私たちの想い

難民問題を考える~パラリンピック選手 イブラヒム・アル・フセイン~

アスロス財団

トルコ南部を震源とするトルコ・シリア地震で、被災した障害のある難民を支援するため、アスロス財団では寄付を呼び掛けています。

寄付はこちらでクレジットカードで受付。銀行振込は三菱UFJ銀行大伝馬町支店、普通口座0507918、名義「一般社団法人スポーツボランティア協会」。問い合わせは同協会(info@sports-volunteer.com)まで。

オリンピックは国を代表して出場するもの。では、難民の人たちはこの世界の祭典に出ることはできないのでしょうか?

2021年に行われた、東京パラリンピック。開会式でも閉会式でも最初に入場したのは、『難民選手団』でした。その中の、イブラヒム・アル・フセイン選手(以下、イブラヒム)は、シリア出身で内戦から逃れ、現在はギリシャに居住しています。

難民であり、内戦で右足を失った身体障がい者でもあるイブラヒム。そんな彼が放つメッセージは、前向きで、生きる力に溢れています。

今回は、文京区青少年プラザ(b-lab)からオンラインで行われたイベントを元に、イブラヒムからのメッセージを紐解いていきます。

イブラヒム・アル・フセイン 水泳に再び取り組むきっかけ

イブラヒムは、シリアで2011年以降に起きた内戦で、右足を失いました。その後、治療もなにもできない状態で、なんとか地中海を渡ってギリシャに移り7年目。幼いころから取り組んでいた水泳に再び取り組みはじめ、また、難民選手で構成された車いすバスケットボールチームでも活動をしています。

そんな彼に、文京区青少年プラザ(b-lab)の中高生が質問を投げかけます。

b-lab)小さなころから水泳に取り組んでいたと記事を拝見しました。難民になり、また水泳に取り組もうと思ったのにはどのような理由があるのですか?

イブラヒム)私は戦争で足を失って難民になりました。それは大変厳しい体験でした。たくさん自分と同じような難民、戦争で障がいを負った人たちがものすごくたくさんいて、そういう人たちがほとんどがもう絶望的な状況にありました。

そんな彼らが、『以前のように元気な生活に戻れるようなものは何か?』と考え、それが自分とっては、かつて取り組んでいたスポーツ・水泳でした。水泳に自分が取り組んでまわりも巻き込むことが、彼らがスポーツを通して社会にもう一度戻っていくきっかけになるのではないかと思っていました。

多くの難民の障がい者の人たちは、本当に悲観的になっていましたが、その中で自分は少し楽観的な力があったので、きっと何かができると自分を信じていました。自分自身が人生を変えるということ、実現すること、その姿を見せることで、悲観的な人たちをポジティブに変えられるのではないかと強く信じていました。さらに、パラリンピックに出場することが世界に対してのメッセージにもなると思い、世界の舞台にも挑戦しました。

イブラヒム

自分のことを障がい者とみていない

b-lab)イブラヒムさんにとって、今のこの世の中は障がいを持って生きていく上で優しい社会だと思いますか?

イブラヒム)私の住んでいるギリシャにおいては、障がい者にとって優しい部分もちゃんとあります。シリアなどのアラブ諸国は、障がい者にとってネガティブな見方、何もできないというように障がい者を決めつける視点がありました。先進国では、障がい者でもきっちりと役割を持って生きていると思いますが、アラブ諸国の中では、家の中に閉じこもって誰とも話さずに過ごすような状況もあります。

b-lab)障がいをもつようになってから、どのように自分のことを捉えていますか?障がいを持つ前と後で、ネガティブになるようなことはありませんでしたか?

イブラヒム)まず私自身、自分のことを障がい者と見ていません。そして、以前よりも自分は力があると感じているんです。それはどのような力かというと、内なる力、前よりもその目標を果たそうという思いが強くなっていることです。課題を乗り越えていこうという力が強くなってるという意味で、自分は前よりも強いと思っています。

イブラヒム

b-lab)『強くなった』というのは、メンタルの部分で強くなったということなのですか?

イブラヒム)そうですね。私は体力ですら『内からの力』が影響していると考えています。例えば情熱ですね。「絶対やるんだ!」という決意などは、内側から外の力にも影響していくというふうに考えています。メンタルという言い方もできるかもしれませんが、自分はそれすらも外の力、つまり体力にも影響すると考えています。

前向きな発信ができるまで

b-lab)イブラヒムさんは、このような前向きな発信を多くされていると思います。そうなれたのには、なにかきっかけがあったのですか?

イブラヒム)自分は元々ポジティブな人間ですが、何か困っている人を助けるということが自分に力をくれるきっかけになりました。今日も日本の若者がこうして私の話を聞いてくれている、それが何かの役に立つかもしれない、そうした想いがすごく私に力を与えてくれています。

パラリンピックに出場したときも「難民の障がい者としてのメッセージを届けるんだ!」というその想いが、勇気や力になっていました。

今では、このような想いから、アスロス財団というチームを通して、難民の障がい者の人をスポーツの力で前向きに持っていけないかと考えています。自分が誰かのために何かを出来ている、ということが、大きく自分の中の力を生み出し、ポジティブにいることこできる理由になっています。

イブラヒム

b-lab)社会生活に溶け込んでいく中で一番苦労したのはどのようなことですか?

イブラヒム)私がギリシャに行ったときに、難民として言葉もわからない・知ってる人も誰もいない・文化も知らない、その中で生活していかなければならないという、障がいよりも難民として辛さがありました。
障がいという面では、問題だと言うか困難だと思っているのは『社会からの視点』ですね。障がい者だとこのような枠、と決まっているように感じていました。
こうしたときに、障がい者のすべてを助けてあげようとするのではなく、その障がいを抱えた人が今どうやって生きてどうやって前に歩いて行くか、ということを少しずつ少しずつ促すということが必要だと思っています。

b-lab)さきほど「障がいを持っているとは思っていない」とおっしゃっていたのが、私としてはすごく考えさせられています。
イブラヒムさんからみて、本当の意味でそうした難民や障がいなどの問題に対応してる社会というのは、どのような社会だと考えられていますか?

イブラヒム)答えるのも少し難しいですが、社会活動してくる中にどれだけの多様性があるか、ということが本当のダイバーシティだと思っています。障がい者であっても、他の立場の人であっても、その権利を表明し、それを実行できる立場にもいるというような社会が、私の考えるダイバーシティだと思っています。

イブラヒム

b-lab)ありがとうございます。私の中では、難民や障がい者の方に「どう接したらいいんだろう」という気持ちが正直あるのですが、イブラヒムさんはどうお考えですか?

イブラヒム)障がい者に対して私が一番支援になると思う、あるいは私にもやってほしいと思うことは、『その人ができることはその人にやってもらう』という姿勢で向き合ってもらうことかなと思っています。『その人自身もその人らしくさせる』ということです。もちろん助けが必要な場面もありますが、その新しい環境の中で彼ができること、彼が慣れていけるようなことに関しては、その人に任せる姿勢で向き合ってもらうことが、自分にとっては一番嬉しいことであり、障がい者にとって支援になると思っています。

車いすバスケットボールチームを通して描く未来

b-lab)イブラヒムさんは、車いすバスケットボールチームを通して、どのような未来を描いていますか?

イブラヒム)すべての難民、障がい者の人がスポーツの才能を持っているかと言われればそうではないし、みんながスポーツが好きかと言われればそうではないので、スポーツに関わるゴールというのもそれぞれによって違うと考えています。

自分が取り組む車いすバスケットボールチームの一番の目的は、世界で活躍することで難民の障がい者への関心を集めたいということです。難民の障がい者であっても世界に立てるのだっていうことを見せ、その希望を多くの人に知ってほしいと思っています。

もう1つは、スポーツを通して、難民の障がい者の人たちが世間に溶け込んだり、自立できるお手伝いをするということも大事だと考えています。

イブラヒム

中学生・高校生の感想

このお話を聞いた中学生・高校生の感想を一部抜粋して掲載します!

高校生)一番印象的なのは、イブラヒムさんがすごくポジティブな方だということです。多くの人が人を助けたいとか、誰かの手助けをしたいという気持ちはありながら、それを表現しようとしない人は多いと思うのですが、イブラヒムさんのように、パラリンピックに出場して世界に自分の気持ちを伝えたい、という行動を知り素晴らしいことだなと思いました。改めて僕たちの自分の環境だったり周りの多様な環境に考えるきっかけをくれたなと思いました。こういう機会をいただいてありがとうございます。

中学生)こんなにも他の人のことまで考えて行動できる人っていないな、と思いました。たくさん辛い経験をしたイブラヒム選手だからこそ言える言葉だったと思うし、イブラヒムさんだからこそ、私たちにその想いがすごく届くんだろうなと感じました。イブラヒム選手は他の人が難民の方々が元気になることが、自分の元気の源だっておっしゃってて、それをもっと発信していきたいっておっしゃってたこともすごく印象的でした。

アスロス財団とは?

アスロス財団(ATHLOS FOUDATION)は、障がいのある難民をスポーツの力で支援する非営利団体です。難民のパラアスリートである、イブラヒムさんが立ち上げに関わり、2020年に設立されました。

アスロス財団の日本チームでは、今後の活動に向け競技用と日常用車椅子3台を支援したり、企業でのイベントや各種メディア露出をサポートしています。

アスロス財団 HP

 

 

 

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