「うまいねえ」「ナイス!」「あー、外れた」
名古屋市内にある名古屋クラウンホテルの大会議室。スーツや作業着姿の男女約170人が、白い球に向かって青と赤のボールを交互に投げあい、一喜一憂している姿、想像できるでしょうか?
フットサル・Fリーグ 名古屋オーシャンズのスポンサーでもある、建築設備会社の大冷工業株式会社。年に1度の全社会議で、社員全員でユニバーサルスポーツ『ボッチャ』を行いました。
ボッチャ大会開催の経緯や大会を通じて学んだこと、ビジネスにおけるスポーツの価値などについて、今回の企画の発案者である大冷工業株式会社取締役社長の大場章晴さん(以下、大場)、実行委員の成田貴治さん(以下、成田)、優勝チームを代表して橋本麻澄さん(以下、橋本)に話を伺いました。
全社員170名が集まる会議で「ボッチャ」を実施。その狙いは?
ーー創業記念日でもある4月19日、69年目の全社会議が行われました。全社員が集まるのは久しぶりだと伺いました。
大場)コロナ禍で中止や配信という形での開催が続いていたので、すべての社員が一堂に会しての全社会議は4年ぶりになります。
私は2022年12月に社長に就任しました。しかしその後、社員の皆さん全員の前で直接お話をさせてもらう機会を設けられていなかったので、コロナが落ち着いてきたこのタイミングに社員全員で集まりたいと考えました。
ーー今回「全社会議でユニバーサルスポーツを実施したい!」とSports for Socialにお声がけいただきました。なぜユニバーサルスポーツに着目されたのでしょうか。
大場)実は2020年のパラリンピックを全社員と協力会社である大親会の皆さんで観に行こうと計画していました。無観客開催になったため実現しなかったので、その代わりに『パラリンピック』『障がい者スポーツ』というキーワードで何かできないかと考えたのがきっかけです。
ーーダイバーシティを推進する企業は増えていますが、実際にパラスポーツを観に行く、障がい者と触れ合おうと行動を起こす例はそれほど多くありません。そこに至るにはどのような背景があったのでしょうか。
大場)私たち建設業界は、どうしても体を使う仕事、現場で働くということがメインの業種です。そのため、障がいのある方と働く機会がほとんどないと考えているのが現状です。
ですから、障がいのある方が日本を代表し世界の舞台で活躍している姿を見ることで、「あのようなすばらしい活躍ができるのだから、大冷工業でもきっと活躍できるだろう」という視点を持てるのではないか。それが、将来私たちの会社に多様性を持ったメンバーを受け入れるときのハードルを下げることにつながるのではないかと考えました。
スポーツはコミュニケーションツールになる
ーー実際に参加した社員の皆さんにもお話を伺っていきたいと思います。成田さん、橋本さんは、全社会議でボッチャをやると聞いた時、率直にどのように感じましたか。
橋本)正直に申し上げると、パラリンピックの種目は障がい者の方だけが行うスポーツというイメージを持っていました。ボッチャがみんなで一緒に楽しめる競技だというのは、今回初めて知りました。
成田)ボッチャをする目的が事前に伝わっていなかったので、今社長の話を聞いて、そういうことだったのかと理解しました。
私は採用に関わっていて、障がい者雇用や多様性理解を進めていましたので、そういう目的なのかなと推察はしていましたが、明確には共有していませんでした。
大場)目的については、各自で考えてほしいと思っていましたので、事前にはあえて伝えませんでした。
成田)そうだったのですね。運営・審判チームも「なんでやるのだろう?」と狙いを理解しないまま、とりあえず事前にルールを覚え、当日は会場設営し、運営をしたというのが実際のところです(笑)
ーー実際にボッチャをプレーしてみて、いかがでしたか。
大場)非常に盛り上がりましたね。図らずも、橋本さんたち総務の女性チームが優勝したのも良かったと感じています。普段は表に出ることが少ない、会社を裏方として支えてくださっているメンバーに光が当たることになったのはうれしいことです。
成田)仕事の現場では、経験や知識を持っているベテランと若手社員の差が出てきてしまいますが、ボッチャというユニバーサルスポーツにおいてはそうした差はまったくない。むしろ若い人の方がうまいです。皆が同等の立場で、勝つために協力し合う姿が見られました。
ーー体力の差、運動能力の差が出にくいのがボッチャのいいところですよね。
橋本)私は運動がすごく苦手で、走るのも泳ぐのもとにかくすべて苦手。もしも会社で運動会をやりますと言われたら応援する側にまわりたいタイプなのですが、私にもできる、勝てるスポーツがあるんだというのは発見でした。
ーー試合を重ねるごとにチーム内のコミュニケーションも増えて、それぞれのチームのカラーが見られたのもおもしろかったです。
橋本)私たちのチームは同じフロアで仕事をしているメンバーで、普段から話はしているのですが、一つの競技をみんなでやるということはこれまでなかったですし、みんなで話し合いながら楽しくプレーできました。仕事以外の話もたくさんできました。
先ほどの成田さんのお話にもありましたが、チームの中でも若いメンバーが特に上手で、やり方を教えてくれたり、チームを引っ張ってくれたのが頼もしかったです。
大場)審判のやり方も、それぞれの個性が出ていて面白かったですね。審判らしく振る舞う人がいれば、チームの一員のようにコミュニケーションをとりながら楽しい場を作っていく人もいました。
また、勝ち負けがあることは、大事な要素だとも感じました。これまでも社員旅行や懇親会など、みんなで楽しむ機会はあったのですが、社内で競う経験はありませんでした。一つの勝ちに向かって取り組むと、意外とみんな燃えるんだなというのは今回の発見でした。
ーー全社会議のあと、会社の雰囲気に変化はありましたか。
橋本)他の部署の方と電話で話す際に、「昨日は楽しかったですね」と話をしたり、同じチームのメンバーとも「昨日はすごかったね」と言葉を交わしたり、ボッチャが会話のきっかけになりました。
ボッチャを通じて、仕事では関わりの少ない部署、事業所の方とも話すことができたので、またこういう機会があればうれしいです。
ビジネスに活かせるスポーツの価値とは?
ーー今回の経験を踏まえて、ユニバーサルスポーツを企業の研修に活用する可能性をどのように感じましたか。
大場)新入社員の研修や、各部署に新しいメンバーが入ってきた時のアイスブレイクとして活用しやすいと感じました。試合時間が短いのも取り入れやすいポイントだと思います。
今回は、全社員でボッチャを体験することを中心に進行していただきましたが、各社員がボッチャ体験を通じて学んだことを振り返る時間を取り入れても良いかもしれません。
ーーたしかにそうですね!ボッチャを体験していただく前に「なぜ今回ボッチャをやるのか」の説明の時間はありましたが、体験後に社員の皆様が実際にやってみてどうだったのか、ユニバーサルスポーツを通じてどのようなことを学ぶことができたのかを社員同士で共有すると、さらに有意義な時間になると思います。
ーー大冷工業はフットサルFリーグの名古屋オーシャンズのスポンサーをされるなど、これまでもスポーツとの関わりを持ってきました。ビジネスにおけるスポーツの価値をどのように捉えていらっしゃいますか。
大場)私がスポーツに着目している理由の一つはチームワークです。例えば、フットサルは5人、サッカーは11人でプレーしますので、一人の選手がボールに触る時間はわずか数分です。それでもみんなで走る。無駄な努力かもしれないけれど全員で走り続けることが最終的な結果につながっていきます。
私たちの仕事も同様に、チームで行わなければお客様に価値を提供できません。チームワークが大事であるという部分で共通点がありますし、それが名古屋オーシャンズをサポートしている理由でもあります。
そうした観点から考えても、学生時代に運動部に所属していた人の方が我々の業種にはマッチしやすいと感じています。そのため、弊社ではスポーツ経験者を積極的に採用しています。今年の新入社員3名も全員、運動部に所属していました。
さらに、いわゆる健康経営の面。長く働くためには、心身ともにしっかりとした土台を作らなければいけません。その点において、スポーツの果たす役割は大きいと思っています。
弊社は来年70周年を迎えます。これまでは「お客様の事業繁栄の一翼を担う」ことを企業理念に掲げ、お客様主体の経営を行なってきました。ですが、お客様に価値を提供するためには、我々自身が元気で、笑顔でいることが不可欠です。100周年に向けたこれからの30年間は、お客様の繁栄に加えて、従業員や協力会社の方々がいかに笑顔で仕事をできるかを大切にしていきたいと考えています。その意味でも、スポーツには大きな可能性を感じています。
編集より
170名で、会議室で行うボッチャ大会。ボッチャというスポーツが、多くの人の盛り上がりを生む、素晴らしいコミュニケーションツールになることを大冷工業株式会社の社員さん一人ひとりが証明してくれていました。
「ボッチャって何?」と思っていた社員の方も多くいたはずですが、目の前のことに真剣に向き合って臨む姿勢が、新たな刺激や学びを得るのだと教えていただいた気がします。
“障がい者理解”“多様性”などの難しい話ではなく、「ボッチャまたやりたい!」「あの人とボッチャしたら楽しそう!」といつかどこかで大冷工業の社員の皆さんが思っていただける、そんなイベントになっていたら嬉しく思います。(柳井)