ロンドン五輪銀メダリストが指定難病にーー。
昨年9月に発表された、元バドミントン女子ダブルスで五輪銀メダリストの藤井瑞希さん(以下、藤井)のニュース。『再生不良性貧血』という、私たちにはなかなか聞き慣れない病気に対し、入院することなく投薬治療を始めた藤井さんですが、闘病生活の中で一番気を付けなければならないのは“感染症”だそうです。
新型コロナウイルス感染拡大以後、人々の感染症への意識も変わってきたとされている昨今。2023年5月にはそのコロナが5類指定となりましたが、感染拡大の時期からいまに掛けて、まだまだ患者になる人もあとを絶ちません。
改めて“感染対策”とは何なのか?サラヤ株式会社広報宣伝部の廣岡竜也さん(以下、廣岡)、そして藤井さんとともに考えてみましょう。
『再生不良性貧血』その怖さとは?
ーー藤井さん、昨年『再生不良性貧血』の病気が発覚した時のことについて教えてください。
藤井)バドミントン選手としてプロになって以降、引退しても毎年自ら人間ドッグに通っていました。昨年(2022年)の人間ドックで、「白血病の可能性がある」と言われたのが病気の発覚と言えるかもしれませんが、その前から自分自身でも疲れを感じていたり、生理の血が止まらなかったりと“体の不調”への自覚症状があったので、何かしらの病気だなとは感じていました。
ーー「白血病の可能性がある」というのは、ご自身にとっても大きなショックだったのではないでしょうか?
藤井)“起きたことは変わらない”と思っているタイプなので、自分の中でネガティブになることはなく、「ここから自分がどうやって治療していくか」や「治すために頑張るしかない!」という想いになっていましたね。検査を進める中で、最終的には『再生不良性貧血』と診断されました。
ーー『再生不良性貧血』とはどのような病気ですか?
藤井)血液の病気で、うまく血液(赤血球、白血球、血小板)を作ることができなくなる病気です。白血球が不足すると免疫も落ちますし、血小板が不足すると怪我をした際に血が止まらなくなります。生理の血が止まらなかったこともそう考えると納得でした。
基本的には投薬で治していく方針になりましたが、病院の先生からは「新型コロナウイルスの感染に気をつけるように」と強く言われました。感染すると確実に重症化してしまうような体の状態であり、すぐに入院できない可能性もあるご時世でもあったので、感染対策はかなり徹底していましたね。
家のカビや、空気中のほこりなども感染リスクが高まる要因になると言われ、それまでの新型コロナウイルス対策よりもかなり意識を高く保ち、目に見えない菌に感染するかもしれないという恐怖と戦っていました。
この投稿をInstagramで見る
環境と感染リスク
ーー環境次第でも感染するリスクは変わってくるのですね。
廣岡)人間の感染対策のベースになってるのは免疫ですが、免疫力が落ちている状態だと普段は何ともなかったものが脅威になることがあります。藤井さんのカビの話のように、一般的な人よりも注意すべき要素が増えますよね。
ーー藤井さんはどのようなことに気をつけながら生活されてたんですか?
藤井)いつも以上に部屋の掃除には気を遣いました。また、公共交通機関は使わないようにして、友人と会うことも制限しました。でも、もちろん「友人と会って話をしたい」という想いもあります。なので、友人と会うときには、2・3日ぐらいは飲み会を控えてもらうなどの気遣いをお願いしていました。世の中は少しずつ制限が解除されている中で、友人たちにも対策をお願いしなければならない、そのバランスがとても難しかったですね。
ーー発覚から1年近く経ちました。無事コロナや風邪などにもかからず過ごされているとのことですが、お仕事も徐々に復帰されています。外出の機会も増えたと思いますが、外に出るときに気を付けていることはなんですか?
藤井)最近では社会の意識という意味では下がってきていて、「自分で自分を守るしかない」と思っています。とにかく手指消毒と、人が多いところではマスクをするといった細かいことに気を配っています。
ーー藤井さんご自身の感染対策として、もっとこういうふうにできたらと思うことはありますか?
藤井)“うがい”ですね。例えば、電車などでまわりの方が咳をしたりしていたときや大勢でご飯をしていたりするときなど、うがいをしたいと思うことがあるんです。もっと気軽にうがいができるような場所ができればいいなとは常々思ってます。
2類から5類へ、変わる人々の意識
廣岡)新型コロナウイルスが“5類感染症”の扱いに変わりました。その中で問題に感じていることが、感染症に対する世の中の認識が再び大きく変わり、危機感の低下と重症化のリスクがある方に対しての配慮が薄れていることです。
私たちサラヤとしては、「自分がかからなければよい」という意識ではなく、相手に感染させないような考え方をする「想い合い」が大事だと考えています。藤井さんのような、感染したときのリスクが大きな人にとっても安心できるレベルの感染対策を維持することが理想ですよね。
ーー公衆衛生という意味でも、「通常に戻そう」とするあまり、コロナ禍で醸成された“よい意識”もなくなってきていると感じます。
廣岡)公共施設における消毒設備も少なくなっている現状では、より個人の感染対策が重要になっています。これまでもインフルエンザの流行時期には携帯用の感染対策グッズを持ってる人も多くいらっしゃいました。新型コロナウイルスに対しても、そうしなければならない状況になってきてるのかもしれません。
『想い合い消毒』をしよう!
ーーサラヤさんが提唱する、「想い合い」という言葉は今後の感染対策にとって非常に重要ですね。
廣岡)本当にそう思います。たとえば、スーパーなどの小売店でも、お客さん全員が入店時に正しく消毒をすれば感染リスクは極端に言うとなくなります。ですが、どうしても消毒せずにウイルスを持ち込む方がいて、その人が商品を触ってウイルスを付けてしまうのが現実です。なので、入店時だけでなく退店時にも消毒が必要になります。
ーー家に帰宅した際の『玄関消毒』も大切なんですよね?
廣岡)そうですね。学校や会社、外出先や電車やバスなどの交通機関などで、人はいろいろな場所を触っています。その為、外から帰ったときに、ウイルスや細菌を家の中へ持ち込まないために玄関にアルコール手指消毒剤を設置し、消毒してから入るという「玄関消毒」を推奨しています。「どうせ洗面所で手を洗うから必要ないのでは?」と思われるかもしれませんが、洗面所までの導線上でドアノブやスイッチ、蛇口などを触っているのです。もし、そこに付いたウイルスや菌が悪性なら、他の家族が触ることで家庭内感染が起きてしまうのです。
藤井)消毒を頻繁に行うことによる問題はないのですか?
廣岡)きちんと保湿成分が配合された消毒剤を選んでいれば、頻繁に行うことに問題はまったくありません。病院の看護師さんたちを見てみると、かなり頻繁に消毒をしていることがわかります。
藤井)私の姉が医療従事者なので、たしかにわかります。消毒液自体もたっぷり使った方がいいのでしょうか?
廣岡)消毒液のボトルはワンプッシュで必要な量が出るような設定になっています。多すぎるように感じる人も多いのですが、ウイルスは約15秒、消毒剤に接触しないと死なないため、指先から手の平、手の甲など全体へ塗り広げていくということを考えると、それなりの量が必要になります。
ーー感染対策への意識を上げる意味でも「人に感染させない」という“想い合い”の意識はすごく大事で、いい言葉だなと思いました。
廣岡)「自分が他の人にうつしてしまうのは嫌だ」という気持ちはあるけれども、なかなかそうした行動を取ることができていない人も見受けられます。
弱毒化しようともウイルスの影響を受ける人たちはまだいます。自分の健康はもちろん、まわりの人への配慮や気遣いを継続し、みんなで安心に過ごせるようにすることが求められますよね。
感染対策の“why”を理解し、普及する
ーー藤井さんも子どもと触れ合う時間も増えてきてると思いますが、子どもたちの感染対策への意識はどう感じていますか?
藤井)スポーツの現場で出会うことが多いのですが、マスクをしている子が多いですね。ウォーミングアップのときに外すっていう感じで、まだみんな気をつけてるのかなっていう感覚があります。子どもたちの中ではマスクをすることが当たり前になっているような気がします。
廣岡)子どもの方が素直に聞いてくれるってことですね。私たちが啓発活動を行う際に「なぜ手を洗う必要があるのか?」という“why”を伝えていくことを大事にしているのですが、そうしたことは、子どもの方が早く受け入れてくれる印象があります。
手洗いに関して言うと、目に見える汚れを落とすだけでなく、手にはウイルスや細菌を媒介する役目があります。だから、手洗いが必要なんです。それがわかると、手を洗う意味が明確になり、まわりに伝わります。
スポーツの練習にも似ていますよ。ただ素振りをするよう言われて素振りをするより、なぜ素振りをするのかの意味をわかってするほうが効果がありますよね。
ーー今回の記事から、改めて感染対策の意味を理解し、相手に感染させない“想い合い”の意識をまわりにも普及させていきたいですね。
廣岡)自分だけではない周りへの配慮が広がれば、それだけでリスクを減らせる人がいることにもなります。ただ、藤井さんのように、ご自身の口から伝えてもらうことによって、病気の理解者が増えていくことも大切だと思います。知らなければまわりの人も、どのように配慮するべきなのか分からないので。また、発信することでその病気に対する理解が広がるということは、同じように悩まれている方の助けになると思います。
藤井)今までは個人の話だと思っていたのですが、私と同じように病気だとか、何かしらのことで感染しやすいっていう方がいらっしゃる、そういう少数の人たちの思いを発信するという意味では、必要なことだと思っています。
ーー私たちもこうした発信を続けていければと思います。ありがとうございました!