「自分はサッカーしかしてこなかった」と語るのは、現在、企画調査員としてJICAスーダン事務所に勤務されている遠藤暁さん(以下、遠藤)。
小さいころからトップ選手を夢見てサッカーに打ち込みながら、大学でプロになることを諦めた遠藤さんは、いまでは「世界の紛争や難民問題をなくしたい」という夢を持ち、世界を相手に仕事をしています。
そのきっかけとなったのが、大学生時代に行った『JICA海外協力隊・短期派遣隊員』としての南米・ボリビアでの1か月間。サッカー一筋だった青年が、どのような想いで国際協力の世界へ飛び込んだのでしょうか?遠藤さんにインタビューしました。
“興味本位”で仲間とともにボリビアへ
ーー遠藤さんが現在のお仕事に就いている一番最初のきっかけに、JICA海外協力隊の短期隊員としてのボリビアへ派遣されたことがあると思います。その活動に興味を持ったのはどのようなきっかけなのでしょうか?
遠藤)子どものころから「プロサッカー選手になりたい」と思って、大学でも部活でサッカーをしていたので、国際協力などのキーワードには正直まったく興味はありませんでした。プロになることは厳しいなと思っていた段階で、たまたま在学していた福岡大学がJICAとの連携で、春休み期間にサッカー部・野球部約10名ずつを南米・ボリビアに派遣する事業をスタートさせました。「おもしろそうだから行ってみようぜ」というノリで手を挙げたことが一番最初のきっかけですね。
ーー最初は興味本位だったのですね!仲間も一緒だという点も大きかったのでしょうか?
遠藤)もし1人だったら不安もあったと思いますが、いつもの仲間と一緒だったので不安よりも楽しみの方が勝っていました。
ーー実際に行ってみていかがでしたか?
遠藤)すべてが新鮮でしたね。スペイン語圏であるボリビアで、スペイン語にもまったく触れたことがない中、通訳さんを介してさまざまな都市のサッカークラブでの指導や体育の授業に参加させてもらいました。通訳さんのおかげで練習メニューなどは子どもたちにも伝わるのですが、隅っこにいる子に声をかけたり、細かいところの直接的な指導は言語が通じないと難しいなと感じましたね。
「楽しかった」から「自分の使命へ」
ーー初めての海外での1か月間。その経験は遠藤さんにどのような影響をもたらしたのでしょうか?
遠藤)その1ヶ月が純粋に楽しく、「もっと長く海外に滞在してみたい」という心境になりました。言葉が通じない中でも、現地のコーチたちが明るくウェルカムで迎えてくれて、こうした文化や人間性もとても魅力的でした。
それだけでなく、楽しかったものの、通訳さんのおかげでできていたことばかりだったので、「自分の力で何ができるのか」を試してみたいという気持ちにもなっていました。
実はボリビア滞在中に現地のJICAの方に、「来年サッカーで長期隊員の募集があるよ」と教えていただき、そのポストで派遣されることを目指して、帰国後すぐにスペインへの短期語学留学に行くなど、ボリビアへ再度、協力隊で行く気満々になって帰ってきました。(笑)
ーー1か月の経験がもたらしたものは非常に大きかったのですね。ほかの大学生は一般的に企業への就職などを選ぶ人も多い中で、ご自身の選択に迷いや不安はありませんでしたか?
遠藤)まったくなかったですね。短期でボリビアに行って、「こんな世界があるのか」と知れたことは自分にとって大きなものでした。このまま日本で社会人になるより、むしろ2年間くらいは海外に飛び込んだ方が広い世界を知れていいのではないかと思っていました。
ーー先の不安よりも、自身の成長や体験への期待の方が大きかったのですね。
遠藤)正直、長期的なビジョンなどもなかったのですが、2年間を終えたときにどんな心境の変化があるのかを楽しみに考えていました。
長期隊員を終えて見つけた“やりたいこと”
ーー長期隊員としてのボリビア派遣後は、どのようなキャリアを歩まれているのでしょうか?
遠藤)ボリビアに行って1年9か月で、新型コロナウイルスの影響で緊急帰国することになりました。急遽の帰国で、進路はまったく決まっていなかったのですが、隊員活動中に英語圏の大学院への進学を考えはじめていたのでとりあえず英語の勉強に没頭し、翌年大学院に合格することができました。オンラインで通うことのできる大学を選んだので、JICAの国内機関で働きながら通い、2022年7月からはアフリカ・ウガンダにある日本大使館で草の根委嘱員として働き、2023年6月から現在のポストで働いています。
ーー国際的な活動のできる機関で働くことや、海外での勉強を選択されている遠藤さんですが、その根底にある想いは何なのでしょうか?
遠藤)純粋に海外が楽しいという想いが根底にはあります。大きなことを言うと、「紛争や難民をなくしたい」という想いも持っています。現在JICAスーダン事務所のスタッフですが、内戦がおさまらないため、現地への渡航が難しくエジプト・カイロからリモートで勤務しています。紛争や難民をなくすことは個人の力で達成されることではないですが、その中で自分は何ができるのか?を探しながらいまの仕事にも取り組んでいます。
ーー紛争や難民というところに注目されたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
遠藤)ボリビアの長期派遣の前の大学4年時に、やはり短期派遣でエチオピアへも行きました。そのときに初めて難民キャンプでサッカーを教えることがあり、「こういう境遇の人が本当にいるんだ」と実感を持ったことで関心を持ち始めました。ボリビアでの長期派遣中も経済破綻していたベネズエラからの難民を見かけることも多く、海外で活動していく上で避けては通れないことだと要所要所で感じたことがきっかけです。
ーー“自分は何ができるのか?”ともおっしゃっていましたが、どのような形で貢献したいという想いがありますか?
遠藤)近い将来、人道支援として直接彼らをサポートしたいと考えています。ただ今は、開発機関であるJICAで中長期的な目線で、どんなことが将来的に必要なのかということを模索しています。
国際協力を仕事に!
ーー遠藤さんが『国際協力』を仕事として行う中で、感じていることはありますか?
遠藤)日本では経験できないようなことをいろいろな現場で経験できています。見える世界も違うので、好奇心の強い私にとってはいい職業ですね(笑)。日本人の感覚では通じない部分も多々ありますが、こちらが寛容になって成長することもできるので、いいことばかりかもしれません(笑)。
ーーさまざまな世界を見た上に、ご自身の成長につながるのは素晴らしいことですね!今の仕事で悩まれていることはありますか?
遠藤)スーダンの紛争の関係で、現在はエジプトからリモートで仕事をしているので、現地の人とはほぼすべてオンラインのコミュニケーションになっています。人間関係の構築がオンラインで始めなければならず、現地の要望とこちらのできることと、本音の部分での話し合いがなかなかできないことが悩みですね。これはコロナ禍で多くの方が経験されたことではないかと思うので、、オンラインでの新しい人間関係の築き方について、さまざまな方にアドバイスいただけたら嬉しいです。
ーー昔の自分から見て、いまの人生はいかがですか?
遠藤)サッカーに打ち込んでいたころからは想像できない人生ですが、当時の自分から見ても“想像できなかった未来に飛び込んでいる自分”はとてもポジティブに見えると思います。これからもいろいろな人との縁を大事に、世界を飛び回っていろいろな経験をしていきたいです。
ーーありがとうございました!