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国際協力とは「感謝する心」協力隊から外交官へ〜JICA×Sports for Social vol.12〜

田代さん

1994年に青年海外協力隊員・スポーツ隊員としてバングラデシュに派遣された田代征児さん(以下、田代)。「ハンドボールで海外にいける!」という想いから踏み出した一歩は、外務省職員としてのキャリアにつながり、ボツワナ・ザンビア・ケニア・ニューヨークなどを経て、現在は南部アフリカの国・マラウイに駐在しています。

ハンドボールに打ち込んできた学生時代。さまざまな国での貴重な経験。まさにスポーツから海外に羽ばたいた田代さんに、「国際協力とは?」をキーワードにお話を伺いました。

JICA-Hungary
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アメリカで感じた“広い世界”と“ちっぽけな自分”

ーー田代さんが海外でのお仕事に興味を持ったきっかけを教えてください。

田代)大学時代、語学留学で半年ほどアメリカに行きました。そこで感じた「こんなに広い世界があるんだ!」という想いが海外で働きたいと思ったきっかけです。シアトル郊外の山に仲間と登ったとき、その自然の大きさに感動し、その中で自分のちっぽけさを感じました。当時は英語もほとんど話せませんでしたが、これからは日本語だけで生きていく時代ではないと感じ、勉強しなければという気持ちにもなりました。

ーーそんなアメリカへの留学から帰国し、青年海外協力隊との出会いがあったのですね。

田代)本当に運命じゃないかと思いました(笑)。ハンドボールの練習中に体育館のスピーカーから青年海外協力隊の説明会があるとのお知らせが流れ、直感的に「これは行かなきゃ」と思い参加しました。私の時代はちょうどバブル後で就職難の時代でもあったので、海外に行ける、海外で働けるという可能性に対しては敏感になっていたのかもしれません。

その説明会で、「スポーツ隊員としてハンドボールがある」と聞いたとき、「これは運命だ。自分しかいない!」と思い、採用されるものだと説明会中から思い込んでいました。運よく採用されましたが、自信過剰でしたね(笑)。

ーーその自信がその後に繋がったのかもしれませんね(笑)。

さまざまな経験を積んだバングラデシュから、国際協力の人生へ

ーー青年海外協力隊ではバングラデシュに行くことに決まりました。海外で、かつハンドボールに関われるということで、当時の田代さんの要望にぴったりだった職種ですが、知らない場所に派遣されることへの怖さは感じませんでしたか?

田代)決まったときには、バングラデシュに対してほとんど事前の知識がない状態でした。当時はインターネットや携帯も普及しておらず、家族からは心配されていましたが、私自身はあまり深く考えずに飛び込みましたね。

ーーバングラデシュではどんなことが印象に残っていますか?

田代)ハンドボールにあれだけ関われる2年間はなかったので、とても楽しかったことを覚えています。バングラデシュは全国的にハンドボールが盛んで、私も多くの場所で普及活動を行いました。さまざまな民族の方々と関わることで多様な文化を知ることもできましたし、隊員派遣期間中にナショナルチームのアシスタントコーチとしてインドで行われた南アジア大会にも参加するなど、貴重な経験もできました。

健康面では、感染症による下痢と戦いながらの2年間で、その意味では大変でしたが(笑)。

バングラデシュバングラデシュ派遣時の田代さん(左)

ーーポジティブなことも大変なこともある、激動の2年間だったのですね。その後も田代さんは、海外での事業に関わる仕事を中心にキャリアを積まれます。

田代)バングラデシュから帰国後も、国際協力に携わりたいという想いから青年海外協力協会で3年ほど働きました。その後、大学院で修士号を取得したのちに、JICAのボランティア調整員として中央アメリカ・ベリーズで働きました。その当時、JICA理事長だった緒方貞子さんがアフリカへの支援の必要性を盛んに訴えており、アフリカでの活動に興味が湧き、その後はアフリカ志望で外務省に入省しました。ボツワナ、ザンビア、本省アフリカ1課、ケニア、ニューヨークを経て、現在は南部アフリカ・マラウイに駐在しています。

感謝を伝える『国際協力』

ーーさまざまな転機があったと思いますが、それでも『国際協力』に携わりたいと思ってキャリアを積み重ねられていますよね。田代さんの考える、『国際協力』で大事なことはどのようなことですか?

田代)日本の豊かな生活を支える資源や食料などは、開発途上国を含めた海外から輸入されていて、それを実現するには良好な外交関係が成り立ち、友好・親善が結ばれていることが必要です。日本の生活は海外の国々によって支えられていることへの“感謝の気持ち”を持つことこそが『国際協力』において大事なことだと感じています。

私も最初は、「貧しい人たちのために何かできないか?」と思う、慈善や慈悲の気持ちが大きくありましたが、現在はその関係性や豊かさを与えてくれていることに感謝をしたいという気持ちの方が大きいですね。

ーーどちらかというと、先進国である日本が開発途上国になにかを“してあげる”という気持ちは私の中にもあったように思います。マラウイにはどのような特徴があるのでしょうか?

田代)マラウイは、世界遺産にも指定されているマラウイ湖など豊富な自然が特徴です。また、マラウイのマカダミアナッツは日本のチョコレートにも使われていますし、紅茶はアフリカで最も古い歴史があることでも知られています。さらに、マラウイは近年、ゴマを生産し日本にも輸出しています。日本の食卓に当たり前のようにあるゴマやゴマ油は、その原料の99%が輸入です。スーダンやナイジェリアなど、アフリカのさまざまな国が産地になっているのですが、安定した供給のための流通・輸出の実現に向けて日本政府や民間企業も一緒になって取り組んでいく必要があり、マラウイもそこに力を入れている国の1つです。作る人たちへの感謝もそうですが、そうした安定供給のためのさまざまな機関との関係を作ることも大事な役割になっています。

マラウイマラウイのごま産地の風景

ーー日本人として、海外の国々に貢献できていると思うことはどんなことがありますか?

田代)さまざまな面で協力でき、支援を提供することもできると思いますが、どちらかというと得ることが多く、学びの方が多いと私は思っています。青年海外協力隊員でバングラデシュに行っていたときもそうですし、現在のマラウイでも現地の人々から学ぶことがたくさんあります。
異文化を体験し、異なるものの見方を理解してその違いを楽しむことで、自分の成長につながっていると感じるので、立場を変えてみれば、途上国の人たちにとっても日本人としての自分の経験を伝えることや、意見交換することは互いの理解の促進に貢献しているのかもしれませんね。

スポーツができる『国際協力』と人材育成の可能性

ーーそうした国際協力の中で、スポーツだからこそできることはどんなことだと思いますか?

田代)スポーツを通してどのように国際協力を実現していくのかは、私自身もまだまだ試行錯誤しているところではあります。その中で言うと、ハンドボールでは同じコートに立ち、同じルールの中で1つのボールを追いかけて一緒に走ることができますし、パスをする、シュートするということは半ば言語に近いようなコミュニケーションができるのではないかと思っています。

スポーツだからこそ、国や民族、言葉の違いを超えて、一緒にボールを投げるだけでそこにいる人たちが笑顔になったり元気になったり、みんなで楽しむことができる。達成したときの感覚はスポーツ特有のもので、そうした価値や時間を共有することがスポーツの醍醐味なのではないかと思います。

ーーザンビアに駐在されていたときには、選手たちを日本に連れてきたこともあったと伺いました。

田代)「日本のチームと対戦すると、ザンビアのハンドボールはどうなるのかな?」と、ちょうど東京オリンピックの開催が決まった頃に計画し始めました。ザンビアの選手たちにとって、人生の中で日本に行けることは、普通に生活していたらおそらくないと思います。クラウドファンディングで支援を集め実際に日本に到着すると、選手たちは最初“TOKYO”の大都会に緊張していましたが、最後の方には本当に楽しんで帰ってくれました。

ザンビア代表チームザンビア代表チームが原宿を訪れたときの写真

ーー『国際協力』におけるスポーツの可能性は、どのように広がっていくのでしょうか?

田代)ケニアにいる友人とこの話題についてよく話すのですが、特に“スポーツ”や“スポーツビジネス”はアフリカで大きな可能性があると思っています。先進諸国が少子高齢化や人口減少に悩んでいる中、アフリカではどんどん人口が増えていて、スポーツに関わるポテンシャルのある人材もその中から多く出てくると思います。けれども、今のアフリカにはスポーツ産業がほとんどないのが現状です。スポーツへの協力をすることにより、それぞれの国の発展に貢献していくのではないかと思っています。

ーーまだまだ発展する可能性が溢れているのですね。

田代)それに加えて、アフリカでの人材育成に関しても、スポーツを中心に進めていってもいいのではないかと私自身は思っています。自分も、きつい練習に苦しみながらも青春時代に毎日毎日ハンドボールに一生懸命に取り組みました。きつい練習があったからこそ、今があることに感謝しています。
また、スポーツの力を伸ばすことは、普段の生活を整えることにもつながります。しっかり食べて栄養を摂らないと力も出ないし、頭も働きません。学校で勉強をしっかりやらないと戦術の理解もなかなかできるようになりません。スポーツを通じて規律を覚え、頭の使い方を学び、戦術をさらに理解することで応用力もつくようになります。

このように、スポーツをきっかけにさまざまな場面で人材育成に繋がっていき、そこで育ったロールモデルとなるアスリートが各国で活躍するようになり、スポーツ産業の発展、ひいては国の発展をリードする可能性が十分にあると思っていて、私自身もそうした支援をしていけたらと思っています。長期的な取組が必要な人材育成ですが、30年後くらいにはスポーツで育った人材がアフリカ各国で活躍している世界にしたいですね。

ーースポーツと人材育成には、深いつながりがありますね。最後に、青年海外協力隊を目指す方々にメッセージをお願いします!

田代)「思いついたらすぐ行動する」ですかね。現場に行くと気づくことがたくさんあります。自分が小さな存在であると同時に、世界に貢献できることがたくさんあると気づくはずです。
海外に出て、外から日本を俯瞰して見てみてください。そうすると日本という国がわかるし、自分が生きていく指針も見えてくるはずです。青年海外協力隊では、世界を俯瞰して物事を捉えるような経験をさせていただきました。

青春時代のハンドボール、そして青年海外協力隊という貴重な経験があったからこそ今があり、感謝してもしきれません。恩師やJICAへの恩返しとして、これからもスポーツを通じた国際協力を続けていく考えです。

気になる方は是非一歩を踏み出して、協力隊に参加してみてください!

ーーありがとうございました!

 

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