31日の間に広く一般募集されます。

大会を一緒に盛り上げ、つくりあげていく。観戦だけでなく、全世界が注目する大会のエンブレムを選ぶという形で是非一緒にデフリンピックに関わってみませんか?

グループワーク・投票の参加者募集の詳細は、下記の東京都公式HPをご確認ください。

スポーツ東京インフォメーション
https://www.sports-tokyo-info.metro.tokyo.lg.jp/seisaku/deaflympics2025/emblem/index.html

 編集より

デフリンピックはデフアスリートの国際的なスポーツ大会でありながら、“誰もが主役となって活躍できる場として、みんなで作る大会にしたい”という東京大会のコンセプトを強く感じました。

以前、デフリンピック運営委員会事務局長 倉野 直紀さんが、「日本を含め、世界には耳の聞こえない審判員もいるし、ボランティアも障がいの有無に関係なく、できることはたくさんある。」とおっしゃっていました。

それぞれができることで、夢や希望を持って挑戦していけるように、Sports for Socialではさまざまな話題を発信し続けます。

デフリンピック
東京都が考える『デフリンピック』の気運醸成~誰もが知り、理解する社会へ~皆さんは、2025年に東京で「デフリンピック」が開催されることをご存じでしょうか。それ以前に、デフリンピックが「耳のきこえない方の国際スポーツ大会」だということすら知らない人も多いかもしれません。 それもそのはず、現在のデフリンピックの認知度は10%台。開催地である東京都は、2年半後に迫った大会を成功に導くため、気運を高める大きな役割を担っています。 東京2020オリンピック・パラリンピック(以下、東京2020)の経験を生かし、2025年のデフリンピックに向けてどのように動いていくのか。そしてその先にどのような社会の実現を目指すのか。 東京都生活文化スポーツ局国際スポーツ事業部で、今回のデフリンピックの気運醸成を担当するチームの井戸愛さん(以下、井戸)の熱い思いがあふれます。...

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