校友の交流促進とチャリティ活動を両立させた「早稲田駅伝」。このイベントは、東日本大震災を機に始まり、コロナ禍を乗り越え、2026年1月には第14回大会を迎えます。駅伝というチームスポーツを通じて、世代や立場を超えた“早稲田ファミリー”のつながりを生み出し続けるこのイベントの主催者である、早稲田大学校友会(以下、校友会)副事務局長の山口晋一さん(以下、山口)、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(以下、WAVOC)事務長の苅谷幸治さん(以下、苅谷)、ルーツ・スポーツ・ジャパン(以下、RSJ)の担当者に話を聞きました。
インタビュー対象
- 山口晋一さん(早稲田大学校友会 副事務局長/早稲田大学総長室 調査役)
- 苅谷幸治さん(早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター 事務長)
- 中島祥元さん(一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン 代表理事)
- 山本美空さん(一般社団法人ルーツ・スポーツ・ジャパン)
早稲田駅伝立ち上げ期のより詳しい経緯や想いはこちらから
震災復興を起点に、校友の「絆」をつむぐイベントを開始
ーー早稲田駅伝が立ち上がった経緯を教えてください。
RSJ 中島)RSJは2009年に設立し、参加型のスポーツイベントで日本を元気にする活動をしてきました。2011年に東日本大震災が起こり、早稲田大学の職員の方とお話しする機会がありました。私自身、早稲田大学の卒業生で当時35歳。卒業して10年以上経ち、昔の仲間と集まる機会も疎遠になっていく時期でした。大学側でも、震災の復興支援と、校友(OB・OG)の交流機会をつくりたいというニーズがあると伺いました。
そこで「スポーツイベントを使って、復興支援と校友の交流の場をつくりませんか」とご提案したのです。一人で走るマラソンではなく、駅伝というチーム形式なら「久しぶりに集まろうよ」と声をかけやすいですし、駅伝だからこそ生まれる交流があると考え、生まれたのが早稲田駅伝というイベントです。
初回開催時の様子校友会 山口)当時、大学では『Hello Wasedaプロジェクト』という取り組みが動いていました。社会に出ている校友(卒業生)、とくに若手校友を中心に集まる機会をつくっていこうという狙いです。震災からの復興への思いをみんなで共有しながら、校友が再び顔を合わせる場として早稲田駅伝が始まったと聞いています。
私はランナーとして、第1回大会から参加してきました。とくに第1回は旧国立競技場で開催されたため、ランナーにとっても特別な体験でしたね。
ーー現在の主催者である校友会とWAVOCについて、それぞれの役割を教えてください。
山口)校友会は早稲田大学の同窓会組織で、1885年に発足し、2025年で140年になります。現在、校友は約69万人で、校友会の下に地域・職域・卒業年次などの様々なカテゴリで約1,400の稲門(とうもん)会が存在しています。校友会の目的は校友同士の親睦の促進と、母校である早稲田大学の支援です。毎年約13,000名が来場する稲門祭も主催しています。
早稲田駅伝は校友同士の交流を深める重要な機会として位置づけています。WAVOC 苅谷)WAVOCは2002年に設立した機関で、学生が社会貢献を通じて成長することを目的として、さまざまなボランティアプログラムを実施しています。学生が社会課題に対して当事者意識を持って取り組めるよう、授業での学びと現場体験を往還させる形で人材育成を進めている点が特徴です。国内外の多様な地域で行われるボランティア活動を通じて、学生の人間的力量の増進を目指し、現在は34のボランティア関連学生サークルを支援しています。
東日本大震災での被災地支援では、学生たちが積極的にボランティア活動に取り組んでおり、早稲田駅伝はその活動を支援していただくチャリティイベントとしての側面も持っていました。
コロナ禍を乗り越え、新国立競技場で再スタート
ーー2023年の第11回大会は、コロナ禍を経ての再スタートでしたね。
中島)2020年1月に開催した後、コロナ禍に突入しました。翌2021年はアプリを使ったオンライン開催、その次の2022年は開催見送り。そして2023年1月の第11回は、リアル大会として3年ぶりに開催しました。それも、東京オリンピック2020が終わった新国立競技場という舞台でリスタートすることができ、スポンサーにも恵まれて2,500人もの参加者が集まってくださいました。
RSJ 山本)私はこの第11回が初めて運営に携わった大会でした。リアル開催としては3年のブランクのため集客含め心配もありましたが、想像以上の盛り上がりに驚きました。とくに印象的だったのが、参加者全員が応援部のリードに合わせて校歌を歌うシーンです。私も早稲田大学出身なのですが早稲田駅伝への参加自体も初めてであり、その様子を見ていて「これが早稲田駅伝なんだな」と実感しました。当日の寒空を吹き飛ばすかのような熱気がありましたね。
誰もが参加できるイベントへと進化する早稲田駅伝
ーー2026年1月開催の第14回大会では、個人ラン2km部門を新設されるそうですね。
山本)これまで早稲田駅伝は、約21kmを複数人のチームで走る「駅伝」、または、個人で同等の距離を走る「個人ラン」というのが基本種目でした。それなりに参加へのハードルがあったんです。ただ、早稲田駅伝は「競技」的な側面よりも、同窓会のように交流を楽しむ「ファンランイベント」としての性質が強いコンテンツです。より幅広い方に気軽に参加していただくために何ができるかを考えていました。
そこで、5人固定制だった駅伝のチーム人数を2~10人などと選択できるようにしたり、前回(第13回)は個人ラン10kmの部を新設しました。今回はさらに個人ラン2kmの部を設けました。「早稲田駅伝に初めて参加してみようかな」と思っていただける方にも門戸を開きたいという思いで、試行錯誤しています。
中島)駅伝の場合、例えば2人チームで出ると、1人あたり約10kmずつ走らなければなりません。でも個人ランの2kmなら、友人同士で気軽にエントリーできます。また、早稲田駅伝の参加者は早稲田関係者が約7割ですが、残りの3割は早稲田とはあまり関係のない方です。早稲田がつくる雰囲気を味わっていただくという意味でも、誰でも参加できるというハードルの低さは大切にしたいと考えています。
ーー現役学生の参加状況はいかがですか。
山本)ゼミ単位での参加もありますし、2023年からは体育会各部を招待して、10数チームに参加してもらっています。その際、各部のユニフォームを着て参加してくれるので、校友にとっても後輩たちの姿を目の前で見られる貴重な機会となっています。
中島)例年、箱根駅伝の直後の開催なのですが、みんながテレビで応援していた競走部のメンバーがゲストとして来てくれるのも大きいですね。
また、運営側でも学生が活躍してくれています。放送研究会のアナウンサーを目指す学生がMC、映像班が映像制作をしてくれたり、応援部やチアリーディングチームがパフォーマンスを披露して応援してくれたり。子ども向けにヒーローショーのパフォーマンスをみせる「怪獣同盟」という団体の参加も。箱根駅伝でトップの走りを見せる競走部から怪獣同盟まで、昔から早稲田に根付いてきた、多様性や雑多なイメージを体現するかのようなイベントになっています。
徐々に認知度は上がっていて、他大学からランナーたちが「早稲田に勝とう」と参加してくれることも増えました。前回は慶應大学のチームや明治大学のチームの参加もあり、面白いなと思いました。今後もそういった参加は大歓迎です。
山本)校友の話になりますが、先日、稲門祭に参加して早稲田駅伝のチラシを配っていた際、多くの方に「今年も参加しますよ」と声をかけていただきました。中には、早稲田駅伝のTシャツを着て稲門祭に来られている方にもお会いできて、嬉しかったですね。大会後のアンケートでは「早稲田であることを誇りに思います」といった声を数多くいただく一方で、「早稲田出身じゃなくても楽しめた!」という感想も多くいただきます。
スポーツイベントだからこそ生まれる交流をより広げていく
ーー校友会やWAVOCとして、早稲田駅伝にどのような意義を見出していますか。
山口)校友会としては2つの目的があります。1つは校友同士の交流促進です。前回からは稲門会単位で申し込める入賞カテゴリーを設けています。駅伝チームには日頃から走っている人もいればそうでない人もいますが、ひとつの目標に向かって走ることで、普段の校友会活動とはまた違う交流が生まれるのです。
もう1つは、「早稲田大学」や「校友会」を広く地域社会に認知してもらうことです。早稲田という名前がついた社会的意義もあるイベントをより魅力的なものにしていくことで、校友だけでなく、ご家族・友人そして地域の方々に早稲田ファンの輪を広げていきたいと考えています。
苅谷)2024年の能登半島地震の被災地でも、学生たちが継続的にボランティア活動に取り組んでおり、その活動を早稲田駅伝が温かく支えてくださっています。早稲田駅伝は、被災地で活動する学生と参加ランナーの皆様の復興支援への思いをつなぐイベントです。また、仲間との日頃からのつながりや絆は、災害からの復旧・復興の場面においても非常に大切だと感じています。早稲田駅伝で共に走った仲間とのつながりが、いざというときの力にもなっていってほしいと考えています。
ーー今後、早稲田駅伝をどのように展開していきたいですか。
山本)オンラインでつながる手段が増えた今だからこそ、リアルに一つの会場に集まって、みんなでタスキをつなぐ機会をつくることに意義があると思います。早稲田駅伝は種目がたくさんあるので、ある年は親子ラン(未就学児)で参加した方が、別の年にキッズラン(小学生)として参加するなど、年齢やライフステージに応じて継続的に参加していただくことができます。これからも新たな方々にどんどん参加してもらえるイベントにしていきたいです。
中島)早稲田のOBとしても、スポーツイベントの会社としても、早稲田駅伝は大切にしたい事業です。OBの立場としては、早稲田の輪を広げていくことにより貢献できるイベントとして続けていきたいですね。
またスポーツマネジメント的な目線に立てば、同じ場で同じスポーツを体験することで前向きな気持ちを共有しやすく、心と心がつながりやすいという研究結果などもあります。そんなスポーツの効能を、もっと社会に活用していただきたい。早稲田駅伝がその良い事例として、広く知られていってほしいと思います。
ーー早稲田の伝統やつながりを生かしながら、世代や立場を超えたつながりやチャリティに貢献する、意義深いイベントですね。2026年1月の第14回大会も盛り上がることを期待しています。ありがとうございました!
「第14回 早稲田駅伝 in 日産スタジアム」は2026年1月24日(土)に開催!
エントリーは2025年12月25日(木)まで!
https://runnet.jp/entry/runtes/user/pc/competitionDetailAction.do?raceId=381175&div=1
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