女子サッカー WEリーグにおける『WE ACTION DAY』。なかでも印象的なアクションに選ばれたのは、JICAとの協力で実現したアルビレックス新潟レディースの活動でした。
Sports for Socialでは『青年海外協力隊スポーツ隊員』にスポットを当て、海外で活躍した、もしくは現在も活躍している隊員の“想い”、これまでの歴史で紡がれてきた“想い”を取り上げます。
第3回となる今回の取材対象は、ウガンダで体育やサッカーを教えていた新井敦子さん(以下、新井)。群馬県で小学校の教員をしながら参加した青年海外協力隊。新型コロナウイルスによる緊急帰国を乗り越えて再赴任し、 WEリーグクラブとも協働しながら、ウガンダの女の子たちのためにどんな想いで活動していたのでしょうか?
WEリーグ『WE ACTION DAY』でも表彰された、世界と日本をつなぐ活動も含めてお話を伺いました。
海外で見つけたサッカーの力
ーー新井さんはどのようなきっかけで青年海外協力隊に参加しようと思ったのでしょうか?
新井)私は小学校から大学まで、サッカーに打ち込む日々を送っていて、とくに大学では『インカレ優勝・日本一』を掲げて、真剣に取り組んでいました。大学の部活を終えたあと、「サッカー以外で何か身につけたい」と思い、卒業を延期してアメリカの大学に1年間留学しました。実際に行ってみると、現地でサッカーをすることを通して多くの友人ができ、競技以外のサッカーの素晴らしさを感じました。
その後にもシンガポールで半年間ワーキングホリデーをしました。派遣先のサッカースクールを運営している会社では、CSR活動としてカンボジアに行き、小学校でサッカー教室を開催したり、孤児院でサッカーを教えたりしていました。
その半年間では、実際に日本人学校の先生や生徒、カンボジアで青年海外協力隊の活動している方に話を聞く機会があり、「自分も途上国に行って現地の人にスポーツを教えたい」と思ったきっかけにもなりました。
ーー苦しみながらも真剣に取り組んできたサッカーの価値が、海外での経験を通じて広がっていったことが伝わるお話ですね。
ーー「途上国支援をしたい!」と思ったときにさまざまな選択肢がある中で、JICAの青年海外協力隊を選んだのはなぜなのでしょうか?
新井)教員であり続けながら、海外に行けることが大きな理由でした。私はカンボジアから帰ってきてから、小学校教諭の職についていました。教員の仕事にも魅力を感じていて、覚悟を持って続けていきたいと思っていたので、「自己啓発休業」という制度を使いながら、教員の仕事を辞めずに青年海外の活動に参加できることはありがたかったです。
また、中学校の同級生が青年海外協力隊でカンボジアに行くことになり、その話を聞いて「青年海外協力隊に挑戦してみたい」とさらに思うようになりました。
働きながら青年海外協力隊に参加できる!?
現職教員の皆様が働きながら青年海外協力隊に参加するには、「現職教員特別参加制度」と「自己啓発等休業」の2つの仕組みがあります。
現職教員特別参加制度は、公立学校、国立大学附属学校、公立大学附属学校、私立学校および学校設置会社が設置する学校の教員が現職の身分を保持したままJICA海外協力隊(青年海外協力隊、シニア海外協力隊、日系社会青年海外協力隊、日系社会シニア海外協力隊)へ参加するための制度で、毎年春募集のみに募集します。
参加期間は、4月1日から翌年度の3月末日となり、派遣期間と訓練をあわせて2年間です。応募の翌年4月から訓練開始となり、その翌年度の3月下旬に帰国し、その年の4月1日から復職が可能となるため、参加による学年暦への影響はありません。
なお、現職教員特別参加制度ではなく教員が自己啓発等休業などの仕組みで現職でJICA海外協力隊に参加する事も可能です。(詳細はこちら→現職教員特別参加制度 | JICA海外協力隊)
ーー応募した青年海外協力隊では、アフリカのウガンダへ派遣先が決まります。もともとどのようなイメージを持たれていましたか?
新井)正直、ウガンダのことをほとんど知りませんでした。ワーキングホリデー時代のカンボジアでの経験がきっかけにあったので、東南アジアの要請を応募時には希望先として提出していました。
合格通知に『ウガンダ共和国』と書かれているのを見て、「どこだろう」と思ってGoogle検索しました。 当時はウガンダというよりも、『アフリカ』というくくりで「食べものがない」「学校に行けない」「電気がない」というイメージを持っていました。
ウガンダで見つけた途上国支援への道
ーー実際に行ってみて、ウガンダはどうでしたか?
新井)現地に着いた当初は、水汲みや停電など生活環境にかなり戸惑いました。ですが、ウガンダは「Pearl of Africa(アフリカの真珠)」と呼ばれているくらいビクトリア湖やナイル川があって自然が豊かで緑が綺麗な美しい国でしたね。
ーーウガンダでの活動期間や内容について教えてください。
新井)2019年の12月に一度派遣されましたが、新型コロナウイルスの影響で2020年3月末に緊急帰国となりました。帰国までの3ヶ月間は生活に慣れるのが精いっぱいで、なかなか活動を本格的にすることができませんでした。
そのとき、自分の頑張りたかったことができていないのに日本が恋しくなっていて自分に負けたように感じました。それがただただ悔しくて、またチャンスがあるなら絶対リベンジしたいと思い続けてました。
2年間の待機後、2022年5月にジンジャという場所の小学校の教員養成校で体育の授業を教える先生として再派遣となり、10ヶ月間ウガンダで活動しました。教員養成校は、教員を目指す19歳から26歳くらいの生徒が通う学校で、日本でいう専門学校や大学の教育学部のようなところです。
ーー教員養成校では、どのようなことを教えていたのですか?
新井)“チームとして協力すること”や“意図的に体を動かすこと”を中心に、授業の進め方や方法を教えるようにしていました。また、ウガンダの生徒たちは実技の授業の経験が少なかったので、ウォーミングアップから振り返りの時間まで、日本の小学校で実際に行われているような実技の授業を経験してもらうようにしていました。
ーーそうした活動の中で印象的だったことや学びになったことは何かありますか。
新井)再派遣されてすぐは、厳しい環境での生活でスポーツにまで心を向ける余裕がなく、毎日を生きることで精一杯な状態でした。そんな厳しい環境の中で「スポーツをすることに意味があるのか?」と悩むこともありました。
ですが、活動していく中で、私たちが経験しないような壮絶な過去を背負ってる人たちも、スポーツをすることで笑顔になったり、夢や希望を持つことができていると感じる場面がありました。スポーツやサッカーが持つ力、私たちに与えてくれるものの大きさを実感し、「サッカーの価値をもっと伝えたい」と思うようになりました。
WEリーグ・アルビレックス新潟との取り組み
ーー新井さんは、在任中に現地とアルビレックス新潟レディースさんとを繋いだ取り組みを行われました。まずは、一緒にやろうとなったきっかけを教えていただけますか。
新井)大学時代にお世話になった小林美由紀さんがWEリーグの理事でいらっしゃったという運や縁が繋がったものだと思っています。
最初に派遣された教員養成校が政府の方針で集約され、結果的に廃校になってしまい、ジンジャ中高等学校に異動になったことがきっかけで、体育の授業に加えて女子サッカー部の指導も行うようになりました。さらに、JICAウガンダ事務所が女子サッカーに力を入れていきたいという話を聞き、小林さんに相談させていただきました。
そうしたWEリーグからの提案に対し、手を挙げてくださったのがアルビレックス新潟で、サッカー用品の提供などを提案してくださいました。
この活動において、JICAの『世界の笑顔のためにプログラム』を通すことで支援を実現することができたことも大きかったです。
「世界の笑顔のために」プログラムとは?
開発途上国で必要とされている、スポーツ、日本文化、教育、福祉などの関連物品を皆さまからご提供いただき、JICA海外協力隊や在外事務所を通じて、現地の人々へ届けるプログラムです。日本では当たり前のように身近にあり、使われないまま眠っている物。それを必要としている人々に届けるプログラムです。
新井)私自身、子どもの頃は女子がサッカーをやることが珍しく、「なんで女のくせにサッカーをやってるのか」と言われて育ってきました。性別や生まれた環境でやりたいことを諦めなければいけないことは絶対に間違っていると思っています。
自分がウガンダで教えていた子たちや、JICAのイベントで出会った難民の女の子たちは、用具や衣類が不足していて、裸足でサッカーをしていたりしていました。自分より大変な環境にいながらも、すごくサッカーが大好きで頑張ってる女の子たちを見て、何かしたいと強く感じました。
ーー物品が届いたときの子どもたちの反応はどうでしたか。
新井)すごく喜んでくれて、私も嬉しかったです!
その後の交流プログラムでもアルビレックス新潟レディースの選手たちが、ウガンダの女の子たちの質問にとても真摯に答えてくださいました。ウガンダの女の子たちもサッカーが上手くなりたいという気持ちがすごく強くて、プレーの細かいところの質問もあったのですが、しっかりアドバイスしてくれてありがたかったです。
また、実際にWEリーグの試合で点取った選手やゴールキーパーで活躍してる選手の映像を見て、目をキラキラ輝かせていました。ユニフォームも気に入った選手の番号を探していましたね。「日本に行ってみたい!」とみんな言っていましたし、交流やユニフォームやサッカーボールの提供を通してウガンダの子たちもすごくモチベーションが高くなったと思います。オンラインとは言え、顔を見て直接お礼が言えたことにも喜んでいました。
ウガンダの女の子がサッカーを職業にするという夢を持つのはなかなか難しいと思うので、実際に女性がサッカー選手として生きていることを知ることが出来て希望になったのではないのかなと思います。
ーーー現地での活動だけでなく、日本と繋がって何かに取り組むこともとても貴重なものですね。
新井)日本と繋がることで、現地の女の子たちがもっといろいろな世界を知ることができたと思います。実際に交流して日本を身近に感じてくれたり、今まで出会えるはずのなかった人と出会う経験ができることは、彼女たちにとってすごく貴重で、今後の成長にも繋がることです。
南スーダン代表でもある女の子が私の学校にいたのですが、アルビレックス新潟レディースとの交流を通して「将来日本のチームでプレーしたい!」と強く思ったみたいです。そうした夢や目標をはっきりと持てることは、その子にとって良い影響なのかなと思います。
ーー夢や目標になれることは素晴らしいですね。日本の選手たちにもいい影響になったのではないでしょうか?
新井)サッカーが持つ可能性を感じられたのではないかと思います。アルビレックス新潟レディースの選手たちも、競技以外の面で世界に目を向けるきっかけになってもらえたら嬉しいなと思っています。
“かわいそう”ではない世界を日本の子どもたちに知ってほしい
ーーウガンダでの活動が、今の小学校教員として活かされていたりしますか?
新井)最近は放課後にウガンダと繋いで英会話の時間を取っています。自己紹介や日常生活を伝え合ったり、お互いの好きなものを伝え合ったりしています。
私がウガンダの現状を日本の子どもたちに話すと、第一印象は“かわいそう”なんですよね。日本と違う貧しい生活や学校に行けない子どもたちがいることが印象に残りやすいのだと思います。
現地での経験からウガンダの生活はかわいそうではないと感じましたし、子どもたちにはその印象だけで終わってほしくありません。現地の子どもたちと交流して、好きな食べ物や動物が一緒とか、実はウガンダにはこんなものがあるという発見があるといいなと思います。
ーー最後に、青年海外協力隊に興味をもっている方にメッセージはありますか?
新井)悩んでいるなら絶対に行った方がいいと思います。「やってみたい」気持ちがあるときに、一歩を踏み出すだけで自分が生きている世界が大きく変わってきます。挑戦してダメだったらダメでいいと思いますし。青年海外協力隊では、自分が知らない世界を知ることでさらに未知の世界が広がる経験ができるので、興味のある方は是非応募してほしいです!
ーーありがとうございました!