日々の生活の中で、「あ、これいいな」と思って購入しているもの。実は、その「いいな」を作るために考え抜かれたマーケティングがその裏には潜んでいます。ただ安い、お得だけではない、『想い』が伝わることで販売につながる仕掛けーー。
そんなセールスプロモーションを中心に事業を展開する株式会社ヒロモリ(以下、ヒロモリ)の代表取締役社長の近藤氏(以下、近藤)、プロモーション事業部事業部長の松浦さん(以下、松浦)に、引き続きお話を伺います。
(全2回の2回目/#1)
多様化する買い方、そして売り方
ーーアプローチの仕方で変わったなと思うところはありますか?
近藤)そうですね。やはり私たちのビジネスは、時代、経済環境、生活環境、法規制、技術の進化などによってさまざまに変化しており、セールスプロモーションに求められる役割も大きく変わってきていると感じます。
化粧品で言えば、戦後から発展した個人販売店や百貨店から、平成に入ってからはコンビニやドラッグストアが重要な販売店になり、今後はオンラインのEC販売が重要な販売ルートになってきています。
これに合わせて、販売店や生活者も含めたお客様のニーズや課題はかなり複雑化し、多様化してきています。
私たちとしても従来の手法だけでなく、いろいろな手法の複合性、連動性を考えながら、多様な課題に向き合っていかなければならないので、従来に比べて非常に難しい企画が求められていると感じています。
ーーたしかに、売る方法も多様化すれば、それを支援する方法もすごく多様化しますね。
松浦)最近だと、やはり今の若い人たちからは環境配慮などへの意識が高まっていることを感じます。そうした価値観の方には、昔のセールスプロモーションの「おまけあるから買いませんか?」というやり方では通用しないし、むしろ嫌われてしまうことにもなりかねません。
ーー『おまけ』の商品もたしかに子どもの頃に比べて減った気がします。
洗剤で伝える感謝の想い
近藤)弊社の数多くある事例の中で私がとても好きな企画があります。それは、「Mag
ica(ライオン社製品)」という食器用洗剤の「10万人母の日サンプリング」です。
「Magica」のブランドコンセプトは、「お母さんを笑顔にしたい」というものでした。食器洗いの手間から開放し、少しでも楽に、生活を楽しむことに時間を費やせるようにしようということです。だから油汚れがさらっと落ちるとか、水切れが早いだとか、そうした機能を付加している商品です。
そのプロモーションとして弊社がお客様と共に企画したのが、「10万人母の日サンプリング」です。全国の中学、高校にサンプル商品を配りました。なぜお母さんでなく、子どもに配るのか?というと、授業やホームルームの時間にお母さんへの感謝の気持ちをメッセージシールに書き、「Magica」のボトルに貼って、母の日にプレゼントするためです。
親にとっては子どもからもらった“世界に一つだけのメッセージボトル”となるため、継続的にボトルに詰め替えて同商品を使ってもらえる仕組みになっています。実際に詰め替え品の販売促進につながり、ビジネスとしても大成功しました。
それ以上に『お母さんを笑顔にする』というブランドコンセプトを企画の中で実現できたことに嬉しさを感じました。子どもからメッセージ付きのボトルをもらえたらお母さんは嬉しいですよね。
本来のセールスプロモーションの役割と、ヒロモリとしての感動創造ができた、素晴らしい事例だと自負しています。
ーーこれは感動的かつビジネス的でもある、素晴らしい事例ですね。
近藤)家族や社会、地球などの価値観がますます重要になってきています。我々の仕事がどこまでその価値観に寄り添えるか、共感を創造できるかということがプロモーションにとっては本当に重要です。
セールスプロモーションが人を動かす
ーー消費者の意識の変化もありながら、それでもビジネスとしての満足度も上げ続けるのはすごいことですね。
近藤)おっしゃる通りで、その両立は非常に重要です。我々も常に取り組み続けるところです。
ーーヒロモリさんのように、セールスプロモーションとして取り組むことが逆に社会をつくっていくことにもなるのかなと思います。
近藤)アメリカでは、新型コロナウイルスのワクチン接種が思うように進まなかったとき、『ワクチンを接種したら〇〇がもらえる!』というようなキャンペーンを打ちました。やり方がよいかは置いておいて、そうしたプロモーションの効果で社会を動かすということも事例としてありえます。
セールスプロモーションというのが行動変容を促すためのものだとすれば、私たちがSDGsも含めてもっといろいろな領域に貢献することもできるのではないかと思っています。
ーーSDGsを意識したセールスプロモーションは、クライアントの方々も求めているところなのでしょうか?
松浦)現場として難しい部分もあるのが現実です。例えば環境配慮を考えるとしたら、売上という効果とともにコストの部分も考えなければならない。
近藤)海外の同業者と会議をしていて感じるのは、特に欧州においてはSDGsへの取り組みが日本と比較にならないぐらい進んでいるということです。セールスプロモーションにおいても、企業・ブランド側が環境への配慮などを徹底し、調達するプロモーション資材、調達のパートナー選定、生産現場の環境保全、社員の人事評価にまでSDGsの取り組みを組み入れ、実践している企業があります。
こうした動きは日本でもこれからさらに加速していきます。我々としても、お客様が安いものを求めているから、という考えでなく、10、20年先を見据えたセールスプロモーション企業としてのあるべき姿というのも考え取り組んでいかなければならないと思っています。
社会貢献をセールスプロモーションで
ーー具体的に、ヒロモリさんで社会貢献的なセールスプロモーションの動きはありますか?
近藤)10年以上前から、取り組んでいることとして、熱中症ゼロへというCSRプロジェクトがあります。熱中症対策という社会的課題に対して、企業は協賛しながらプロジェクトにも参画し、気象団体さんと一緒に動いています。こうした社会課題解決のために、自社の事業を活かした取り組みを10年以上続けているのは大きな財産だと思っていて、こうした形の事業を増やしていき、考え方を広げていくことが私たちにできることだと思います。
ーーありがとうございます。そのあたり、現場に近い松浦さんはいかがですか?
松浦)10年前にプロジェクトを立ち上げたときにはなかなか賛同していただける企業さんがいなくて、営業活動をヒーヒー言いながらやっていた記憶があります。(笑)
でも今は、逆にお問い合わせいただくケースの方が多いです。活動が認知されたということと、世の中的に熱中症がリスクとして大きく顕在化してるということなのかなと思うと、早いうちから取り組んでいてよかったなと感じます。
ここから発展して、ヒートショックへの啓蒙活動も始めています。ヒートショックとは、気温の変化によって血圧が上下し、心臓や血管の疾患が起こることで、冬場の入浴時などに起こりやすく、高齢者の死亡リスクにもなっています。
ヒートショックが原因で多くの方が亡くなられているのですが、この啓発はなかなか今までされてこなかったというのが実態でした。それを今企業10社以上の協賛で、みんなで啓発していこうという活動をしています。
実は、競合関係にある企業さんでも一緒に入っていることもあります。本当の意味で社会課題解決に向けて取り組みましょう!という枠組みになることができています。
ヒートショックだけでなく、こういった「みんなでやろうよ!」という枠組みが広がり、実際の活動になっていくのは、すごくいいことだと思いますし、ほかの課題に対しても取り組んでいきたいと思います。
世の中にメッセージを広げていき、かつ、企業のメリットを作るということは自社の得意な領域なので、先頭に立ってやっていきたいと思います。
ーーセールスプロモーションをやってて楽しい、やりがいあると思うのはどういうところですか?
近藤)実は、私自身、買い物にそれほど積極的なタイプではないのです。もし、そのような人が日本に多くて、もし、そのような人が重い腰を上げ、経済活動にもっと積極的になれたら、日本という国はもっともっと活性化するのではないかと思います。そうした意味で「私たちの仕事には、まだまだやるべきことがある」と日々感じています。
私たちの会社には、本当に力があって意欲的な社員がたくさんいますので、会社の理念でもある『感動創造』を社員と共に実践し、私自身も感動をしながら、100年企業に向けて感動のバトンをつないでいきたいと考えています。
ーーありがとうございました!
編集より
「Magica」の母の日プレゼント。贈られた人が純粋にうれしい、そこが『感動創造』のプロモーションなのだと感じます。
時代が移り変わり、商品やサービスの質だけでなく、その社会性やプロセスも消費者に判断されるようになってきています。消費者のニーズをくみ取ることが、社会をよくすることに繋がっていく、そんな時代はすぐそこまで来ているのかもしれません。また、ヒートショックへの啓蒙活動のような、セールスプロモーションが生み出す社会への流れに今後も注目していきたいと思います!