スポーツ

ケニアを豊かにする〜プロランナー・川崎友輝の挑戦〜

川崎友輝さん

お正月の風物詩である駅伝。学生の大会や実業団の大会では、外国人選手の起用が増え、2022年元旦のニューイヤー駅伝では、37チーム中31チームが外国人選手を起用し、その多くがアフリカ出身選手でした。

なかでもケニアは、その能力の高さから日本に来る選手も数多くいます。しかし、そのチャンスを掴めるのは国内でもほんのひと握りであることも現状です。

そうした現地での問題を解決しようと動く1人の日本人選手がいます。
プロランナーの川崎友輝さん(以下、川崎)は、競技力向上のためケニアを拠点としたトレーニングを重ねるうちに、ケニアにおけるその問題点を知り、『Dark Horse』プロジェクトを立ち上げました。現在は生活拠点もケニアに移し、本格的にその問題解決に取り組んでいます。
オリンピックを目指すランナーでもある彼が、なぜそうした活動に取り組むのか。その率直な想いを伺いました。

川崎友輝さん

川崎友輝さんプロフィール

1992年生まれ、滋賀県出身のプロランナー。青山学院大学を卒業後、実業団に所属して陸上を続け、2018年11月にプロランナー(NDソフト所属)に。大学の後輩である神野大地さんに誘われてケニアでのトレーニングをはじめ、現在にいたる。

「レースに出たことがないからタイムはわからない」

ーー川崎さんの行うDark Horseの活動についてお伺いします。ケニア人選手のキャリアをトータルサポートするランニングチームとのことですが、まずこの立ち上げにはどのような背景があるのですか?

川崎)ケニアの物価は日本の10分の1です。加えて、国内で仕事が多くあるわけでもないので、お金がないからチャンスがない、という人が非常に多いです。
日本では、参加費を払えば走れる大会が多いですが、ケニアだとその参加費すら支払えない、という選手も多いです。5,6年練習している選手にベストタイムを聞くと、「レースに出たことがないからわからない」という答えが返ってくることもあります。

ーーそもそもスタートラインにも立てていない選手もいるということなんですね。

川崎)その通りです。あとは、大会でも距離がしっかり測れていないこともあります。僕が以前参加したものは10キロの大会が9.2キロしかなかったです。そうすると、せっかく出場できた大会でも、オフィシャルな記録としては認められない。
ランナーのうち数%しか記録を持たない、ある意味平等ではない状況なので、平等にできるような機会創出をしたいという思いをまずは持ちました。

ーーケニアの中でも戦える環境を作りたいということですね。

川崎)そうですね。あとは、日本の人に対して、ケニアのイメージを変えたいとも思っています。まだ危ない国だと思っている人も多いので。

ーーはい、私もそのイメージは少なからず持っています。

川崎)首都ナイロビにはスラム街もありますが、それ以外は安全で、なにより人が本当に温かいです。
先ほども言った通り、ケニアにはお金のない人が多い。自分も含め、日本人だったらこれだけお金がない状態で、ここまで人に温かくできる心の余裕があるかな、と考えることもあります。
そのほかのケニア国内での問題も含め、日本でももっと知ってもらいたいという目的も持って『Dark Horse』という団体を設立しました。

Dark Horse

ビーズブレスレットから始まる、『働く』練習

ーー具体的にはどのような活動をされているんですか?

川崎)まず一つ目は、競技面のサポートとして数名を選抜して、練習、住環境、食事も含めてサポートしています。いわゆる部活動の寮のようなイメージです。現在は男子選手6名、1月には女子選手が3名入ってきて9名になります。

もう一つは引退後のキャリア支援です。ケニアでは、仕事に就けない人が非常に多く、大学を卒業した人でも何年かは仕事に就けないことがあるほどです。僕が活動するイテンという街など、田舎になればなるほど仕事は少なく、特に競技しかやってこなかったランナーができる仕事は本当に少ないのが実情です。そういう人たちは、生活するために親や資金力のある友人から借金などの形で支援をしてもらうことになります。そうなると負の連鎖で、その子ども、孫も支援なしでは生きられないことになることが多いです。

ーーなるほど。それはどこかで断ち切らなければならないですね。

川崎)Dark Horseでは、まずスタート段階として働く癖をつけるために、1日2時間働こう、ということを実施しています。ケニアで流行っているビーズブレスレットを製作しています。

ビーズブレスレット

川崎)ケニア人ランナーはほとんどビーズブレスレットを着けているので、「これを着けている人は速い」というイメージもあり日本でも少しずつ普及してきています。以前日本で行ったクラウドファンディングでは、1万円という値段をつけながらも約50人が注文してくださいました。こうした販売から、最終的に働いてくれた選手たちに給料も支払いつつ、スモールではありますがビジネスの形を少しずつ作っているところです。

ーー選手たちにとっても、よい『働く練習』になっていますね。自分が頑張って作ったもの、そこで少なくてもお金をもらえるという喜びは選手たちにとっても大きなものになりますね。

darkhorse初期メンバーDark Horse 初期メンバーの3人

 

ケニアから見る日本

ーーケニアの人たちにとって、日本に行く、留学するということにはどういう意味を持つのでしょうか?

川崎)「日本に行きたい!」というのは憧れで、ランナーに限らず皆が言います。日本車が多くケニアでも走っていますし、技術が進んでいる、安全、いい国という意識があるのもそうですし、実際に日本に行くケニア人ランナーの影響もありますね。

ーー日本で有名になった選手や、大会で優勝して賞金をもらった選手などがケニアに戻ったときに破産してしまうという話も聞きますが、それはどういうことなのでしょうか?

川崎)借金など『誰かに頼って生きる』ことが普通になっているケニア人も多くいるのは先ほど言った通りです。とくに実業団にいる選手は、給料のほとんどをケニアの家族に仕送りすることも多く、自分の家族だけでなく親戚や友人家族の面倒もみようとします。選手を終えてケニアに戻ったときに、稼ぎ方や資産の運用方法がわからないと、結果的に貯金が底をついて、支援してもらう側に回ってしまうことがあるのです。

ーーなるほど。そうした『生きる術』を知らないが故の問題も多く起きているのですね。

「川崎くんにしかできないこと」を

ーー川崎さんご自身、プロランナーとして活動されたご自身のお金をイテンの人たちのために使っているわけですが、ここまでご自身で取り組もうと思ったきっかけは何なのでしょうか?

川崎)僕自身、いろんな人に支えてここまでやってこれました。ケニアに誘ってくれた大学の後輩の神野大地くんもそうですし、昨年はオリンピック前に大迫傑さんとも半年ほどずっと一緒に活動し、いろいろなことを学ばせていただきました。
こうしたことを、僕が好きなケニアの選手たちに還元したいという想いがまずはあります。日本で選手をしているときも、もちろん充実はしていたのですが、競技以外のところで生きがいを作りたいと思っていました。今はケニアで選手たちを支援しながら一緒に生活し、練習することが一つの生きがいになっています。彼らと楽しんだり、多少怒ったりもありますが(笑)、一緒に新しいことを作っていくのがすごく楽しいです。

ーー素晴らしいですね。引退後ではなく、ご自身が選手として高みを目指す中でこの『Dark Horse』の活動を始められたのはどういう想いがあったのですか?

川崎)引退してからよりも、現役選手として話す方が、世の中にも、スポンサーを探すときの企業さんにも言葉が響くのではないか、と思っています。自分が現役で頑張っているうちにこの話を皆さんにする中で、「川崎くんにしかできないことだよね」とおっしゃってくださる方もいて、そうしたことはすごくうれしいです。

Dark Horse

イテンの街を豊かにしたい

ーー川崎さんがケニアを好きになったのには、どんな理由があるんですか?

川崎)やっぱり『人』ですね。ケニアの人が単純に好きですね。時間を守らなかったり平気で嘘ついたり、良くないところもいっぱいあるんすけど(笑)。

ーー今後はこの『Dark Horse』の活動をどのように広げたいと考えますか?

川崎)選手の支援としては、多くて30名まで広げたい考えています。しっかりと競技力の向上、選抜チームとしての体裁を保ちながら、日本の学校や実業団に選手を送り込んだり、大会で結果を出す選手を育てたいと思っています。

キャリアの支援については、5年以内に200人のケニア人を雇うビジネスを作ることを目標にしています。ビーズブレスレットだけでなく、日本の企業さんと協力をしながらケニアの社会問題を解決するようなことをこのDark Horseでできればいいなと思っています。

本当に、自分がいるこのイテンの街が豊かになって、仕事があって、生活に困らなくなるような形を将来は作りたいです。何十年もかかるかもしれないし、僕だけではできないかもしれませんが、そこを目指した第一歩として頑張っていきたいです。

ーーありがとうございます!ケニアの社会問題、についても私自身知らないことも非常に多く勉強になりました。まだまだいろいろな問題も、是非一緒にお話しできたらうれしいです!川崎さんの選手としての活躍も応援しています!!

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