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運動の機会からダイバーシティまで〜FC東京「あおぞらサッカースクール」が生み出すもの

サッカーJリーグに所属するFC東京が行う「あおぞらサッカースクール」。2002年の日韓ワールドカップ以降、さまざまな人の協力を得ながら、知的障がいや発達障がいのある子どもたちに、運動の機会をつくる取り組みを続けています。
定期的に活動をする意義、育成組織と交流をする意義など、さまざまな角度から、社会連携推進部の久保田淳さん(以下、久保田)に話を伺いました。

「どうせだったらチャレンジしよう」

ーー「あおぞらサッカースクール」について簡単に教えてください。

久保田)「あおぞらサッカースクール」というのは、日常の中で運動する場所が少ない、知的に障がいがある子どもたちを対象とするサッカースクールです。
補助金の助成をいただいている調布市とともに、知的障がいや発達障がいがある子どもたちが楽しく体を動かせるサッカースクールを運営している「認定NPO法人トラッソス」の協力を得ながら、取り組みを進めています。
また、世田谷区で「わくわくサッカー教室」、杉並区で「きらきらサッカー教室」を運営するなど、調布市以外でも似たような活動を行っています。

ーー始めたきっかけを教えていただけますか?

久保田)日韓ワールドカップが開催された2002年、サウジアラビアチームの練習拠点だった「東京スタジアム」(2003年3月から「味の素スタジアム」)を拠点に、障がい者・障がい児と一緒にサッカーをするイベントを調布市と催したのがきっかけでした。
大会を終えた後、「一回の活動で終わらせてはダメだ」「定期的に活動した方がいい」という声が上がり、市役所の協力などもあり、継続的な取り組みを行うことになりました。
そのときに手伝ってくださったNPOトラッソスのスタッフと一緒に、知的障がいのある子どもたちへの接し方や指導の仕方を学ばせてもらいました。

そして2014年には、年8~10回の活動だった「教室」に加えて、毎週1回定期開催する「スクール」も追加することといたしました。

ーー定期的な活動も開始したきっかけというのは、何があったのですか?

久保田)活動場所を確保できたことが大きかったです。
府中駅前にある商業施設「FC東京パーク府中」の運営をクラブが担うことになった際、「1週間のうち1日は、障がいのある子どもたちのためにピッチを使おう」という話になりました。
どれぐらいの子が来てくれるか分からない状態でしたが、「どうせだったらチャレンジしよう」と。

障がい児のための取り組みを始めてから10年ほど経ち、活動のノウハウがある程度蓄積され、近隣の支援学校との繋がりが出来ていたことも理由の1つですし、障がいがある子どもたちに運動を習慣化させることが大事だという想いもありました。

「配慮はあっても、大変なことは特段ない」

ーー活動のなかで、難しいなと感じる部分はあったりしますか?

久保田)もちろん、落ち着かずに突然走り出してしまう子どもがいるなど、健常者のスクールと異なる場面はあります。
FC東京には、「障がい者スポーツ指導員」という資格を取得しているコーチもいるのですが、参加している子どもによって障がいの程度に差があるため、そうした子どもたちと触れ合う経験が豊富なNPO法人トラッソスのスタッフには、よく助けてもらっていますね。
また、雨天などで中止にする際は、他のクラス以上に早く決めることを意識しています。活動場所が少ないこともあり、遠方から通ってくれている子も多くいます。また、障がいがある子どもは、予定を大事にしたり、急な変更に慣れていなかったりするので、そうした点は特に配慮をしています。

いま振り返ってみても、合理的な配慮をすることはいくつかあるかもしれませんが、大変なことは特段ないなって感じですね。

ーーU-18(18歳以下)やU-15(15歳以下)などの育成組織の選手との関わりもあると伺いました。

久保田)新型コロナの影響で昨年は中止してしまいましたが、年1回程度だった育成組織の選手たちと関わる機会をさらに増やしたいと考えています。
U-18がU-18だけで、U-15がU-15だけで練習すれば、効率の面では良いんです。でも、それで良いかと聞かれればそうではありません。
障がいがある子とプレーすれば、育成組織の選手はレベルを下げた力でプレーできます。でもそこで、100%以上のプレーをすることができるか。「ダイバーシティ&インクルージョン」と言われる中で、こうした触れ合いでお互いの社会をより高めあっていくことができるか。
育成組織の選手がトップチームを目指す上でも、こうした活動に対してどう取り組めるかが大事だと感じています。

「ネットが揺れる“あの感覚”を味わせるのが私たちの役割」

ーーこうした活動を、JクラブのFC東京がやることにどのような意味があると考えていますか?

久保田)Jクラブには発信力という強さがあると思っています。
私たちが活動することで、障がいがある子どもたちのスポーツにはどのような課題があり、こういうことにもっと目を向けるべきだ、というのを届けることができるパワーがあると感じています。なので、あおぞらサッカースク―ル以外でもプロサッカークラブとして、さまざまなことに取り組んでいくべきだと考えています。

「サッカースクール」のことで言えば、私たちがこだわっているのは、ボールを蹴ってゴールを決めたときにネットが揺れる“あの感触”をしっかり子どもたちに味わせてあげることです。
それを1人1人の子どもに味わせてあげるには、それなりの技量があるコーチでなければ難しいと考えています。FC東京のコーチがうまくコントロールして、5人、10人いるチームの子どもたち全員にシュートのチャンスを与えます。NPO法人トラッソスもケアの部分を担当しながら、FC東京のコーチとともにスクールに取り組むことに、そうした価値を見出してくれています。

ーー社会貢献活動について、長年取り組まれている久保田さん自身はどのように考えていらっしゃいますか?

久保田)社会貢献活動に取り組むなかでは、“矢印が一方通行にならないこと”が大事だと思うんです。
一方通行だと長くは続かないでしょうし、“お互いにとって学びがある”と評価され、認識されてはじめて、活動も継続されていくものだと考えています。
“相手のために”という気持ちと同時に、自分たちにとっても学びになり、考えさせてもらえる機会になっているので、その姿勢は今後も崩れないようにしてまいります。

ーー障がいがある子どもたちとの取り組みで、これから考えていることはありますか?

久保田)これまで以上に「関わり」の範囲を広げたいと思っています。
実際、NPO法人トラッソスが運営するサッカークラブに通っている高校生数人がFC東京のホームゲームのボランティアとして参加してくれたこともあります。
翌日、子どもたちの親御さんも喜んでくださり、私たちへ感謝の連絡が届いたり、学校の先生から「あんなにしっかりできるとは思わなかった」という反応もあります、彼らの今後のための良いステップを我々のホームゲームにおいて作ることもさらにできるのではないかと思っています。
今まで取り組めていないところにも、多くの機会を提供できればと考えています。

ーーありがとうございました!

写真提供:FC東京

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