東京パラリンピック2020に、難民選手団の一員として出場したイブラヒム・アル・フセインさん。障がいを抱える難民を支援するアスロス財団として、文京区の中高生への講演会なども行いました。
そんな彼が、2022年6月に再来日。昨年は叶わなかった、日本の方たちとの直接の交流を通して改めて感じたその想いとは?
『Re Connect』できた再来日
ーー昨年の東京パラリンピック以来、日本への再訪問となります。今回の日本での活動はいかがですか?
イブラヒム)昨年はオンラインでしか皆さんにお会いする機会を作れなかったのですが、今回直接お会いすることができて嬉しいです。現在の難民が置かれている状況や、障がいを持っている難民が向き合っていることを直接伝えられるのはとても意義のあることだと感じています。
アスロス財団として、今回の日本のツアーの目的の一つが『Re Connect』です。昨年、イブラヒム・アル・フセインという1人の難民パラアスリートのこと、もしくは難民のことを知ろうと思っていただいた方々、知っていただいた方々とのつながりを改めて持つことができています。
ーー実際に日本の方々にお会いして何か感じたこと、嬉しかったことなどはありますか?
イブラヒム)すべての経験が本当に素晴らしいものです。特に2つあえて印象に残っていることを挙げるとすると、泰阜村(長野県)と文京区(東京都)の子どもたちとの触れ合いです。
泰阜村の子どもたちは昨年、彼らが中学3年生のときに私宛にパラリンピックに向けた応援メッセージをいただきました。今は高校生になった彼らが、車で4時間かけてわざわざ横浜のホテルまで会いに来てくれました。そのうちの1人は、ベルマークを集めてもらったバスケットボールを私にプレゼントしてくれました。長い期間、想いを持って活動してくれたんだと思うと、涙が止まりませんでした。
ーーイブラヒムさんのお話を聞いて、「何かしたい!」と思ってくれたのはとても嬉しい出来事ですね。
イブラヒム)文京区は、難民選手団のホストタウンでありながら直接文京区民の方々と触れ合うことが叶いませんでした。しかし今回は、1つの小学校の子どもたちに直接お会いし、授業の時間を借りてお話することができました。
その当時会えなかった子どもたちに直接会えて、お話しできたことは本当に素晴らしい体験でした。
1,200万人以上の障がいを抱える難民へ『寄り添ってくれる気持ち』が嬉しい
ーー実際に日本で過ごされて、日本という国をどう感じていますか?
イブラヒム)日本に来て改めて感じたこと、またさらに強く感じたこととして、日本人の方々の難民に寄り添ってくれる気持ちや、理解を深めようとしてくれる気持ちの強さです。人道的支援の必要性にも共感してくれる人が非常に多いと感じています。アスロス財団の活動においても、日本の人たちにもっと今の活動を知ってもらい、今後の活動の大きなエネルギー、原動力にしていきたいと考えています。
ーー日本の人たちにお伝えしているのは、具体的にはどのようなお話なのでしょうか?
イブラヒム)難民の代表、とくに障がいを抱える難民の代表としてお話をしています。2022年のウクライナの情勢の前で約8,000万人、6月のUNHCRの発表によると1億人を超えていると言われている難民の中で、1,200万人以上の方が先天性、紛争の経緯の中で障がいを抱える状況になっています。
こうした『障がいを抱える難民』が現実的に一番弱い立場になり、さまざまな苦難に向き合っています。そうした人たちにこそ夢や希望を届けなければならないし、現実的な支援もしていかなければいけない。その現状を伝える使命を強く感じています。
ーーこれからイブラヒムさん、そしてアスロス財団はどんな世界を目指していますか?
イブラヒム)世界中に散らばっている障がいを抱える難民の方々に、スポーツを通じてもう1度社会に復帰ができる、社会に貢献ができる、社会から存在価値を認識してもらえるような環境を作っていきたいです。
それはリハビリやトレーニングなどの身体的な面だけでなく、『スポーツを通じて新しい目標を見つける』ということも含まれます。
まだ経済的によくない環境で、難民として生活されている方も多くいます。そうした方々にもスポーツを通じて人生そのものがもっと豊かになるように、そういった活動に自分はこれからも使命感を持って取り組んでいきたいです。
日本の車いすバスケットはレベルが高い!
ーー車いすバスケットボールチーム『埼玉ライオンズ』の選手と練習することも今回の来日の大きな目的と伺っています。一緒にプレーして感じたことはありますか?
イブラヒム)私自身、難民車いすバスケットボールチームの選手として世界のいろいろな場所で車いすバスケットボールのプレーを多く経験してきたつもりでした。東京パラリンピックでの男子の銀メダルなど、日本がレベルが高いということも認識していました。
そういった中で、実際に埼玉ライオンズさんと練習をさせていただき、これまでにない過去最高の経験をさせてもらっています。練習における選手たちの姿勢、トレーニングのメニューなど、とてもよく考えられており刺激を受けています。
日本の車いすバスケットボール界が非常に先進的であり、積極的に強化に取り組んできたことを感じられました。
ーー難民の車いすバスケットボールチームのレベルアップのために日本の車いすバスケットボールチームとの交流が増えると嬉しいですね!
イブラヒム)もしそうした機会が定期的につくれるようであれば大変光栄です。
ーーありがとうございました!