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クラブが“この街”に存在する意義【鹿島アントラーズによるプログラミング教室の推進】

鹿島アントラーズ_プログラミング教室

2020年10月、鹿島アントラーズは、鹿嶋市やキラメックス株式会社と協働し小学校プログラミング教育を開始しました。

鹿島アントラーズがサッカーとは違う文脈の活動に取り組む意義、そして、鹿島アントラーズが鹿嶋の街にある意味――。地域連携チームの吉田様(以下:吉田)、セールスチームの福島様(以下:福島)にお話を伺いました。

「まちづくり=人づくり」

ーー活動を始めたきっかけや、キラメックス株式会社との活動における繋がりについて教えてください。

吉田)昨年の2月に、株式会社メルカリ、鹿嶋市、鹿島アントラーズで、地方創生に関する包括連携協定を結びました。それと前後する形で、パートナー企業のユナイテッド株式会社様の連結子会社・キラメックス株式会社様から、「鹿嶋市でプログラミング教育を出来ないか?」というお話を頂きました。

プログラミング教育は、小学校では2020年度から必修化しました。鹿嶋市の教育長に現状や悩み事を伺ったところ、「県全体で各教員が研修を受けているが、やはり手探りの状況。使用するソフトや、授業の組み立て方に悩んでいる。」との回答でした。そういったノウハウを持つ企業であるキラメックス様にご協力、ご支援いただけるならば、是非お願いしたいという意向をうかがい、実施が決まりました。

合意後に鹿嶋市教育委員会が、キラメックス様のノウハウを使って授業をしてみたいという小学校を募った結果、市内の5つの小学校が手を上げてくださり、そこでプロジェクトを開始しました。

最初に申し上げた「地方創生に関する包括連携協定」というのは、まちづくりに関することなのですが、まちづくり=人づくりと考えています。社会課題の一つに「地域の教育」も挙げられますので、それに則った事業の一つと捉えることが出来ます。

ーーありがとうございます。
Jリーグの中でも先進的な取り組みだと思いますが、きっかけとしては、やはりパートナー企業さんとの繋がりが一番大きかったのでしょうか?

福島)そうですね。ITの導入は地方ではなかなか進んでいないということもあり、キラメックス様は「地方でのビジネス展開」に関心を持たれていました。地方の学校もクライアント候補として考えておられて、その狙いとマッチしたことも大きかったですね。

ただ、前段として、元々鹿島アントラーズが地元の方々とのIT推進の連携を取っていたこともあると思います。

吉田)社長の小泉は、メルカリが親会社になった時から、クラブの地域貢献活動として「地域の社会課題の解決」をテーマに掲げています。鹿島アントラーズがホームタウンとする地域には、医療、教育、福祉など様々な課題があります。

その課題を、鹿島アントラーズとメルカリをハブに、多くの企業を巻き込み、引き寄せて、各社のノウハウや人脈、テクノロジーを使い解決していくという構想を持っています。今回の取り組みはまさしくその一つで、アントラーズでもメルカリでも出来ないことをキラメックス様という企業を引き寄せたことによって、教育面での課題解決に取り組めたわけです。

ーー鹿島アントラーズが、地域や企業と協働して新たな取り組みができる理由は何だと考えられますか?

吉田)クラブ創設以来30年間、地域に対して積み重ねてきた実績があるからこそ、アントラーズへの信頼があるのだと思います。信頼がなければ、サッカークラブが教育事業をやりますと言っても、「何それ」となってしまうと思います。積み重ねがあって、信頼を勝ち取り、クラブのブランドを築いたことがこの事業の前提になっていると思います。

福島)ホームタウンのスケールが小さいことは我々の弱みではありますが、企業にとっては実証実験をしやすいというメリットがあります。新しい事業は規模が小さい方がスタートしやすいし、その効果が見やすいので、実は地方にあるクラブの方がそういった面で強みがあると感じています。

鹿島アントラーズが“潤滑剤”に

ーー教育事業を実際に行ってみて、印象的な出来事や反応はありましたか?

福島)プログラミング教育を進める際、ITリテラシーが高い子どもと、ITリテラシーがまだ十分に高くない子どもがコミュニケーションする上で、全員に共通する「鹿島アントラーズ」というワードが潤滑剤になっていたことが印象的でした。

例えば、鹿島アントラーズのエンブレムを、マインクラフトというゲームの中でのプログラミング機能を使って作ってみようという授業を実施した時も、「鹿島アントラーズ」を授業の教材ネタとして使っていただいたことによって、子どもたちがあまり抵抗なく進められていたそうです。

プログラミング教室_授業風景

吉田)そして、教員の方々がとても喜んでくださいました。
「こんなにレベルの高いプログラミング教育を、この短期間でこんなにスムーズに構築・実践することは、自分達だけでは出来なかった。」という声を多く頂きました。

福島)昨年は鹿嶋市だけで実施したのですが、先生や校長先生からの評判も高かったこともあり、ホームタウンである鹿行5市のうち、鹿嶋市以外の残り4市の行政の方からも実施したいとお問い合わせを頂きました。今まさに現在進行形で、他の市にも展開しているところです。

ーー素敵ですね。ICT教育に関して、導入部分がハードルが高いと思われている中で、こういったきっかけがあると教育現場もとても有難いのではないかと思います。

プログラミング教室_授業中

選手も積極的に地域と関わる

ーー代表取締役社長である小泉氏や選手が教育プログラムに関わっていると拝見しました。社長や選手もこの取り組みに関わることへの想いを教えていただけますか?

吉田)小泉が関わったのは、鹿嶋市と行方(なめがた)市の中学生に対するキャリアデザイン教室です。自分の半生を振り返りながら、山あり谷ありの過去を語り、自分がどういう哲学で生きてきたか、子どもたちにこんな風に生きて欲しいと訴える授業を実施しました。小泉は、この取り組みに非常に前向き、意欲的でした。今後もこの授業は継続していきます。

選手は、鹿嶋市教育委員会と共同で制作した英語教材動画に登場しています。TPR(全身反応教授法)という、発音と動作を一緒に見せて、聞かせて、低学年の小学生が、英語に親しむという手法です。例えば、土居聖真選手が「stand up」と言いながら、椅子から立つ。「sit down」と言いながら座る、というものです。

全選手の動画を作成し、5月末から鹿嶋市の小学校で導入が始まりました。憧れの選手が出てきて、子どもたちもそれに合わせて動いたり大きな声で英語で発音したりと、とても楽しそうな授業になっています。新型コロナウイルスの関係で、選手たちは今は学校訪問ができていませんが、行きたいという話をしてくれています。

ーー選手の皆さんもとても前向きなんですね。

吉田)そうですね。1本撮影するのに20分〜30分かかりますが、喜んで笑顔で楽しそうに取り組んでくれています。

給食の時間に見てもらう動画も月1本作っています。感染症対策のため、子どもたちは机を向き合わさずに、前を向いて黙って食べる黙食を強いられているため、本当に静かなんです。その味気ない給食の時間に、少しでも潤いをもたらしたいと考えました。

アントラーズのマスコットのしかおが「今朝は何食べましたか?」「お母さんの料理で何が好きですか?」といった質問をして、選手がそれに答える動画です。6月はGKの沖悠哉選手、7月は土居聖真選手が出演してくれました。

ーー教育現場と関わる部分で様々な取り組みをされているんですね。

吉田)もちろん地域貢献、社会貢献活動ではありますが、ファンづくりをする上でのタッチポイントとしても、学校はとても大きいです。

授業風景

クラブが“この街”にある理由

ーークラブがハブとして活動する意義やメリットはどういうところにあると思われますか?

吉田)Jリーグは「地域密着」を理念に掲げていますが、その背景には、地域がクラブの生命線であることが挙げられると思います。

クラブが存在する地域が疲弊、衰退してしまったら、クラブの活力も保てない。反対に、クラブの活力があれば、地域の活力も増すというのが根本にある。だからこそ、地域とクラブが支え合う形で活動することが必要だと考えています。

ーー地域活性化という観点で、アントラーズはとても象徴的なJクラブだと思います。地域への想いや、鹿島アントラーズがこの地域にある意義をどう考えられているか教えてください。

吉田)このクラブが創設された背景に、“この地域にもっと潤いをもたらしたい、人々の生活、心を豊かにしたい”という想いがありました。例えば、住金金属(現:日本製鉄)の製鉄所に転勤が決まると、「あんなところに行きたくない」と言う人が非常に多かったと聞きます。

アントラーズは、Jリーグの理念に基づいてクラブを作り、歴史を重ねてきました。これまでの地域貢献は、人の心に彩りを与えていくというような精神的な役割が大きかったと思いますが、これから先は、今まで以上にまちづくりや人づくりに関わり、街の姿を変えていくようなことも地方クラブの大きな使命になっていくのではないかと考えています。

ーー今後への想いについて伺ってもよろしいでしょうか?

福島)地域の課題に対して、自分たちの力だけではできないことも多いと感じています。パートナー企業様の力もお借りし、地域にも企業様にもメリットを返せる形で取り組みを進めていけたらと思っています。

吉田)やらなくてはいけないことは、本当にたくさんあるんです。

嬉しいことに多くの企業様から鹿島でこういうことをしたいとお話を頂いています。行政もアントラーズが地域創生に携わることを期待してくれています。それは非常に嬉しい話で、その期待に応えるだけでなく、クラブのためにも地域課題に取り組むことが重要だと考えています。

ホームタウンとしている鹿行5市では、人口減少、少子高齢化を始め、多くの課題を抱えています。地域を疲弊させないことはクラブのためにもなる。「我々はこのクラブを存続させていかなければならない」という危機感が、アントラーズのスタッフの活力の源になっていると思います。これからも、集客や地域創生も含め、あらゆる面で力を尽くしていきます。

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