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【経営者インタビュー・J-TEC】「再生医療」とはなにものか。

J-TEC 畠社長

再生医療——。
報道などでよく耳にする言葉ですが、この内容を十分に理解している人は意外に少ないのではないでしょうか。単語から何となくイメージできたとしても、説明するのは難しい。ましてや「再生医療を受けたことがある人」「再生医療を受けたい人」となると、そのハードルはグッと上がります。
今回は、その「再生医療」の分野で製品の開発・製造・販売や研究開発受託を行う株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)代表取締役 社長執行役員 畠賢一郎氏(以下、畠)にお話を伺いました。

『再生医療をあたりまえにする』

畠氏への単独インタビュー、後日公開する畠氏とアスリートとのインタビューから、再生医療の可能性、そしてスポーツとケガの関係性について紐解いていきます。

インタビュアー:Sports for Social 栁井(やない)

そもそも「再生医療」とは

ーー畠さん、はじめまして。本日はよろしくお願いします。

畠)よろしくお願いします。

ーー今回、スポーツとケガの関係、そしてケガに対する治療について考えていこうと思うのですが、そもそも御社が取り組まれている『再生医療』とは何かを教えていただけますか? 私もなかなか説明が難しいなと感じていまして。

畠)「再生医療ってなんでしょう?」と質問されると、「あ、聞いたことある」と言う人は結構多いと思います。ただ、そこから「それってなんですか?」と聞かれると「なんでしょう・・・。」ってなるんですよね。

ーー私も恥ずかしながらそのような状態です。

畠)実は、再生医療に取り組んでいる弊社のメンバーでも、皆にわかりやすく、簡単に説明できる人は少ない気がしています。「再生医療」を『体の組織を再生すること』という人もいれば、少し知識のある人だったら、『自分の細胞を増やして移植すること』と言う人もいます。
正直に申し上げると「再生医療はこれだ」という定義はないと思っていて、ただ、『悪くなったからだの箇所を元通りにする』。そんなイメージで捉えていただけるといいのではないでしょうか。元通りにするときに、自分のからだの一部をとって、それをバイオテクノロジーで増やして、移植するというようなイメージです。

ーーありがとうございます。再生医療とは何かを理解するにあたって、再生医療の『再生』の反対にある言葉は何だと思いますか。

畠)とても良い質問ですね。反対というのが正しいかは分かりませんが、例えば人工関節のような『完全な人工物』と捉えるといいのかもしれません。治し方でいうと、『再生』は自分のからだを元通りに治すことを指しますが、『人工物』は自分の体内に人工物をいれて治すという点で、再生医療の反対にあるものと言えると思います。

ーーなるほど!とてもよく理解できました。

再生医療とは

再生医療の流れ(イメージ)
注)マトリックスは細胞の骨組みとなるものです。
参考リンク:「再生医療のおはなし」https://www.jpte.co.jp/introduction/tales/index.html

口腔外科医から再生医療の分野へ

ーー再生医療の会社であるJ-TECの創立にあたっては、どのような想いがありましたか?

畠)元々弊社は、皮膚再生の技術を持っており、その製品化を目指して会社を立ち上げました。培養した皮膚を患者さまに貼っていくと、体表面積の実に90%以上の大やけどを負った患者さまをも治療できるのです。
実は私は、口腔外科で医師として患者さまに治療を施す立場にいました。しかし、医師として直接患者さまに接することだけではなく、企業として、新たな治療の技術や仕組みを作ることも患者さまを治すことにつながるんだ、患者さまに対しての貢献になるんだと思いました。

ーー口腔外科医でいらっしゃったときと、J-TECでやられていることで、リンクする部分はありますか。それとも全然違うと感じますか。

畠)リンクする部分はありますね。やはり、自分たちのやろうとしていることの先に患者さまがいるというのは同じです。
違いを感じるのは、医師として営業される側から、医師に対して営業する側に回ったということですかね。

ーーその立場が変わったとき、最初のうちはどのように感じましたか?

畠)違和感はありましたね。ただ、営業される側のことがわかっているからこそ、営業する側に回ったときに営業しやすいというメリットもありました。

社員のだれよりも熱く!『再生医療人』を増やす

ーーこの事業で畠さんが実現したいことはどんなことでしょうか?

畠)我々は会社のビジョンとして「再生医療をあたりまえの医療に」という言葉を掲げています。現在、私たちが医療機関に提供している再生医療製品は、従来の医薬品・医療機器と同じように扱われます。しかし我々の再生医療の事業は、患者さまの細胞をお預かりし、扱っているわけですから、我々が患者さまのからだの一部を治していると捉えることもできます。そういう意味では、我々は医療製品を提供する企業であると同時に、医療者のひとりであるのかもしれません。

もちろん治療を行うのは医師である先生方ですが、我々も一緒に、患者さまのために力を尽くす。人々の健康に、間接的ではなく直接的に関与しているという再生医療の在り方が、もっと「あたりまえ」のこととして広まっていくと良いなと思います。
我々は、再生医療に携わって先生方と共に目的を達成する『再生医療人』、そんな人を増やしていきたいと思っています。
私自身、こうした想いはたぶん社員の誰よりも熱く持っていると自負しています。

ーー患者さんのために、このビジョンを実現するという想いがあるのですね!

畠)これから、医療に対する見方が少しずつ変わってくるんじゃないかと思っています。病気を治すという医療ももちろんですが、もっと健康を謳歌するためのもの、例えばアンチエイジングのようなものも医療と見られるようになって、生活の中に医療が入り込むことが増えていくと思います。

そのような流れの中で、再生医療は何をするのか。
例えば菌に感染した場合や炎症を起こした場合など、急に進行する病気や怪我に対しては、既存の治療法の得意とするところでしょう。ですが、慢性的な変化、例えば、加齢とともに肝臓や血管が徐々に悪くなるようなものは既存の治療法では治しにくいと言われています。再生医療は、そうした慢性的な変化を自分の健康な細胞を使って治す可能性を秘めています。健康を謳歌するための医療として、再生医療がもっともっと注目され、あたりまえになることを目指しています。

ーー御社の事業から、再生医療は皮膚の再生など外傷的なイメージが強かったのですが、内臓的な血管や肝臓など、そういったところにも再生医療は普及しているのですか?

畠)元々、「再生医療」は、失われた臓器を自身の細胞を使って「人工的」に作り上げて移植しよう、という壮大な目的をもって生まれました。実際、そういった研究も行われていますが、立体的な臓器をつくるまでには至っておりません。もとより、他人の臓器を移植する「臓器移植」が重要な役割を担っています。ただ、日本人は、他の国と比較して自分の臓器を提供する、いわゆるドナーとなる方が少ないと言われてきました。だったら、自分の細胞を使って臓器を治せたらいいなというのが日本における再生医療の考え方で、我々はそこから始まっているのです。すでに日本でも、自分の細胞を培養した皮膚や軟骨、角膜や心筋は製品化され、保険がきく治療として医療機関で使われており、だんだん広がってきています。

J-TEC畠社長

再生医療の課題は「コスト」と「認知度」

ーー現状の再生医療に関する課題はどういったところに感じますか?

畠)やはり治療のコストでしょうね。患者さまの細胞組織を増やすのにも、もちろんコストがかかりますが、製品を安定して保存できるパッケージや、確実に医療機関に届けるための輸送コストなども加わっています。患者さま自身の細胞を使って、その患者さまのためだけに培養し、患者さまのからだにお戻しする。こういったオーダーメイドを、医薬品・医療機器と同じレベルの安定・安全を担保して提供しているため、コストがかかるわけです。

ーーなるほど。それは価格が上がりますね。一方で患者さまからすると、例えばコストを下げるために安定・安全を担保するための工程を減らすことがいいことなのか、という判断も難しいのではないかと思うのですが。

畠)いわゆる安定・安全を担保するということは、患者さまを守るということであり、そのために国が定めた厳格なルールがあるわけです。今は経験値が少ないため、厳格にせざるを得ない面がありますが、再生医療が普及し、コストのかかる工程をなくしても安全で、問題が起きないということがわかれば、こうした課題が解決し、皆様にとっても再生医療が日常になっていくだろうと思っています。

ーー日常的になることで受け入れやすくなることもありますね。コスト以外にはどのような課題があるのでしょうか?

畠)医師の先生方とのコミュニケーションの部分でしょうか。実際に、再生医療を患者さまに紹介するのは先生方です。先生方に対する再生医療の認知度アップやイメージづくりは大切だと思っています。

ーー医師側にも再生医療という選択肢を持っていただけるように勉強していただく、ということも大事なんですね。

畠)あともう1つ、患者さまにも再生医療のことを知っていただくということですね。今までの医薬品による治療と、自分のからだの一部を再生させる治療は全く異なっていて、例えば膝軟骨の製品は、患者さまの体内に入ったあともゆっくりと育っていきます。患者さま自身にも、製品が良い状態に育ってからだに馴染む過程を理解していただき、リハビリを行っていただく。再生医療ではそのような観点を持つことも必要です。「再生医療」を受けられた際には、魔法のように一瞬でキレイに治るようなイメージを持たれがちですが、実際は、手術後も体の中で細胞が育っていく時間が必要であることを理解していただければと思います。

ーー患者側からすると、手術が終わったらその時点で治っているものだと思ってしまいがちですよね。再生医療では、患者さまも自分の細胞をより良い状態にする努力をすることが大切なのですね。

畠)例えば、軟骨には血管がほとんどないため、一度傷むと自己修復することは困難です。しかし、再生医療であればそういった自己修復しにくい箇所の治療も可能です。
このように、傷ついてしまって自己治癒力では治せないところや前述の慢性的な怪我や病気を、どう元通りにするかという、若返りのための再生医療が発展するとよいと思います。

ーーありがとうございます。自己治癒力では治せない怪我や病気に対しても再生医療が役立つということなんですね。

編集より

『再生医療』というものが何を指すのか、理解が深まるインタビューになりました。

その再生医療の価値だけでなく、伝わってくるのは畠社長の熱い想いです。この医療方法が人々の健康的な生活をつづけていくことに役立つ、それを当たり前に、皆の選択肢にしたいという想いがヒシヒシと伝わってきます。

次回はその再生医療をスポーツの場面でどのように活かせるのか、を伺います。

膝の軟骨手術などではよく使われている再生医療。怪我にお悩みの方、将来ずっと健康にスポーツを続けたい方など、是非お読みください!(栁井)