2024年、ついに100回大会を迎える箱根駅伝(正式名称:東京箱根間往復大学駅伝競走)。
観客の熱狂と選手たちの足音が響き渡る、箱根駅伝の物語。100回目の節目を迎えるこの伝説の舞台では、さらなる興奮が待っていることでしょう。
記念大会である今年は、予選会の参加資格を関東の大学に制限せず、「日本学生陸上競技連合男子登録者」として全国に拡大。出場校は57校と過去最多、関東以外からは11校が参加し、上位13校に与えられる本選出場の切符を争います。
今回お話を伺ったのは、関西から予選会に出場する大阪経済大学陸上競技部監督の青木基泰さん(以下、青木)。大阪経済大学は、今年6月に行われた全日本大学駅伝の関西地区予選会で2年連続トップ通過を果たすなど、3年連続で出雲駅伝、全日本大学駅伝に出場する関西では言わずと知れた強豪校です。
自身も大阪経済大学の卒業生であり、関西で多くの学生を育ててきた青木さんから見た箱根駅伝とは?
箱根への憧れは学生時代から
ーー高校時代や大阪経済大学在学時、青木さんの目に箱根駅伝はどのように映っていましたか?
青木)私の時代でも“箱根”は憧れの駅伝でした。当時は日本体育大学が強く、高校時代の私も日体大に行きたくて、「箱根を走れなくても日体大のユニフォームが着たい」と高校の先生にお願いしたのですが、進学することは叶いませんでした。やはり強いチーム、そのユニフォームへの憧れから関東に行きたいという思いはありましたよね。
ーー青木さんも学生時代に全日本大学駅伝に出場され、関東の大学と競う機会もあったかと思います。
青木)そのときは、レベルが違うにしても、1人でも多くの相手に勝ちたいという気持ちを持ちながら走っていました。今の学生と同じです。
以前、全日本大学駅伝は1月の第3日曜日に開催されていて、私が在学中の4年間のうちの3回は九州の福岡大学が優勝していました。というのも、関東の大学は箱根駅伝が終わった2週間後のレースになり、ベストコンディションで挑めていなかったのです。その後、全日本が現在の11月に大会開催時期が変更されました。
当時は各地区秋にある学生駅伝が全日本大学駅伝の選考会となっていて、「関西学生駅伝で4位までに入ったら全日本に出場できる」という盛り上がりがありましたが、日程変更によりそれは少し薄れてしまっています。
ーー関東を中心に、箱根駅伝の影響力は大きいのですね。今年、箱根駅伝では第100回大会に向けて予選会でも関東の大学と戦って本戦の出場権を争うことになります。青木さんの中で、今回の箱根駅伝予選会への出場を意識されたのはいつ頃からですか?
青木)昨年(2022年)の全日本大学駅伝の予選会をトップ通過したときです。そのあとの取材の際に、「2023年の箱根駅伝の予選会に関西からも参加できるかもしれない」という情報を記者さんから伺ったのですが、それまでまったく「箱根駅伝に出場できるかも」ということは頭にありませんでした。
ーー箱根駅伝の予選会が出場可能になり、大阪経済大学の学生の反応はいかがでしたか?
青木)うちの学生は、「まったくと言っていいほど興味はない」という状況でした。大阪経済大学に入学してくる学生は、全国の中でトップクラスの選手ではありません。高校時代のタイムなどを比べても、その子たちからすれば別世界の大会で、自分とは縁がないものと思っています。もちろんマスコミに多く取り上げられていることでの“憧れ”もあるのだろうとは思いますが。
ーーそうなんですね。思ってもいなかった機会ではあるものの、だからこそあまり興味はなくなってしまっているのですね。
青木)実は、今年エントリーしていますが、レギュラーのメンバーが全員出場するわけではありません。
私個人としては、チームでまとまって、ベストメンバーで本戦出場にチャレンジしたかったという気持ちはあります。しかし、スケジュールを見ると、1週間前の出雲駅伝、予選会3週間後の全日本大学駅伝、その2週間後の関西学生駅伝と、この時期は多くの重要なレースを抱えています。出雲駅伝や全日本大学駅伝は、来年度の関西の出場枠にも関わるレースです。そう考えたときに、大阪経済大学としては全力で箱根で挑めないと判断し、レギュラー・登録選手以外で予選会を走りたいと意思表示してくれる選手が11名集まったため、エントリーをすることに決めました。
関東だけじゃない!盛り上がる関西学生長距離界
ーー大阪経済大学さんとしては、箱根駅伝にとらわれずに強化をしていることがよくわかります。
青木)年間スケジュールでいくと、まずは6月に行われる全日本大学駅伝の選考会が一番大きな山です。最近の関西は上位5、6校の力が拮抗しているので、まずはそこで勝たないといけません。京都産業大学、立命館大学、関西学院大学、関西大学、びわこ学院大学、大阪経済大学、このうちのどこが勝ってもおかしくない、熾烈な争いになっています。
ーー関西の学生長距離界も最近すごく盛り上がっているんですね!
青木)関西勢として全日本大学駅伝や出雲駅伝に出場し、「関東の学生と戦いたい」という気持ちの強い子が多いですし、数は多くないですが全国で通用するレベルの高校生が関西に残ってくれることも増えました。そういう選手たちがいることでチームのレベルも上がってきています。どの学校の指導者もかなり熱心になっていることもレベル向上とこの盛り上がりの大きな要因だと思います。
「社会に出るために」学生スポーツとして大事にしていくこと
ーー青木さんが学生たちを育てる上で信念として大事にされていることは何ですか。
青木)私は、卒業生として平日は会社勤めをしながら監督をしてきました。現在は、月に1,2回練習に行く程度で、日頃の指導は木村哲也ヘッドコーチに任せています。私が学生の指導を始めたときから大事に思い、学生によく伝えているのは「勝負に勝つことが最終目的じゃない」ということです。目標を立て、その目標に対して努力する習慣をつけることが大切で、人生における夢や、4年間の目標があり、それをいつまでに、どういうところまで達成するのか。今月は、今週は、今日は何をするか。そうしたことを個人個人で考えさせて応用力をつけていきたいですし、これこそが学生スポーツだと思っています。
その結果、目標に向かってどれだけ近づけたのか、あるいは達成できたかできなかったか、できなかったら何がダメだったのか自分で考えなさい。課題を見つけなさい。というコミュニケーションを取っています。一人ひとりに対して、こういうふうに持っていこうとか、もうちょっと今年はタイムを上げていこうとか、距離を伸ばそうとかスピード練習を増やそうなどの話をします。
自分に合うこと、足りないことを考えて、やっていく。社会人になって仕事にも活かせる応用力を選手たちにはこの部活を通して身につけてほしいです。
過去最強のチームで挑む今年の駅伝
ーー最後に今シーズンの駅伝シーズンの目標をお願いします!(取材日:10月6日)
青木)今年は昨年をも超える過去最強のチームです。突出したエースはいませんが、それをカバーできるチーム力がついていると思います。出雲駅伝、全日本大学駅伝では、1つでも関東のチームに勝ち、上の順位にいきたいですし、関西学生駅伝では初優勝を狙いたいです。今のところ大きな故障者もなく、夏合宿でもいい練習ができたので楽しみにしています。
また、今年10月1日から株式会社ハブとスポンサー契約をしました。駅伝シーズンからユニフォームの右胸のところにHUBのマークをつけます。こうして応援の輪が広がっていることを実感し、その責任感と感謝の気持ちを持って取り組んでいきたいです。
ーーありがとうございました!