「日本での競技人口はわずか50人」
そんなマイナースポーツの世界で、日本代表として3年連続で国際大会に出場し、今や世界一を目指すまでになった選手がいます。スポールブール日本代表の久保田結さん(以下、久保田)です。
「日本代表になれるスポーツはないかな」という動機から始まった競技人生は、今や世界一という大きな目標へと変化しています。スポールブールとの出会いから現在に至るまでの道のり、競技の魅力や社会への想いまで、詳しくお話しいただきました。

マイナースポーツとの出会いが変えた人生
ーースポールブールに出会う前はスポーツをされていたのですか?
久保田)私は中学・高校のときに硬式テニス部に所属していました。中学生ぐらいの時に『エースをねらえ!』のドラマを観て、「テニス、かっこいいな」と思ったのが始めたきっかけです。
大学ではテニス部に入らず、しばらく運動から遠ざかっていたのですが、2014年ソチオリンピックを見て、久しぶりにやっぱりスポーツをやりたい気持ちになりました。せっかくだったら日本代表や有名になれるスポーツをしたい、マイナースポーツだったらなれるんじゃないか。そう思って検索したところ、いくつか出てきた中にスポールブールがありました。
ーーマイナースポーツの中でもいろいろな種目があったと思うのですが、最終的にスポールブールを選んだのはなぜでしょうか?
久保田)フランス発祥で世界一古い球技という伝統性や、競技の奥深さですね。種目が6個あって、自分の適性に応じて選べるのも理由の1つでした。あとは体験できる場所が通える範囲にあったというのも大きな理由になりました。
ーーそれはいつ頃のことだったんですか?
久保田)2015年に初めて体験会に参加しました。女子が少なく、20代の若い人も少ないので、とても歓迎されたのを覚えています。競技人口も50人ほどで、今もコンスタントに活動してる方を考えると30人ぐらいです。そのうち女性は5〜6人ですね。
ーー実際にプレイしてみていかがでしたか?
久保田)転がして的に近づけていく”ポワンテ”というスキルがあるのですが、最初から割と上手にでき、筋がいいと褒められました。1kgほどの鉄球を12〜13m先から投げる”ティール”はまったくできませんでしたが、転がすのは楽しいし、これで代表も狙えると言われて、やってみようという気持ちになりました。
ーーやはり代表に入ることが大きなモチベーションだったのですね。
久保田)そうですね。今まで日本一や世界を目指すことはまったくありませんでした。でも、どこかのタイミングで海外に出てみたいという気持ちがあり、このスポーツがそのきっかけになるかもしれない、人数も女性も少ない分チャンスもあると思い、続けようという気持ちになりました。

病気という壁を乗り越え、代表への想いを貫く
ーー順風満帆に代表になったわけではないと思います。途中で辛かった時期もあったのではないでしょうか?
久保田)競技とは関係ないですが、仕事も続ける中で、突然蚊に刺されたような症状が足に出て、どんどん痒い範囲が広がり、結節性痒疹という皮膚疾患になってしまいました。おそらくストレスが原因なんですが、練習で体温が上がると痒くなることがあり、それが結構辛く、人生的にも1番大変でした。
ーー痒みは集中力にも影響しますし、大変だったと思います。途中で競技をやめようと思ったことはありませんでしたか?
久保田)どこかで治るだろうと思っていたので、どうにか突破口を探して、落ち着いたらまたやっていこうかなという気持ちがあり、やめようとは思いませんでした。練習が楽しかったことはもちろん、この競技だったら代表になれるという確信を得ていたのがとても大きかったですね。
私はスポールブールの伝統性や頭脳派な部分が好きで、続けて絶対代表になりたいという強い想いがありました。まわりにも代表を目指していると伝えていたので、ここでやめるのも格好悪いし、必ず復活して代表になろうと思っていました。
ーー何かの競技で日本代表になりたいという強い想いは、子どもの頃からあったのですか?
久保田)子どもの頃はまったく日本代表になることなど考えていなくて、どちらかと言えば目立つことが苦手な人見知りでした。兄がとても人気者で、兄の友だちが「兄の妹だから友だちでいてくれる」ような感じだったんです。だから、引っ込み思案のままだと、誰からも友だちになってもらえないと思い、勉強やスポーツなど結構頑張っていました。一目置かれたら、自分から人に話かけなくても、誰か仲良くしてくれるんじゃないかと思って。
そうした努力もあり、みんなが寄ってきてくれるようになり、リーダーの経験も増えました。中学では音楽祭でピアノの伴奏や指揮者をしたり、クラスのみんなをまとめて優勝にまで導いたり。あとは文化祭の実行委員長をやったり、大学でアロマを学ぶアロマセラピー研究部を立ち上げたり。

ーー人見知りだった子どもが、お兄さんの影響もあってリーダーを担当するようになり、ついに念願の日本代表にも選ばれるようになったのですね。
久保田)そのとおりです。10年前からスポールブールを始めて、途中で仕事やいろいろな状況で練習に参加できないブランクがありましたが、コロナ禍あたりからようやく練習を再開でき、代表の基準も満たして、3年前から世界大会とか国際大会に出るようになりました。初めて選ばれたときは「いよいよ選ばれたな」とドキドキしました。
ーー世界大会に出ていかがでしたか?
久保田)日本は競技人口も少ないですし、世界的にも弱い国という認識なので、「出られるだけでいい」と思って、勝つことはあまり意識はしていませんでした。私は2人1組になって対戦する“ダブルス”という種目に出場し、前回大会の王者イタリアと戦いました。試合では2点しか取れませんでしたが「イタリア相手に2点取れるんだ」と負けたながらもいい成果があって、意外にできるかもという前向きな気持ちになりました。
翌日の試合ではオーストラリアと戦い、延長の末、勝つことができました。オーストラリアはアジア・オセアニアの中でも強い国だったので、「これは次のアジア大会で金メダルを狙えるんじゃないか」と自信がつき、アジア王者や世界一になりたい気持ちが強くなりました。

「ブール・イズ・アート」スポールブールの深い魅力
ーー久保田さんが思うスポールブールの魅力について教えてください。
久保田)種目によってさまざまですが、“プログレッシブ”という種目は5分間ずっと走り続けながらボールを投げて的に当てることを繰り返します。その集中力と、職人のように毎回同じボールを投げ続ける芸術性の高さに魅力を感じています。
私はダブルスに出場していて、ボールの配置を見ながら、どの角度からどう転がしていけば的に近づけられるかを計算してボールを放ちます。そういった軌道も芸術性が高いですね。なので、勝ち負け以外にも、芸術性にも注目して見てほしいと思っています。
ーー芸術性と聞くと、“フランスのスポーツ”なのだなと感じます。
久保田)そうなんですよ。“ブール・イズ・アート”と呼ぶこともあるほど、スポールブールというスポーツをアートとして捉えているので、練習のときも「今の投球はすごいアートだったよね」とみんなで言ったり、称賛し合ったりしています。
ーーたしかに6種目あって、頭の使い方も違いそうですし、毎回少しずつ場所も変わる中で軌道を計算していくのは、まさにアートの世界ですね。
久保田)他の競技から学ぶことも積極的にしています。私の場合だとカーリングですね。プレイしたことはないのですが、もともと好きで、実際に全国大会を見に行っています。こういう風にしたらこの軌道でボールが動くかも、こういう戦術がある、ここにボールを置いたときにこうやったら相手は投げにくいよね、といったことをペアと相談しながら自分たちの競技に取り入れています。
メジャースポーツは自分の競技だけに集中することが多いと思います。でも、スポールブールはまだデータが少ないスポーツなので、近しい競技を参考にするのはとても重要なんです。

挑戦は続く、世界一から生涯スポーツへ
ーー社会課題への取り組みという観点で、スポールブールはどんな貢献ができると思いますか?
久保田)ゴルフやボッチャに近いですが、生涯スポーツとして取り組めると思っています。最近だと、ゲートボールよりもボッチャとかペタンクをされてるご高齢の方がとても多くて、そういう少し重たいものを投げたり転がしたりというのは、とてもいい運動になるのではないでしょうか。
ーー体験会なども積極的に開催されているんですよね。
久保田)私たちが練習するときは、いつでも参加してもらえるようにしています。あとはフランス発祥なので、いろんなフランスのイベントと繋がりがあって、ツール・ド・フランスの埼玉バージョンのイベントで体験会をしたり、富士スピードウェイで体験ブースを出したりもしました。
主に子ども向けに開催していますが、挑戦しているうちに負けず嫌いなところが出てきて、「もっとうまくなりたい」とか「家の近くでできるのならやりたい」と言ってくれる子が、100人に1人、2人います。そういうとき、体験会を開催してよかったなとしみじみ感じますね。
ーーまさに未来の日本代表候補ですね。今後どんな人たちに、スポールブールにチャレンジしてほしいと思いますか?
久保田)やや幅広くはありますが、まずは20代とか大学生、高校生ですね。ジュニアが今競技人口としては不足していて、ジュニアの方だとより代表を狙えるので、興味がある方はぜひ日本代表として活動してほしいです。
それに加えて、代表を狙うのではなく生涯スポーツとしてやっていきたい方にもおすすめしたいです。今70代で、走り続けて的に当てる種目のプログレッシブをやってる方もいらっしゃるので、生涯共にスポーツを楽しめる仲間がほしい方にはとてもおすすめかなと思います。
ーー最後に、久保田さんご自身の今後の展望を教えてください。
久保田)競技としては、これからもできる限り長く続けていきたいと思っています。オーストラリアの代表には85歳の方とかいらっしゃるので、それこそ本当に生涯スポーツなんだなと。代表はそこまで長くできるかわからないですが、ずっと関わっていけたら嬉しいです。
直近の目標としては、今年の11月に世界大会でダブルス世界一を目指すことです。日本代表の内定は出ているので日々練習しています。
勝ち負けにもこだわってはいますが、特に大切にしたいのは、1試合1試合をどの国の選手よりもいかに楽しむかだと思います。その楽しみを積み重ねた先に優勝があるんじゃないかなと考えているので、楽しんでリラックスすることを意識して世界へ挑みたいです。
ーーありがとうございました。世界一への挑戦を応援しています!

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