2022年6月7日(火)〜 6月9日(木)にかけて行われる、スポーツ×社会貢献のオンラインイベント「Sports for Social Summit 2022 summer」。その見どころをセッション毎に紹介していきます。
Session.4は「介護の未来を考える!〜スポーツと介護の関わり〜」。
登壇者の上条百里奈さん(介護福祉士/モデル)、瀬沼優司さん(現役Jリーガー 栃木SC所属/株式会社セヌー 取締役)、小野真由美さん(元ホッケー女子日本代表/SOMPOケア株式会社 広報)とSports for Social代表の山﨑蓮がセッションの事前打ち合わせを行いました。
介護の世界と一般社会は分かれている
山﨑)みなさんが介護に関わることになったきっかけと、その時の介護に対するイメージを教えてください。
瀬沼)僕の場合は姉が介護の仕事をしていたのがきっかけです。朝早くに家を出発して、夜遅くに帰ってくるというサイクルを間近でみて、とても大変な職業なんだなという印象を持ちました。
いつしか、働く人が働きやすい理想の介護現場をつくりたいと思うようになり、姉とは「いつか自分たちの事業所を持ってやれたらいいね」という話をしていました。そして、今年の2月に実現に至りました。まだできたばかりの小さな事業所ですが、一緒に働いてくださる仲間と共に努力しながら日々頑張っています。
小野)私の場合は、この会社に入るまで介護との関わりはありませんでした。まだ資格も持っていないですし、現場のことも無知ではありますが、広報部員として自分ができることは「介護現場で働く人たちの価値を上げていく」ということだと使命感をもって取り組んでいます。
新入社員の取材をすることがあるのですが、「日本の介護を変えていきたい」であったり、「世界に日本の介護を発信していきたいんだ」という、高い志をもった有望な新入社員がたくさんいます。彼ら彼女たちの夢や目標を聞いていると、介護の未来は明るいなという印象を持っています。こういう人材がいるということを社内だけではなく、社外に向けても発信していきたいと思っています。
介護職は離職率が高いと言われている業界ですが、弊社の離職率も5年前は20%近かったところから、現在は10%ほどに下がってきています。特に若い人を中心に、介護に対する考え方であったり、捉え方が変わってきているのかなっていうのは思っています。
私としては、今までのアスリートキャリアの経験を活かし、事業所のホームを回ってご入居様と体操やホッケーをやっています。ご入居者様と接する時間というのは私にとっても新鮮ですし、笑顔になっていただくことで、本当に私自身も嬉しくて幸せな気持ちになれます。
上条)私から一つ質問があるのですが、お二人は、もともと介護業界に対して3K(きつい、汚い、危険)というイメージがあって介護業界に入りましたか?実際の現場に近いところに携わるようになり、どのような心境の変化があったのかは聞いてみたいです。
瀬沼)元々介護に詳しくはなかったので、「3Kという言葉」も以前山﨑さんに取材をしていただいたときにはじめて知りました。ただ、大変な仕事ということは認識していましたし、働く方へのリスペクトもありました。具体的な大変さというのはこの仕事に関わるようになってから見えてきました。
客観的に見たイメージでは、忙しそうだなという印象です。
小野)私はコロナの影響で現場に人が足りないということで、3週間ほどサービス付き高齢者住宅に行ったことがあります。私は資格がないので、配膳下膳や消毒作業などの業務がメインでしたが、当然、ケアをされるスタッフの皆さんは排泄や入浴だったりをされていて、その時はじめて介護度の高い方のケアを間近で見ました。
皆さん手慣れていて、介助も本当にスムーズでした。その上、入居者様に対しては常に笑顔で接していて、私からしたらこの状況で笑顔になれるスタッフの皆さんはすごいなと思いましたね。
上条)ありがとうございます。とても前向きで、介護職が聞いたら喜ぶお話で嬉しかったです。
「介護の世界」と「一般の社会」が分かれているように感じている方は多いですよね。でも本来は、介護っていう言葉が生まれる前から介護というのはずっとあって、町の長老を若者が支えることは昔からやってきたことです。でもどこか、時代と共に「高齢者」「要介護者」というように分けるような文化になり、共生社会ではなくなってしまいました。この断裂に課題があるのかもしれないと思いました。
そう思ったのは、私が初めて職業体験として介護の現場に行った中学2年生の時です。そこで、車椅子のおばあちゃんや認知症のおばあちゃんに初めて出会いました。おばあちゃんたちと話をするのがとても楽しくて嬉しくて。でも同時に、それまで車椅子に乗っている人にも認知症にも会ったことがなかったので、なんでこの人たちはこの箱の中にいなければならないのだろう?という違和感を抱きました。少し伝わりにくい表現かもしれませんが、もっと小さい頃から機会があっても良いはずだし、知っていても良いはずなのに、そこ(老人ホーム)に行かなければ会えない特別な人というのが衝撃的だったんですよ。そのギャップに違和感があり、中学性の頃は平日は学校に行き、土日は老人ホームに通うっていう変な中学生でした(笑)
山﨑)たしかに、中学生で土日に老人ホームに通っていた方にははじめてお会いしました(笑)上条さんは、いわゆる3Kのようなイメージは最初から無かったということですか?
上条)そうですね、最初からありませんでした。
それ以上に要介護高齢者の方から学ぶことがたくさんありました。当時、中学2年生の私は介護のお手伝いといっても何の役にもたっていなくて、そんな自分にヤキモキしていたのですが、おばあちゃんたちからは「いてくれてありがとう」であったり、「お茶を飲んでいきな」と言ってもらいました。私への優しさだったんですよね。
普段は自由に外にも出られないし、お薬もたくさん飲まなくてはいけない、身体中が痛い、家族にも会えない…。そんな状況で生きているのに人に優しくしようと思えるんだ、この人たちは本当にすごいなと尊敬の眼差しでみていました。
山﨑)上条さんのように、若いときに介護に触れ合う機会があると印象が変わるのかもしれませんね。
上条)現在、大学で「認知症ケア」という分野を教えてるのですが、とある後輩が興奮気味にこんなことを言ってきました。
「上条さん、認知症ケアなんてないじゃないか。なんでみんな認知症ケアと言うんだ」と。私からみると、その後輩は認知症のおじいちゃんおばあちゃんに対してのケアが上手なんですよ。
でも、その後輩は、人として接しているだけなのになぜ“認知症ケア“という言葉を使うんだという主張をしていました。
確かに、認知症ケアという言葉がなくても、人として当たり前に接することができたら、認知症ケアって言葉がなくなるんじゃないかと、そうなっていくことが私たち介護業界に携わる人が目指すべきところだと思いますね。
触れ合う時間が無かっただけで、時間さえあればみんなそれとなくできる。もちろん専門的なところもありますが、「車いすの段差を上げてあげる」など、誰でもできることはたくさんあります。そういう機会をつくっていきたいです。
スポーツは“高齢者の応援したい気持ち”を後押しする
山﨑)今回はアスリートのお二人にも参加していただいてますが、上条さんはスポーツと介護の相性や親和性についてどのようにお考えですか?
上条)とても相性がいいなと思っています。ずっと待ってたんですねそういうの(笑)
介護施設では、レクリエーションなど、要介護者の方の活動量を増やしていくことが必要です。
ただ、足は重いし、色々なところが痛いし、面倒くさいので体を一歩動かすこと自体が難しいんです。その中で、体を動かす楽しみを知っているスポーツ業界のノウハウは絶対に活かされると思っています。
まず元気が良いですよね。声が届くというのはすごく大切なことです。
あともう一つは「応援する喜び」です。
おじいちゃんやおばあちゃんたちも“何かされるよりも何かしてあげたい”という気持ちをずっと持っているんですね。
要介護者は、言葉の通り支えられる側の人なのですが、私は支える側でもいられると思っています。子どもを支える1人の大人としてカウントできるような環境作りが、これからキーワードになってくると思っています。
少子高齢化は、少ない子どもでたくさんの高齢者を支えなければいけないと思われていますが、高齢者も子どもたちを支えられる1人の大人なんだというところをつくっていく意味では、例えば、アスリートの方を応援できるとか、何かできるものがあるとだいぶ変わってくるんじゃないかなと思います。
山﨑)すごく共感できます。瀬沼さんや小野さんも、応援される喜びを他の人以上に味わってると思うんですけど、そういうのってパワーになったりしますよね。
小野)アスリートにとって、応援していただけることは間違いなく幸せですよね。
瀬沼)僕は、ご利用者様やケアマネージャーさんに対して、チームに関連する物をお渡しして挨拶しています。
こちら側は感謝の気持ちや会社やメンバーのことを知っていただくためにやっていたことですが、上条さんの「高齢者の方も応援したいという気持ちを持ってる」って話を聞いて、お互いに嬉しいことなんだなっていうのが分かりました。
介護もスポーツも大切なのは“チームづくりと共通言語”
上条)お二人にお聞きしたいのですが、「労働側の支援とケア」をしたいとおっしゃっていましたよね。介護は単独プレーというは難しく、チームプレーでやっていかなければなりません。そうした中で、チームの心理的安全性や働く人のウェルビーイングの向上は鍵になってきます。その点、スポーツチームはチームづくりなどのノウハウは豊富にあると思っていまして、お二人が考える“チームの話”はとても参考になるのではないかと考えています。
瀬沼)まだ始まったばかりの事業所なので、言えることは少ないですが、これまでサッカーをしてきた中で、チームワークはすごく重要だと思います。創業した訪問介護の事業所も、チームワークは最も大事にしている部分です。最初は、ミーティングの回数を多く設定して、細かいコミュニケーションを取るようにしているのと、各メンバーに対しても日々連絡を取るようにしています。細かいメンタルの変化なども察知できるようになるべく対話時間を増やしたいと思っていますし、相談できる環境というのが大事だと思っています。また、創業間もないので、この会社のビジョンや大切にしていることを日々伝えていくことを意識しています。
上条)ありがとうございます。
スポーツチームのチーム編成やコミュニケーション方法などは介護の現場にも展開できそうだなと感じました。瀬沼さんのお話を聞いて、ミーティングの回数を増やす、情報共有を徹底することはすごく大事だなと思って、私たちには足りていないと…。
小野さんからも自分のチームで大事にしていたことなどあれば教えてください。
小野)私の場合、まだ介護現場のチームを見ているわけではありませんが、どの業界にも優秀なリーダーは必要ですよね。
私も長年日本代表でプレーをさせてもらい、たくさんの指導者の姿をみてきました。指導者をリスペクトできるかどうかで、チームの一体感は変わってきます。
日本代表で指導をしてもらったヘッドコーチもそれぞれ特徴があります。あくまで、自分の基準にはなりますが、日本人指導者には叱って指導していくスタイルの方がとても多い印象です。
最後に指導をうけたヘッドコーチがオーストラリア人の方だったのですが、彼はすごくチーム作りが上手な方でした。上から目線で話をするのではなく、常にフラットを意識したコミュニケーションだったんですね。彼は理想を常に私たちに共有し、目線をあわせることに時間をつかっていました。
もちろん勝負の世界ですので、勝たなくてはいけません。足りないところがあれば叱咤もします。でも、絶対にその人が嫌な思いをしないように、1対1の場を用意するなど心のケアを大切にしている方でした。
1人1人をちゃんと大切にしてる姿を見せてもらえると、選手もやっぱり1人の人間なので、誰かを大切にしようとしていくんですね。なので、上に立つ人間がどれだけ人を大切にする姿を見せられるかっていうのがチーム力を変えていく一番の力になるのかなと思っています。
当然のことながら、スキルを教えていくことは必要です。これは介護現場でも同じですよね。スキルは必要ですが、そのスキルを上げるために「人間性」というものは欠かせません。
私は現在監督をしていますが、この人間性という部分に重きを置いて指導をしています。
上条)ありがとうございました。すごく勉強になりました。
介護の知識や技術があっても、組織がうまくいってなくて現場が破綻しているところがたくさんあるんですよ。技術や知識だけではダメで、人間性やチーム力というのはとても大切だと感じます。
山﨑)瀬沼さんの会社で掲げている企業理念はとても素敵ですよ。すごくサッカーっぽい言葉選びをしている印象をうけたのですが、これってビジネスの世界でもすごく重要だなと思いました。きっとそこに親和性があると。
社員の方と、共通ビジョン・共通言語を持つことはこういう業界だからこそ必要なことかもしれません。この部分は是非当日にお話してもらいたいないと。
瀬沼)そうですね。今日お話をさせていただいて、僕自身も本当に勉強になりました。改めて、組織とチーム力の大切さを感じさせていただいたので、向かっていく方向は間違っていなかったなって少し自信になったところもありますし、またそこを突き詰めていけたらなって感じました。
▼チケットはこちらから
https://sports-for-social-summit2022summer.peatix.com
▼特設ページはこちら
https://www.sports-for-social.com/summit/
◆Session.4 概要
6月7日(火)20:00~20:50
タイトル「介護の未来を考える!〜スポーツと介護の関わり〜」
登壇者:
上条 百里奈(介護福祉士/モデル)
瀬沼 優司(現役Jリーガー・栃木SC所属/株式会社セヌー 取締役)
小野 真由美(元ホッケー女子日本代表/SOMPOケア広報)
山﨑 蓮(Sports for Social/株式会社HAMONZ 代表取締役)