特集

スポーツの力で世界を変える「青年海外協力隊スポーツ隊員」とは〜JICA × Sports for Social Vol.1~

JICA青年海外協力隊

国際協力機構(以下、JICA)が派遣する青年海外協力隊は、1965年から約60年間続く事業です。これまでに約55,000人が開発途上国を中心に派遣され、その国の文化づくり、産業の発展に貢献しています。

その青年海外協力隊の中で、約5,000人近くに上るスポーツ隊員は、世界各国でスポーツの技術を教え、その国の文化を共に創ってきました。

Sports for Socialでは『青年海外協力隊スポーツ隊員』にスポットを当て、海外で活躍した、もしくは現在も活躍している隊員の“想い”、これまでの歴史で紡がれてきた“想い”を取り上げます。

第1回となる今回は、JICA職員として、数多くのスポーツ隊員を支えてきた青年海外協力隊事務局専任参事 勝又晋さん(以下、勝又)と、青年海外協力隊スポーツ隊員の一員として、モルディブでバドミントンのコーチを勤めた若井郁子さん(以下、若井)にお話を伺いました。

プロフィール写真(左)勝又晋さん、(右)若井郁子さん
jica
「いつか世界を変える力になる」現役若手スポーツ隊員が現地で感じたこと〜JICA × Sports for Social Vol.2~自分の好きなもので世界に出たい。世界の人々に貢献したいーー。 そんな想いを持つ若者が、国際協力機構(以下、JICA)の青年海外協力隊スポーツ隊員として世界に旅立ち、開発途上国を中心に世界各地で活躍しています。 Sports for Socialでは『青年海外協力隊スポーツ隊員』にスポットを当て、海外で活躍した、もしくは現在も活躍している隊員の“想い”、これまでの歴史で紡がれてきた“想い”を取り上げます。 第2回となる今回は、現役の青年海外協力隊スポーツ隊員の中でも“水泳”競技の職種で活躍する福山傑さん(ヨルダン 2021年10月〜)、津國愛佳さん(インドネシア 2022年12月〜)、川口礼さん(エルサルバドル 2022年4月〜)の3名で現地からオンラインビデオ会議ツールを繋いでそれぞれの活動の紹介や情報交換を行いました。 初めて話す、同じ競技の他国のスポーツ隊員。それぞれの想いや悩みを共有しつつ、それぞれに気になることが溢れる楽しい座談会となりました。...

選手から引退。モルディブへの派遣へ

ーーまずは、若井さんが青年海外協力隊として、モルディブでバドミントンを教えることになった経緯を教えてください。

若井)私は中学校からバドミントンを始めて、毎年全国大会に出ているような強豪校でプレーしていました。その後も高校、大学、実業団と進み、社会人になってからも選手としての活動も続けていました。

30歳を前にして選手を辞め、所属する企業の内勤業務に変わったのですが、なかなか選手時代のような情熱を持って日々を過ごすことができませんでした。

そのタイミングでバドミントン関係者の方から「モルディブのバドミントンコーチに興味はあるか?」と声をかけていただいたことがきっかけで、公募を経てモルディブにスポーツ隊員として2年間派遣されることになりました。

ーー若井さんはモルディブでは具体的にどんな活動をされていたのですか?

若井)モルディブは人口30万人くらいの小さな国で、日本で言うと市町村くらいの規模です。国の体育館を朝から晩まで利用して、一か所で幼稚園児からナショナルチームまでバドミントンの指導をしていました。

学校の収容人数が限られていて午前・午後の二部制だったこともあり、朝は幼稚園生から始まり、午前・午後にそれぞれ授業のない子どもたち、夕方のナショナルチームの練習までバドミントン漬けの1日です。ラマダンの断食がある1ヶ月間や試験の時期は休みでしたが、ほぼ週6日、バドミントンが多くを占める日々を2年間続けていました。日本ではバドミントンのコーチの仕事だけで暮らしていけるのは一握りの人なので、衣食住も整っている中、朝から晩までバドミントンを教えられるのは、私にとってとても幸せなことでした。

wakai若井さんがモルディブで指導している様子(写真提供:若井郁子)

ーー若井さんのような派遣国での過ごし方は、スポーツ隊員として一般的なのですか?

勝又)そうですね。若井さんのように学校の課外の時間帯にスポーツの活動をすることが多いようです。現地の人たちがスポーツに取り組む朝や夕方以外の時間は、練習プログラムの準備などに使う人が多いと思います。

学校に入る場合もあれば、各種競技団体に配属され外部指導者の役割に就く場合もあります。ナショナルチームレベルから、地域のスポーツクラブレベルまでそれぞれの隊員がさまざまな形で活動しています。

ーースポーツ隊員にはどのようなことを求められるのでしょうか?

勝又)派遣された国の人たちがスポーツを楽しんだり、上達することを通じて人間性を高めること。また、プロスポーツ選手になるという夢が生まれたり、地域や学校、コミュニティが活性化したり、さまざまな広がりをもたらすきっかけをつくることが求められています。スポーツを普及させる・指導するという活動を通じて、社会に「一石を投じる」ことができる。それに気づいてもらえたらと思っています。

ーー社会に「一石を投じる」というのはすごく良い表現ですね!

スポーツを通じて、社会に一石を投じる

ーーそもそも、スポーツ隊員はどのような要請から派遣されるようになったのでしょうか?

勝又)青年海外協力隊が始まったのが1965年で、その頃から柔道や水泳のスポーツ隊員が派遣されています。当初の派遣先は、戦時中に戦地だったアジアの国が多かったという歴史的な背景も踏まえて、単なる援助としてだけでなく、人と人との繋がりを育むことが求められました。

ーー人と人とを繋ぐツールとして、スポーツが活用されていたのですね。

勝又)1964年に東京オリンピックが開催されたということもあり、日本国内でも派遣受け入れ国でも、スポーツに対して関心が高まっていたのもあると思います。

また、日本の若者に途上国で汗を流して、現地の人と同じ目線で一緒に活動して欲しいという想いが青年海外協力隊にはあるので、スポーツと青年海外協力隊の活動は親和性が高いものでした。

カンボジア隊員昭和40年度カンボジアに派遣された水泳隊員が指導する様子(写真提供:JICA)

若井)青年海外協力隊のスポーツ隊員は、例えばモルディブであればイスラム教など、派遣国の宗教や習慣、文化を学んでから現地に向かいます。自分たちがイスラム教徒ではなくても、断食中に人前では水を飲まないなど、なるべく現地の人に配慮し寄り添って生活を送るので、現地でも慕われ、お互いに信頼感も生まれ、距離感近く活動できるのではないかと思います。

ーースポーツ隊員として活動する中で、印象的なエピソードはありますか?

若井)2年間で一番驚いたことは、女性だけしか会場に入れないという、4年に一度の大会『イスラミックウーマンズトーナメント(Islamic Countries’ Women Sports Games)』に参加したことです。イスラム教徒の女性のみのオリンピックのような大会で、カメラの持ち込みも禁止で会場には大会関係者含め全員女性のみ、それに参加するためにイスラム教徒と同様の服装も全部準備しました。

ーー女性が中心のスポーツ大会があるのですね。イスラム教社会では、女性のための大会があるということはあまり想像できていませんでした。

若井)イスラム教は女性を大切にしているからこそ、あまり人前に出そうとしないこともありますが、こうした機会があることをまったく知らなかったので驚きました。
日本で本当にバドミントンの世界しか知らなかった私が、青年海外協力隊のスポーツ隊員の活動を通じて、視野が広がり、新しい価値観を得ることができました。

勝又)派遣国に新しい価値を生むという意味では、ブルキナファソのある野球隊員のエピソードが印象的です。その方は野球の指導者としては初めてブルキナファソに派遣されたのですが、最初のうちは野球を教える環境も相手もいないに等しい状況でした。

そこで彼は、積極的に子どもを集めることに取り組んだそうです。10歳の少年と2人でキャッチボールを始めると、「おもしろそうだ」とだんだんと他の人も集まってきました。子どもが集まると、今度は大人たちも関心を示すようになりました。

「変わったことやっているな」という印象から、周囲の人も活動を応援するようになっていったそうです。

ーーまさに「一石を投じる」そこから、輪が広がっていくエピソードですね!

勝又)2008年にそのスポーツ隊員の取り組みから始まり、ブルキナファソ代表の野球チームは東京オリンピックのアフリカ予選のベスト4まで進み、日本の独立リーグでプロ野球選手としてプレーする選手も輩出するまでに成長しました。

ーー2人で行ったキャッチボールから、各スポーツ隊員が活動のバトンを繋いでいき、そこまで大きな成果として実を結んでいくのですね!

勝又)世界野球ソフトボール連盟(WBSC)から感謝状をいただいていますし、野球だけでなくそれぞれのスポーツで世界での競技の普及・強化に貢献していると思います。

JICA青年海外協力隊スポーツ隊員で募集しているスポーツ種目(2023年現在)

トップレベルの経験よりも、現地の人に寄り添う気持ちが大事

ーー最後に青年海外協力隊のスポーツ隊員を目指している方や、興味を持っている方に向けて、メッセージをお願いします。

若井)私も行く前はかなり不安だったのですが、「肩肘張らずに、大きく考えすぎなくても大丈夫ですよ」と伝えたいです。

例えば、国内トップレベルでの経験がなくてもスポーツ隊員として活動できます。最近は生活習慣病が社会課題になっている国もあり、子どもの頃から運動する習慣をつけることを目的に子どもたちに運動の楽しさを伝える活動や、また物不足から現地にあるものを使って工夫を凝らした用具を生み出して、運動する楽しさを伝えられる人も求められています。

ーー楽しく一緒に身体を動かすことを通じて、世界の役に立てる、社会課題も解決することができるんですね。

フィジー 野球フィジーで野球を教える隊員の様子(写真提供:JICA)

若井)また、青年海外協力隊ではサポート体制が整っていて、渡航前に現地の子どもたちの環境や様子など、その国の文化的な背景を事前に学ぶことができるので、現地の人たちに寄り添うという気持ちがあれば大丈夫です。

勝又)スポーツ隊員の活動は、「共創(コ・クリエーション)」の要素が大きいと思います。途上国の人たちと楽しんでスポーツの活動を作り上げていっています。そして、文化や言語も違う異国でスポーツの指導をしたり、新たな活動を広げていくという経験は、帰国後の各隊員の次のチャレンジにも生きていくと思っています。

ーー本日はありがとうございました!

*2019年度より従来の派遣体系などを見直し、JICA海外協力隊として、「青年海外協力隊(および日系社会・青年海外協力隊)」を中心としながら、一定以上の経験・技術が必要な案件に対応する「シニア海外協力隊(および日系社会・シニア海外協力隊)」を派遣しています。

いつか世界を変える力になる

2023年春募集(長期派遣)応募受付中!

JICA青年海外協力隊では、2023年春募集を行っています。

詳細URL:https://www.jica.go.jp/volunteer/index.html

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