特集

「いつか世界を変える力になる」現役若手スポーツ隊員が現地で感じたこと〜JICA × Sports for Social Vol.2~

jica

自分の好きなもので世界に出たい。世界の人々に貢献したいーー。

そんな想いを持つ若者が、国際協力機構(以下、JICA)の青年海外協力隊スポーツ隊員として世界に旅立ち、開発途上国を中心に世界各地で活躍しています。

Sports for Socialでは『青年海外協力隊スポーツ隊員』にスポットを当て、海外で活躍した、もしくは現在も活躍している隊員の“想い”、これまでの歴史で紡がれてきた“想い”を取り上げます。

第2回となる今回は、現役の青年海外協力隊スポーツ隊員の中でも“水泳”競技の職種で活躍する福山傑さん(ヨルダン 2021年10月〜)、津國愛佳さん(インドネシア 2022年12月〜)、川口礼さん(エルサルバドル 2022年4月〜)の3名で現地からオンラインビデオ会議ツールを繋いでそれぞれの活動の紹介や情報交換を行いました。
初めて話す、同じ競技の他国のスポーツ隊員。それぞれの想いや悩みを共有しつつ、それぞれに気になることが溢れる楽しい座談会となりました。

JICA青年海外協力隊
スポーツの力で世界を変える「青年海外協力隊スポーツ隊員」とは〜JICA × Sports for Social Vol.1~国際協力機構(以下、JICA)が派遣する青年海外協力隊は、1965年から約60年間続く事業です。これまでに約55,000人が開発途上国を中心に派遣され、その国の文化づくり、産業の発展に貢献しています。 その青年海外協力隊の中で、約5,000人近くに上るスポーツ隊員は、世界各国でスポーツの技術を教え、その国の文化を共に創ってきました。 Sports for Socialでは『青年海外協力隊スポーツ隊員』にスポットを当て、海外で活躍した、もしくは現在も活躍している隊員の“想い”、これまでの歴史で紡がれてきた“想い”を取り上げます。 第1回となる今回は、JICA職員として、数多くのスポーツ隊員を支えてきた青年海外協力隊事務局専任参事 勝又晋さん(以下、勝又)と、青年海外協力隊スポーツ隊員の一員として、モルディブでバドミントンのコーチを勤めた若井郁子さん(以下、若井)にお話を伺いました。...

国によってさまざまな文化や環境の中で

ーー津國さんから、現地でどのような活動をされているのか教えてください。

津國:インドネシア)私は現在、インドネシアの首都ジャカルタに36クラブあるうちの、現在は5つのスイミングクラブを巡回して指導しています。主に上のレベルを目指している、中学生や高校生の選手を対象にしています。
初めてジャカルタに来たとき、ビックリするくらいみんなの熱意を感じました。病気などしない限り毎日練習に来るし、時間も絶対守るし、現地のコーチたちも「教えて!教えて!」と勢いがあって、圧倒されました。
インドネシアでは日本料理もたくさんありますし、車もほとんど日本車で、日本に対して親近感を持ってくれています。

ーー福山さんはヨルダンでどのような活動をされていますか?

福山:ヨルダン)私は現在ヨルダンの水泳連盟に所属しています。主にヨルダンのナショナルチームの練習指導を行っているのに加えて、クラブチームの子どもたちにも少しだけですが指導しています。
津國さんのインドネシアとは違い、選手たちの集中力が途切れてしまう場面も多々あるので、常に声をかけ続けることを意識しています。

ーー国によって、いろいろな性格の特徴があるのですね。川口さんはエルサルバドルでどのような活動をされているのですか?

川口:エルサルバドル私はエルサルバドルのパラリンピック委員会に配属されています。委員会の中で水泳を担当しており、現地の身体障がい者や知的障がい者の方が基本的に誰でも無料で水泳の練習に参加できる機会を提供しています。
エルサルバドルの配属先で使用していたプールが今年6月の中米大会に向けた再建工事のため閉鎖され、活動できるプールの確保に苦労しており、市内の25mもない小さい公共のプールで練習をしています。

川口さん川口さんとエルサルバドルの選手たち

川口)ヨルダン、インドネシアのプール事情はどうですか?

福山)ヨルダンでは、ナショナルチームは屋外の50mの専用プールがありますが、冬場は使用できないので、冬場は学校の25mの屋内プールを借りて練習しています。

津國)インドネシアは、思っていたより、環境が良かったですね。地域の水泳クラブでも、国際競技場で50mの凄く綺麗なプールで毎日練習しているクラブもありますし、その他のクラブでもほとんどが50mプールです。

ーーそれぞれの練習環境や雰囲気など、目指す方向性ややるべきことにも違いがあるのですね!

インドネシア 津國さんインドネシアで活動する津國さん(右)と子どもたち

青年海外協力隊に加わることで小さな頃からの想いを実現

ーー派遣歴が一番長い福山さんから、青年海外協力隊スポーツ隊員応募のきっかけをお伺いしてもよろしいですか?

福山)私は広島県出身で、小さい頃から平和学習を通じて世界の平和について考える機会があり、「世界を平和にしたい」という気持ちが心のどこかに常にあったのが応募の理由の一つです。

もう一つは、世界の水泳の実状に対する疑問もありました。小さい頃から大学まで水泳を続けている中で、今の世界大会やオリンピックが本当に公平なのか?と思うようになり、アメリカや他の先進国の選手ばかりが活躍する環境から、開発途上国を含めて世界のすべての国の選手にチャンスをつくりたいという想いが芽生えました。大きな目標ですが、そのために自分の技術や知識を活かしたいと思って応募しました。

ーー福山さんは大学卒業してすぐに青年海外協力隊スポーツ隊員に応募されたとのことですが、さまざまな選択肢がある中で決め手は何だったのですか?

福山)小学4年生の頃に社会科見学で広島のJICAに行ったことがきっかけで、そこからずっと青年海外協力隊スポーツ隊員のことが頭のどこかにありました。
そうした背景もあり、大学3年次に進路を考えたとき「日本ではなく海外で働きたい」という想いがありました。「どうせなら本当にやりたいことだけに進路を絞ろう」と思い、青年海外協力隊一本で応募しました。

ヨルダン 福山さんヨルダンで活動する福山傑さん

ーー「本当にやりたいこと」の一番が青年海外協力隊だったのですね!川口さんの応募のきっかけはどのようなことですか?

川口)私は、学生時代に農学部で野菜に関係することを勉強していたので、最初は水泳での派遣は考えておらず、農業分野での青年海外協力隊への参加に興味がありました。社会人として10年間働いたのですが、海外への夢を諦めきれないと感じ、青年海外協力隊に応募しました。その際に、「協力隊にも水泳があるのか」と知り、仕事にもしていた水泳の方で挑戦してみることにしました。

ーー10年間働いた勤務先を離れるというのは、大きな決断ですね。どのような心境の変化があったのですか?

川口)10年間働いて、次の10年後も同じ場所で働いている自分が想像できなくなってしまいました。そこで「何がやりたいことなんだろう」と考えたときに、『青年海外協力隊』が頭に浮かびました。

川口さん エルサルバドルエルサルバドルの川口さんは、パラリンピック委員会の一員として障がい者水泳に取り組んでいます

ーー川口さんも青年海外協力隊の存在を知っていて、やりたいこととして頭に浮かんできたのですね。津國さんはいかがでしょうか?

津國)私は小学6年生のときにカンボジアの難民について学び、“貧富の差”というものを初めて知りました。「自分は裕福な暮らしをしているのに、なぜ他の国では明日生きられるかわからない子たちがいるのだろう?」疑問に思い、それ以来、貧困をなくしたいという想いをずっと持っていました。

家族や友人にその想いを話していたら、従兄弟の先輩が協力隊でサッカー隊員として派遣されていたと聞きました。スポーツでも貧困をなくすことができるんだ」と知り、それ以降ずっと協力隊として途上国で活動する事に憧れを抱いていました。

ーー小さい頃から、自分のやりたいことを叶える手段として、JICAの青年海外協力隊スポーツ隊員というのが位置付けられていたのですね。

スポーツを通じて夢や希望を“直接”伝える

津國)私はまだ派遣開始から5ヶ月と短い期間です。福山さんと川口さんは、派遣初期と現在とで成果だと感じるものはありますか?

川口)正直、「これができました!」というものはまだなく、プールの利用や治安状況によって、安定した活動をすること自体の難しさを感じています。言い始めたら止まらないくらい困難なことがある中で、「なんとかなる」と思いながら活動を続けています。
私が派遣5ヶ月の頃は、活動のリズムであったり、食事も含めた生活面に慣れてきて、少し余裕が出始めた頃だと思います。

津國)派遣されて5ヶ月が経ち、生活に慣れるだけで精一杯で「何もできてない」と思っていたので、少し安心しました。まだこれからなんだなと。

ーーすべてが用意された暮らしやすい環境ではなく、日々新しくぶつかる壁を感じながら活動されているんですね。こうして悩みをシェアし合える繋がりがあることが、同じ『青年海外協力隊』でいろいろな国に行く仲間がいることの良さですね。

津國さん津國さんがインドネシアの子どもたちに指導する様子

福山)選手や現地のコーチには練習態度を含めてまだまだ成長して欲しい部分はあるのですが、ある日僕が練習で行っていた少し変わった練習メニューを、別の現地のコーチがやっていることがありました。「お、真似してる」と思いました。
少しずつですが、現地の人たちに新しい技術や知識を伝えられたと感じましたし、「新しい風を吹かせられたのかな」と自信に繋がっています。練習に対する姿勢を指摘したときには、「それは日本の文化だよね」と流されてしまうこともあるのですが、ヨルダン人の文化や気質に合わせてばかりだと何も変わらないと思い、少し押し付けになってもいいだろうと割り切って伝えるようにしています。

ーー嬉しいエピソードですね。合わせるだけでなく、自分の意見も含めてお互いに主張し合いながら良いものを取り入れていくことは、国際協力において非常に大事なことなのかもしれませんね。

スポーツから世界を変えたい人へ

ーー最後に、青年海外協力隊スポーツ隊員に興味がある方や応募を考えている方に向けて、メッセージをお願いします。

川口)「興味のあることには挑戦してみてほしい!」と思います。困難もあるでしょうが、未来は明るいと信じています。

福山)迷っているのであれば、絶対に応募してほしいです。自分の経験になるだけでなく、派遣先の国のためにも良い力になると思います。私は青年海外協力隊スポーツ隊員ポスターに「いつか世界を変える力になる。」と書いてあるのを見た瞬間、「これだ!」と感じました。

スポーツから希望や力を与え、世界を少しでも変えたいと思っています。100年後や200年後になるかはわかりませんが、この活動が「いつかの一歩」になっていると信じています。一緒に世界を変えましょう。

津國)私も青年海外協力隊になってすごく感じたのは、夢や希望を直接伝えられることです。人の役に立ちたいと思って活動していますが、実際には自分も助けられながら活動していることを感じます。

また、人として成長し、これまで見えなかった世界が見えるようになるので、青年海外協力隊スポーツ隊員に応募して、活動していく中で自分のみている世界が変わっていくと感じます。

ーーありがとうございました!

ヨルダン派遣中の福山傑さんは、2023年7月に福岡で開催される世界水泳にヨルダンチームの一員として参加予定です。

JICA 福山隊員

現地で教えるだけでなく、その国の代表チームの一員として世界大会に派遣される例も青年海外協力隊スポーツ隊員ではこれまでも多くあります。
福山さん、頑張ってください!

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