特集

“ジョブレス”が深刻化するアフリカでの挑戦~ケニアのランナーたちが目指すもの~

サラヤ×川崎友輝

ケニアに活動拠点を置くランナー川崎友輝さん(以下、川崎)。
Dark Horseというランナークラブをケニアの首都ナイロビから遠く離れたイテンで立ち上げてから2年、自身の選手活動と並行して現地の選手たちとその環境改善や能力向上に取り組んできました。

川崎友輝さん
ケニアを豊かにする〜プロランナー・川崎友輝の挑戦〜お正月の風物詩である駅伝。学生の大会や実業団の大会では、外国人選手の起用が増え、2022年元旦のニューイヤー駅伝では、37チーム中31チームが外国人選手を起用し、その多くがアフリカ出身選手でした。なかでもケニアは、その能力の高さから日本に来る選手も数多くいます。プロランナーの川崎友輝さん(以下、川崎)は、ケニアを拠点としたトレーニングを重ねるうちに、ケニアにおけるその問題点を知り、『Dark Horse』プロジェクトを立ち上げました。オリンピックを目指すランナーでもある彼が、なぜそうした活動に取り組むのか。その率直な想いを伺いました。...

一方、Sports for Socialのトップパートナーであるサラヤ株式会社。ウガンダでの『100万人の手洗いプロジェクト』から始まったアフリカでの活動は、現地での雇用と独立を目指したビジネスとしても順調に成長し、アフリカ社会になくてはならないものになっています。

サラヤに聞いた!ウガンダで行う「100万人の手洗いプロジェクト」のお話-vol11-サラヤの創業の原点でもある「手洗い」のプロジェクトについて紹介します。今回はサラヤの創業と、アフリカ・ウガンダで行われている「100万人の手洗いプロジェクト」のお話です。...

それぞれの視点、立場から改めてアフリカ、そしてケニアの現状を知るため、川崎さんとサラヤ株式会社広報部廣岡竜也さん(以下、廣岡)の対談を実施しました。

ジョブレスが深刻化するケニア

ーーまず最初に、川崎さんの活動について教えていただけますか?

川崎)僕はランナーとして活動しており、「世界で一番マラソンが強いケニアで自分がどこまで強くなれるか」に挑戦したくてケニアに来ました。彼らはどんな生活をしてるんだろう、なぜ速いんだろうと。
しかし、そこで見たのは、トップレベルではない選手たちの環境の劣悪さです。日本の戦後のような、ろくに食べることもできずに走る、なおかつ家族も養わないといけない選手が多くいました。

ケニアという国自体、ジョブレス(仕事不足)が深刻化しており、大学を卒業してもすぐに就職できない人が多くいます。高卒のランナーが引退後にすぐ働くことはほぼ無理です。
こうした問題は外部から変えないといけないと思い、2021年9月に現地でケニア人ランナーの支援をするクラブチーム・Dark Horseを立ち上げました。現在は、自身の選手としての活動をメインで行いながら、所属選手の引退後のキャリアという点にもフォーカスを当てながら活動しています。

ーーサラヤさんもアフリカで精力的に活動されていますよね。

廣岡)サラヤのアフリカでの活動は、2010年に「サラヤ創立60周年の記念事業」として始まりました。

サラヤ
あなたの身近にも!?サラヤってどんな会社?Sports for Socialのトップパートナーであるサラヤ株式会社(以下、サラヤ)。ボルネオやウガンダなどでの社会貢献活動に注目されがちですが、「そもそも商品自体が社会貢献になっている」ということもサラヤの特徴です。 今回は、コミュニケーション本部広報宣伝部の廣岡竜也さん(以下、廣岡)、秋吉道太さん(以下、秋吉)にお話を伺いました。...

サラヤは、1952年、戦後日本で薬用石鹼液を初めて作り、学校などに広めた会社です。トイレにあった「緑の石鹸液」というと思い出していただける方もいるかと思います。現在では世界各国でも衛生事業を展開しているのですが、2008年、ユニセフによって始まった「世界手洗いの日」の活動に参加したことをきっかけに、手を洗わないだけで失われていく命が世界にはまだ多くあるということを改めて認識しました。
アフリカは、設備が十分でないだけでなく、手洗いの教育すら普及していない。そうした環境下で戦後日本のときのように、アフリカに手洗いの文化を広げていくことによって、小さな子どもたちの命を救いたい。そうした想いで『100万人手洗いプロジェクト』がスタートしました。

そこで大切にしたのが、アフリカでの手洗いの普及を持続可能な活動にすることです。単なる寄付ではなく、このアフリカとの縁をきっかけにビジネスを起こし、現地の人々が施しではなく、機会を得て自立する手伝いが出来ればと考えました。現在ではウガンダの衛生ビジネスが黒字化し、ケニアにも現地法人をつくるなどビジネスを拡大しているところです。

「手洗いをする意識」と経済との関係性とは?

ーー川崎さんから見て、ケニアでの手洗いの文化や衛生への意識はどのように感じられていますか?

川崎)首都であるナイロビの富裕層では、手洗いはする認識や習慣がありますが、僕の住むイテンでは“石鹸を使う”という意識はないですね。レストランなどにも石鹸が置いていることも少なく、「洗わないとたくさんの菌が残る」という知識もまったくないと思います。

僕のケニアでの友人が、当時25歳でインフルエンザで亡くなったこともありました。手洗いをちゃんとすればもしかしたら、と思うと悲しいですね。ナイロビでもスラム街の子たちは手が真っ黒な子も多いです。意識がある人とない人の差が激しく、意識がない人からすると「手を洗うことにお金を使うぐらいだったら、違うところにお金使いたいよ」という意識なので、衛生面でいうとすごく差が出ていると思います。

ーーこうした現状から、なかなかすべての人に手洗いの大切さを落とし込んでいくことの難しさを感じますね。

廣岡)ケニアはアフリカの中でも経済的に進んでいる国です。しかし、そこには激しい経済格差があるのも事実です。
私たちがケニアで取り組んでいるのは、急速冷凍装置を使ったレストランの運営です。急速冷凍することで、フードロスとタイムロスを減らすことが出来、現地での収入減となる要因を減らすことを提案しています。正しく衛生的に処理すれば生魚も食べられますが、寿司を知っている富裕層は喜ぶものの、一般の人にとっては「生魚はこわいもの」という認識があります。つまり、まずは富裕層から、ビジネス的に取り組んでもらえれば、その過程において社会全体の底上げに繋がっていく可能性があると考えています。

ーー衛生面での改善は、同時に経済面での改善がないと難しいとも言えますね。

廣岡)そうですね。「手を洗ったら病気にならない」ということがわかると人々の手を洗う機会は増えてきます。ですが、川崎さんがおっしゃられたように、手洗いよりも優先することがあると考えている経済的に貧しい人たちに対して伝えていくことはすごく大変なことです。
ウガンダにおいては、内戦からの復興において政府としてかなり衛生教育に力を入れたい意向がありました。そうした協力がないと、経済格差がある国に広がることはなかなか難しいですね。

高橋秀人
【アスリート対談・高橋秀人】ウイルスとどう付き合うか?変わった意識・変わらない想い2020年以降、新型コロナウイルスに多大なる影響を受けたスポーツ界。無観客で行われた東京オリンピック・パラリンピックを経て、2022年には一部で有観客試合の開催、声を出しての応援などが戻ってきました。 新型コロナウイルスの時代を通して、私たちのウイルス対策への関心も高まり、いかに自分の身を守るかも考えるようになってきました。 今回は、コロナ禍の中、日本プロサッカー選手会で会長も務めた高橋秀人さん(以下、高橋)とサラヤ株式会社廣岡竜也さん(以下、廣岡)との対談を通し、ウイルスへの対処方法を今一度考えてみたいと思います。...

「規律を守る」ことで家族も守れる

ーーDark Horseでは、どのように選手の引退後のキャリアにアプローチしているのでしょうか?

川崎)設立当初、Dark Horseは3人の選手とともに始めました。当時は僕の自己資金でやっていましたが、現在はスポンサーを募りながら取り組んでいます。

とくに現地の企業や、日本企業で現地法人のあるスポンサー企業とも話しているのが、引退したあとの選手たちを雇ってもらえないかということです。
ケニア人は、規律を守ったりすることが苦手ですが、そこをDark Horseでしっかりと鍛えることで、企業の工場などに雇っていただけるようになります。ジョブレスな上に家族も養わなければならない難しい状況のケニアで、基礎的なスキルを身につけることの大事さを感じています。

ーーケニアにおけるジョブレスの問題も、人材を育て、企業が雇いやすいようにしてあげることが改善にも繋がるのですね。

川崎)そうですね。こちらに来て感じるのは、工場や店員など、まだまだ田舎の人も雇ってもらえる職業があるということです。
僕が暮らすイテンでは、まだまだそうした仕事があることすら知られていないです。僕自身も日本の田舎出身だったのですが、都会のことはほとんど知らずに育ちましたので。(笑)

ーーなるほど。規律を守るようにするには何を意識されていますか?

川崎)まず、そうした規律を守らないといけない文化をしっかりと伝えています。団体の代表である僕が選手の必要物資を購入するのですが、「この時間にここに来る」ということが守れなければその日は買いません。「時間を守らないと、ユウキは何もしてくれないんだ」ということを選手たちにわかってもらい、引退後の企業においても同じであることを伝えていければと思っています。

ーー選手たちができるようになるまではストレスも多くかかりますよね。

川崎)学校の先生のような気分ですね。(笑)

「陸上をやってきたからこそいまの人生がある」

ーーこうして育った選手たちがビジネス界でも活躍することが理想ですね。

廣岡)本当ですね。Dark Horseを引退した選手たちがビジネスの世界に行き、そこからさらに現役の選手たちに還元されるような循環ができあがると嬉しいですよね。

川崎)おっしゃる通りですね。オリンピックで優勝するなど、本当の意味でのトップランナーになれば将来は安泰ですが、それはなかなか難しいことです。スポーツメーカーなどのスポンサーも、活躍できなくなった途端に契約が切られてしまうことも多くあります。
「陸上競技をやってきたからいまの人生がある」「Dark Horseで陸上に一生懸命打ち込んだからこそ、こういう仕事ができている」と、選手にも家族にも自信を持ってもらいたいです。

なので、Dark Horseでは選手としての契約を切った選手でも、マッサージや選手の生活管理などで雇い、仕事に必要なスキルを身につけることも考えています。

ーー素晴らしいですね。陸上をやる意味が“オリンピック”だけでなく、陸上を一生懸命することがいい大人になることにつながるとなると、子どもたちにとっての希望になりますね。

Dark Horse×サラヤ~これからのアフリカをつくる~

ーー今後、川崎さんそしてDark Horseが目指すものを教えてください。

川崎)まずは、引退した選手がちゃんと生活できるという実績を作りたいです。現地の企業や、日系企業でしっかりと雇ってもらえる選手を育てることが直近の目標です。

ケニアの選手が競技を続けている理由に、「引退しても働く場所がない」側面もあります。陸上をリタイアしたら、セカンドキャリアとして働く形があるということを示したいですね。

ーーサラヤの今後のアフリカでの活動はいかがでしょうか?

廣岡)そうですね。サラヤのアフリカでのビジネスは、ウガンダから始まり、いまケニアでも取り組んでいます。アフリカのビジネスはすごく難しい分、可能性があると思っています。社会貢献の観点をきっかけに、持続可能な“ビジネス”をアフリカに広げ、現地の雇用や社会問題の改善につながることに貢献していきたいですし、その範囲を広げていきたいですね。

ーーありがとうございました!

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