『ナッジ』の意味は、「より良い選択を後押しするために、小さなきっかけをつくること」です。強制するのではなく、自発的に選択させるためのアプローチを指します。ここでは、ナッジ理論やその具体例、特徴などをわかりやすく解説していきます。
「ナッジ」とは
先程もお伝えした通り、『ナッジ(行動経済学)』の意味は「より良い選択を後押しするために、小さなきっかけをつくること」です。
英語で「nudge(ナッジ)」は「肘でそっとつつく」ことを意味しており、人間の行動心理を利用して相手に気付かれないうちに選択を誘導することを指します。
シカゴ大学のリチャード・セイラー教授が「ナッジ理論」を提唱し、2017年にノーベル経済学賞を受賞したことをきっかけに注目が集まるようになりました。
行動変容をそっと促す様子は「母ゾウが子ゾウを鼻でやさしくつつく様子」に例えられることがあります。この例は子に対する母の愛情が伺えるように、『ナッジ』は「対象者の利益・健康・幸福を増進するものでなければならない」と定義されています。これは、自分の利益のための誘導である「詐欺」と大きく異なる点でしょう。相手を想う気持ちを前提とし、強制することなく良い選択へ誘導するのが『ナッジ』という理論なのです。
例えばどんなもの?
気を付けてみると、日常生活のなかで様々な『ナッジ』が潜んでいることに気付きます。ここでは、いくつかの具体例をご紹介します。
レジに並ぶ際の「足跡」
コンビニなどで買い物をする際、レジ前の床に足跡マークが描かれているのを見たことはありますか。縦と横で列が分かれることを防ぐのと同時に、最近では「密」を防ぐための距離の目安として効果を発揮しています。
登りたくなる階段で、健康増進
階段に「ここまで登ると○○カロリー消費!」などと書かれたステッカーが貼ってあるのを見たことはありますか。それは人々の健康思考を高め、エスカレーターやエレベーターではなく階段を利用させるための『ナッジ』です。階段を使うことは健康増進の効果が期待できるとともに、混雑を回避したり時間短縮したりすることにもつながるのです。
「あなたは何派?」吸い殻で投票するゴミ箱
イギリスの「hubbub」という環境保全団体が、煙草のポイ捨てを防止するためのキャンペーンを行いました。そこで設置されたのが、投票型のゴミ箱。例えば「サッカーで世界最高のプレイヤーは?ロナウドorメッシ?」といったアンケートを書き、投票したい方に吸い殻を入れるというものです。ポイ捨て禁止を呼びかけるのではなく「面白そう」と思わせる工夫をすることで、自発的にポイ捨てをやめるよう促したのです。この結果、街のポイ捨てが46%減少したそうです。
トイレの「いつも綺麗に使ってくれてありがとうございます」
お店やコンビニで「いつも綺麗に使ってくれてありがとうございます」という張り紙を見たことはありますか。こうした感謝の言葉は「トイレを汚さないで!」のような強制的な文章よりも受け入れやすく、より効果があることが分かっています。こうした文章の工夫も『ナッジ』の一種なのです。
ス―パー経営者の戦略
実は、スーパーにも様々な『ナッジ』が隠されています。例えば「広告の品」「店長のオススメ」といったPOP広告を見たことはありますか。それらは「買えばお得」と印象付け、人々の購買意欲を高める効果があります。
また、コストコのような大型スーパーにおいて、大きな買い物かごが用意されているのも「ナッジ理論」に基づいた戦略です。カートに空間があるときの違和感を与え、「ついつい買っちゃう」という現象を起こす工夫がなされています。
「ナッジ」の応用
先程、日常生活において様々な『ナッジ』が隠されていることをお伝えしました。コンビニやスーパー、公共施設などに多く見られる『ナッジ』ですが、この理論が応用されている場面は他にもあります。
例えば、子どもの教育。例えば、歯磨きを嫌がる子どもに「歯磨きをしなさい」と叱るのではなく、教育番組の “歯磨きを促す歌” を聞かせることがあるでしょう。その歌や映像に興味をもち、進んで歯磨きをする子どもも少なくないと思います。このように、強制することなく良い選択へ誘導する教育方法は、ナッジ理論の応用だと言えるでしょう。
編集部より
今回は『ナッジ』やナッジ理論とは何か、その特徴と具体例を中心にご紹介しました。人々の行動変容を促すこの理論は、人々を良い選択に導くこともあれば、本人の望まない選択に導くこともあります。『ナッジ』は「対象者の利益・健康・幸福を増進するものでなければならない」ことを忘れず、その活用方法について慎重に考える必要があるでしょう。