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おかやま山陽高校 堤監督が渡航するスポーツ隊員に贈るメッセージとは〜JICA × Sports for Social Vol.7~

JICA

2023年の夏の甲子園に出場し、ベスト8まで進出したおかやま山陽高校の野球部監督である堤尚彦さん(以下、堤)。堤さんは大学卒業後に青年海外協力隊の野球隊員として、ジンバブエで野球の普及活動を行い、2020年東京オリンピックアフリカ予選ではジンバブエ代表の監督を務めたという異色の経歴を持っています。

そんな堤さんに憧れ、後を追うように、今年10月から「野球」の青年海外協力隊員として渡航した2人の教え子。川田健(以下、川田)さんはコロンビアへ、村田歩(以下、村田)さんはジンバブエへ派遣される直前にお話を伺いました。

川田さんと村田さんに影響を与えた、堤さんの姿と言葉。そして、堤さんからこれから渡航する2人に伝えたいこととは。

JICA青年海外協力隊
スポーツの力で世界を変える「青年海外協力隊スポーツ隊員」とは〜JICA × Sports for Social Vol.1~国際協力機構(以下、JICA)が派遣する青年海外協力隊は、1965年から約60年間続く事業です。これまでに約55,000人が開発途上国を中心に派遣され、その国の文化づくり、産業の発展に貢献しています。 その青年海外協力隊の中で、約5,000人近くに上るスポーツ隊員は、世界各国でスポーツの技術を教え、その国の文化を共に創ってきました。 Sports for Socialでは『青年海外協力隊スポーツ隊員』にスポットを当て、海外で活躍した、もしくは現在も活躍している隊員の“想い”、これまでの歴史で紡がれてきた“想い”を取り上げます。 第1回となる今回は、JICA職員として、数多くのスポーツ隊員を支えてきた青年海外協力隊事務局専任参事 勝又晋さん(以下、勝又)と、青年海外協力隊スポーツ隊員の一員として、モルディブでバドミントンのコーチを勤めた若井郁子さん(以下、若井)にお話を伺いました。...

シビれた堤監督の言葉「大人が夢に向かって頑張る姿を見せないでどうする」

ーー今回、青年海外協力隊スポーツ隊員として渡航するにあたり、堤さんはお二人にとって共通の大きな存在だったと伺っています。

川田)高校時代から堤先生の指導を受けてきた私にとっては、世界観が計り知れない“デカ過ぎる人”ですね。今まで世界各地の野球の発展に関わっていますし、堤先生のジンバブエ時代の盟友であるモーリスさんが東京オリンピックの予選の前に来日されたときから、「国の代表としてオリンピックに出場する夢がある」とおっしゃっていました。

「大人が子どもに夢に向かって頑張る姿を見せないでどうする」と言っている姿を見て、すごくかっこいい人だと思いました。

ーー素晴らしいですね。それは当時高校生だった川田さんたちにも胸に刺さる言葉だったと思います。村田さんは堤さんと同じアフリカ・ジンバブエを志望されていたと伺いました。

村田)一番最初に堤先生に会ったとき「ジンバブエってどのようなところなんですか?」と聞いたら、堤先生が、「ここ(脇腹)まで銃が来た」という話をされました。そんな経験をしてもアフリカとの関わりを続けているなんて、「自分もこれぐらいの人になりたい!」と強く思い、一生懸命青年海外協力隊を目指してきました。

ーー堤さんの姿は、「これまで全力でやりたいことをやってきた」という信念が垣間見えますね。その話を聞いて「怖いな」と尻込みしたりはしませんでしたか?

村田)怖いと思いましたが、それよりも「アフリカってどんなところなんだろう」という興味の方が大きかったです。(笑)

ーーすごく青年海外協力隊に向いている発言ですね(笑)。

JICA 野球

ーー川田さんは渡航先であるコロンビアに対して、どのような印象をお持ちですか?

川田)サッカーのイメージが強いです。もともとスペイン語圏を希望していたので、コロンビアに決まって良かったなと思いました。

野球大国となると日本やアメリカ、中南米のベネズエラやドミニカ共和国の名前が上がります。野球関係の仕事に就きたいと堤先生に相談したときに、「日本語・英語・スペイン語の3つの言葉を話せると良い」と教えてもらったので、スペイン語圏を希望していました。

ーー言語という観点で渡航先の希望を出していたのですね。村田さんは、志望されていたジンバブエに行くことが決まったときはどのような気持ちでしたか?

村田)実は青年海外協力隊の募集に申し込んだのは、今回が3回目でした。

1回目が2020年の春募集で、新型コロナウイルスの影響で募集が全部なくなってしまいました。大学卒業後はすぐに青年海外協力隊になることしか考えておらず、当時は絶望したのをよく覚えています。ですが、そこから昨年日本一周の旅をして、海外で「日本はどんな国なの?」と質問された時に答えられるようになろうと思いました。

高校時代から青年海外協力隊への憧れがあったので、合格の通知を受け取ったときは物凄く嬉しかったです。

JICAモンゴル
やりたいことは変わらない。JICAで得られる経験が私の人生にもたらすもの〜JICA × Sports for Social vol.6~2015年にJICA・青年海外協力隊員としてモンゴルに派遣された青木伶奈さん(以下、青木)は、大学まではバレーボール、大学院では研究に打ち込み、大学院卒業後に協力隊員としての道を選びます。体育教師になりたいという当初の想いから、なぜ協力隊員を選んだのか?また、その後広告代理店に就職し、スポーツマーケティング部門で活躍することになる青木さんが、モンゴルで学び、感じてきた価値とはどんなものだったのでしょうか?...

「アユムが教えてくれた野球は面白かった」と言ってほしい

ーー大きな喜びがとても伝わってきます。これから現地に行き、野球の指導をすることになりますが、不安はありますか?

川田)コロンビアでは、アメリカの大学に奨学金制度で行ける高いレベルの子もいるそうなのですが、メジャーリーグまで辿り着けず、帰国するパターンが多いと聞いています。そのような選手たちに対して、マナーや礼儀を含めた指導をして欲しいという要望があるので、礼儀や規律を重んじる高校野球の経験を踏まえてどのように指導しようか考えています。

また、日本と違って、貧困を抜け出すために自分の生活をかけて野球をやる選手も多いと聞いているので、「誰のために野球をやるのか」を語りかけていきたいです。

このようにコロンビアと日本のあいだで文化の違いもあると思うので、それも学びながら活動していきたいと思っています。

村田)ジンバブエは、ほぼ野球の文化がゼロのところに野球を教えていくという要請をいただいています。今回の指導の要請の対象は10〜15歳です。私は日本では小学6年生の岡山市の選抜チームのコーチをやらせてもらっていたので、子どもたちの年齢に応じた接し方はわかると思うのですが、どうやって英語で野球を伝えていくのか、ということがやりがいを感じるところでもあるし、不安なところでもあります。

ーー青年海外協力隊での2年間で楽しみにしていることはなんですか?

川田)コロンビアの選手たちの瞬発力やパワーの違い、野球の能力を見るのが楽しみです。そして日本では経験できないこと、文化の違いも大いに楽しみたいと思います。

村田)自分が行くジンバブエでは、野球をやったことがない子どもたちがほとんどなので、初めて野球に出会って「アユムが教えてくれた野球はおもしろかった」と言ってくれたら一番嬉しいと思います。

jica
「いつか世界を変える力になる」現役若手スポーツ隊員が現地で感じたこと〜JICA × Sports for Social Vol.2~自分の好きなもので世界に出たい。世界の人々に貢献したいーー。 そんな想いを持つ若者が、国際協力機構(以下、JICA)の青年海外協力隊スポーツ隊員として世界に旅立ち、開発途上国を中心に世界各地で活躍しています。 Sports for Socialでは『青年海外協力隊スポーツ隊員』にスポットを当て、海外で活躍した、もしくは現在も活躍している隊員の“想い”、これまでの歴史で紡がれてきた“想い”を取り上げます。 第2回となる今回は、現役の青年海外協力隊スポーツ隊員の中でも“水泳”競技の職種で活躍する福山傑さん(ヨルダン 2021年10月〜)、津國愛佳さん(インドネシア 2022年12月〜)、川口礼さん(エルサルバドル 2022年4月〜)の3名で現地からオンラインビデオ会議ツールを繋いでそれぞれの活動の紹介や情報交換を行いました。 初めて話す、同じ競技の他国のスポーツ隊員。それぞれの想いや悩みを共有しつつ、それぞれに気になることが溢れる楽しい座談会となりました。...

思い通りにならないことを笑い話にしていく

ーーここからは堤さんにもお話を伺っていきたいと思います。堤さんご自身が川田さんと村田さんが青年海外協力隊を志すきっかけになったと聞いて、どのように思われますか?

堤)きっかけになれたことは素直に嬉しいです。10年間で教え子から5人の青年海外協力隊を輩出すると決めていました。彼らも含めて4人が青年海外協力隊の試験に受かって、1人はすでに任期を終えて帰ってきています。

ジンバブエ派遣の初代隊員であり、私が志望するきっかけにもなった村井さんの報告書には、「1人で見る夢はただの夢、みんなで見る夢は実現への夢」と書いてあるんです。その言葉をずっと覚えていて、いろいろなところで使わせてもらっています。

私も年齢が50歳を超え、自分にできることは教え子たちに自分の体験や考えを話して、現場に出てくれる人を育てることだと思っているので、それを実現してくれているのはとても嬉しいです。

おかやま山陽高校 堤監督

ーー川田さんと村田さんは今、渡航の直前(インタビュー時)ですが、堤さんが渡航する直前のタイミングでは、どのようなお気持ちでしたか?

堤)英語がまったく喋れなかったので、不安しかなかったですね。あとは、「帰って来れるかな」と。事故などで死ぬ確率は日本に行くよりも高くなるので、それは不安でした。

日本にいると、“生きていることに対するリアリティ”を感じづらいですが、海外で活動していると日々緊張感を持って生きることになります。

ーー堤先生から、これから現場に飛び込んでいく2人へメッセージをお願いします。

堤)生きて帰ってきてください。人生いつ何が起きるかわからない。当たり障りのないことを言えば、「楽しんできてね」と声をかけることもできますが、思い通りにならないんですよ、9割以上。だから、思い通りにならないことを、あとから笑い話にしていけるかどうかが大事です。

渡航先では非日常的な経験をします。当たり前じゃないことが楽しいし、何か変なまずい食べ物が出てきたときは最高のお土産話と思いながら、受け取っていました。なんでもプラスに考えてほしいですね。

JICA 取材の様子

子どもの頃のキラキラした目のまま大人になれる世界に

ーー堤さんは「自分の夢を語ることを大事にしている」と伺いました。それはなぜなのでしょうか?

堤)“おっさん”がキラキラしてないと若い人たちもキラキラしない。50歳を過ぎた人が夢を見ていたら、接してる高校生たちも夢を見る。自分がどんよりしているのに、高校生に「夢を持て!」と言っても何の説得力もないですよね。

途上国に行ったら、子どもたちの目がキラキラしてるとみんなよく言います。でもその続きで私が思うのは、「あの目がキラキラしていた子どもたちがなぜ年を取ったら、あんな目になってしまうのだろう」ということです。生活のために急に「お金、お金」となってしまったり。

子どものキラキラした目のまま大人になれるような世界になったらもっと楽しいだろうなと思っています。

ーー青年海外協力隊を目指していたり、応募しようかと悩んでいる人たちにメッセージをお願いします。

堤)これは野球部の選手たちにもよく言うことなのですが、選択肢が2つ以上あると、人間の脳は必ず無難な方を選ぶようにできています。自分を守ることが第一なのです。

なので、“2つを比較しないこと”が大事です。「いいな」と思ったら、そこで考えるのを終えればいいんです。日本に帰ってきてどうしようとか、向こうに行ってどうしようではなくて、感じたら、そのまま即行動。それだけで人間は幸せになれると思います。

それは青年海外協力隊に関することだけじゃなくて、「いいな」と思ったら、自分の心に素直に従って、一歩踏み出してみればいいと思います。

悩むことはもったいないです。青年海外協力隊での活動はプラスしかなく、マイナスのことはひとつもありません。絶対に行った方がいいと思います。

ーー勇気の出るお言葉ですね!本日はありがとうございました!

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スリランカ ラグビー
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おかやま山陽高校野球部監督

堤尚彦氏が出演する説明会を開催!

JICA青年海外協力隊では、参加に少しでも興味のある方々に対しての説明会を行っています。

今回の記事でのおかやま山陽高校 堤尚彦監督もOVとしてお話します!

12月4日(月)19:00~20:30

ご予約はこちらから!

JICA 野球

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