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『サラヤと考えるスポーツ×SDGs』イベントレポート 〜社会貢献活動を推進する過程で大切な3つのこと〜

ーSports for Socialは「スポーツ×SDGs」について考えるオンラインイベントを2月24日に開催しました。スピーカーとして、国内外でSDGs活動を続けるサラヤ株式会社(以下サラヤ)の広報宣伝統括部部長である廣岡竜也氏をお招きし、SDGs活動を通して感じたこと、スポーツとSDGsの可能性について考えました。今回のイベントレポートでは、3つのトピックに注目してイベントを振り返っていきます。

サラヤが社会貢献活動を始めたきっかけ

サラヤが社会貢献活動を始めたのは、「サラヤの主力製品であるヤシノミ洗剤のせいでボルネオの熱帯雨林が伐採されている」という噂がきっかけでした。

東南アジアのボルネオ島では、1980年代から熱帯雨林が伐採されてヤシの畑が広がっており、そこに住んでいた動物たちが絶滅の危機にさらされていた事が問題になっていました。

サラヤ

ヤシの木を植えるために熱帯雨林を伐採している、そのヤシの木から取れるパーム油を使っている商品がヤシノミ洗剤なので「ヤシノミ洗剤のせいで、ボルネオの熱帯雨林が伐採されている」という噂が流れました。

しかしヤシの畑から取れる油は食用が85%で非食用が15%、その非食用の中の数%が洗剤に使われており、その数%のうちヤシノミ洗剤に使われるのはごく僅かでした。

サラヤ

「この数字から見ると、ボルネオの問題がヤシノミ洗剤のせいであると言い切れませんでした。しかし、これを機に、原料の背景に「環境問題」と「人権問題」があることを私達は知りました。」(廣岡氏)

そこでサラヤは自社が風評被害にあっていたにも関わらず、パーム油の問題解決に向けたアクションを行ったのです。

「上記の円グラフで食用での使用が85%と書いてありましたが、私達はパーム油を使った食品を食べているので、ボルネオ問題の加害者の1人であります。」(廣岡氏)

ボルネオでの問題解決に向けた様々な活動(注1)を続ける中で、サラヤは衛生環境が悪く、多くの命が失われているアフリカで、衛生環境改善の活動も始めていきます。この衛生活動はサラヤ創業の原点である「手洗い」で世界の「衛生」向上に貢献するための活動で、ウガンダ政府とユニセフと共に行いました。

サラヤ

サラヤは創業から「食品衛生」「公衆衛生」「医療・福祉衛生」など衛生事業を軸にしており、本業を通して社会課題の解決をしようと考えていました。まずは、ウガンダでの100万人の手洗いプロジェクト(注2)。活動を通じて手洗いの啓発を進めていきました。

そして衛生教育をする中で、現地でのビジネス実現も進めていきました。

「ウガンダでは衛生面が整備されるべきはずの医療施設でも、衛生環境が十分ではありませんでした。加えて、これまで利益の数%を使い社会貢献活動を行ってきましたが、それだと事業が止まってしまうと活動も止まってしまいます。そこでサラヤでは支援を継続していくために、現地でのビジネス化を始めました。」(廣岡氏)

まずは病院の衛生環境を整えるために病院で手の消毒100%プロジェクト(注3)を行いました。病院ではアルコール手指消毒が大事であると分かっていても海外からの輸入品は高くて購入できない現状があり、そこにビジネスのヒントがあると考えていました。

サラヤ

「現地でアルコール手指消毒剤を作る工場を作って雇用を生み出し、現地の農家から原料を調達。そこで作った製品を自分たちで売ると言う仕組みを作りました。そうした活動をウガンダで10年続けてきた結果、現地では「手を洗う=SARAYAする」と言われており、企業名が動詞になる誇らしい例だと思います。」(廣岡氏)

売上の一部を社会貢献活動に回すー社内を納得させた3つのアクション

社会貢献活動はタダでは出来ません。どんな素晴らしい活動でも、続けるにはお金がかかります。社会貢献活動に熱い想いを持つ廣岡氏も、この問題に直面しました。そんな状況下で会社を動かしたアクションとは何でしょうか。

サラヤではボルネオの環境保全活動の資金として、ヤシノミ洗剤の売上の1%を回していました。

「パーム油の問題を共有し、活動に共感した消費者がヤシノミ洗剤を購入することで活動資金を獲得。消費者と企業が協力してボルネオ島の自然が守られると言うサークルシステムを作りました。このようにビジネスとSDGsを繋げた形は良いポイントだなと思います。」(廣岡氏)

サラヤ

しかしこうした社会貢献活動を続けるには、社内の理解を得ることが難しいと話す廣岡氏。現地で行う社会貢献活動に関する稟議を通す度に、その活動をしたらどんなメリットが会社にあるのかと聞かれたそうです。

「営業からは1%以上のノルマを課すのかと言われ、更に会社利益が減ることは給与に影響するため一般の社員からはゾウを助ける前に俺たちを助けろと言われました。」(廣岡氏)

そこで廣岡氏は社内で納得してもらうために、3つのアクションを起こしました。
①経営層および社員への活動意義の説明
②外部メディアを通じたボルネオ問題の発信
③社外評価の獲得

その中でも特に、③の影響は大きく出ました。様々な団体が実施する社会貢献活動に関する様々な賞にできるだけ多く応募しました。その時代はまだエコロジーに対する意識も低く、社会がそこに目を向け始めた転換期と言うこともあり、いくつかの賞を受賞することが出来ました。

その影響力は大きく、マスコミも大きく取り上げます。すると取引先や関係者から受賞についてポジティブな反応を社員は直接受け取ります。その際に自社の社会貢献活動を知らない訳にはいかず、自然と社内の理解度は上がってきました。

サラヤ

「外堀りから埋めることで、社会貢献活動に対する意識改革を強制的に行いました。その他、銀行から特別融資が受けられたり、ヤシノミ洗剤の販売成績も上がっていきました。こうして社会貢献活動を続ければビジネスにも良い影響が出ることを納得してくれました。」(廣岡氏)

厳しい状況下でも「ヤシノミ洗剤のブランドとボルネオ島の自然を守りたい」と言う強い気持ちがあったからこそ、会社全体を動かすことができたのです。

「SDGsとスポーツを組み合わせるメリットは、情報の伝達密度の高さ」

サラヤ

「スポーツを通して社会貢献活動を応援する」と言うSports for Socialの想いと、「世界の衛生・環境・健康に貢献する」と言うサラヤの想いが合わさったからこそ生まれた今回のイベント。そんなサラヤは、スポーツと社会貢献の組み合わせについて、どのように感じているのでしょうか。

Jリーグのセレッソ大阪のスポンサーをしているサラヤですが、現在もスポーツと社会貢献活動の可能性を模索している最中だといいます。サラヤは、コロナ感染拡大が懸念される際、本業である衛生事業を絡めて活動しました。

具体的には、セレッソ大阪の選手にコロナ対策に関する講習会を実施し、それをチームの広報を通してニュースとして拡散しました。これはサラヤとしてはセレッソ大阪を通して、感染対策の専門企業であることのアピールになりました。

サラヤ

廣岡氏が考えるスポーツとSDGsを組み合わせるメリットとしては、「サラヤが直接発信できない層にアプローチ出来る」というポイントです。広告は費用対効果の高い媒体を選ぶためアプローチできる範囲は限定されますが、スポーツは普段アプローチできない層へのチャネルを持っています。

「スポーツのサポーターは熱量が非常に高く、クラブや選手が発信する情報への感度が高いと考えます。要するに、情報の伝達密度の高さがメリットになると思います。」(廣岡氏)

企業がそのまま社会貢献活動について発信するよりも、スポーツという媒体を通して発信することで活動への関心は高まります。世間からの関心があまり高くない社会貢献活動も、スポーツと組み合わせることで高い感度で伝わる事が出来ます。

イベントの最後に廣岡氏から、企業の取り組む社会貢献活動に関するメッセージを頂きました。

「社会貢献活動はすぐにはマネタイズ出来ません。サラヤがどこでマネタイズしたかと言うと、企業に向けたアピール材料というポイントです。社会貢献活動を続けるためにも、良いビジネスモデルを作らなければいけないなと思っています。」(廣岡氏)

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Sports for Social 編集部より

今回のセミナーには企業のSDGs担当者を始め、当初の想定を大きく上回る多くの方にご参加いただきました。スポーツ×SDGsの世の中の関心の高さを感じるとともに、「サラヤ」という企業の社会貢献活動への周囲の評価の高さを感じました。

私たちSports for Socialでは、昨年12回にわたりサラヤ様の社会貢献活動についての連載をさせていただいております。しかし、今回のセミナーを聞いてからその連載を見直すと、そこにはまた違った意味での共感が私の中で生まれてきました。

セミナー内では、企業でありながらも自らを消費者の一員として考えて始めたボルネオの環境保全活動、企業内での立ち回りのための努力など、企業として社会貢献活動に踏み出し、そしてつづけていくことの大変さを垣間見ることができました。こうした大きな努力のおかげで、私たちが小さな一歩で社会貢献に踏み出せる下地ができているのだと感じ、また、今回集まった企業の方やスポーツクラブの方からまた新たな一歩が踏み出されていくことに大きな希望を持つことができました。

ご登壇いただいたサラヤ株式会社 廣岡さん、打ち合わせからご尽力いただいた同社 秋吉さん、今回は本当にありがとうございました!

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サラヤ株式会社:https://www.saraya.com/

注釈1 ボルネオ象の救出活動:https://sports-for-social.com/?p=72

動物の生息地を守る活動:https://sports-for-social.com/?p=63

注釈2 100万人の手洗いプロジェクト:https://sports-for-social.com/?p=85

注釈3 病院で手の消毒100%プロジェクト:https://sports-for-social.com/?p=96

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