地域に誰でも参加できるスポーツ環境を提供してきた総合型地域スポーツクラブ。
部活動の地域移行が段階的に進む中で、その果たすべき役割も大きく変わる時期が来ています。
新潟県村上市の総合型地域スポーツクラブ『希楽々』で20年以上子どもたちのスポーツ環境を見守ってきた渡邊優子さん(以下、渡邊)は、「スポーツに限らないスポーツクラブ」を理想とします。
これからのスポーツクラブはどのような姿を目指していくべきか、お話を伺いました。
異なる入り口からスポーツへ
ーー『希楽々』さんではどのような事業に取り組んでいるのでしょうか。
渡邊)まず、事業の大きな方向性として“地域で困っていること”に取り組んでいます。小学生の居場所作りや、部活動の地域移行、高齢者の買い物支援など、地域の課題に取り組んでいくことで地域で必要不可欠な存在として認めてもらえるだろうと思い、さまざまな事業を企画してきました。
子どもに関する部分では、「アフタースクール」という放課後の園児・小学生に向けてスポーツに限らない多様な経験をしてもらう事業を行っています。田舎は子どもが少ないため、ずっと同じクラス、同じメンバーで小学校中学校と学年が上がっていくことになり、外の人とコミュニケーションをとる機会が少なくなりがちです。そうした環境で育っていくと、地域の外に出てから困ってしまうのではないかと思い、事業を通じていろいろな地域の子どもと接する機会を作ろうということも意識しています。
ーー具体的にどのような事業を開催しているのでしょうか。
渡邊)アフタースクールでは、スポーツに限らず、大工さんと物作りを体験したり、和菓子屋さんと一緒に行うお菓子作りなど、地域のマンパワーを使った事業を企画してきました。真正面にスポーツ教室のような事業を押し出すと、運動をしない人や嫌いな人はなかなか来てくれないので、少し別な切り口から最終的にスポーツに繋げていくような形をイメージしています。スポーツが嫌いな子も、スポーツクラスの子と一緒に活動しているうちに気付いたらスポーツをやっているという状況にできたらいいなという想いから生まれている企画ですね。
ーースポーツが苦手な人も楽しめる内容になっているのですね。実際、地域の子どもを取り巻く環境はどのように変わったのでしょうか。
渡邊)まず、いろいろな地域の子どもと関わる中で、子どもたちが“自分の殻を破るような経験”ができるようになったと感じています。やはり従来の田舎の環境だと、環境が変わらないので「この子は大人しめな子」というように、周囲からの見方がずっと残りやすいんです。そうした状況から、いろいろな地域から人が集まってくる広域的な空間に変わると、まったく自分を知らない人と新しく関わることになります。
最初のうちは、上手にコミュニケーションを取れている子、なかなか輪に入っていけない子もそれぞれいるのですが、だんだんと回数を経ていくごとに学年が上の子が下の子の面倒を見るようになったり、仲間意識が芽生えたりという変化が自然に発生してきます。学校とはまた違った場所として、一皮むけるチャンスになっていると感じます。ほかにも、学校は登校拒否しているけれどもスポーツクラブには来られるという子もいて、同じように自分の殻を破る機会になると思っています。
あとは、子どもたちのスポーツへの関わり方も多様になってきています。例えば、30年前は小学校としてミニバスの大会に出るとか、スポーツを嫌いでも関係なく参加しなければならない空間がありましたが、今では「スポーツはやりたくないならやらなくてもいい」という非強制的な環境になってきています。そんな時代の中では、スポーツを「する」「しない」の二者選択ではなく、子どもたちの興味関心を育てて夢中にさせる環境が大事だと思っています。例えば、部活動において中学生が部活をマネジメントする役割を担ってもいいと思うんですよね。スポーツを「する」ということに特化せず、アフタースクールで広くいろいろなことを経験する中で、地域の中で何か「こんなことに関わってみたいな」という人や地域との関わりを作ることができたらいいなと思っています。
生き残るために、地域課題の解決で”儲ける”
ーー”地域の課題を解決する”総合型地域スポーツクラブであり続けるためには、どのようなことが必要なのでしょうか。
渡邊)これは少しいやらしい話かもしれませんが、まずスポーツクラブとして生き残るために”儲ける”必要があると考えています。総合型地域スポーツクラブはこれまで、地域の社会貢献のような公益性が前面に出てきていました。それはもちろん大事なのですが、それだけだと続かない。頑張って働いている職員が給料をもらって、この職種で働きたいと思う人が増えていくことが大事だと思います。
現在、総合型地域スポーツクラブは二極化していると感じています。最初に日本の施策として総合型地域スポーツクラブを作ろうと動いたときには、スポーツ振興くじや補助金を活用して、各自治体も設置率を競うほどの勢いでたくさんのクラブが誕生しました。ただ、途中で財源が切れてしまい、継続が難しいクラブも出てきてしまう中で、「量産」から「質的充実」へと方針がシフトしてきています。国や県の補助金に依存するのではなく、自主的に運営しお金を稼いでいくことが必要であり、自分たちで動いて魅力あるものを提供して対価をもらうという運営体制が大切です。
ーーたしかに、若者がなりたいと思う職業であるためには、頑張った分だけ給与がもらえる環境は大切ですよね。「質の高い」運営体制とは何か基準があるのでしょうか。
渡邊)私も参画する総合型地域スポーツクラブ全国協議会で、昨年度から登録認証制度という総合型地域スポーツクラブの質的な基準を定めてクリアした団体を登録できるという制度がスタートしました。基準は、基本基準と都道府県独自基準とがありますが、公益性やガバナンスが効いているかなどを最低限の基準として設けています。ただ、昨年度からスタートして、そこに登録したのは全国にある約3,500件のクラブのうちたったの1,000クラブほどなんですよ。
まだまだクラブによっては公認の指導者の不在やマネージャーが常勤雇用されていないといった状況のところも多いということです。何もそういったクラブを淘汰するために作った制度ではないので、この制度を一つの基準として、足りないところがあればそれを補っていきましょうという前向きな制度として活用してもらいたいと思っています。
ーーそういった「質の高い」スポーツクラブを作るためにはどのような意識が重要なのでしょうか。
渡邊)地域の課題を解決するという本質を見失わないことだと思います。最近では『部活動の地域移行改革』が行政主導で叫ばれていますが、どうも本来の本質的な部分を見失っているように感じるんですね。私は、この部活動改革は従来の学校部活動からもっといい環境を作っていく、それこそ中学生に限らず小さな子どもから高齢者に至るまで広い範囲の改革だと思っています。それが行政に言われたからやるという形になってしまうと、例えば「運営団体がないから外部委託しよう」という考えになってしまうことも多く、本当に子どもたちや地域のためになっているのだろうかと少し疑問に思ってしまいます。
地域の実情はさまざまで、運営団体がない、指導者がいないなど課題はたくさんあると思います。でも子どものための、地域のための部活動改革ですから、運営する団体は「子どもたち・地域のためにできることは何か」を探して実行する姿勢が大事になってきますよね。
目指すのは、スポーツ以外の視点も取り入れたクラブ運営
ーー地域課題の解決や総合型地域スポーツクラブの改革など、渡邊さんをここまで動かす原動力を教えてください。
渡邊)実は、私は『NPO法人希楽々』を立ち上げてから20年ほどの間に、2度も末期の癌にかかりました。幸いにも治ることができたのですが、入院生活の中では、話せない人、食べられない人、歩けない人など、人間の弱い部分を持つ人たちを目の当たりにしました。今まで、スポーツを通して人間のポジティブな側面しか見てこなかったのだと気づき、だからこそ、スポーツクラブだけどスポーツに限らず、地域の課題に貢献しようと思えたのだと思います。先ほど儲けることが大事だと言いましたが、希楽々の事業の中には必ずしも直接的な利益につながらない先行投資的な事業もあります。それらの積み重ねの上に、地域からの信頼と利益の両立があるのだと思っています。
ーー20年という長い間、渡邊さんを動かしていた想いの根底には、そのようなご自身の経験があったわけなんですね。最後に、渡邊さんが描く未来の総合型地域スポーツクラブの姿を教えてください。
渡邊)総合型地域スポーツクラブを運営する人はどうしてもスポーツを勉強してきた人がやるというイメージがあると思うのですが、実は私は建築士で一級建築士の資格を持っています。もともと体育会系ではあったのですが、スポーツを専門に勉強してきたわけではないんです。でも、建築士としての視点は希楽々の活動の中にたくさん入っていて、クラブのマネジメントにも活かされていると感じています。
だから私は、“スポーツが好き”な人だけがクラブに関わるのではなく、いろいろな人が運営に関わるべきだと思っています。極端に言えば、スポーツが嫌いな人でも「自分がなぜ嫌いなのか?」という視点からアプローチしていけると思いますし、そういった広い視点でスポーツを捉えていき、自由な発想で多様な事業を展開していけるといいなと思います。
ーー参加者も運営者も、多様な人が集まる場になれば事業の可能性も広がりそうですね!ありがとうございました!
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老若男女問わず地域の多様な人々が参加し、さまざまなスポーツ活動を行うことができる環境を提供する“総合型スポーツクラブ”。時代が変わり、地域や行政との関わり方が変わる中、スポーツに関することだけではなく、“地域の課題を解決する”ことにも貢献されていることが、NPO法人希楽々さんのお話から伝わってきます。
多くの子どもたちがスポーツに親しむために、さまざまな角度からのアプローチを行っており、スポーツを“する”だけではない関わり方として、部活動改革においてマネジメントを中学生が担うアイデアなど、感銘を受ける内容が多くございました。私たちリコーリースは、スポーツクラブのお金まわりの困りごとに対して、課題解決できる集金代行サービスを提供させていただいております。「課題解決のための本質を見失わない」ことを改めて再認識し、子どもたち含めた“スポーツクラブ”にとってよりよい環境を提供できるように協力していきたいと考えております。
応援企業紹介 リコーリース株式会社
1984年より、集金代行サービスを提供しており、これまで20,000社以上の導入実績がございます。
集金代行サービスは口座振替サービス、コンビニ決済サービスの2種類の商品の取り扱いがあり、スポーツスクール様には特に口座振替サービスをご利用いただいております。口座振替サービスとは毎月の月謝等をスクール生もしくは保護者の指定口座から引き落とし回収するサービスです。
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設立:1976年12月
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