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「僕だからできる仕事」コンタクトレンズ会社を“見える”集団に変える視覚障がい者がいる

「“見えない”からこそ“見える”」

果たして、私たちは本当に世の中が見えているのだろうか?インタビューを終えてそんな感想を持つほど、株式会社パレンテで働く青木隆典さん(以下、青木)のお話には考えさせられるものがありました。
後天的に視覚障がい者となり、見える世界から見えない世界に飛び込むことになった青木さん。整体関連の資格を活かし、ヘルスキーパーとしていくつかの会社を渡り歩いてきた彼がたどり着いたのは、「見えるをデザインする」オリジナルブランド『WAVE』を持つ株式会社パレンテでした。

見えない人がコンタクトレンズの会社で何をするのか?入社して4か月がたった青木さん、そして株式会社パレンテ代表取締役社長 吉田忠史氏(以下、吉田)に、その入社の意図と効果を伺いました。

パレンテ
コンタクト社長がスポーツを通じて伝えたいこと【社長対談 吉田忠史×山﨑蓮 前編】コンタクトレンズ通信販売『レンズアップル』と見えるをデザインするブランド『WAVE』を運営する株式会社パレンテは、Bリーグ千葉ジェッツふなばし、Jリーグヴィッセル神戸、eスポーツチームRushGamingなど、多くのスポーツチームの協賛をしています。株式会社パレンテの吉田忠史代表取締役社長(以下、吉田)は、「コンタクト社長」と呼ばれ、千葉ジェッツブースターやヴィッセル神戸ファン・サポーターにも親しまれています。 そこには、“広告の露出”だけではない、「コンタクトレンズの会社がスポーツを通して伝えたいこと」が存在しています。 社会貢献活動に対しても積極的に取り組むその想いについて、Sports for Social代表の山﨑蓮(以下、山﨑)との対談から紐解いていきます。...

たどり着いたコンタクトレンズ会社

ーー青木さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

青木)いま私は45歳で、これまではマッサージ師として働いてきています。盲学校を卒業後に生命保険会社にヘルスキーパーとして入社し、そこから治療院やマッサージ店を転々としながら腕を磨き、前職の旅行関係の会社に入りました。しかし、オフィスを移転するとともに私の役割がなくなってしまい、その会社の元上司の方がパレンテに勤めていた関係でご紹介いただきました。

ーーパレンテの印象はいかがでしたか?

青木)正直、初めて面談に行く前にはあまり詳しく教えてくれなかったので事前の印象はありません(笑)。ですが、入社してビックリしたことは、社員さんが積極的に僕に関わってくれることです。企業内のヘルスキーパーで、ここまでいろいろと、私の目のことも含めて聞いてきてくれるところはありませんでした。

ーーただ「視覚障がい者を雇う」というだけでなく、ゴーグルと白杖を使った歩行体験をするなど、会社としても積極的な印象です。このように、社員が青木さんの障がいのこと、目の見えない部分のことを知ろうとしてくれることは嬉しいことですか?

青木)嬉しいですね。ヘルスキーパーという仕事は、皆さんの本業とは違う仕事になるので、仕事に関する話もあまりできず、孤立してしまうこともある立場です。そうした立場でありながらコミュニケーションをとることができるのは、すごくやりがいを感じて、嬉しいことです。
皆さんの仕事の話もしてくださるので、マッサージをする側として「デスクワークが多い」「携帯電話を見る時間が長い」などの情報をよりよいサービスを提供するために活かすこともできます。

ーーとてもいいですね!

視覚障がい者体験株式会社パレンテでは、社員による『視覚障がい体験』を実施するなど、青木さんの入社を機にさまざまなことに取り組んでいます。

視覚障がい者と働く意図

ーー吉田社長は、青木さんを雇用することを決められたとき、こうした交流などは意図していたところもあるのでしょうか?

吉田)正直まったく考えていませんでした。今回、弊社の社員からの紹介でしたが、企業としての障がい者雇用の一環としての考えも大きくあったのが事実です。

一方で、2023年4月に、自社ブランドの『WAVE』を「見えるをデザインするブランド」というコンセプトに変更したことをきっかけに、コンタクトレンズの通販会社として、「メーカーさんから商品を仕入れて売る」という事業体から、「見えるをデザインするブランド」としてビジネスを進めていこうとすると、“見えるってなんだ?”と考えるようにもなりました。

STREET-ART-LINE-PROJECT&青木さんWAVEブランドが協賛する『STREET ART LINE PROJECT』での一枚。点字ブロックにアートを施し、“見える”ようにする活動に共感しています。

吉田)「すべての人に選択する価値を提供する」という企業理念の中で、ブランドとして厚みを持たせたい。そう考えたときに、青木さんにはヘルスキーパーとしてだけでなく、ゆくゆくはWAVEのプロジェクトに参加していただくことも可能なのではないかと思うようになりました。

ーー“見える”という言葉の意味は、さまざまな形で捉えることができますよね。

吉田)見えない人が“見える”、“よりよく活動できるような社会的環境を整える”ということも、WAVEブランドの使命なのではないかと考えています。

例えば、コンタクトを外すとほとんど視力がなく、まわりが見えない方ってたくさんいらっしゃいますよね?そういう方が、どこにコンタクトがあるのかをわかりやすくしてあげたり、つけやすくしてあげたり。見えない中で普段から生活している青木さんの意見というのは、新しいものが生まれる大きなきっかけになるのではないかと期待しています。

ーーこうしたプロジェクトへの参加のお話、青木さんは聞いたときにどう思われましたか?

青木)すごくびっくりしました。と同時に、嬉しかったです。どんな形で貢献できるのかまだイメージできていませんが、「障がいを仕事にできるかも」と思うことができたのがとても嬉しいです。

自分の視覚障がいが何かに活きるということは考えたこともありませんでした。むしろ、こんな障がいはない方が絶対にいいと思っていました。もちろん今も多少思っていますが(笑)。でも、「それを仕事にできる」と私のまわりの視覚障がいの方々ももしそう思えたらさらに嬉しいですよね。

吉田)まずは取り組むことから第一歩です。ワクワクしますね!

パレンテ
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ブラインドマラソンにチャレンジ!?

ーー実際青木さんは、会社での生活、日常生活で不便さをどのような場面で感じますか?

青木)正直、会社の中では困ることはまったくないです。みなさんから声をかけてもらえるので、本当にどうしようもない、という場面に遭遇したことはないですね。

吉田)青木さんの入社前に、床に置いてたものをきちんとロッカーにしまうようにはしました。簡単かもしれませんが、想像して準備していたのもよかったかもしれません。

青木さんは、スマートフォンも巧みに使いこなすので、本当に生活に困っていないと感じます。音声入力などを駆使して苦もなく通販サイトで買い物もされているそうです。

ーーそうなのですね!青木さんはなにかやってみたいスポーツはありますか?

青木)マラソンはやってみたいですね。伴走の方と一緒に、“絆”と呼ばれるヒモを持って走るのは、いいなぁと思っています。

実は今度、社員の方からボルダリングに誘われています。インストラクターの方に、視覚障がいの人でもできるやり方を聞いてくれたみたいで。

ーー素晴らしいことですね!スポーツをすることに対して、怖さとか不安を感じたりはしないんですか?

青木)意外と“走る”ということを怖いと感じることがあります。地面が見えていないので、いつどんな感じで接地するのか予測ができなくて、階段を踏み外したときのような感覚になることがあり、まっすぐだとわかっていても全力で走れないです。

ーーなるほど。それでもマラソンに挑戦したいのですね!

青木)ほかの視覚障がいの方も挑戦しているということに安心感を覚えます。難しいこともあると思うのですが、同じようにできている方がいるのであれば大丈夫かなと。

吉田)このご縁を生かして、コンタクトと親和性の高いスポーツにも一緒に挑戦できたらと思っています。社長とヘルスキーパーでマラソンに挑戦するっておもしろそうじゃないですか?(笑)

知的障がい者とどう生きる?スポーツがもたらす可能性を考えるコンタクトレンズの通信販売『レンズアップル』を運営する株式会社パレンテでは、2017年から一般社団法人全日本知的障がい者スポーツ連盟(以下、ANiSA)の設立以来初めてのスポンサーとして活動しています。 コロナ禍もありながら、2022年のブリスベン(オーストラリア)でのアジア・オセアニア大会では、民間企業で初めてのメダルプレゼンターを務めました。 そんな深い関係性のANiSAとパレンテですが、働く社員にとって『知的障がい者スポーツ』はまだまだ未知の領域だと感じる方も多いのが現状です。7月に行われた全体会議で、ANiSA会長の斎藤利之さん(以下、斎藤)から、初めてANiSAの話や知的障がい者の現状について聞いた社員。そこでどんなことを思ったのか?また、さらに深掘りして聞きたいことを今回は対談形式で伺いました。...
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新しい世の中の価値へ

ーー青木さんは、どのような過程で視力が落ちていったのでしょうか?

青木)網膜色素変性症という病気で視力が落ちました。兄に同じ病気が発覚し、そのときに私も調べて病気であることがわかりました。普段見えてる状態で「いつか視力がなくなる」と言われ、まだ小学生だった私は、夜は「目を瞑ったらそのまま見えなくなってしまうのではないか」という恐怖と戦っていた時期もありました。ですが、兄の病気が先に進行し、盲学校に行ったり就職したりするのを見て「どうにかなる」と思うことができていました。

ーーそこから青木さん自身も病気が進行し、盲学校からヘルスキーパーとして働き始めたわけですね。

青木)視覚障がい者の仲間には、正直あまりマッサージは好きではないけれど、それしかできないからヘルスキーパーをしているという方もいます。なので、今回お話いただいているような、“それ以外”の働き方の選択肢が増えることは大きなことだと思います。僕はマッサージも好きなので、ヘルスキーパーの仕事も大好きですが(笑)

パレンテ マッサージ社員のマッサージをする青木さん。多くの社員のリフレッシュに活用されています。

吉田)もちろん今回の話は、障がいが武器になるというだけではなく、青木さんの人柄によるところも大きいです。
マッサージしながらみんなと本当に気さくに話している姿は、お互いに、いろいろな特徴を持っている人を受け入れ、仕事をしていくだけでなく生きていく上で大事なことを経験していると感じさせられる光景ですよね。

家がお金持ちかどうか、兄弟がいる・いない、地方か都会か、のような違いのうちの1つとして、視覚障がいなどが捉えられるようになるといいですよね。こうしたことが、デザインする力やクリエイティブなど、新しい世の中の価値になるんだろうなと。ギフテッド、ジェンダーレスなど、そうした言葉も生まれてきていますよね。
自分ではどうしようもない不条理なことは地球上でたくさん起きているけれど、自分が関わった人、縁があった人と何か新しいチャレンジができれば嬉しいと常々思っています。僕ももしかしたら、青木さんとの出会いがきっかけで伴走として金メダルを取るかもしれませんよね(笑)

ーー青木さんがパレンテの社員のみなさんと働く中で、楽しさや幸せを感じられている理由を挙げるとすれば、どんなことでしょうか?

青木)もうひとえに、社員のみなさんが「関わろうとしてくれる」ことですかね。話すことができればその人のことがわかるし、関わってくれた嬉しい気持ちを僕はマッサージを通して少しでもリフレッシュにお役立ちして恩返しできればと思っています。話してくれることが嬉しい、リフレッシュになる、というサイクルができています。だから、まず関わろうとしてくれていたことがうまくいっている秘訣だと思います。

吉田)実は社内から、青木さん主導のマッサージ勉強会を教えてもらいたいという声も上がってきています。アンケートの結果も悪い声は1つもなく、最高の福利厚生になっています。

ーー癒されているだけではなく、いろいろなコミュニケーションという意味でも社員さんにとって大きな価値になっていますよね。

吉田)今まで自分と接点がなかった新しいコミュニティやカテゴリーと触れ合わないと、新しいサービスや考え方、価値はなかなか生まれません。
私たちがスポンサーしている千葉ジェッツさんやヴィッセル神戸さんなどは、外向けのブランディングとしてだけでなく、社員や社員の家族に対して「あのレンズアップルで働いている」という1つのインナーブランディングとしても機能します。
まだ弊社の規模では、障がい者雇用に関してどこまで取り組むべきなのかという議論もあります。ですが、こうしたご縁があるのであれば、青木さんの価値、そして私たちの会社の価値もどんどん高めていけるのではないかと思います。

社員が青木さんのために動いてくれているのは嬉しいことですね。マラソンはもう少し涼しくなってからやりましょう(笑)

ーー楽しみにしています!ありがとうございました!

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