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陸上・飯塚翔太が世界に伝える走る楽しさ〜JICA × Sports for Social vol.8~

JICA飯塚翔太

東京オリンピックまで3大会連続オリンピック出場を果たしている、現役陸上短距離選手の飯塚翔太選手(ミズノ所属・以下、飯塚)が、2023年10月に青年海外協力隊の協力のもと、豊田裕浩コーチ(中央大学所属・以下、豊田)とともに東アフリカの国、ルワンダを訪問し、現地で子どもたちの指導などを行いました。
現在も世界トップレベルで戦っている飯塚さんがトレーニングや仕事の合間を縫って、このような活動を続ける思いとはどんなものなのでしょうか?

短い日程の中でも充実した活動を行ってきた飯塚選手、豊田コーチに、帰国後の感想をインタビューしました。

JICA青年海外協力隊
スポーツの力で世界を変える「青年海外協力隊スポーツ隊員」とは〜JICA × Sports for Social Vol.1~国際協力機構(以下、JICA)が派遣する青年海外協力隊は、1965年から約60年間続く事業です。これまでに約55,000人が開発途上国を中心に派遣され、その国の文化づくり、産業の発展に貢献しています。 その青年海外協力隊の中で、約5,000人近くに上るスポーツ隊員は、世界各国でスポーツの技術を教え、その国の文化を共に創ってきました。 Sports for Socialでは『青年海外協力隊スポーツ隊員』にスポットを当て、海外で活躍した、もしくは現在も活躍している隊員の“想い”、これまでの歴史で紡がれてきた“想い”を取り上げます。 第1回となる今回は、JICA職員として、数多くのスポーツ隊員を支えてきた青年海外協力隊事務局専任参事 勝又晋さん(以下、勝又)と、青年海外協力隊スポーツ隊員の一員として、モルディブでバドミントンのコーチを勤めた若井郁子さん(以下、若井)にお話を伺いました。...
JICA飯塚翔太選手(左)、豊田裕浩コーチ(右)

初めての東アフリカ、日本の子どもたちとの違い

ー今回ルワンダへの訪問は、どのようにして決まったのですか?

飯塚)「行けるタイミングで海外の子どもたちとの交流に行きたい」ということは、以前からJICAさんとお話していました。昨年行ったバングラデシュとは別の地域にも行ってみたかったこともあり、現地に陸上競技の青年海外協力隊員がいる東アフリカのルワンダに決まりました。

ーールワンダの印象はいかがでしたか?

飯塚)2018年に南アフリカとエスワティニに行きましたが、東アフリカへ行くのは初めてでした。私がもっていたアフリカのイメージとは全然違い、とてもきれいな街でした。運動に関しても、月に1回一部の道路を歩行者天国にしてみんなで運動するという素晴らしい習慣がある国で、小さな国でしたがいい意味で驚かされましたね。

JICA

ーー現地では、1日目にサッカーの体験、2日目に陸上競技の体験を行いました。現地の子どもたちに対する第一印象はいかがでしたか?

飯塚)最初に走り方の指導をしたときに、子どもたちの手足の長さやジャンプ力から、「この子たちは速くなるだろうな」という高いポテンシャルを感じました。しかし、細かい動きや走る際の簡単なテクニック動作がまだまだぎこちないということも同時に感じましたね。

豊田)アフリカの子どもたちはダイナミックで自然で、私たちの想定を上回るような動きをするんですよね。本人も意識していないものなので、そうしたいい粗さは残しつつ、技術的に整理してあげたら速くなる可能性があるなと感じました。

ーーアフリカでは長距離選手で有名な方も多いですが、飯塚さんと同じ短距離でも可能性を感じますか?

飯塚)そうですね。ポテンシャルは十分にあると思います。今、長距離の選手と比べてアフリカの短距離選手が多くないのは、単純に陸上トラックなどの施設が不足しているからではないかと思っています。ルワンダにも再来年競技場ができるようなので、どんどん速い選手が生まれてくるのではないかと期待しています。

JICA

“個性だらけ”子どもたちの特徴

ーー現地の子どもたちを指導する際に意識したことはありますか?

飯塚)細かく言いすぎないことですね。意識するところを極力少なくして、とりあえずここだけ考えてみようというポイントを伝えるようにしました。

ーー日本の子どもたちを指導するときとの違いを感じる場面もあったのでしょうか?

飯塚)日本では、体育の授業が幼少期からあるからか、体の動かし方が似ている印象ですが、アフリカでは動きや能力が統一されておらず、“個性だらけ”だなと思いました。

また、ルワンダの子どもたちは失敗に対する恥ずかしさが一切なかったですね。日本の子どもたちは、みんなが学校での教育を受けているという“横並び”でスタートするからこそ優劣を敏感に感じやすいです。しかし、ルワンダではもともと子どもたちの環境がバラバラなので、できないことにも劣等感を抱かず、みんな全員が一生懸命やっていました。「できるかどうか」ではなく、「やっていることが楽しい」という子どもたちの様子は、見ていてすごく勉強になりました。

ーー子どもたちが楽しんで取り組んでくれることが1番ですよね。

豊田)「できないと恥ずかしくてやらない」子が日本には多いですよね。子どもたちからの発言も少なく、指導者から言われたとおりにやろうとすることが多いと感じています。一方で、ルワンダの子どもたちは積極的にみんなで声を出したり、指摘しあったり、勝ち負けで盛り上がっていたのがとても印象的でした。

飯塚)子どもたちから“自分自身”につながる質問を受けることも多かったですね。「自分はこうなりたいのだが、どうしたらいいか」「今の僕の走りはどうでしたか」と、自信満々に質問に来るところが素晴らしいなと思いました。

練習の最後に私と競争したときも、ハンデをつけて後ろから走るのではなく、「同じラインからスタートしたい!」と言われました。自分が今どれだけ通用するのか把握したかったようで、普段接する日本の子どもたちとの違いがおもしろかったです。

JICAモンゴル
やりたいことは変わらない。JICAで得られる経験が私の人生にもたらすもの〜JICA × Sports for Social vol.6~2015年にJICA・青年海外協力隊員としてモンゴルに派遣された青木伶奈さん(以下、青木)は、大学まではバレーボール、大学院では研究に打ち込み、大学院卒業後に協力隊員としての道を選びます。体育教師になりたいという当初の想いから、なぜ協力隊員を選んだのか?また、その後広告代理店に就職し、スポーツマーケティング部門で活躍することになる青木さんが、モンゴルで学び、感じてきた価値とはどんなものだったのでしょうか?...

楽しい交流から自分のエネルギーに

ーー飯塚さんが国際交流にご興味を持たれていたり、今回のような活動を積極的に行っていたりすることにはどのような思いがあるのですか?

飯塚)いろいろな人に会って、いろいろな国の文化に触れ合うことが楽しいということが、私が国際交流に積極的な一番の理由です。今回も、時間を忘れて夢中で子どもたちを指導しました。もともとこうした活動に積極的だったわけではないのですが、一度南アフリカに訪問して楽しかった経験から、これからも続けていきたい!となりました。

ーーさまざまな国、環境の子どもたちとの交流の中で、共通して飯塚さんが子どもたちに伝えたいことはどんなことですか?

飯塚)何かしら刺激を受けて、楽しい思い出として子どもたちの中に残ってくれるといいですね。「日本から足の速い人が来た!」ということが、家に帰って話したくなるネタになることが一番嬉しいです。
また、何人かの子どもたちは国を代表して走りたいと言ってくれます。トップ選手が国にいないところも多いので、指導を通して私自身が彼らの1つの目標になれればと思います。

豊田)この活動は、現役で世界トップレベルで戦っている飯塚選手が練習や仕事の合間を見つけて行っているのですが、彼自身負担とまったく考えていません。
多くの選手は怪我などを考慮したりもするのですが、飯塚選手は全力なんです。こうして子どもたちにスピード感を伝え、走る楽しさを伝えていくと、走ることに言葉はいらないし、一緒に走るだけで繋がれるということを実感します。

ーーこのような活動を行ってきてよかったと感じることはありますか。

飯塚)こうした活動で一緒に走った子どもたちのエネルギーをもらって、自分自身が頑張る力にしています。そのエネルギーをもらっているから32歳の今でも現役を続けられているのかもしれません。

JICA

協力隊員の活動への思い

ーールワンダでは、現地で活動する青年海外協力隊員の2人(鰍澤耕平さん、林理紗さん)ともご一緒したと思います。こうしたスポーツを通しての国際協力について、どのように感じますか?

飯塚)私自身はスポーツを通した活動しか経験がないのですが、スポーツは世界の共通言語として人を繋げることができると感じます。また、スポーツをすることでより健康に元気になれるという可能性がスポーツ交流にはありますよね。

豊田)スポーツの中でも陸上競技では、駅伝やリレーの“繋ぐ”という日本ならではの文化があります。今回の活動でもリレーはとても盛り上がりました。運動会などもそうですが、日本のスポーツ活動を世界に伝えていきたいよねということは飯塚選手とも話しています。

ーースポーツが好きな大学生にとって協力隊にチャレンジすることはどんな意味があると思いますか?

豊田)スポーツを一生懸命やってきた大学生の中で、大学卒業後にそのまま就職することに迷いがある学生も多くいます。そうした学生の選択肢として、「少し立ち止まって協力隊に行ってみよう」と思えるようになるとすごくいいですよね。

飯塚)私も学生だったら行きたいなと思っていました。語学の部分など、不安な部分を解消してくれるような研修(※派遣前訓練:隊員として必要な姿勢や態度、言語などを学んだり、予防接種などの渡航前準備を行う約70日の訓練)があることも隊員の皆さんから伺っています。そうした仕組みをしっかり理解できると、多くの学生が興味を持てるのではないかと思います。

ーー活動をともに行った現地の隊員お二人に対する印象はいかがでしたか?

飯塚)日々動いていて、前に進み続けてる鰍澤さん、林さんのお二人からはとても大きな刺激を受けました。現状を少しでもよくしようと奮闘していたり、日本からトレーニング機材を持ってきて熱心に教えている姿には感動しました。

豊田)協力隊の隊員は、現地にも指導者がいる中で選手を指導していくことになります。言語の壁がある中で、現地の流れやコーチのやり方を尊重しつつ、よりよい指導ができるよう変えていくことは難しく、大変なことだと思いますが、前向きに取り組まれており、逆にこちらの方がエネルギーをもらっていました。

JICA子どもたちに指導する林理紗さん

ーー現地で隊員として活動している方々に対して伝えたいことはありますか。

飯塚)現地で実際にお会いして、隊員の方の活躍がそれぞれの地域の子どもたちの未来にプラスに繋がっているなとすごく感じました。現地の子どもたちにとって貴重な存在ですよね!

豊田)日本を代表して行っているというプレッシャーの中で活動している隊員の方も多くいらっしゃると思います。ですが、最終的には隊員さん自身の性格、気配りや本当の素質、個性が人となりに出る活動です。ぜひ“自分のいいところ”に自信を持って、プレッシャーを感じすぎずに頑張ってほしいなと思います。

ーーありがとうございました!

【後日談】飯塚選手に教わった選手が国内大会でメダルを獲得!

ルワンダで行われた陸上の国内大会で、飯塚選手・豊田コーチの指導を受けた選手が、なんと自己ベストを更新し2位に!今回の交流が1つのきっかけとなり、大きく力を伸ばしたそうです。

ルワンダ

選手が使用したスパイクはJICA「世界の笑顔のために」プログラムで送られたもの!国際交流が現地の子どもたちの未来につながることを実感できるエピソードです。

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