Sports for Socialでは、骨髄バンク普及のために活動する方々の『想い』を取り上げ、発信しています。
今回は、骨髄バンク本部で骨髄バンクの普及啓発・ドナー登録の推進活動・ドナー休暇制度の推進などに取り組んでいる渡辺さん。浜松医療センターで移植を担当する医師の内藤先生、造血細胞移植コーディネーターで看護師の伊藤さん。それぞれの立場からどのような支援をしているのかをお伺いしました。
造血細胞移植コーディネーターとは?
ーー病院内で造血細胞移植コーディネーターとして活動されている伊藤さんは、移植が必要となった患者さんとどのような関わり方をされているのでしょうか?
伊藤)まず、患者さんとご家族に移植について説明します。厳しい部分も含めて、移植をしようと思えるかどうかを確認して、検査をして、ドナーさんを探すという流れで動いています。
内藤)移植する場合、患者さんのHLA型を合わせる必要があります。その型が兄弟と合うのか、骨髄バンクで探すのか、という移植を検討する段階からコーディネーターが関わってくれています。
ーー実際に移植をされる方はどのくらいいらっしゃるんですか?
内藤)患者さんの高齢化も進んでいるので、以前より移植をする方は減った印象があります。60代までの方でしたら、半分以上は移植に進んでいます。
ーー骨髄バンクでドナーを探される方もやはり多くいらっしゃるのですよね。
内藤)HLAの型が兄弟で合わない可能性は75%で、兄弟で型が合わなかった場合は骨髄バンクや臍帯血バンクというところからドナー候補になる方を探さないといけない状況になります。
ーー移植するまでのスピード感は大事なものだと思うのですが、いかがでしょうか?
内藤)本当にその通りです。適切な時期に移植ができれば、移植後の経過にも関わってきます。骨髄バンクとしても、コーディネート期間を短くするための取り組みをしてくださっていますが、移植を希望してから、早くても3〜4ヵ月かかっているのが現状ですね。
ーー待機している間の患者さんも、精神面では不安も抱えていらっしゃると思います。
伊藤)私は患者さんに近い立場でお話するのですが、患者さんは、候補が上がってきている期間は希望を持って、決まるのを待っているんじゃないかなと思います。その間に自分自身の治療が入ってきますし、移植に向けて体力をつけようと、移植に向けて今やれることを精一杯行いながらドナーが決まるのを待ってる感じですね。
候補者が多いと、私たちとしても期待を持って待っていられます。なかなか見つからないときは、祈るような思いで待ちますね。
ーーそうした不安に寄り添って、同じように思ってくれるコーディネーターさんや病院の皆さんがいることは、少しでも心強さに繋がりますね。
少しでも負担を短くしたい。常に工夫し続ける骨髄バンク
ーー私たちが骨髄バンクに登録したあと、適合した場合はどのように通知が来るのですか?
渡辺)以前は患者さんとの適合通知を郵送で送っていました。適合者からの回答を受け、患者さんがコーディネートを希望すると、アンケート内容やドナーさんの健康上のこと、家族の同意を地区事務局が確認します。確認が終わると、コーディネーターという連絡調整係が、ドナーさんの確認検査日程を調整します。
先ほど内藤先生からあったように、少しでもよい時期に移植できるようにこの期間を短くすることが大切です。近年、ショートメールでの通知を導入するなど、初期段階のコーディネート期間短縮に向けて工夫を重ねています。
ーー渡辺さんのような骨髄バンク本部のコーディネーターと、伊藤さんのような病院内の造血細胞移植コーディネーターはどのように関わっているのでしょうか?
渡辺)もともとは院内コーディネーターという制度がなく、骨髄バンクのコーディネーターと血液内科の先生が、直接やり取りをしていました。ですが、検査の調整や必要書類など、医師への負担が大きくなってしまっていました。造血細胞移植コーディネーターの制度ができてからは、そういった部分での医師への負担が減り、骨髄バンク本部としても事務作業がしやすくなりました。
ーードナー登録する上で知っておくべきことはありますか?
渡辺)今はおおよそ2人に1人、50数%の患者さんしか移植を受けられていない状況です。移植が受けられないのは、ドナーが見つからない、コーディネート期間が長い、適合しても採取まで進むことができないドナーが多いのが主な理由です。
ーー採取まで進むことができないというのはどのような理由なのでしょうか?
渡辺)ドナーとして採取を実行するためには、平日の日中に通院していただいて、骨髄だと3泊4日、末梢血だと6泊7日ぐらいの入院をしてもらう必要があり、お勤めの方は会社を10日以上休まなければならないケースが非常に多いです。「都合がつかない」ということで、年間3,700人を超える方が適合通知の案内を断っています。
さまざまな環境の整備がないとなかなか提供に結びつかない問題もあります。私自身、長い間、採取のためのドナー休暇制度導入を推進しているのですが、ドナー休暇を取り入れている会社は全国で約700社にとどまっています。
“提供できる方に登録してもらいたい”という想いもあるので、ただ登録者を増やすのではなく、そういった長期休暇を取る必要があることや入院・通院など、さまざまなことを理解して登録していただくことが重要だと思います。
ーー理解してもらうことはとても大切ですね。
渡辺)そうですね。もう一つ大切なのは、若い方の登録を増やすことです。登録者の4分の1を占める方々は、46〜56歳で12万5000人ほどいらっしゃいます。そのため、5年後10年後には、ドナー数の大幅な縮小が懸念されています。
若いドナーは、生活習慣病になっている方が少なく、実際に若いドナーからの移植の方が治療成績がよいという結果もあります。ですので、バンクとしては若い方にドナー登録していただけるよう、広報施策を一生懸命考えております。
ーー現実的に大変な部分もあるわけですが、実際にドナーになられた方はどのような思いで臨んでいるのでしょうか?
伊藤)ドナーさんは献血が好きな方が多く、奉仕の心が強いんだと思います。また、自分が役に立ったんだという思いを強く持ってくれていますね。あるドナーさんは、入院中に、偶然ロビーで治療途中の患者さんや移植前の患者さんと話して、感謝されたことがあったようです。ドナーさんは入院が初めてという方が多く、楽しみに来られる方も多いです。
ーードナーになれる基準を教えてください。
内藤)病気ではないということであれば、チャンスはあると考えていただいて大丈夫です。実際コーディネートが始まると、確認検査で採血をさせていただいたり、診察を行ったりします。その結果が良ければ、レントゲンや心電図を撮ったり、呼吸機能を見たり、細かい検査をします。ですので、最初のハードルを上げすぎず、登録をしていただくというのもやはり大事なのかなと思いますね。
※詳しい骨髄バンクドナーの基準(参考)
- 日本骨髄バンクHP(https://www.jmdp.or.jp/)
- 一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会HP内の移植に関わる医療者のページ(https://www.jstct.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=3)
ーー入院中はどのような流れになるのでしょうか?
内藤)骨髄採取は多くの場合、3泊4日ほどの入院になります。採取の前日に入院をしていただいて、入院2日目の朝から採取して、12時頃には病棟に戻ります。15時頃まで横になって安静にしていただいた後は、ベッドから起きて動いてもらっていいようになりますので、制限がかかる時間はそれほど長くないかなと思います。
全身麻酔をかけますので、採取後に2日間ほど入院していただいて、状態を見たり採血をしたりします。骨髄採取の場合だと腰に針を刺すため、採取して1週間ほどは、激しい運動や腰に負担のかかるような動きは避けていただいたほうがいいですね。
ーーテレワークが導入されている会社も多いと思うのですが、入院中に仕事はできるのでしょうか?
内藤)浜松医療センターにはWiFi環境がないので、ご自身でモバイルWiFiを持ってきていただければ、基本的に個室ですので、電子機器を使っても大丈夫です。
渡辺)実際に「病院で仕事できますか?」という質問をいただくことも多いのですが、できない可能性もあります。基本的には個室の病院が多いのですが、そうでない施設もありますし、ご自身が麻酔から覚めてすぐ体調がいいかどうかもわかりません。ドクターから安静にしてくださいという指示が出る可能性もあります。
ですので、WiFiがある病院は増えていますが、仕事に関してはできない可能性もあるということは理解しておいていただきたいです。
ーーリアルなことを知っていただくのは大事ですよね。それでは最後に、お一人ずつメッセージをお願いします。
渡辺)骨髄バンクの知名度としては、最近のネット調査で5割を切っています。大変なことだけど、誰かを助けられるかもしれないという気持ちで登録していただければと思います。
一方で、提供したドナーさんがよく口にされるのが患者さんへの感謝なんですね。大きな達成感を得られたという方と多いので、そういった前向きな情報も伝えていければと思います。
伊藤)患者さんにとっては、ドナーさんから提供していただけるのがすごく大きな励みになっています。移植するにあたって、ご兄弟と合わなければ、骨髄バンクのドナーさんがいるというのが彼らの“期待”になります。
大変な治療なので、患者さん自身もがんばって乗り越えようとがんばっています。患者さんやご家族にとっての生きていける喜びは、私たちには計り知れないものだと思っています。ちょっとでもやってみようかなと思ったら、ご登録いただけたらと思います。
内藤)ドナーさんが見つかることによって、本当に命が救われるのを目の当たりに見てますので、そこをもう少し多くの方に知っていただきたいです。実際ドナーさん側から見ても、提供することでの達成感や本当にいいことをしたなと思う方が多いかなと思います。
少しハードルが高い部分もありますが、患者さんのメリットやドナーさん側の満足感、そういったことを中心に広く啓蒙し、ドナー登録者を増やしたいと思っております。
ーーありがとうございました!