「まわりの人を巻き込み、地域に必要な存在になる。」
Fリーグに所属する湘南ベルマーレフットサルクラブは、故・久光重貴氏の活動の魂を受け継いだ『久光モデル』や、新しいブロックチェーン技術の『FiNANCiE』などにより、福祉・防災・教育などスポーツ領域を超えて、広く社会につながり、地域にとって必要なクラブを目指しています。
自分たちだからこそできる地域との関わり方をするクラブの想いはどのようなものなのでしょうか?
株式会社湘南ベルマーレフットサルクラブの代表取締役社長の佐藤伸也さん(以下、佐藤)の想いや考えを、Sports for Social代表の山﨑蓮(以下、山﨑)が紐解きます。
湘南ベルマーレフットサルクラブの歴史
山﨑)湘南ベルマーレフットサルクラブさんは、スポーツ庁の『イノベーションリーグ大賞』を受賞するなど、その社会的な取り組みについてはよく耳にしています。
そのようなクラブの成り立ちと、今後どんなことに取り組みたいのかなど、いろいろと本日は聞かせていただければ嬉しいです!
まず、湘南ベルマーレフットサルクラブは、どのような歴史を辿ってきたのでしょうか?
佐藤)私たちが冠につけている『湘南ベルマーレ』は、Jリーグに加盟し今年で30周年を迎えました。過去に親会社の撤退など、スポーツと関係のないところでの決定により、スクールなどに通う子どもたちが置き去りにされてしまいかねないことがありました。このようなことがあってはならないと、未来に残す組織としてNPO法人を立ち上げ、新しいスポーツ領域の『ソフトボール』『ビーチバレーボール』『トライアスロン』なども加わった総合型のクラブに変化してきました。
佐藤)フットサルも、湘南地域で活動していた『P.S.T.C.LONDRINA(ピーエスティーシー ロンドリーナ)』というチームが母体となっています。日本一も経験したことのあるチームでしたが、Fリーグ(フットサルの国内トップリーグ)が立ち上がる際の法人化や運営体制の整備などの点から、「湘南ベルマーレの冠を背負ってフットサルチームを運用できないか」と相談する形で『湘南ベルマーレフットサルクラブ』が立ち上がりました。
佐藤)サッカーの湘南ベルマーレは、ホームタウンを“湘南エリア”とし、9市11町がそこには含まれています。一方でフットサルクラブは、もともとのベルマーレが手薄であった、湘南の中でも西の小田原エリアを拠点としています。ベルマーレとして手薄な地域にも進出することや、Fリーグ開催に適したアリーナ(小田原アリーナ)などもあることで小田原地域に根差したクラブづくりが始まりました。
山﨑)小田原と湘南というと、たしかに少し違う地域という印象もありますね。
佐藤)小田原地域の人たちからすると、「ベルマーレは平塚(湘南)のチーム」というイメージが強く、すんなりと入り込むことが難しいこともありました。
そんな中、小田原の有名企業で、当時の湘南ベルマーレの役員もしていた鈴廣かまぼこの鈴木博晶社長からアドバイスをいただき、運営会社を『小田原スポーツマーケティング』とし、地域の人たちを巻き込みながら経営していくことで、「小田原らしいチーム」として徐々に浸透していくことができました。
山﨑)現在の役員構成を見ても、地元の有力者の方々が多く集まっている強力なメンバーという印象があります。こうしたメンバーとスポーツクラブの経営を進めることで、どのような好影響があるのでしょうか?
佐藤)このクラブが地域とともに歩んでいこうとするときに、地域の意向や文化を鑑みることができるメンバーがいることの価値を強く感じています。行政とともに動くことであったり、経営者としての立ち居振る舞いから私自身も学び、このメンバーだからこそクリアできていることが多くあります。
山﨑)たしかに、そうした点で経験値の高いメンバーがいることは大切ですね。新しいことへのチャレンジもしやすい環境なのですか?
佐藤)「好きなようにやっていいし、どんどんチャレンジした方がいい」と経営陣は言ってくれています。ブレーキ役になってくれるとも言ってくれているので、私たちクラブの現場がもっともっとアクセルを踏んでいかなければいけませんね。
山﨑)クラブがしっかりビジョンを持って、主体的に動くことが大事ですね。
新しい価値を生み出すクラブへ
山﨑)佐藤さんが社長に就任されたのはどのようなタイミングだったのですか?
佐藤)湘南ベルマーレフットサルクラブが立ち上がって以降、認知してもらうための5年間、そして強化・育成が花開いてきた5年間があり、クラブとしての基盤ができつつある中での就任でした。毎日を過ごすことだけに奔走するのではなく、新しい価値を生み出したり事業を作り込んでいくフェーズだと思っています。
山﨑)“新しい価値”というのはどのようなイメージでしょうか?
佐藤)たとえば、集客においても「フットサルを観に来てください!」とただ言うのではなく、この町にあまりない“若い人が集まるイベント”を生み出し、イケてるエンタメに育て上げていきたいと考えています。また、地域の人にとって私たちを応援する意味合いを考えたときに、ただのフットサルチームではなく、“地域の課題解決”に力を注ぐクラブということを示し続けることで、支援や応援をする意味を与えられるのではないかとも思っています。
それだけでなく、競技の面でも“アジアチャンピオン”という目標を掲げ、地域のみなさんとともに“一番”を目指すことに共感して応援していただいています。
アマチュアだからよい?地域課題解決への方向性
山﨑)地域課題の解決という面では、Jリーグチームやほかのスポーツチームも力を注いでいます。その中で、フットサルクラブだからこそできることはどんなことがあるのでしょうか?
佐藤)フットサル・Fリーグはまだ発展途上であり、湘南ベルマーレフットサルクラブにはアマチュア選手も在籍しています。もちろんJリーグクラブなどのプロチームと比べることもありますが、地域に根ざしたとか社会課題解決に取り組むという点でいくと、もしかしたらアマチュアであることがよい方向に作用しているのかなとも思います。
山﨑)アマチュアがよい方向に作用しているというのは少し驚きです。アマチュアの選手は、競技以外でもお金を稼がないといけないにもかかわらず、ボランティア活動にも参加するモチベーションの源はどこにあるのでしょうか。
佐藤)2022年の4月に、「湘南ベルマーレフットサルクラブは1/3のパワーをかけて地域の役に立つ」と事業方針で宣言しました。このとき、選手からは「できる限り競技に専念したい」という反対の意見も出ましたが、いまのクラブのフェーズを考えたときに、もっと多くの人を巻き込んで価値を出し、そのことが最終的にフットサルをプレーする環境にもつながってくることを説明しました。辿り着きたい目的は一緒で、どういった過程を踏むのか、どの順序で手をつけていくのかという話です。
もう一つ選手に伝えているのは、引退して社会に出たとき「Fリーグで何点取った」というのは世間の人はピンとこない情報だということです。しかしそれに加えて「社会課題解決活動にどれだけ参加して、その上で競技でもこんなに活躍した」という説明をする方が、まわりや企業も目を向けてくれ、ピッチ外での活躍が、ピッチの中での評価をより強調することができると考えています。
未来に向けた新しいスポーツの価値
山﨑)Fリーグができて16年。今、社会課題の解決という点では、パートナー企業の協力も欠かせないと思います。
佐藤)今までは企業さんに対して「社会課題解決を一緒にやりませんか?」と声をかけていました。今年に入って、『社会課題解決事業部』という部署を作り、『Chance&Empowerment パートナー』という名称で、社会課題解決事業に一緒に取り組む企業を募集しており、すでに数社とそうした取り組みを行っています。
実は過去に、クラブ側の不手際で契約更新がされなくても仕方がないと思えるスポンサー企業がありました。しかし、今回の『Chance&Empowerment パートナー』のお話を失礼ながらさせていただいたところ、「こっちの方がよい」とご評価をいただいて、快く引き受けてくださいました。広告という価値ではない部分での企業さんとの協力関係が見えた場面です。
山﨑)企業にとってもSDGsが重要になり、スポーツチームも徐々に取り組んできた中、湘南ベルマーレフットサルクラブさんは先駆け的な存在にもなってきていますね。
佐藤)そう言っていただけると嬉しいです。
山﨑)社会課題解決について、この先どのように収益化することを考えていますか?
佐藤)現在具体的に考えているのは、“SDGs”と“人材育成”です。5月に小田原箱根商工会議所と包括連携協定を結び、協定内容の軸がまさにこの2つになりました。
とくに人材育成に関して、これから地域が発展していくか衰退していくかは“関わっている人の数”だと思っています。身近なところだと、湘南の海といっても賑わっている海岸と徐々に人が居なくなってきている海岸とがあります。地域を発展させていく中で、上手く外からの人を受け入れながら、地域の人たちを育てていくことが将来的に地域全体を発展させていくのではないかと考えています。
小田原市だけではなく、神奈川県西地域のすべての行政と包括連携協定を結び、行政と一緒に事業を行っていきます。協力企業やパートナー企業と社会課題を解決していくことで、社会性のある事業軸が今後たくさんできていくのではないかと思っています。
山﨑)ありがとうございます。私たちSports for Socialとしても是非一緒にできることがあれば協力したいと思いますし、メディアとしての役割だけでなくもっと踏み込んでご一緒できればと思います!
佐藤)スポーツチームのメディアの使い方は、集客に偏り、告知ばかりになっていると思います。こうした活動で必要なのはしっかりとした事後報告であり、私たちも課題感としてすごく感じています。是非引き続きご一緒させてください!
山﨑)本日は貴重なお話しをありがとうございました!