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【現役なでしこリーガーが聞く!女性アスリートと社会課題 #4】迷ったら吉本に!?自分の“スキ”に気づく方法とは?

ひでかの授業

この連載では、なでしこリーグ1部伊賀FCくノ一三重(以下、くノ一)に所属する常田菜那選手が、現役アスリートが出来る社会貢献活動を考え、インタビューしていきます。

現役アスリートとして、競技に専念することは当たり前。その中で「競技を通してもっと地域や社会に貢献したい」「自分にできる取り組みをしたい」という想いが強くある常田選手。アスリートが現役中に社会の課題と向き合うこと、地域貢献活動をすること、そうした意義のあることを現役アスリート目線で発信していきます。

今回のテーマは、「女性アスリートのセカンドキャリア」第二弾。(これまでの記事 #1、#2、#3)
現在、“女子サッカー芸人”として活動されている吉本興業所属の『ひでか』さんにお話を伺いました。ひでかさんはサッカー選手として日本で6年、海外で7年間ゴールキーパーとしてプレーし、全米大会優勝も経験。その後、芸人として「女子サッカー界に笑い・刺激・選択肢を届けたい」という想いのもと、自らのサッカー人生を“芸人ひでか”として次世代の選手にシェアしています。

プロフィール

ひでか(吉本興業所属 芸歴3年目・NSC大阪42期)
元女子サッカー全米大会優勝ゴールキーパー。
18~25歳まで海外7年4カ国、単身サッカー留学
(アメリカ・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド)

本名:志方英香(しかたひでか)

SNS:InstagramTwitterTiktok

過去のサッカー成績

2011年 全米大会優勝(アメリカ)
2015年 全加大会ベスト4(カナダ)
2016年 ブリズベン州リーグ優勝(オーストラリア)
2017年 オークランド州リーグ優勝(ニュージーランド)

メディア

2020年 10月放送 日テレ【今夜くらべてみました】出演
2021年 1月〜4月放送 WOWOW【ガチTube〜次世代動画スター育成サバイバル〜】出演
2021年 3月放送 ABC朝日放送テレビ【今ちゃんの実は】出演
2021年 10月放送 カンテレ【かまいたちの机上の空論域】出演
2022年 7月放送 MBS【アキナのギャルしか勝たん】出演

「おもんない」が一番自分に火をつける

常田)サッカーを始めたきっかけは何ですか?

ひでか)小学校時代は男の子と一緒に外で遊ぶような子で、2002年日韓W杯ブームの影響でサッカーを始めました。
ゴールを決めるストライカーを夢見ていましたが、監督が私の体格を見てゴールキーパーを勧めたことで、ゴールキーパーとしてプレーを始めました。
高校3年生のとき、父から「お前アメリカ行ったらどうや」といきなり言われ、海外挑戦を決断することに。願書やビザの申請など、すべて自分で調べて、言葉も何もわからないアメリカのど田舎に1人で飛び込みました。大学2年生の時に全米優勝を経験したこともあり、今思うとこうした思い切った決断はよかったと思えます。

常田)その後、オセアニアでもサッカー選手として活躍されましたね。サッカー選手を引退し、芸人になられたきっかけを教えてください。

ひでか)宿命というか運ですね。大阪生まれ大阪育ちということもあり、幼い頃から毎日テレビで新喜劇と漫才を観ながら育ちました。
『中川家』さんや『やすとも(海原やすよ ともこ)』さんに憧れ、普通の小学生なら「おもしろい」と笑うところを「どうやったらあそこに立てるんやろ」と考えながら観ていました。

サッカーを辞め、進路について悩み抜き、最後に残ったのがクリエイティブな仕事でした。どれだけ「サッカー下手」とか「ブス」「デブ」と言われてもムカつかないけど「おもんない」って言われるのが一番ムカつくなと。
最後の決め手はそこですね。何を言われて一番燃えるか、勝ちたいと思えるか。それこそが一番自信があるものなのだと思います。

サッカーをしているときは、試合中でも「ここでボール爆発したらどうなるやろ」とか「ここでゴールに湯葉張ってたらどうなるやろ」とかずっと考えていたので、そういう意味ではダメですね。笑

「しゃべる」という武器。誰にも真似できない「唯一無二」の芸人に。

常田)現在ひでかさんは、どのような活動を行っているのですか?

ひでか)『なでしこ盛り上げ隊』『ひでかの授業(セカンドキャリア講義)』をはじめ、サッカー留学のサポートやイベントMC、SNSでの広告活動などをしています。

常田)女子サッカー界に携わろうと思ったきっかけはなんですか?引退後はサッカーから離れようと思わなかったのでしょうか。

ひでか)サッカーから離れようとは思っていましたよ。コテコテの漫才をしたくてお笑いの養成学校に入ったのですが、2人目の相方の子がバレーボールで全国2位という経歴を持っていました。話題性を考えたときにそれは良い武器だと思いましたし、誰にも真似できないことの方がいいなと思いました。
衣装でユニフォームを着たり、ボール持ったりすると、どんな特徴かわかりやすく、説明もいらないですしね。そうした戦略と、あとはノリですね!笑

常田)私のようなサッカー選手からすると、そうした芸人さんには目が行ってしまいますね。

ひでか)私自身、全然サッカーのこと詳しくないし、自信はないんです。
でも、「お笑いと教育を混ぜながら全国をまわる」っていう自分が今やっている活動を誰かに真似されたら多分ムカつくと思うんですよ。ってことはこれが自分がやりたいことなんだなって思うんですよね。
自分の武器は「教えること」とか「サッカーのスキル」とかじゃなくて、やっぱり「喋ること」です。
そうした武器を持っている人は女子サッカー界ではなかなかいないです。しかもこんな関西弁で。
それがほんまありがたいなって思いますし、飽きられるまでやろうかなって思っています。

「ひでかが軸」自分のために何かしないと人のためには何もできない

常田)芸人として、どのような想いを強く持って活動されていますか。

ひでか)私“世界は自分中心で回ってる”と思うぐらいわがままなんです。でも、自分の好きなことをやっていくうちにそれが誰かのためにつながると思っています。
もちろん人のためにというのも大事やと思うんですけど、「まず自分のために何かしないと人のために何もできない」と思うので、まずは自分が楽しむことであったり、自分のしたいことを優先することを大切にしています。
いい意味でまず自分を中心に動かないと、人のためにも動けないと思っているので。

お金が欲しかったり、有名になることを優先しないので、私の行く地域は九州や離島など、サッカーをする子が少ない地域で、そこに行かないとわからん景色ばっかりです。
「お魚食べたいからこの県に行こう」とか、「沖縄旅行したいな、沖縄にはどんな女子サッカーチームがあるんやろ」という感じで。サッカーを軸にせず、「ひでかを軸」にして、自分のしたいこと優先にしながら考えています。

常田)常に楽しめる生き方をされていますね。でもそれが周りの人のためになってると、ひでかさんの活動を見ていて思います。

サッカーを経験してきたからこその強み・お笑いとサッカーの共通点

常田)サッカー選手であったことが、芸人の活動に活きることはありますか?

ひでか)特別感ですかね。この取材のお仕事をいただいてるのも、地方に行けてるのもサッカーのご縁で知り合った人のおかげですし、サッカーしてたからこその出会いがあり、それはありがたいことですね。

あとは、上下関係や礼儀作法の部分ですね。「目を見る」「返事をする」とか、サッカーを通して当たり前にやってきたことが活きていると感じますね。お笑いの養成学校では、全国からさまざまな事情を持った人が来るんですよ。引きこもっていた人、いじめられてた人とか、ITや銀行に勤めてた人が安定を捨てて入ってきたり。その中で挨拶ができない人が多いし、ちょっと怒られてやめる人もいます。そういった部分ではサッカーで培ってきた根性が強みだと感じますね。

常田)お笑いとサッカーで何か共通していると感じる部分などはありますか。

ひでか)お笑いもサッカーもチームスポーツやなって思います。サッカーでいうと誰かがミスしたら別の誰かがカバーリングするみたいに、お笑いも誰か滑っても、まず滑ったと思わせない空気を作る。誰かが一発ギャグしてシーンってなっても横からまた誰かがギャグを入れる、みたいな。ミスをミスと思わせへんのもチームプレー。そういうところは似ているなと感じます。

常田)そういう視点でお笑いを見るのも面白いですね。

ひでか)自分はボケかツッコミかどっち?みたいなんあるじゃないですか。イジリ役かイジられ役かとか。サッカーでいうとポジションに合わせて動くっていうのと同じです。お笑いも「自分はボケやからここは出る場ちゃうな」とか「今はこの人回してくれてるな」とか、団体芸で全員でこけるのもそうですし。「空気を読む」とか「視野を広くする」っていうのは共通している部分だと思います。いつも同じパスが来るわけじゃないから。サッカーでいうボランチじゃないですけど、どんな発言とかアクシデントがきてもうまいことできるように意識しています。

常田)お笑いとサッカーで繋げられる部分、通じる部分が多くあるんですね。
そう考えたら自分はカバーリングしてもらってばかりです。笑

ひでか)その人に合ったキャラとかポジションがあるから、それはそれでいいと思いますよ。笑

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自分の「スキ」を自分で感じること。自分が一番大事だと思っているものを捨てるのも「勇気」。

常田)女子サッカー選手のセカンドキャリアについての自身の考えや、アドバイスを聞かせてください。

ひでか)「進路を迷ったらまず吉本興業に入りなさい。」ということです。笑
冗談ですけど、半分本気です。
芸人イコール何かできないといけないって思う人は多いですが、生き様が芸に代わるし、自分が気にしてるコンプレックスもそれを芸に変えておもしろく、長所になる世界です。

自分の「スキ」をまずは自分で感じることですね。自分の「スキ」に気づくこと。
人間は、絶対に無意識にやってることがあると思います。例えば、お昼寝が好きだ、とか、ゲームが好きだ、とか。
そこから、ゲーム1つとっても、ゲームをするのが好きなのか、ゲームを作ってみたいのか、っていっぱい出てきます。深掘りできてないだけであって、絶対に自分の「スキ」がいっぱいあるから、まずはその自己分析をすることが大事だと思います。サッカーと一緒ですよね。

1日5分でも、そうした時間を作るだけで全然違うと思います。自発的、自主的に選択肢や刺激を増やそうとしないといけません。

常田)自分はもうサッカーだけって思い込んでて、サッカーしかないと思ってました。

ひでか)私自身もまだまだですが、みんな自分のことを知らな過ぎますね。

あとは、一回サッカーから離れることですね。一概には言えないですけど、日本人って「やめる」「離れる」ことをネガティブに捉えるじゃないですか。仕事やめる、サッカーやめるとか。「やめてみな。先行けないよ」と。サッカーしながら好きなこと探そう、じゃなくてまずサッカーから離れる。なかなか行動に移せない人が多いので、「セカンドキャリア」という考え方じゃなくて、「やめてみる」っていうのもありだと思います。
やめたら新しい景色が見つかると思います。

人間って追い込まれないと次の力を発揮できなくて、ほんまに死にかけてやっと助けて!ってなるじゃないですか。そういう感じで、まず一番自分が大事と思ってるものを捨てるのも勇気って私は思うので。悪い意味じゃなくて、捨てることも離れることも、一つの手やと思います。とにかく今の環境から抜け出すこと。
安定はやっぱ不安定やし、不安定な方が私は安定しているような人間なんで。

常田)めっちゃかっこいいです。

ひでか)もう一回言いましょうか。(笑)
安定したら終わりやと思います。満足も大事やけど、お金じゃないんで。吉本はほんまに見たことない景色ですよ。100人の前に立つだけで足がブルブル震えるわけですし。「私みたいな人もいますよ〜バカにしていいですよ〜」みたいな感じで、おもろくしながら、ちょっと誰かの選択肢になればいいな、という想いで今後も活動していきたいと思います。

常田)新しい考え方が沢山発見でき、とても勉強になりました。多くの女子サッカー選手に触れて欲しいなと思います。貴重なお話ありがとうございました。

【現役なでしこリーガーが聞く!女性アスリートと社会課題 #2】競技でも一流、社会でも一流な「プレイングワーカー」とは?女性アスリートに特化した社会的課題に目を向け、アスリート自身が抱えている悩みや、女性アスリートならではの課題に目を向けて、課題解決につながるヒントを見つけるこの連載。 今回のテーマは、「女性アスリートの社会的価値、地域へのクラブの在り方」。 現在、関東女子サッカーリーグに所属するFCふじざくら山梨(以下、FCふじざくら)は、女子サッカーチームの中でも地域貢献活動や、選手主体での競技以外の活動を積極的に行っているチームです。今回はFCふじざくらGMの五十嵐雅彦さん(以下、五十嵐)にお話を伺いました。五十嵐さんは10年ほどトップアスリートのマネジメントに関わられていました。そこで気がついたアスリートの社会的価値に対する課題をFCふじざくらのチームづくりを通し、女子サッカーの発展に繋げられています。...
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