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【対談・北澤豪×セルバンク】スポーツを活用してお互いを理解し合える社会へ

北澤豪さん

これまで日本サッカー界を長らく牽引してこられた北澤豪さん(以下、北澤)と、日本の再生医療のリーディングカンパニーである株式会社セルバンク代表取締役であり、医師でもある北條元治さん(以下、北條)の対談が実現しました。

現役選手としても日本代表歴も多くあり、引退後はサッカー解説者としても有名な北澤豪さん。その傍ら、現役時代から障がい者サッカーの活動にも関わり、現在は一般社団法人日本障がい者サッカー連盟会長を務め、社会貢献活動にも積極的に取り組み、サッカーを通じてより良い社会の実現を目指されています。

再生医療のリーディングカンパニーの代表として、そして同世代のサッカーファンとして北澤豪さんを見てきた北條さんの視点から、そのような活動の背景に込められた想いやサッカーを通じた社会改革の可能性などをお話いただきました。

北澤豪×北條元治株式会社セルバンク代表取締役 北條元治さん(写真左)、北澤豪さん(写真右)
jiff
「なぜ障がいがあるだけでサッカー環境が違うのか?」~誰でも、いつでも、どこでもを目指して~『サッカーから共生社会の実現を』をメッセージに掲げる日本障がい者サッカー連盟(JIFF)は、7つの競技(アンプティサッカー(切断障がい)、CPサッカー(脳性麻痺)、ソーシャルフットボール(精神障がい)、知的障がい者サッカー/フットサル(知的障がい)、電動車椅子サッカー(重度障がい等)、ブラインドサッカー/ロービジョンフットサル(視覚障がい)、ろう者サッカー/フットサル(聴覚障がい))をまとめる団体として2016年に設立されました。元日本代表の北澤豪さんを会長として精力的に活動し、東京パラリンピックではブラインドサッカー(5人制サッカー)の活躍が話題になりました。...

北澤豪のターニングポイント~サッカーとの出会いからJリーグ発足~

ーー私たちも現役時代からのご活躍拝見しておりますが、北澤さんはそもそもどんなお子さまだったのですか?

北澤)一言で表すと、“やんちゃな子”でしたね(笑)。僕が子どもの頃は野球が盛んな時代だったので、最初は野球をしていました。しかし、落ち着きのない性格の子どもだったため、ポジションにとどまっていなければいけない野球ではなく、自由に動けるサッカーがいいのではないか?と父親にすすめられてサッカーを始めました。あとは、出身が全国的にもサッカーが強い東京都町田市であり、サッカーに移行しやすい環境だったことも大きかったですね。

北條)サッカーというと町田・静岡というイメージでしたが、当時は全国的にはやはり野球の時代でしたよね。
私の中で北澤さんのエピソードで強く印象に残っているのは、1993年にJリーグが発足する前の1991年に当時強かった読売クラブ(その後ヴェルディ川崎)に移籍し、「一番競争が激しいヴェルディにわざわざ行った」ということをテレビでおっしゃっていたことです。

北澤)僕自身、ヴェルディは「最強のクラブ」だと思っていました。企業の福利厚生の一環ではなく、プロフェッショナルな組織としてチーム作りをしていて、そういう環境で勝負したい想いが強く、チャレンジしましたね。

北條)そこから日本代表でも活躍されましたが、1993年のドーハの悲劇はドラマのような幕切れでしたね。

北澤)そうですね。試合終了間際の失点でワールドカップの切符を逃す結果となりました。そのときのラモス瑠偉さんたちの悔しがる姿を見て、初めて「先輩たちの為にも戦わなければいけない」という想いが芽生えました。過去の代表選手がいなければ、自分たちもいなかったのだと。

ワールドカップに行けなかったことによって、プレーヤーではない周囲の人たちが一層サポートを強めてくれた感覚がありました。
負けたことにより、「プレーできないけど、日本がワールドカップにいく為に何か協力するよ!」という方々が増えたこともJリーグ初期の発展に繋がったと思います。

北條)当時の日本では、プロスポーツは野球しかなかったですよね。Jリーグの関係者の皆さんの努力・プロモーションによって、ここまで成功したリーグを作り上げたプロセスがすごいなと思います。

北澤)Jリーグは「地域密着」の理念を掲げて、地域のために何ができるかという視点を大切にしてきました。
Jクラブというツールを使って地元の皆さんをひとつにして、何か得られたものがあればフィードバックをしていく。このような循環型の仕組みが重要かと思います。
グラウンドを整備したりすることで地域が選手を育て、選手は地域に貢献・還元していく循環こそが、企業スポーツから地域密着のスポーツに移り変わってきた理由なのではないかと思います。

シャレン
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スポーツの力で障がいを理解する

ーー北澤さんは現役中から、ブラインドサッカー日本代表へのサポートや、障がい者サッカーに深く関わっていらっしゃいますよね。そうした活動の中心にある想いとはなんでしょうか。

北澤)サッカーをはじめとしたスポーツが、“誰もが”とならないといけないと思っています。プレーできる人や楽しめる人を限定しているようなスポーツでは、応援してもらえないし、同じように喜びあえるものにはならない。
みんなで喜びを感じ合えるようになるには、“誰もが”という点を意識しなければならないと強く思っています。

北條)多方面で団結していく為には全員等しく考えられる社会でないといけないと思う一方で、実際に障がいのある方を含めて多様な方々を巻き込んでいくのは難しいことであるとも感じています。

北澤)たしかにそうですね。ですが、スポーツはユニバーサルデザインが描きやすいものだと感じています。障がいを持った方を含めて、スポーツを通した交流によって、お互いを理解しやすくなり、ビジネスの場面でも活きてくると思っています。

教育の面でも同様で、子どもたちが障がいを持った方との接点がない中で「理解しなさい」というのは難しいことです。しかしスポーツを通して、頭で考えるよりも一緒に身体を動かし、「こういうことができないのか。だったらこういう協力をしてあげよう」と察しやすくなるのではないかと思います。
こういった教育をスポーツを通して子どもたちにも教えていくことで、企業人になったときでも多様な視点での発想も持てると思うんです。

北條)社会で働いている環境の中で、障がいのあるなしに関わらずお互いを認め合うというのは難しいと思いますよね。小さい年代の頃からそうした経験があると、認め合える素地は大きくなるかなと思います。

北澤)僕はサッカーの場面で障がいを持った方とご一緒することが多いのですが、障がいがあることを忘れてますもんね。最初は障がいのことを気にしながらお付き合いしていたけど、今はまったく気を使うことなく、お互いが同じ時間を共有できている感覚です。
子どもたちにも障がいを持った方との接点を増やしてあげることによって、そういった感覚になれると思います。
これから少子高齢化社会を迎える日本にとっては、“誰もが”使えるインフラ整備や社会制度にしていかなければいけない。その際にスポーツを活用し、お互いへの理解を増やした方が次世代のユニバーサルデザイン化は進むのではないでしょうか。

北澤豪さん

『誰もが』スポーツに関わり続けられる社会

ーー障がい者サッカーに関わる中で、印象に残ることなどはありますか?

北澤)海外に行くと障がいというもの関係なく、一緒にスポーツなどをしているシーンが多かったりするんですよ。日本はスポーツに対する価値観が限定的で、運動能力の高い人がスポーツをする傾向にあります。しかし、海外はそうではなく、“誰もが”スポーツと密接に繋がっていることを感じました。

現役時代に、膝の前十字靭帯を切ってリハビリでオーストラリアに行った際、プールに行ったら、車いすの方がプールに入ってきたんです。僕は車いすの人もプール入るんだなと思って見ていたら、まわりの方から「ボーっと見てないで手伝え!」と言われたんですよ。海外ではそういった人たちがいれば手伝うのが当たり前なんですよね。日本とは違う感覚が世界にはあるのだと感じました。

ーーそれは私たちにとっても新鮮に感じるエピソードですね。“誰もが”関われるようにするために必要なことは何でしょうか?

北澤)日本のスポーツにおける育成システムはピラミッド型であることが多いです。底辺の人口が一番多く、上り詰めていくほど人口が少なくなるので、ピラミッドから溢れてしまう人が生じてしまいます。
そこには、実力だけでなく、事故で足を失くしてしまったり、病気で下半身が動かなくなったりする人もいます。だけど、そういう人たちにもサッカーやスポーツができる場を提供していかなければいけないと思っているんです。

北條)そういった誰一人取り残さない組織の方が絶対強いですよね。強い組織から強いチームが生まれてくるのだと思います。

北澤)そうした形で育成ピラミッドから溢れたとしても、場を提供してあげることによってそのスポーツに巻き込むことができた人は、プレーヤーでなくてもサポーターとしてスポーツを応援し続けることができたり、スポーツ産業の広がりに貢献してくれますよね。

北條)なるほど。人って本能的にスポーツをしたり、見たりすることが好きなのではないかと私は思います。そのスポーツを通じて、社会がひとつになっていけばいいですね。

北澤)社会制度はなかなかすぐには変えられない中で、スポーツの中で人々の共感を広げていく事によって、社会の改革にも繋がると思います。なかでもサッカーは、世界でも多くの方がプレーしていますし、やりやすいスポーツではないかと感じています。

北條)ボールひとつでできるところもサッカーのよいところですよね。

北澤)そうですね。Jリーグも発足から30年が経過し、日本スポーツ界のリーダーシップを取ってきた立場として、今後も他の競技団体などに、「次のフェーズはこうしたほうがいいのではないか。」と提案をしていかなければいけないと思います。
Jリーグが率先して社会に対して、ターニングポイントを作るきっかけとなる提案をしていく必要があると思っています。

歴史上初めての代表ユニフォームの統一

ーーサッカー界のターニングポイントとして、東京オリンピック・パラリンピックで行われた“ユニフォームの統一”というのは大きかったのではないですか?

北澤)そうですね。2020年東京オリンピック・パラリンピックでは、男子チーム、女子チーム、5人制サッカー(ブラインドサッカー)の3チームが出場したのですが、ユニフォームのデザインが全チーム同じものになりました。今までは別々のデザインの物を着用していたので、この試みはすごく歴史的なことでしたね。
ユニフォームが統一されたことによって、サポーターが同じものを着て応援をすることができるようになります。男子チームを応援していた方が、同じユニフォームを着て5人制サッカーを応援できたりすることで、「日本」がひとつになれる取り組みだったと思います。残念ながら実際の大会は無観客での開催となりましたが、これからもこうしたことを積み重ねていきたいですね。

ーー本日はありがとうございました!

日本代表ユニフォーム

本日の対談相手

株式会社セルバンク代表取締役

北條元治さん

北條元治さん

株式会社セルバンクでは、日本の再生医療のリーディングカンパニーとして、人間のカラダを構成する細胞、皮膚の細胞、脂肪由来幹細胞、心筋・血液・子宮内膜等、多くの細胞を扱っています。
肌、乳房再建、ひざの治療などでその技術はすでに活用されており、「再生医療を一人でも多くの方に知ってほしい」そして、「セルバンクの技術を再生医療を必要としている人に役立てたい」という想いで、多くの医療機関やクリニックに提供されています。

※3分でわかるセルバンクのこと:https://cellbank.co.jp/about/3minutes/

※北條元治「肌の再生医療」チャンネル:https://www.youtube.com/@cellbank-TV

 

 

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