言語学習における「向き不向き」が分かるようになる?
自分の適性が分かるようになったら良いのにな、と思ったことがある方も多いかもしれません。小倉進太郎氏(以下:小倉)が塾長を務める語学堂と大阪大学が共同で研究を進める「生体信号解析」は、そんな私たちの願いを叶えてくれるかもしれないアプローチです。
今回は、語学堂の新サービス「ござるのバナナ」と、「生体信号解析」に込められた想いに迫ります。
バナナ×語学!?
ーーバナナってあのフルーツのバナナですか?
小倉)はい。「ござるのバナナ」というブランドでバナナシェイクを提供しています。
ーーバナナシェイク!ご提供のきっかけと理由は何でしょうか?
小倉)語学堂は「総合語学エンタメ」をしていきたいと思っています。
文法を勉強したり、とにかく話したりというのではなく、もっと広いアプローチで語学を楽しめるものにしたい。ちゃんと寝て、恋愛もして、休みも取って、瞑想や運動もして、海外にも行って、など色々なアプローチで言語に集中させていく方法があると思っています。その中の一つが『食』なのではないかと。
結局人間は食べるものでできていて、食は大事だからこそ、何か集中力がアップするような食べ物があったら語学にも活かせるだろうなと考えていました。語学堂では、着物や日本酒など、さまざまなことを題材にしてきたのですが、もっと面白い概念はないのかと思っていました。そんな頃に、たまたま友人の家でバナナシェイクを飲んだんです。そのとき、「美味しい!バナナシェイクいいじゃん!」と閃いたんです。調べてみたら集中力が高まるとも言われていて。語学の難しいと思われていた部分に対し、バナナを使えば上手くアプローチできるんじゃないかと思いました。
ーーバナナシェイクと語学はどのように繋がるのでしょうか?
小倉)外国人しかいないバナナシェイクのお店を作ったら、バナナシェイクを飲みに行くだけで、勉強という感覚を持たずに英語や違う文化に触れられますよね。美味しいだけじゃなく、安くて時間もあまりかからない。それが実現できたら、言語を嫌いな人でも楽しいと思ってもらえるんじゃないかと思ったんです。
日常英会話を本で勉強してもなかなか身に付かないと思いますが、バナナシェイクを買うとなれば、“How are you doing?”から始まり、仲良くなればおまけしてもらえるかもしれない。「どこのバナナを使っているの?」と自然に話が生まれるかもしれません。
この事業には、語学エンターテイメントに対する私の純粋な想いが込められています。
ーー日本の方の多くは、英語しか使えない環境に抵抗があると思いますが、どう思われますか?
小倉)案外慣れちゃうのかなと思います。バナナの産地はエクアドルとか台湾、フィリピンといった所なので、南国やジャングルを想起しやすいと思うんですよね。陽気な外国人がバナナシェイクを出してくれます、という概念は良いと思うし、可愛くて雰囲気もいいし、楽しいというのは、純粋に受け入れられるんじゃないかなと思っています。
ーー海外旅行に行ったら自然と話す必要が出てくるように、環境が大切かもしれませんね。
自分の状態がリアルタイムで数値化される
ーー生体信号解析を使うと、利用者の方はどのようなことが分かるのですか?
小倉)例えば『リラックス』『集中力』『ストレス』がリアルタイムで「見える」ようになります。
ジムで自分の身体に関する数値を測るように、「自分はこういう動画を見ているときに集中力が上がるんだ」と分かるようになります。料理の話を聞いているときに集中力が上がることが分かれば、料理動画で英語学習をしたら効率的だと分かります。
また、AI(システム)でレコメンデーションできるようになれば、その人にとって最適な学習が効果的にできるようになります。
ーー生体信号解析とバナナは関係あるのでしょうか?
小倉)そうですね、繋げようと思っています。
生体信号解析を使えば「食文化と教育の掛け算」ができるようになるのが大きいですね。「バナナを食べると集中力が上がる」「お酒飲むと楽しくなって、人によっては1時間後にテンションが下がって集中力が下がる」ということが可視化されると、食文化や体験の価値も可視化され、より良い社会に繋がると考えています。
ーー初めから、科学的なアプローチ×教育には興味があったのでしょうか?
小倉)純粋に「語学を楽しんでほしい、話せるようになってほしい」という気持ちが根底にありました。
とにかく、自分ができるならみんなもできるよ、と言いたい。話すだけだし、お酒を飲んだり、着物着たら話せるし、話す方法なんかいくらでもあるよ、というのを全部形にしているだけなんです。その伝え方や方法には工夫を凝らしています。
「適性や未来を見た教育」
ーーこれから事業として展開していく中で、この生体信号解析を使ってどんな教育社会を作っていきたいですか?
小倉)これまでは「過去を見た教育」だったんです。TOEICや学校のテスト、入試も、結果が出てくるのは1、2ヶ月後ですよね。今の自分を見てくれているのではなく、昔の自分に社会的評価のレッテルを貼られて社会的に売り出される。2ヶ月もあれば大きなことも出来るのに、この2ヶ月の努力は認められないということですよね。社会は過去への評価で動いているようなもので、適材適所ではないと思います。
過去をモニタリングする教育ではなく、今や未来を見た教育が必要。未来とは何かというと、“その人にとっての適性”だと考えています。「全くこれはやりたくないけど、生体信号はこれが向いていると言っている」というものが見えてくると、未来の教育ができるようになるはずですよね。
これはスポーツでもできると思います。今の自分はスランプだから、必ず抜ける時が来るんだということが分かるだけで、次の未来に繋がると思います。不安なのは、自分が何者か分からなかったり、自分の状態が分からなかったりする時だと思うので、その不安を少しでも軽減してあげることもできるようになります。
自分がやっていることがリアルタイムで可視化されるので、1日だけでも頑張ったことが可視化されるし、自分の状態が良い時に効率的な教育ができるようになっていくと思います。まさに「好きこそ物の上手なれ」が実現できると思いますし、過去ではなく未来のための教育ができるようになると思います。
ーー人それぞれ、「自分」に合ったアプローチができるのはとても素敵ですね。
小倉)自分の適性が見えてしまうのは怖いし、指針ができてしまって面白くないと思うかもしれませんが、一方で、自分は疲れやすいし怪我しやすい筋肉を持っているのに、スポーツ選手になったらそれは不幸かもしれないし、逆に幸せかもしれない。それを早めに分かっておくことで自分に合ったゲームの進め方だったり、練習の仕方を工夫できるかもしれないですよね。
セカンドキャリアもあるかもしれませんが、スポーツより勉学や料理が向いていると分かれば、何歳までは自分の好きなことをやろう、でも将来的には自分が向いていることをやろうと、そういうことを自分で取捨選択できるようになると思います。見るか見ないかはその人に任せればいいことなので、自分の将来を考えていきたいという人にとって生体信号解析はとても良いツールになるはずだと思います。
ーー適性が分かるようになることで救われる人も多いと思うので、とても楽しみですね。
対話は色々な可能性をその場で作ってくれるもの
ーー最後に、語学堂の事業を通じて作りたい社会について教えてください。
小倉)話すことは、人類が人類であるために、衣食住より大切なものだと考えているので、言語や話すことの価値をもっと社会は見出していく必要があると思います。対話をすることは色々な可能性をその場で作ってくれるもので、なおかつ無料でできること。もっと言語の価値を分かって欲しいし、それをちゃんと伝えていきたいです。
そして、何が教育か考えることが大切だと思っています。今はこういう人が求められているから国ではこういう教育が必要で、自分にとってはこういうことが必要だ、ということが理解できるようならないといけない。そういう議論がないままで、良い教育とは何かという議論が進められてしまっています。教育に正解はないと思いますが、自分で教育を選ぶ必要はある。国や時代を超えて、教育を受ける権利を作ってくれる一つのヒントが語学だと思います。
編集より
私自身、日本の英語教育には問題があると感じているものの、具体的にどんなアプローチをすべきなのかピンときていないところがありました。また、大学の授業で「スポーツに遺伝的な向き不向きがあると言われているように、勉強にも遺伝で決まる向き不向きがある」と聞いて以来、それに対してどう向き合うことが効果的なのだろうか?と考えていました。
今回のインタビューでは、小倉さんの想いやビジョン、生体信号解析に触れ、その疑問に光が差したような気がしました。
特に、生体信号解析によって、英語学習に限らず自分に向いていることを見つけることが出来たら、不安な社会を生きながらも、より前を向ける人が多くなるのではないかと感じることが出来ました。