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Jリーグ・清水エスパルスが向き合う“こころ”の悩み~オレンジハートプロジェクト~

エスパルス オレンジハート

Jリーグ・清水エスパルスのメインカラーから『Orange Heart Project(以下、オレンジハートプロジェクト)』と名づけられたプロジェクト。ホームゲームにおいて、“こころ”の悩みと向き合う方々とのサッカー教室や、試合前にボランティアスタッフと一緒に試合運営を体験してもらうなどの活動が行われています。2020年から続くこの活動は、そうした方々にとっても、そのまわりにとっても大きな意義を持ちます。清水エスパルスは、サッカーを通してどのように“こころ”の悩みに向き合っているのでしょうか?

この活動を中心となって進めている、清水エスパルスの木村将也さん(以下、木村)・今泉幸広さん(以下、今泉)、静岡市精神保健福祉課の前林勝弥さん(以下、前林)、同じくスポーツ交流課の栗田智香さん(以下、栗田)にお話を伺いました。

オレンジハートプロジェクト
エスパルス
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『オレンジハートプロジェクト』とは?

ーー今年になって3年目となる『オレンジハートプロジェクト』。9月24日、IAIスタジアムで行われたホームゲーム開催時にはどのような活動を行ったのですか?

エスパルス 木村)“こころ”の悩みを抱える方々11名と、付き添いの方4名、パルちゃんクラブ(ホームゲームボランティア)のメンバーや、静岡市精神保健福祉課・こころの健康センター・スポーツ交流課の職員の皆さん、協賛企業であるヤンセンファーマ株式会社の社員の皆さん、弊社インターン生など多くの方が参加し、全員お揃いのオレンジ色のTシャツを着用して活動をスタートしました。

まず、今泉さんが中心となってスポーツ教室をピッチ上で行い、その後は休憩を挟んでボランティア団体の『パルちゃんクラブ』が行う来場者プレゼントやサンプリングの配布を手伝いました。その後は当日の感想を参加者でシェアし、試合を観戦して終了しました。

ーー3年目となるこの活動で、主にスポーツ教室の部分を担当されている今泉さんは、どのような意義を感じていますか?

エスパルス 今泉)私は普段、エスパルスのスクールのヘッドオブコーチングとして、健常者の子どもたちだけでなく、知的障がい者など障がいのある方々が、みんな笑顔で活動できる機会を増やしていきたいと思いながら活動しています。

『オレンジハートプロジェクト』は、私たちエスパルスの職員やファン・サポーターなど、これまで“こころ”の悩みを抱える方々と接したことがなかった人たちにとって大きな意義があると思っています。加えて、当事者の方も、普段支えられる側である自分たちがボランティアをすることによって「私たちもこうやって社会に貢献できるんだ」ということがわかります。この日の参加者からは、「エスパルス以外でもボランティアがあったら参加したい」というコメントがありました。これこそがこの活動の意義の核心に近い部分ではないかと思います。

オレンジハートプロジェクト

“こころ”の悩みの課題・スポーツ、そしてエスパルスとの関わり

ーー“こころ”の悩みを抱える方は、実際にどのような社会生活での課題や不安を抱えているのでしょうか?

静岡市 精神保健福祉課 前林)“こころ”の悩みを抱える方の課題として、『社会的偏見』や『セルフスティグマ』を解消していくことが挙げられます。
ただ、こうした“こころ”の悩みはみなさんにとっても特別なものではなく、誰にでも起こりうるということは理解していただきたいです。日常のさまざまな場面でストレスを抱えることは誰にでもあると思います。こうしたストレスを、「仕方ない」と切り替えたり、気分転換をしたりすることで解消したり、誰かに相談することで折り合いをつけながら人々は暮らしています。
しかし、それができないと心身ともに辛くなり、生活に影響が出てしまうことになってしまいますよね。朝が起きられなくて、学校や仕事に行けなくなってしまったり。そうすると、当事者ご自身が「努力不足だ」などと自分を責めてしまうこともあります。ですので、こころの悩みを抱える方々は些細なことでも気にしすぎてしまったり、「自分には就職する価値がない」と思いこむ“セルフスティグマ”は、大きな課題の一つですね。

そこから先の社会的偏見も含め、この『オレンジハートプロジェクト』は当事者に明日への活力となる「スイッチ」を入れ、触れ合うことで周囲の方の偏見も少なくできる活動なのかなと思っています。

ーーたしかに、誰にでも起こり得ることであり、なのにそれに対して偏見を持ってしまっているというのは大きな課題ですね。静岡市として、こうした課題にスポーツを絡めて取り組む意義を栗田さんはどう感じていますか?

静岡市 スポーツ交流課 栗田)静岡市は、古くから地域にサッカー・スポーツが文化として根付いている街です。そんな街に約30年前清水エスパルスが誕生し、これまでのさまざまな活動を通して地域から愛されてきました。そのクラブと一緒に取り組むからこそ、“難しい”と感じる問題が市民の皆さんに届きやすくなることがあります。今回の“こころ”の悩みと向き合う『オレンジハートプロジェクト』も、やり始めた当初は「どのように関わるのがよいのかな」と私自身も思った部分でもあります。
ただ、難しく捉えてしまいがちなこの問題を、エスパルスさんと一緒に「普通でいいんだよ」とメッセージを発信することで、市民の人たちが偏見をなくし、理解する大きなきっかけになるのではないか?と考えて取り組んできました。

清水エスパルス_パルちゃん
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触れ合い、お互いに知る一日を

ーーエスパルスのホームスタジアムである『IAIスタジアム』で、緑の芝生の上で体を動かすところからこの活動はスタートします。なにか運動するときに声掛けで気を付けていることなどはございますか?

今泉)まずそもそも、体を動かすこと自体が障がいの有無に関係なく、爽快感を感じられることです。サッカーの広いピッチの上だとなおさらですよね。とくにこの日は、多くの人にその気持ちよさを味わってもらいたいと強く思っています。

私自身もさまざまな障がい者スポーツ指導の資格を取りに行ったり、学んでそうしたコミュニケーションについて深めてきた中で、つねに「肯定的であること」は意識しています。笑顔でできたことを褒めたり、ハイタッチをしたり。また、2人組を作るときにはなるべく健常者と障がいのある方とでペアになってもらい、実際に“触れ合う”場面を作ることを意識していますね。

ーー当事者のことを“知る”ための工夫がピッチにもあるのですね。実際に参加されるインターン生やボランティアスタッフの方々には、どのように説明しているのですか?

木村)ボランティアの場面でも、『パルちゃんクラブ』のメンバーと一緒に活動するように配置を工夫しています。活動する中で言葉を交わし合うことが一番お互いについて“知る”ことに繋がると思いますし、そうした意味で孤立させずに誰かと一緒に活動するということは私たちもかなり意識しているところです。最後に試合観戦していただくのですが、特別に席を用意するのではなく、観客の1人となって応援していただきました。

前林)実は、この『オレンジハートプロジェクト』を最初に行った際には、参加者やボランティアの皆さんにもかなり細かくいろいろなことを伝えていました。資料も作りこんだりして。そうすると、逆に「難しいこと」という印象が強くなってしまったと反省し、そのあとからは活動の目的や想いをエスパルスさんに話していただき、私からはいかに“自分ごと”として捉えていただくかの話をするようにしています。
そうして皆さん、自分の身近にもあることだと感じていただけたり、ボランティアを一緒にする中で「特別何かをしなくてはいけないことはない」ということに気づいたり、すごく意味のある活動になったのではないかと思います。

ーーお互いに偏見なく、一緒に活動することで見えてくるものが多くありそうですね。

オレンジハートプロジェクト

ノーマライゼーションの実現へ

ーー『オレンジハートプロジェクト』では、ノーマライゼーションの実現という言葉も掲げています。

木村)少し難しい言葉ですし、普段考えることもなかなかないのではないかとも思います。ですが、障がいの有無に関係なく、誰もが平等に生活できる社会をエスパルスを使ってどう実現していくか、というところは私たちも普段から考えております。

今泉)ノーマライゼーションやインクルーシブなど、多くの言葉が飛び交っていますよね(笑)。私の中では、ノーマライゼーションの実現のために、障がいがある人でも健常者と同じことができる権利があると認識し、やりたいことができる環境を整え、作ってあげることが私たちエスパルスにできることではないかと思っています。今後もエスパルスがハブになり、このような環境がさまざまな場所に波及されていくことを願っています。

栗田)さまざまな活動で、参加した人同士が「楽しかった」などの感情を共有することがノーマライゼーションの第一歩なのかなと思います。誰かと一緒に過ごして、共感して、という体験を作る力がスポーツにはあると思うので、今後も市としてもエスパルスさんとともに多くの場を提供していきたいですね。

前林)この活動を通して、「誰かのために」というおもてなしの心を持つことができ、新たな自分を発見した参加者がいました。エスパルスがあるからこそ、「誰もが安心して自分らしい生活を送る」ことの実現が、本当にできるのではないかとその可能性の大きさを市の職員としてひしひしと感じています。

ーーありがとうございました!

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