Sports for Socialでは、「シャレン!(Jリーグ社会連携)」に取り組むJリーグクラブの「想い」を取り上げます。今回は東京ヴェルディの「ともに未来へ Green Heart Project」の活動です。2020シーズンからスタートしたプロジェクトですが、そこにはそれ以前からのクラブとしての障がい者スポーツとの強い繋がりや想いがありました。
【クラブ】東京ヴェルディとヤンセンファーマ株式会社様による協働事業 『ともに未来へ Green Heart Project』。
ヴェルディのSDGsに対する想いに共感し、ご協賛いただいたヤンセンファーマ株式会社と、取り組み初日の感想や、描いている未来について語り合いました▶https://t.co/WAXnhCczfD #verdy
— 東京ヴェルディ💚⚽北九州戦5.16(日) @味スタ🌞 (@TokyoVerdySTAFF) December 9, 2020
大切にしてきた2本の柱
ー活動の内容や背景について教えてください。
我々は普及部という「スポーツの普及」を目的に活動している部署で、サッカースクールの運営と、スポーツ&SDGs普及活動を行っています。
東京ヴェルディ(以下:ヴェルディ)は1969年に設立され2019年に50周年を迎えたのですが、ヴェルディグラウンドのグラウンド開きとともにサッカースクールの開校式が催され、サッカースクールも同じく2019年に50周年を迎えました。
ーチームと同時期にスクールも誕生したのですね。
はい、スクールは我々の活動の一つ目の柱です。50年間やってきて大切にしているのは、「とにかくサッカーを楽しんでもらう」ということです。
プロになりたい子もいれば、初めてサッカーをする子もいるので、コーチたちと話し合いをして一人ひとりに向き合った活動をしています。
もう一つの柱はスポーツ&SDGs普及活動です。
かつてはサッカーを普及させる目的で、小学校を訪問しサッカーを教えるという活動をしていましたが、2013年に東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まってからは、サッカーだけにこだわらないという方針を普及部で決めました。スポーツそのものの楽しさを伝えていこうという活動で、「いっしょにスポーツたのしみ隊!ヴェルレンジャー」という戦隊物としてのキャッチーな名前もつけて立ち上げました。小学生に親しみを持ってもらいたいという想いがあります。
ーお子さん達が親しみやすそうな名前ですね。
こういった学校訪問型の活動に加え、2015年に日野市で通年の障がい者スポーツ体験教室を始めました。その後は、日野市、立川市、多摩市、稲城市で実施し、渋谷区、北区、足立区など23区でも活動をスタートしました。
2021年度は365日中140日、この活動を行う予定です。
ー140日!すごいですね。
はい。一番多い渋谷区では、昨年度は年間で36回(月3回)実施しました。新型コロナウイルスの影響で開催が難しい時期もありましたが、Zoomやオンラインでの開催も増えていきました。
そして2020年9月頃、ヤンセンファーマ株式会社(以下:ヤンセンファーマ)様に活動についてお伝えする機会があり、それを皮切りに今回のプロジェクトが進んでいきました。
このプロジェクトが実現した理由は、偶然ヤンセンファーマ様とお会いできたから、というよりは、コーチの強い思いや、いままでホームタウンの方や活動を一緒に実施してきた自治体との積み上げてきた信頼感があったからだと感じています。
ーこれまでの積み重ねがあって、色々な機会が広がっていった結果の一つなんですね。
©TOKYO VERDY
それぞれの長所を生かして -Green Heart Project-
Green Heart Projectは、ヤンセンファーマ様が精神疾患のある方の就労をアシストしたいという思いから始まりました。
ヤンセンファーマ様は、医薬品を作っている会社ですが、当事者の方が飲む量を減らして本当の回復を得る「Beyond the Pill」(薬剤を超えて)という想いをもって活動されています。そのためにはスポーツやアートなどの医薬品以外の別の力を借りないといけないと考えられていました。
その点で私たちヴェルディは、それまでにも、スポーツを通して障がいのある方々や通われている施設との密接な関わりをコーチ陣がしっかりと築いており、それがヤンセンファーマ様の求められているものでした。
一方で、ヤンセンファーマ様は、世界的企業であり、全世界に発信できる影響力がありました。東京にあるJクラブとして、障がい者スポーツとの取り組みを日本全国に発信していくということも使命の一つだと感じており、「ヴェルディはこういうことをやっているんだ」と他府県の方にも同じような活動が広がっていったらいいな、という想いがありながらなかなかそれができていない現状があったので、我々にとってもヤンセンファーマ様の発信力は非常に魅力的でした。
ーお互いの求めるものが合致したということですね。
ヤンセンファーマ様と活動を共にすることにより、「One Young World Tokyo Caucus 2020」という世界的なフォーラムの基調講演の中でヴェルディとの活動について話していただくなど、これまで日本規模だったものが世界規模になりました。
ーGreen Heart Projectでは実際にはどのような活動をされていますか?
障がいのある方や施設の方のご家族、そこで働いてる方などに参加いただくイベントを企画しました。3回の活動で、のべ170名以上の方にお越しいただきました。
スポーツ活動によるアイスブレイクで徐々にほぐしていき、少しずつ全体の一体感を出し、最後はチーム戦を行うなど、コーチ達がプログラムを考えて実践しました。
ースポーツ活動以外のところでは他には何かありますか?
選手と直接触れ合うことは難しかったので、当時所属の選手やサッカー関係者からのビデオメッセージを場内ビジョンに流したところ、とても喜んでくださいました。
就労支援でいうと、元々味の素スタジアムにあるキッズパークという家族向けのアトラクションコーナーで、障がいのある方に”もてなす側”として働いていただきました。ボールを渡してセットしたり、グッズを配ったり、消毒をしたり、ブースの準備をしたりなどです。障がいのある方もそのご家族も見学で来られた方も、全員同じTシャツを着ていたので、最終的には誰が障がいのある方で、誰が障がいがなくて、誰がスタッフのなのか分からないほどの一体感が生まれて、ダイバーシティ&インクルージョンを感じました。
ー素晴らしい環境ですね。参加者の方からの感想などはありましたか?
参加後のアンケートで、普段作業所で働いている時とは違った様子で、生き生きしていて楽しそうだったという声を聞くことができました。そういった声を聞くと私たちも嬉しいですね。
地域の方々との関係を大切にする
ーご自身が障がい者スポーツやこのプロジェクトに関わってみていかがでしょうか?
2015年に障がい者スポーツ体験教室の活動をはじめた時は別の部署にいて、2017年から現在の普及部に入りました。コーチ達が一生懸命コツコツやっていて信頼関係を強固にしているということを感じました。
例えば、活動している稲城市では、障がいのある参加者の方が水曜日のみやっているカレー屋があり、クラブハウスへの配達をお願いするのですが、「いつもありがとうございます」と喜んでもらえます。私たちは単純にそのカレーが美味しくて頼んでいるのですが(笑)、大変喜んでいただけるので少し貢献できているのかなと思っています。
カレーショップ わくわく:https://www.facebook.com/wakuko.wakuwaku/
ー自然な形で信頼関係を育まれてきたのですね。
これまでとこれから「Green Heart」とともに
ーこれから取り組みたいことについて教えてください。
もともと東京オリンピック・パラリンピック招致がきっかけで開始した障がい者スポーツの活動ですが、もちろんその後も続けていくことが重要だと思っています。障がいのある方の人生はずっと続いていきますしね。
SDGsの3番である「すべての人に健康と福祉を」が軸になると思っています。それを軸にして色々な団体の方と協力して、SDGsを知る機会を増やしたり、障がいのある人との相互理解を増やすイベントを今後も企画しています。
ー具体的にはどんなイベントを企画されていますか?
国連からの正式な承認を得て、2021年からSDGsロゴをヴェルディ、ベレーザ、普及部のウェアに掲出しました。ヴェルレンジャーも「SDGsヴェルレンジャー」に改名しています。
SDGsの認知度アップやパートナーシップの拡充を目的とした「SDGs²スタジアム2021」というイベントも、JFAハウスとヴェルディグラウンドで開催しました。
©TOKYO VERDY
また、障がいのある方が落ち着いて試合を観戦できる部屋を、味の素スタジアムに用意しました。
もともと感覚過敏の方を対象としたセンサリールームを想定していたのですが、障がいの種類などに関わらず試合を観戦していただきたいと思っているので、名前も「Green Heart Room」にしました。
グリーンという言葉は穏やかでピースフルなイメージがあるので、スポーツを通して体と心が健康になるという意味でも「Green Heart」という言葉を用いて活動していきたいと思っています。
©TOKYO VERDY
色々な方とスポーツを楽しめることを目標に、パートナーや取り組みを増やしていきながら進めていきたいと思っています。
ーありがとうございました!
アイキャッチ写真:©TOKYO VERDY