スポーツ

「ゴールした人全員が主役〜トライアスロンのオリンピアンが考えるこれからの社会貢献〜」

泳ぐ(スイム)、自転車を漕ぐ(バイク)、走る(ラン)。そんな3つの要素を持つトライアスロンについて、皆さんはどれくらいご存知でしょうか。
東京オリンピックを通して関心を持たれた方も多いこの競技。そのハードな競技には、誰もが楽しめるための工夫や、3つの要素が合わさるからこその魅力があると言います。

今回は、オリンピック出場経験を持つ加藤友里恵さんにトライアロンの魅力や競技特有の想いについてお話を伺いました。また、現役を引退された加藤さんが考える社会貢献活動についての想いもお話しいただきました。

加藤さん

それぞれの目的に合わせた楽しみ方ができる競技

ーートライアスロンという競技について教えてください。

加藤)種目は3つあり、スイム、バイク、ランという3種目から構成されています。オリンピック種目になったのは2000年のシドニーオリンピックからです。ですので、まだ今回の東京で6大会目です。オリンピック種目になる前の1970年代にアメリカで普及し始め、日本にもトライアスロンという競技が入ってきました。

トライアスロンをやっている人が最終的に目指すとされている「アイアンマン」という競技が、トライアスロンの最初です。その競技は、スイム3.8km、バイク180km、そしてフルマラソンをします。これだけ聞くと非常にハードな競技に思えますが、実はトライアスロンという競技の中でも、それぞれの距離が違います。アイアンマンは長い距離を競いますが、オリンピックディスタンスやスプリントなどさまざまな距離があります。以前までは、趣味や環境を楽しむために自分で競技に参加する人口が多かったのですが、現在は選手が競っているのを『見て楽しむ』人口も増えてきたため、スーパースプリント(※)という短い距離を競うものなどもできました。オリンピック正式種目としてはまだ6大会目という発展途中にいるスポーツです。

※スイム0.4km+バイク10km+ラン2.5kmの合計12.9km(大会により距離は異なる)

ーーありがとうございます。トライアスロンといっても、さまざまな距離があるんですね。

加藤)はい。カテゴリも違っていて、年代別やオリンピックを目指す選手が出場する大会などさまざまあります。カテゴリとか大会とか距離も異なっています。

ーーそれぞれの身体の調子や体力に合わせてレースに参加できるので、楽しみ方を選べるということなんですね。

完走した人全員が主役になれる競技

ーー加藤さんご自身はもともとトライアスロンをされていたのですか。

加藤)私は、中学校1年生までは競泳をやっていました。その後、社会人実業団で走りました。トライアスロンデビューしたのは24歳の時なので、比較的遅いと思います。

ーー水泳から陸上に転向されたんですね。それぞれの競技を経て感じる「トライアスロン」の魅力について教えてください。

加藤)魅力は3つあります。1つめは、選手目線での身体的なメリットです。3種目それぞれ使う身体が違うところです。基本的には持久系スポーツなのでスタミナは必須ですが、水泳だったら上半身、自転車だったら上半身も下半身も体幹も使うし、陸上は自重で身体を支えて走らなければいけない。それぞれ使う筋肉が違うので、トライアスロンをすることで健康的な体作りをすることができることかなと思います。

2つめは、メンタル的な面でのメリットです。アップテンポな感じで「完走した人が全員主役になれるような競技」ですので、お互いを讃え合うメンタリティを持つことができます。もちろん競わなければならないのですが、フィニッシュした後に選手同士で讃え合うなどの光景もよく目にします。

3つめは、計画的に物事を進められるようになることです。3種目あるのでそれぞれのライフスタイルに合わせて練習をしなければいけないため、タイムマネジメントが得意になることもメリットだと思います。そして目標の大会で完走することで達成感も得られるので、選手としてトライアスロンをする人だけでなく一般の趣味としてトライアスロンをする人にもさまざまなメリットがあるかなと思います。

ーーありがとうございます。「完走した人が全員主役」という言葉を伺って、オリンピックのフィニッシュ後に選手同士がハグしたり称え合ったりしていた姿を思い出しました。感動的でしたし、お互いを尊重しあう精神の強さなどを垣間見た気がしました。

加藤)オリンピックなどでは、スイムからバイクの間に集団で協力し合いながらレースを展開することもあります。そうした中で意思疎通を取りながらレースを進めていくので、最後はみんなで頑張ったねって讃え合うことがあります。

ーー紳士的な競技ですね。初心者が飛び込んでも受け入れてもらえそうな、あたたかみのある競技であるように感じます。

加藤)そうですね。初心者にとても優しい競技だと思います。競技を進行する上の審判やスタッフはボランティアの方がいて成り立つ競技なのですが、トライアスロンを趣味でやっている人がボランティアとして関わっていたり、トライアスロンに関わりたいからボランティアをされている方も多いので、親心のような感じで初心者の方を見守っていると思います。出場している人だけでなく審判やスタッフも一体となって大会が運営されています。

ーー愛に溢れた競技で、ますます魅力的に感じます。過酷な競技だからこそ、ピリピリとした空気があるのかと思いましたが、そうではないんですね。

加藤)全くありません!とてもアットホームな感じです。ルールには従わなくてはいけませんが、陽気な人が多いように感じます。

レースができるだけでありがたい

ーーさまざまな場所で大会に出られてきたと思うのですが、印象に残っている大会や地域とかありますか。

加藤)やはり、おもてなしの文化がある日本が良いなと感じます。海外の選手からも、日本の大会はとても人気です。日本の独特の文化である、人が優しく食べ物が美味しく、そして建物が古風であることが人気のポイントの一つだと思います。もちろん、私にとってはヨーロッパ系の地域での大会も思い出深いですが。

ーーそうなんですね。日本にいるとなかなか気づくことのできない魅力が、本当はたくさんあるんですね。

加藤)そうだと思います。海外の大会で印象に残っているのは、ドイツのハンブルグの街並みは素敵だったことです。欧州風の建物を感じながらレースをすることができたので、とても楽しかったです。でも、やはり日本に帰ってくると、日本はいいなって思います。

ーーありがとうございます。石畳で走ることもあるとお伺いしましたが、さまざまな国や地域でレースをしていると気温や条件なども含め環境が異なり、大変なこともあるように感じるのですが、その点はどのように感じていますか。

加藤)そうですね。たしかにさまざまな環境でレースをしますが、レースさせてもらえるだけでありがたいと感じます。どのような環境でもレースができるようにすることも、トライアスロンという競技の要素の一つですので、どのような環境でもレースができるだけでとてもありがたく思っています。取り巻く環境にいかに対応していくかも試される競技です。

ーーさまざまなレース環境に対応するスキルもトライアスロンには重要な技術のひとつなんですね。

加藤)もちろん素晴らしい環境でレースができることは嬉しいですが、スコールなどが降ってきたとしても笑い飛ばせ!のような考え方を持つ選手も多いです。

それぞれの立場で全員が主役になる

ーー現役を引退されて、地域のマラソン教室や地域の選手のサポートなどされていますが、社会貢献活動についてどのようなお考えを持っていらっしゃいますか。

加藤)活動の柱として、まずはトライアスロンの普及活動をしたいと思っています。トライアスロンという競技が普及して人気になっていくことももちろん願っていますが、そもそもトライアスロンという競技が成長期である小中学生が体を作るために適しているスポーツだと思って活動している部分も大きいです。

加藤)また出身地である千葉県銚子市は、私がリオデジャネイロオリンピックに出場する際に街をあげて応援してくださって、地域の方々のバックアップがとても力になりました。ですので、地域の子どもたちの目標に合わせて応援していきたいなと思っています。育成というと指導するコーチのような立場ではなく、どちらかというと普及や発展に力を入れていきたいと感じています。地元の選手たちがより活躍できる環境づくりを手伝えるような活動ををしていきたいです。

ーーありがとうございます。地域での活動をする中で気をつけていることや大切にしている想いなどはありますか。

加藤)それぞれの役目によって活動することを大切にしています。今、私はコーチング的な役目はしていません。マラソン教室を実施していますが、コーチングというよりは地域での普及活動の要素が強いです。もちろんコーチングをする人が必要ではあるのですが、それは今の私の役目ではないように感じます。それぞれがそれぞれの役目でトライアスロンの普及に努めていくことが大切であると感じています。

ーーそれぞれがそれぞれの立場で役目を全うすることが大切なんですね。それこそ、トライアスロンの「全員が主役」という考えにつながっていきますね。

加藤)はい、そうですね。これからも私ができることをしていければ良いなと考えています。

編集部より

東京オリンピックにて、テレビを通してトライアスロンを初めて観戦し、競技中の選手たちのストイックさとゴール後の讃え合いのギャップに驚き、今回の取材に至りました。オリンピアンである加藤さんのお話を伺う中で、他人を受け入れ讃え合う心の余裕があるからこそトライアスロンという競技をプロとしてされることができたのだ、と尊敬の念でいっぱいになりました。心も体も強くなれるトライアスロン、ぜひ皆さんも挑戦してみませんか?

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