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【現役なでしこリーガーが聞く!#5】カンボジアにサッカーボールと笑顔を!子どもたちが教えてくれた幸せの形

常田菜那 サッカー×ボランティア

「カンボジアの貧しい村にサッカーボールと笑顔を届けたい!」というプロジェクトを実施した藤村祐希さん(以下、藤村)。2019年、当時大学3年生の藤村さんは、同級生の篠山立さんと共に「カンボジアの貧しくてサッカーボールを買えない子どもたちにサッカーボールを届けたい」と考え、プロジェクトを立ち上げました。

そんな彼の想いや魅力、そして現地で気づく幸せの価値を、現役なでしこリーガーである常田菜那さんが取材しました。「サッカーを通した世界とのつながり」や「サッカーが与える影響・サッカーの魅力」とはどのようなものなのでしょうか?

ひでかの授業
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子どもは自分の言動一つで大きく変わる、鏡のように反映される

ーー藤村さんが海外のことや、ボランティア活動に興味を持ったきっかけは何ですか?

藤村)一番最初のきっかけは中学2年生のときです。地元の千葉県八千代市とタイのバンコクが姉妹都市ということもあり、10名ほどタイに派遣される八千代市親善子ども大使に選ばれ、1週間滞在しました。
そのとき、道路で車が渋滞してる間を子どもが裸足で物乞いしていたり、ものを売って歩いている姿を見ました。当時中学生ながらすごく衝撃を受けたことを覚えています。そこから海外に興味を持つようになり「そうした子どもたちと関わりを持ちたい」と思うようになりました。

常田菜那

ーープロジェクトを始めたのは大学3年生の時でしたが、そのきっかけは何ですか?

藤村)大学生になり、興味のあった海外ボランティアについていろいろと調べていく中で、行ったことのないカンボジアに行ってみようと思いました。そこで、子どもたちに日本語と英語を教えるという教育ボランティアを選び、子どもと関わる中で、教育にも興味を持つようになりました。
「子どもって自分の言動一つでめちゃめちゃ変わるんだ」ということをその教育ボランティアで感じました。例えば、自分が緊張して固くなってたら子どもも固くなっちゃうし、自分がめっちゃ笑顔で話したりふざけてたら子どもたちもふざけるようになったり。
自分の行動が鏡のように全部子どもの行動に反映されるということにおもしろさを感じました。

ーー現地や子どもたちの様子はどうでしたか?

藤村)子どもたちは本当に素直で、目の前のことに夢中でした。サッカーをしていて、日本の子どもだったら勝てないと思ったらすぐに諦めてしまうこともありますが、向こうの子どもたちは、一生懸命に本気で向かってくる。それがとてもすごいなと思いました。
一緒にサッカーをやっていて楽しいし、子どもたちの目が輝いてる。そうしたことを体験し、「サッカーっていいな」「子どもっていいな」と改めて感じました。
ただ、サッカーボールがぺしゃんこでボロボロだったり、村によってはゴミや紙を丸めて作ったボールを使っていました。もちろん靴は履いていないし、サッカーをやれる環境は整っていませんでした。
それでもその村の子どもたちにとってはそれが当たり前だし、幸せそうだったのですが、プロを目指していくなら、ちゃんとした環境やちゃんとしたボールがあったほうがいい。プロという夢を見せることで「違った世界を感じてもらいたい」という気持ちがありました。

ーーその子たちにとってみるとそれが当たり前の環境ですもんね。

藤村)それが当たり前なので、何か変わるようなきっかけ作りができたらいいなと思いました。

常田菜那

ーー篠山さんと二人で始めたプロジェクトについて教えてください。

藤村)篠山とは大学で一緒にサッカー部に所属していて、とても仲が良く、ずっと一緒にいました。3年生の時に「このまま大学生活が終わるのはつまらないから、2人で何かしたいね」という話をしました。
僕たちには、サッカー、教育への興味、子ども好きという共通点があり「カンボジアにサッカーボール届けてみる?」という、半ば勢いで最初は決めました。(笑)

ーープロジェクトを始めるに当たって難しかったことや、苦労したことはどういったところでしたか。

藤村)クラウドファンディングでは、誰も自分たちのことを知らない状況からプロジェクトを立ち上げ、みんなに知ってもらうところからのスタートです。そこに難しさを感じていましたが、自分たちの大学生としての良さやがむしゃらさを活かし、プロジェクトの「想い」に投資してもらおうと取り組みました。

クラウドファンディング後、行き先を決めるのにも少し苦戦しました。SNSで英語も日本語も話せるカンボジア人を探したのですが、日本語が理解できて、ボランティア活動もやっている方を見つけるのは大変でしたね。

ーーそうした大変さもある中で、めげそうになることはなかったのですか?

藤村)めげそうになることもありましたが、以前会ったカンボジアの子どもたちの笑顔や子どもたちが変わる瞬間が原動力になっていました。

常田菜那

幸せの価値観の違い「心は貧しくない」

ーークラウドファンディング後、実際に行ったカンボジアの様子はどうでしたか。

藤村)最初に訪れた村には電気も水もありませんでした。お風呂は溜まった井戸水と雨水、トイレも水をすくってそのまま流す、といった状況です。電気は豆電球、道路は舗装されていない、すべてが新鮮でした。

ーー現地に行って一番衝撃を受けたことは何ですか?

藤村)幸せの価値観の部分が一番衝撃的でした。自分たちにとって当たり前にあるテレビ、スマホなど、現地ではどの家庭にもあるわけではありません。
最初は、「サッカーボールを届けてあげよう」「日本語を教えてあげよう」と、こちらから何かを提供する気持ちで訪問していました。
ですが、「そもそもまず貧しくないのでは?」と現地に行き、そこの人たちと触れ合う中で感じました。向こうの人の方が感受性が豊かで、楽しいことは全力で楽しむ、悲しいことは悲しい、悔しいことは悔しい、という感じで自分の心にとても素直です。人間の幸せの形は人それぞれであることに気付かされました。

人と人の繋がりの濃さにも驚きました。畑仕事で協力していたり、隣の人がご飯届けてくれたり。日本の田舎でもある光景ですが、それ以上に、家族間の繋がりなどの強さも含めて、人と人との繋がりや温かさを感じることができました。

常田菜那

素でぶつかることが大事。ボール一つで一気に打ち解けられる

ーーカンボジアの子どもたちと触れ合う中で意識していたことはありますか?

藤村)本気で楽しむことですね。自分が緊張してしまうと子どもも緊張するし、自分が壁を作っていたら子どもも壁を作るので、本気で馬鹿になって楽しんでいました。もちろん、あとからいろいろと感じることはありますが、まずはそういうことすべて取っ払って子どもたちに向き合い、ぶつかっていくことを意識していました。

最初は篠山と2人でボール蹴っていても子どもたちは警戒して入ってこなかったのですが、楽しんでいるうちにどんどん仲間が増えてきて、最終的には20人ほどと一緒に遊びました。一気に打ち解けるその瞬間に、楽しさを感じましたし、僕たちが行った意義も感じました。

ーー藤村さんご自身が、このプロジェクトを通して得られたことは何ですか?

藤村)いろいろなことを受け入れられるようになりました。今では何でもできる気がするし、小さなことに幸せを感じることができます。どんなことにも楽しさを見出せるようになりましたね。

ーー今後、再び海外に行ってこうした活動をしたいと思いますか?

藤村)はい、また現地に行きたいですね。今回のプロジェクトもそうですが、今まで何も考えずに行動力だけで生きてきたので、もっといろいろなスキルを身につけたいと思っています。「サッカー×教育」というところには僕自身関心が高いですし、そこに加えてもう1つスキルがあればと思っています。そうしたことを意識し、身につけた結果、現地の子どもたちに対してもできることが増えると思いますし、自分の自信にもつなげていきたいです。

ーー貴重なお話ありがとうございました!

インタビュアー・常田菜那さんより

私は今、狭い世界の中でとても恵まれた環境の中で好きなことに取り組めているということを改めて実感しました。世界には貧富の差があり、幸せの価値観も違ってくるけど「サッカー」というスポーツを楽しむことは共通していることであり、人と人の心を繋ぐ偉大な力があることを感じました。
藤村さんのように小さなことに幸せを感じられる広い心を持ち、想いを行動に移していくことを大切にしていこうと思います。

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