特集

アピアランスケアでがん患者の“生きる希望”と選択肢をCHANVRE MAKIが描くがん患者の未来

サトー

『アピアランスケア』という言葉を知っていますか?がん治療による外見の変化(脱毛、皮膚の変化、爪の変化など)に伴う苦痛を軽減するケアのことを示すこの言葉。
明治45年に創業した老舗帽子メーカーである株式会社サトーは、技術を活かしてアピアランスケアの課題に取り組んでいます。その取り組みを牽引するのは、株式会社サトーで代表取締役を務める佐藤麻季子社長(以下、佐藤)。既存の医療用帽子とは異なり、機能性だけでなくファッション性も兼ね備えたブランド『CHANVRE MAKI(シャンヴル・マキ)』の立ち上げの最中、自身も舌がんを患った経験から、そのメッセージはより強く、世の中に響くものになっています。

サトー株式会社サトー 代表取締役社長 佐藤麻季子さん

『CHANVRE MAKI』の誕生秘話

ーー株式会社サトーは明治45年創業で100年以上続く会社です。製品や事業にどのような特徴があるのでしょうか?

佐藤)帽子は“パターン”や”縫製技術”によって製品のできが左右されるもので、私たちも帽子メーカーとしてその技術を大切に長く続けてきた会社です。日本国内の製造業を営む中小企業の状況は厳しく、国内で生産する帽子メーカーは少しずつ減ってきてしまっていますが、今後も「日本で帽子を作るならここに頼もう」と思っていただけるように、こだわりを持って会社を経営しています。

ーー自社ブランドである『CHANVRE MAKI』を立ち上げることになったきっかけを教えてください。

佐藤)職業柄だと思いますが、街で帽子をかぶる人をつい見てしまいます。そのとき、「がんや病気の患者さんだろうな」と帽子だけでわかってしまうこともあり、その多くはニット帽をかぶっていました。「病気になっても普通の洋服は着れるのに、帽子だけはなぜオシャレなものをかぶれないのだろう?」と感じたことが、このブランドを立ち上げるきっかけです。

以前、他のブランドさんから依頼を受けて医療用帽子を製造したこともありましたが、改めて調べてみると医療用帽子には選べる種類がほとんどないことがわかりました。医療技術の進歩により、入院せずに社会生活との両立ができるようになることも増えてきていて、そうすると出掛けるための帽子が必要になるはずなのに、帽子側の進歩が追いついていない。その課題感が『CHANVRE MAKI』の構想につながっていきます。

サトー

CHANVRE MAKIが心の拠り所になるために

ーー『CHANVRE MAKI』企画中には、ご自身の舌がんが発覚しています。

佐藤)がんを宣告されたときには、心理的にすごく落ち込みました。「がんは治る時代」とも言われていますが、いざ自分や自分の家族に置き換えたときには“死ぬ”ということも頭をよぎります。

私の場合は、宣告後に会社に戻ったときに社員の皆が心配している顔を見て大泣きしてしまい「この人たちのために頑張ろう」と思えたことで前を向くことができましたが、がん宣告後は入院や手術の手続きなど目まぐるしく状況が変わっていく中で、なかなか心の拠り所をつくることができない人も多くいらっしゃいます。
それまで『CHANVRE MAKI』をビジネス的に捉えていた部分もありましたが、自身の経験からより気持ちがグッと入りましたね。

ーーそうした患者さんの心理状況をいかにケアしていくかという点が、より鮮明になったのですね。

佐藤)病気になったことでただでさえ悪い想像をしてしまったり、落ち込んだりしてしまうのに、さらに自身の体や見た目に変化が起きてくるとなかなか明るい未来は想像できません。自分だけでなく、「まわりの人は私のことをどう思っているんだろう」と考えてしまうようにもなってきます。
実は、『CHANVRE MAKI』を立ち上げる前は想定していなかったのですが、「家族のために外見を変えたい」という方もいらっしゃいました。

ーー自分のことを前向きにするだけでなく、まわりの方のために、ということでしょうか?

佐藤)例えば、授業参観に行ったときに、子どもがまわりの友達から「あなたのお母さんは病気なの?」と言われてしまうこともありますよね。日本人はまわりの目を気にしてしまう傾向にもあるので、日本ではとくにこの“アピアランスケア”が必要なのだなと感じています。
制度面でも変わってきており、がん患者の方は免許証でツバの付いていない帽子をかぶっても良いとされていたり、自治体でもウィッグや帽子をがん患者が購入するための助成金を導入するところが増えてきています。

骨髄バンクをもっと知ってほしい!〜医師・看護師・骨髄バンク、それぞれの思い〜Sports for Socialでは、骨髄バンク普及のために活動する方々の『想い』を取り上げ、発信しています。 今回は、骨髄バンク本部で骨髄バンクの普及啓発・ドナー登録の推進活動・ドナー休暇制度の推進などに取り組んでいる渡辺さん。浜松医療センターで移植を担当する医師の内藤先生、造血細胞移植コーディネーターで看護師の伊藤さん。それぞれの立場からどのような支援をしているのかをお伺いしました。...

心に寄り添う帽子づくり

ーー理解をするということはすごく大事なことですよね。アピアランスケアという言葉を知っているだけで、勝手な思い込みで判断してしまうことも減るのではないかと思います。

佐藤)そうですね。帽子に関しても「室内では帽子を脱ぐべきか?」という話になることもありますが、例えばご年配の方で「髪の毛が薄くなってきているから、帽子をかぶってオシャレをしたいけど、室内で帽子を脱ぐのは恥ずかしい」という方もいらっしゃると思います。場所や帽子の種類によっては失礼に見られることもあると思いますが、アピアランスケアの考え方を知っていることで、相手の状況に配慮したコミュニケーションが取れるのではないかと思っています。

ーー『CHANVRE MAKI』も“脱がなくて良い帽子”と謳っていますね。ほかにはどのような特徴があるのでしょうか?

佐藤)がん患者のもつ課題を解決するための機能性にはこだわりを持っています。抗がん剤治療によって脱毛している人は、薬の効果もあって頭皮から汗をかきやすくなることもあります。そうすると、帽子も下着のように汗を吸ってくれたり、通気性が良いものだとありがたいですし、“洗える”ものであることも大事になってきます。

さらに、帽子の形としても襟足の部分髪の毛がない部分を隠せるようなデザインを取り入れていたり、風が吹いても飛びにくいように伸縮性のあるゴムをつけることなど、がん患者さんにとって“心配な部分”を解決するような機能を存分に取り入れています。

ーー患者さん一人ひとりにもそれぞれの課題感がある中で、どのようにして情報を集めていったのでしょうか?

佐藤)大変な状況にある方々をモニターとして集めることはなかなか難しく、親戚の方やネットの情報を拾いながら課題把握を進めました。ただ、すべての課題を1つの帽子で解決することは難しいです。例えば乳がんで乳房切除した方は腕が上がりにくくなるので、頭上でリボンを結ぶなどの作業が必要なく、かぶるだけでオシャレさが実現するような帽子を用意するなど、『CHANVRE MAKI』では多くのアイテムを用意しつつ、常にアップデートできるようにしています。

サトーCHANVRE MAKIの『バケットハット』。後ろの部分に傾斜をつけて、内側を黒くすることで、襟足の部分の髪の毛の状態に目線がいかないような工夫をしています。

ーーお客様から聞いた声で、印象に残っていることはありますか?

佐藤)「生きる勇気が湧いた」と言われたことですね。『CHANVRE MAKI』がテレビで紹介されているところを見たご年配の方から、「残りの人生はもうオシャレすることもないのか、と落ち込んでいるときに、CHANVRE MAKIの帽子をかぶって出かけたら、これからも生きたいと思った」とわざわざ会社まで連絡をいただきました。私たちがつくる帽子1つでここまでのことができるとは思っていなかったので、本当に嬉しいお言葉でした。

これからも求められる製品へ

ーーこれから先、さらにやっていきたいことはありますか?

佐藤)今はただものが売れる時代ではなくなりました。推し活が流行ってるように、そのものに意義を感じたりすると、それを払いたいし、大切にしたいと思うような時代です。私たちは“帽子”というアイテムを作っているので、なおさら、ずっと大切にしてもらいたいですよね。『CHANVRE MAKI』も、病気のときだけ、病気であることを隠すために、というだけではなく、元気になってもかぶり続けられる帽子を作っています。想いを持ってつくることで、買ってくれたお客さんにも繋がりますし、私たちのブランドの説得力も増していきます。

私たちががん患者の方々に選んでいただけるようなブランドになることで、選択肢の多い世の中に近づきます。帽子だけでなくウィッグやターバンなど、さまざまな選択肢の中に『CHANVRE MAKI』を見てほしいなと思っています。帽子を買わなくても、私たちが会社で主催する“帽子カフェ”に参加していただき、コミュニケーションをとったり出かける場所になるだけでも、大事な1つの選択肢になることができるのではないかと思い、活動を進めていければと思っています。

ーー選択肢が増えるのはすごく大事なことですね。

佐藤)「がん患者の方が気にせずオシャレにかぶれる帽子があってもいいんじゃないか」という、机上の空論から始まったブランドですが、これまでの活動を通してそれが患者さんのためになっていると少し自信を持てるようになりました。『CHANVRE MAKI』は、売上ももちろん大切にしていますが、それ以上に課題解決のために患者さんと話をしながらバージョンアップさせています。立ち上げ時よりも強くなっているかもしれません(笑)。

ーー『CHANVRE MAKI』が、がん患者さんだけでなくより多く人の選択肢になることを期待しています。ありがとうございました。

RELATED POST

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA