2021年に行われたSports for Social Summitにて登壇いただいた山田大記(やまだひろき)さん。「プロサッカー選手は幸せじゃない」というインパクトのあるメッセージから始まり、知られざるアスリートの精神状態や社会活動との関係性についてお話いただきました。今回はその続編として、クラブと社会活動の関連について詳しくお話を伺います。(前回セッション時の記事はこちら)
山田さんはそれまで個人的に行っていた活動を本格化し、2022年9月に『一般社団法人ReFrame』を立ち上げました。その後2024年7月に活動を本格化させるために『NPO法人ReFrame』を設立。昨年2024年限りでプロサッカー選手を引退。相対的貧困家庭の支援活動にこれまで以上に力を入れています。
本記事では、アスリートやクラブが行う社会的活動の意義と目指すべき活動の在り方についてお伺いします。サッカー競技界の出身者として、NPO法人立ち上げメンバーの1人として、両方の視点をもった山田さんだからこそ語れる内容を話してくれました。
アスリートにおける他者評価とメンタルへの影響
ーーアスリートが社会的活動をすることのアスリート自身への影響について、引退されてから改めて感じる部分はありますか?
山田)社会活動など競技外の活動をすることによる、アスリート自身への意義は非常に大きいと感じています。前回のセッション時にもお話しましたが、プロスポーツ選手のメンタルには他者評価が大きく関わってきます。試合に勝てばもてはやされますが、負けたり試合に出れなかったりすると批判されます。自分自身は変わっていないし、プレーヤーとしての能力も1日で変わるわけではありませんが、瞬時に180度変わる他者評価によって自己評価の軸がぶれてしまうこともあります。そんなときに社会活動をしていると、活動によって人に喜んでもらえたり、他者への貢献で自分の存在意義を実感できます。そのようなセカンドコミュニティ、サードコミュニティがあることは精神衛生上非常に良かったですね。
引退をすぐに決断できたことについても、社会活動というやりたいことがあったこと、また自分を必要としてくれる場所があったことも理由の1つです。
ーーアスリートが社会的活動をすることによる、人や社会に与える影響についてはどう感じていますか?
山田)人や社会への影響については、まだこれから実感する部分だと思っています。集団を変えるために、まずは小さな単位である個人へのアプローチから始めています。先日立ち上げた『浜松こども基金』はその良い例といえるかもしれません。

クラブが目指すべき社会活動の在り方
ーー単刀直入にお聞きしますが、やはりクラブは社会活動を行なった方がいいのでしょうか。
山田)クラブが社会活動をすることの意味は絶対にあります。ただそれが、クラブのプロモーションやESG、費用対効果といった側面を考えているのであれば、本来有効な活動も意味を成さなくなってしまうことがあります。重要なのは、ホームタウンの地域課題を解決することに焦点を当てることです。クラブのブランディングや集客を視野に入れている段階では、地域課題に対し「やる」か「やらない」かの議論が出てきてしまいます。本質的な解決を目指す状況であれば、「やる」「やらない」に対し議論の余地なく「やる」と言えるべきなのです。課題解決のために「何ができるか」「どうやって解決するか」「何から先にやるか」を活発に議論することが、クラブが向かうべき方向だと考えています。
またクラブ内メンバーやそれを支えるサポーター間の温度差も、議論が生まれる原因の1つです。ホームタウン担当者はとても熱い想いをもって奔走しますが、まわりのメンバーが他の事柄を優先度高く据えているときには、やはりそこに「やる」「やらない」の意見の対立構造が生まれてしまうと思います。
本質的な活動ができていないという意味で言えば、もうひとつ、これまでのホームタウン活動がとくに時間的な制約になってしまっている側面もあります。既存の活動の延長線上に、本当に自分たちが理想とする地域との関わり方があるのか。既存のリソースを最大限活用するために、一度立ち止まって考えてみる必要があるかもしれません。
ーークラブが費用対効果を視野に入れる要因の1つに、メディアがスポーツとその経済効果を謳う背景があるかと思います。クラブにおける社会的活動と経済的活動の両立についてどうお考えでしょうか。
山田)社会的活動をしながらお金を稼ぐ必要はあります。ただ社会的活動と経済的活動は混同するべきではありません。例えば、子ども食堂に来てくれる親子やご家庭から事業性を確保するほどのお金を貰うことは、やるべきではないし難しいと思います。
本当に社会的意義の高い活動であれば、想いをともにしてくれる地域企業や地元団体が費用負担をして、ともに課題解決を促進していけると思います。クラブが社会的活動を行う場合は、それ単体で黒字を出し、経済的活動は別軸として地域連携の中でマネタイズの仕組みを構築していく必要があると思います。

企業は地元クラブと社会活動をすべき
ーー企業の立場から見ても、社会活動をすべきという考え方は広まっていると感じます。その際、スポーツクラブやNPO法人と一緒になって活動を行う場面も増えていますよね。
山田)いち地域企業が社会活動をする際、地元のクラブやNPO法人を介す方が断然費用対効果は大きいと考えます。同じ10万円を出すにしても、クラブやNPO法人を介すと当該団体がもつノウハウやネットワークなどを通してより大きい成果が得られることが多いからです。
企業が出資するお金がもつ社会的な影響力と広告的なインパクト、どちらにおいても地元のチームやNPO法人を一度通す方がより大きくなることを訴求していけたらと思います。
これはスポーツクラブだからできることであり、自分たちの持ち出しではないお金を使って地域貢献活動をできることは、スポーツクラブにしかない強みだと思っています。営利企業では、他の企業が出資してくれる資金で社会活動を行うことはなかなかできません。お金に限らず、クラブは地域企業の人やリソースを最大限に活用し課題解決のため積極的に動ける点で、企業とはまた異なったアプローチができると考えています。

クラブが社会活動を行う意義
山田さんがプロサッカー選手の人生に固執しない理由の一つともなった、セカンドコミュニティである社会活動。自分のやりたいことや他者への貢献を実感することで、ぶれない自己評価や価値基準を作り上げる。このことこそがアスリートにとって重要なのだと、改めて力強く話してくれました。
そのうえで、クラブが社会活動を行うにあたって、世間の評価や集客を視野に入れておこなう活動は本質的な地域貢献にはなり得ないことを訴え、別軸としての社会活動と経済活動というあるべき姿を強調しました。
クラブが社会活動を行う意義の1つとして、スポーツチームとして得た知見やノウハウを社会に還元することがあります。培ったものをチーム内にとどめるのでなく、地元企業や協賛してくれる団体を通し、地域に還元していく。それは社会的な知名度や認知度があるスポーツチームだからこそできることでもあります。その過程で1人でも多くの子どもや家庭を救うことが、クラブが社会活動をおこなううえでの責務ではないでしょうか。
後半の記事では、山田さんが活動を行うようになった経緯と、『NPO法人ReFrame』にて行っている活動やその背景について詳しくお話を伺います。





写真提供:NPO法人 ReFrame