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「知っていたから、助けることができた」〜#命つなぐアクション講習会を体験して〜

スポーツ中でも、ほかの場面でも、突然の心停止によって亡くなってしまう事例はあとを絶ちません。サッカー元日本代表の松田直樹さんは、2011年に突然の心停止によりこの世を去りました。
松田直樹さんが長く在籍した横浜F・マリノスでは、『#命つなぐアクション』としてスポーツ中の心臓突然死に対する啓蒙活動を本格化させています。スタッフへの救急救命講習会、スタジアムでの啓蒙活動や、日本体育大学と連携してのAEDを持ったスタジアム巡回など、さまざまな活動を行ってきました。

そんな中、2023年6月10日に行われた横浜F・マリノス主催のサッカーイベントで、参加していた男性が突然倒れ、心肺停止状態になってしまいました。そのイベント責任者であったマリノスサッカースクールコーチの戸塚朗仁氏(以下、戸塚)を中心とした、周囲の方の迅速な対応によりその男性は一命をとりとめることができましたが、「知っていたからよかった」と話す戸塚コーチの言葉からは、こうしたことがいつでも起こり得ること、そしてその知識を身につけていることで“命をつなぐ”ことができることを痛感させられます。

今回は、横浜F・マリノスが2023年8月6日に開催した『#命つなぐアクション講習会』を取材しました。命をつなぎ、想いをつなぐために大切なことを考えていきましょう。

命つなぐアクション
僕たちはなぜ『#命つなぐアクション』に取り組むのか松田直樹さんが長く在籍した横浜F・マリノスでは、2019年より『#命つなぐアクション』としてスポーツ中の心臓突然死に対する啓蒙活動を本格化させています。松田直樹さんご逝去後10年を迎えた2021年8月には、このアクションの活動費用に充てるために松田直樹さんの背番号でマリノスの永久欠番となっている#3のユニフォーム、プレイヤーズTシャツの販売などにも取り組みました。...

知っていたから救えた命

実際にAEDを使って対処をした、戸塚コーチに話を伺いました。

ーー当日のことを改めて教えてください。

戸塚)大人向けのサッカーイベントの開催中、その休憩のタイミングで別のコーチが「ちょっと来て!」と慌てた様子で私を呼びました。参加者の1人が、痙攣して、口も少し開いた状態で倒れており、ただ事ではないことはすぐにわかりました。
クラブで年1回の講習会を受けてはいましたが、そうした場面に遭遇すると、やはり混乱し、冷静ではいられませんでした。そんなときに、パッと思いついたのが『AED』で、ある場所を把握していたので、別のコーチがすぐに取りに行ってくれました。

そこからは音声ガイドに沿ってAEDでの処置を行いました。1回目では反応がなかったのですが、2回目で反応があり、意識も取り戻すことができました。

横浜市港北消防署横浜市・港北消防署から感謝状をもらう戸塚コーチ(写真中央 ©F.M.S.C.)

ーー講習会を経験されても、冷静に対処するということは難しいのですね。

戸塚)そうですね。救急車が来るまで10分程度だったのですが、ものすごく長い時間に感じました。
それでも、講習を受けているといないでは全然違うと痛感しました。知っているとできるとでは違うとも言いますが、「知っていてよかった」というのは終わったあとに強く思ったことです。また、細かい点をすべて覚えていたわけではなくとも、『AEDの使い方』という点はしっかりと覚えていたことも、対処が結果的にスムーズになった要因の一つなのかなと思います。

ーー救急車に預けたあとはどのような気持ちで過ごされたのですか?

戸塚)意識は戻っていましたが、助かってほしいと願うばかりでした。自分たちで対処している時間は、無我夢中に「助けたい」という思いでやっていましたが、そのあとは「大丈夫だったのかな?」と心配にもなりました。いまは元気に過ごされていると聞いているので、本当に助かってよかったです。

ーー今回の講習会も、「知っている」人を増やすものになりますね。

戸塚)本当にいつどこで起こるかわからないものなので、いろいろな場所でこうした講習会が広がってほしいなと思います。

戸塚コーチ©F.M.S.C.

「知っている人」を増やす講習会

8月5日に横浜市スポーツ医科学センター(日産スタジアム内)にて行われた「#命つなぐアクション講習会」では、約50名の参加者が集まりました。
多くの参加者が横浜F・マリノスのユニフォームを着ており、松田直樹さんの背番号3をつけた方も多くいらっしゃいました。

松田直樹©F.M.S.C.

日本体育大学保健医療学部救急医療学科の鈴木健介先生が行う講習は、知識を学ぶと同時に実際の場面に遭遇した際にも使えるような工夫が多くありました。

鈴木先生©F.M.S.C.

波戸康広さん、田中隼磨さんも参加

横浜F・マリノスOBである波戸康広さん、田中隼磨さんも講習会に参加。その感想を伺いました。

波戸康弘さん©F.M.S.C.
田中隼磨さん©F.M.S.C.

ーー講習会を受けての感想を教えてください!

波戸)自分の持っていたイメージと違う部分もあったので、体験してよかったなと思いました。実際にそうした場面に遭遇したときには絶対に慌ててしまうと思うのですが、少しでも自分が体験していることによってスムーズに行動ができるのではないかとも感じました。
小さい子に対してのAEDの使い方に関しても教えていただいて、勉強になりました。

田中)こういったことを続けることが大切だと思いますし、たくさんの人たちに学んでもらって、その先にどんどん繋げていくことが大切だと感じました。

ーーお2人とも関係の深い、松田直樹さんの経験を伝えていくことは大切ですね。

田中)何年たってもマツさんとの思い出は鮮明に残っています。トレーニングから一緒にいた先輩の背中を見て、教えてくれたこと、学んだことをピッチ内外で伝えていきたいなと思います。

波戸)僕はマツとは同級生で、切磋琢磨してやってきました。偉大な選手ですし、影響力のある選手でした。そういう意味では、サッカー以外の場面でのマツの影響力も大きいと思います。マツは残念ながら亡くなってしまったけれども、そのあとに助かる命があるということを多くの方に認知させていくことに繋がっています。亡くなったあと、少しずつこうした講習会への参加者が増えていたり、AEDの重要性の認知が上がっていることを実感しています。一人でも多くの命が助かることが、命を繋いでいくことだと思うので、これからも継続して僕ら自身も発信していきます。

ーーありがとうございました!

編集より

「知っていたからこそ、助けることができた」

この言葉の意味を、実際に講習会に出ることで実感することができました。どんなタイミングでそのような場面に遭遇するかどうかは、誰にもわかりません。

今回、講習を受けた中で私個人として印象的だったのは、『“助けた側”のケア』のことです。戸塚コーチも話していますが、その場で呼吸が確認できて救急隊員にお渡しすることができたとしても「本当に助かったのだろうか」と不安になることは容易に想像できることです。「もっとできることがあったのでは」「あのとき講習会を受けておけばよかった」と思ってしまわないように、今日の内容をしっかり覚えておきたいと心から感じました。

講習を受けたから全部できるようになる、すべての人の命を助けられる、というわけでもありません。でも、“命をつなぐ”ために、ぜひお近くの講習会に皆さんも参加してみていただけると嬉しいです。(Sports for Social 柳井)

 

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